艦隊これくしょん 総旗艦アンドロメダ、二度目の航海もまた数奇なり   作:稲村 リィンFC会員・No.931506

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 交流


 どうもお久しぶりで御座います。新しい職場で暑さに参って溶けています。というか外での仕事ですけど、ベテランですら今年の夏は異常と言い出して、若干引いています…。エライ時期に入社したもんだと若干後悔中です…。


第96話 Interaction

 

 

「遠路はるばる、ようこそサイパン島へ。島を統治する最高責任者として、貴方達の来訪を歓迎致します。

 

 申し訳ありませんが、右腕が艤装による義手のため、左手での握手をお許し下さい」

 

 

 そう言って飛行場姫は左手を差し出し、土方はその手をしっかりと握って握手をする。

 

 

 

 本来なら握手は右手を差し出す事で「私は武器を持っていません。あなたに対して敵意が無い」事を示すために利き腕を差し出すのが通例とされている。

 

 しかし負傷などのやむを得ない事情がある場合は、握手をする前にその事情を簡潔に述べるなどをする事で、相手に対して非礼のつもりが無いと示せれば問題は無いとされる。

 

 

 彼女の右腕は嘗ての南太平洋のソロモン海での戦い、“大海戦”で人類から核攻撃を受けた際に切断され失われて以降、艤装による義手となった。

 

 素の肉体の握力だけでも人間の握力を凌駕しており、ウッカリすると軽く握ったつもりが容易にミンチにしてしまう怖れがあるのが、艤装の義手ともなるとそれすらも上回る。

 

 また姫級の中には南方棲戦姫や港湾棲姫の様に、武装としても使える小手の様な艤装を身に着けている者も少なくない。

 

 

 そのため艤装の右手を差し出すのは、相手に対して武器を向ける行為となると判断したためである。

 

 

 因みにこれらは今現在、衆人環視の中で土方に思いっきり抱き着いた事に対し、港の隅っこでアンドロメダを叱りつけている霧島(キリシマ)からのレクチャーによるものである。

 

 

「歓迎、痛み入ります。私は日本海軍外洋防衛総隊司令、土方竜中将です。

 

 そして行方不明だった我が軍の士官、安藤明衣少尉を救助、保護していただいていた事に、感謝致します」

 

 

 土方の言葉に飛行場姫は優しい笑みを湛える。

 

 

「いえいえ。あたし達もあの娘、明衣さんには色々と教えられ、助けられています。まさかこの様な形で明衣さんと関わりのある御方と出会えるとは、思っていませんでした」

 

 

「ここだけの話ですが、安藤少尉、明衣は、私の親友の忘れ形見でして、明衣の死亡報告を受けた時は、向こうで奴に顔向け出来ないと思っていました…」

 

 

「…明衣さんからも伺っております。よく出来た御父上だったのでしょう?敵であっても、恨み言の一つも漏らさず常に礼節を弁え、真摯な態度を貫いていたのは、御父上の教育と薫陶によるものが根幹にあったのだとあたし達は思っています。御存命でしたら、その御父上に直接御礼を述べたかったと思っております」

 

 

 これは飛行場姫のみならず、他の姫級達の偽らざる本心からの言葉である。

 

 そしてアンドロメダが建造された(生まれた)時には、既に故人であった事も知っているが、それでも彼女や特使として先に派遣されて来た霧島(キリシマ)が語る沖田十三氏についての話から、その為人を窺い知ることが出来る。

 

 もしもこの世界に彼が眠る墓があったならば、無理を言ってでも墓前に手を合わせに行こうとしただろう。

 

 

「そう言って頂けて、奴も草葉の陰で喜んでいるかと思います…」

 

 

 少ししんみりした話となっているが、事情を知っている者からしたらとんだ茶番劇である。

 

 

 この2人は通信画面越しとはいえ既に顔見知りであるし、安藤明衣少尉ことアンドロメダは深海棲艦に対して敵対の意思どころか非常に好意的で、特に姫級の1人である駆逐棲姫とは擬似姉妹の様な相思相愛の親密さとなっており、自らの意思で深海棲艦にとって同族を意味する同胞(はらから)であるとする発言もしている程だ。

 

 同胞(はらから)でありたいとするアンドロメダの意思を、深海棲艦を統率する姫級達は尊重しており、同時に彼女達も純粋に家族が増えると歓喜し満場一致で同胞(はらから)として受け入れる意思を示している。

 

 そしてアンドロメダは既に姫級の1人としてその末席に名を連ねており、事実上の配下と言える深海棲艦も、人数こそ今の所は少ないが確実に増えている最中だ。

 

 

 最早アンドロメダは姿形は兎も角、その心の拠り所から種族としての垣根を越えた事実上の深海棲艦であると言え、仮令その事に対して後ろ指を差されて糾弾されたとしても、今の彼女からしたらとても嬉しい最高の褒め言葉にしかならないだろう。

 

 

 土方からしたら、別にそれはそれで構わないというのが本心だ。親友である沖田の頼みからもアンドロメダの意思を最大限に尊重するつもりでいるし、なにより彼女をこの世界での戦争に人類側として関わらせてしまえば、(いや)が応でも政争の材料とされるのは目に見えている。

 

 霧島(キリシマ)春雨(ハルサメ)姉妹はなんとか誤魔化す事が出来たが、それは通常の艦娘と大差ない容姿をしていた事が大きな要因である。

 

 しかしアンドロメダは現状確認されている他のどの艦娘とも容姿が一致しない。だからこそ苦肉の策として“安藤明衣”という架空の人物を、真志妻大将の協力を得て大枚を(はた)いてでっち上げた。

 

 

 彼女を無力な1人の人間として扱い、少尉として軍に在籍していた事として経歴記録を残し、適当なタイミングを見計らって退役させ、軍人年金で最低限の生活を出来るように整え、可能な限り政争などの煩わしい世界から匿い遠ざける事を考えていた。

 

 結果的に、深海棲艦としての立場と信用を勝ち取っていた事で、半ばこの計画はご破算となったが、それはそれで寧ろ好都合と言えた。必要ならばそのまま正式に深海棲艦として身を寄せ、保護してもらうとの選択肢が出来たし、なにより人類側よりも大切に扱ってもらえるのは確実だ。

 

 

 そしてワイルドカードと言える時間断層工廠の存在が明らかになった事で、今後一切人類側と接触しなくても問題にならなくなった。

 

 ただ今回ばかりはアポロノームの艤装大破で身動きがとれなくなった事と、現在時間断層工廠が位置する場所が日本の駿河湾海底という事もあり、出迎えが必要となってしまったが、次回からはその必要も無くなる。

 

 

 今回限りとは言え、アンドロメダは一次的に日本海軍少尉安藤明衣として振る舞い、同時に軽巡洋艦艦娘天龍と酷似した容姿のアポロノームは安藤少尉付きの艦娘天龍として扱う事となる。

 

 

 基本的に艦娘は自分達を指揮する提督の指揮下にある戦闘集団──便宜上の艦隊──へと組み込まれるが、提督以外の軍人に対して艦娘の立場や視点から助言や意見具申を行なったり、水上艦隊などの他部隊の人員と艦娘部隊との交流を促進し連携をより円滑に行なえる様にする事を目的とした制度がある。

 

 第4水上艦隊司令と艦娘母艦『かが』の艦長を兼任する田沼少将と仲が良い駆逐艦娘清霜も、便宜上は田沼少将付きの艦娘という扱いである。

 

 

 アポロノームのカバーストーリーとして、建造による顕現ではなくドロップ艦であるため、日本海軍の艦娘の軍籍に登録されていない、ドロップ直後に遭難し深海棲艦に保護(拿捕)された不運な野良の艦娘という扱いとし、安藤少尉と共に深海棲艦の支配する島で過ごしていたという経緯から、軍としても扱いの難しい色々と厄介な立場であるして、正式な決定が下されるまでは一次的な措置としてそのまま安藤少尉付きとして扱う。

 

 そしてそのままの流れで正式決定とする予定だ。

 

 

 閑話休題。

 

 

「私は立会人の新ロシア連邦(NRF)Военно-морской флот(海軍)少佐、Софи(ソフィー) Ильиных(イリニフ)です。この歴史的な瞬間に立ち会える事に、喜びを禁じ得ません」

 

 

 土方に代わってГангут(ガングート)が杖をつきながら前に進み出て、新ロシア連邦(NRF)の軍人Софи(ソフィー)少佐の名義で飛行場姫に名乗り、手を差し出す。

 

 

「ええ。こちらこそ世界有数の大国、新ロシア連邦(NRF)からの来訪を光栄に思います」

 

 

 飛行場姫は差し出された手をしっかりと握るが、Софи(ソフィー)と名乗って握手を交わした軍人の正体を艦娘Гангут(ガングート)であると、アンドロメダ経由で知らされていた。

 

 また現在の新ロシア連邦(NRF)ВМФ(海軍)Тихоокеанский Флот(太平洋艦隊)司令を務める大将という、自身と同格の存在であると。ただそこは空気を読んで口には出さない。

 

 

「あら?あんた、Гангут(ガングート)じゃない?懐かしいわね。五島列島まで偵察(遊び)に行った時以来かしら?相方のТашкент(タシュケント)は元気かしら?」

 

 

 空気を読まない南方棲戦姫が茶々を入れる。なお本人に悪気は無い。

 

 

 この2人、実は一度だけだが砲火を交えた事があった。

 

 それはГангут(ガングート)が対日支援の一環で土方の指揮下に居たが、帰国のために後任のТашкент(タシュケント)へと引き継ぎを行なっていた頃であった。

 

 丁度そのタイミングで深海棲艦が沖縄への補給線阻害と、沖縄方面への艦隊派遣に際してその運用を受け持つ第1水上艦隊司令部のある佐世保基地、九州方面の艦娘部隊運用を総括する佐世保鎮守府、日本海防衛の要衝たる対馬防衛要塞といった重要拠点の前哨基地としての役割のあった、五島列島守備軍に対して強行偵察を実施していた。

 

 

 この戦いに外洋防衛総隊の一隊としてГангут(ガングート)Ташкент(タシュケント)、それと新ロシア連邦(NRF)軍対日支援艦娘部隊が参加しており、偶発的に南方棲戦姫とその直参の部隊と遭遇。

 

 戦力的にГангут(ガングート)は不利な状態にあったが、このタイミングで後退すれば戦線に楔を打ち込まれる危険性があると判断し、交戦を決意した。

 

 

 戦闘そのものは南方棲戦姫が戦力差の優位性を活かし、尚且つ直参という子飼いの戦力であった事から、その戦い方は彼女の戦闘狂としての性格を体現するが如く、終始激しい攻勢に出ていたのだが、Гангут(ガングート)はその猛攻を粘り強く耐え抜き、その隙にТашкент(タシュケント)が直轄する少数精鋭の強襲部隊に側面からコサック騎兵の如き一撃離脱の突撃攻撃を仕掛けさせ、南方棲戦姫の間近にまで接近する事には成功したが、決定打には一歩及ばず離脱となり、Гангут(ガングート)は強襲部隊が離脱完了するまで戦線を維持すべく踏みとどまり、徐々に後退を開始。

 

 そのままの勢いで南方棲戦姫が追撃のために押し込んでくるかと思われたが、南方棲戦姫は追撃せずに引き上げたため、痛み分けに近い形で終了となった。

 

 

 

 守勢に於いて新ロシア連邦(NRF)とその艦娘は粘り強い。

 

 

 そして確実に何か(はかりごと)を仕掛けている。特に後退を開始した新ロシア連邦(NRF)軍の動きには警戒しろ。

 

 

 それが深海棲艦の新ロシア連邦(NRF)軍に対する共通認識であったし、この時の南方棲戦姫も直感的に自分達を罠へと誘い込むための作戦である可能性が高いと判断。下手な冒険を冒すよりも後退する判断を下した。

 

 

 その直後、味方の偵察機から「‹日本軍艦娘部隊による包囲撃滅を目的とした“大釜”を完成させつつあり!›」との警報を最後に通信が途絶した事で、南方棲戦姫は自身の直感が正しかったと胸を撫で下ろした。

 

 

 事実、Гангут(ガングート)は交戦を決意した時点で土方へと支援要請を打診し、この要請を受けた土方の指示により、予備戦力の中で最も打撃力を有する戦艦艦娘扶桑を旗艦とする戦艦艦娘戦隊を中核とした複数の火力打撃群を展開。もう少しで包囲の輪を完成させつつあった。

 

 南方棲戦姫が少しでも迷って逡巡していたら、後退時に砲撃の嵐で少なくない損害を出していた可能性が高かった。

 

 

 因みにこの“大釜”とは新ロシア連邦(NRF)СВ(陸軍)が得意とする戦略、若しくは戦術を指し、『Котёл(大釜)戦術』と呼称され、先の大戦ではこの戦術を用いて包囲下に置いた敵軍を確実に磨り潰した。

 

 そしてそれを深海棲艦に対して応用、実行したのが『ダーダネルス攻防戦』であり、Гангут(ガングート)は規模を小さくしてアレンジする形で試そうとした。

 

 

 Гангут(ガングート)は負けない戦いをしつつも、勝つつもりで戦いを進めていた。そして土方ならば時間さえ稼げればこちらが必要とする充分な戦力を整え、確実に回してもらえるとの確信があった。

 

 そしてその必要とする戦力も、他の戦線を支える味方への負担という名の皺寄せが行かない様に、綿密に弾き出して要請を出していた。

 

 

 この事実は南方棲戦姫が後退する途上、敵の戦力をこちらに集中させた事で他の戦線で戦う味方が敵部隊の突破出来たかを問い合わせた際に、突破に至っていないとの返答を受けた事で確認がとれた。

 

 

 新ロシア連邦(NRF)艦娘侮り難し。

 

 

 艦娘の直接的な戦力は他国の軍ほどではないが、足りない所を別の要素で補い、少しでも有利な条件・状況を見出そうと知恵を絞る。

 

 そういう相手が一番厄介なのだと南方棲戦姫は考えていた。

 

 

 

「…ハハハ。申し訳ありませんが、人違いでしょう。おそらく貴女が仰っておられますヒトは、Владивосток(ウラジオストク)の司令部におられますヒトの事かと」

 

 

 Гангут(ガングート)は苦笑いを浮かべながら、面倒事を避けるためにはぐらかそうとする。

 

 飽く迄も自分は立会人という立場なのだ。まだ自分達の政府は深海棲艦との公的な交渉を開始してはいない。そして軍隊の軍使として会うには自身の本来の立場と階級は高過ぎる。立場柄から政治的要素が強く絡んで面倒になる。しかし今回の任務で丁度良い適任者が他に居なかったから、わざわざ偽りの立場を作り出した。

 

 その事は事前に伝えておいたハズだ。

 

 

「ああ、Софья(ソフィーア) Октябрьская(オクチャブリスカヤ) Революция(レヴォリューツィア)大将ね。太平洋艦隊を指揮する立場になったって聞いてたけど、出世したものね」

 

 

 そこまで分かっているなら、少し黙っていてくれ!と内心で罵る。

 

 しかしこの目の前のお姫様はまるで関係無いと言わんばかりだ。

 

 

 そこへГангут(ガングート)の脇を擦り抜けるようにして、1人の艦娘が南方棲戦姫へと猛スピードで迫った。

 

 

「本当に南方棲戦姫さんだ!思った通り、巨大な腕部艤装に隠れた腕の筋肉も全身の筋肉と同様に凄い!だけど見た目の外観からは気品と美しさを少しも損なわない絶妙なバランスだ!!矢っ張り凄い戦艦はその見た目の美しさにも大きく表れてる!!ただ筋肉を付けるだけじゃ駄目なんだ!清霜も戦艦になるならちゃんと美しさにも気を付けないといけないんだね!!」

 

 

 清霜である。

 

 途轍もない大興奮で南方棲戦姫へと質問攻めを行ない、その勢いの圧に押されてタジタジとなる南方棲戦姫。その隙にГангут(ガングート)はそそくさと彼女からの視界から消え、退散していた。その直後に遅れてやって来た相方の田沼が清霜の首根っこを掴んで「その辺にしておけ」と止めに入った。

 

 

「うちの清霜が大変失礼致しました。貴女のご高名と武勇は我が軍でも予予(かねがね)。もし宜しければ砲術につきましての貴女のご意見を拝聴したいのですが」

 

 

 物腰柔らかに語るが、こっちもこっちで我欲を隠そうとしていない。ただ、砲術に関して意見を聞きたいとする田沼の言葉に、南方棲戦姫は興味を引いた。

 

 

「今でこそこの『かが』の艦長を拝命しておりますが、元々私は砲術屋出身でして、護衛艦『やはぎ』で引き金を引いていた時期もありました。砲術には一家言があると自負しております」

 

 

 この一言に周りの深海棲艦達がざわめく。

 

 田沼は「食い付いた!」と心の内で小躍りし、カードを切る。

 

 

「どうでしょう?秘蔵のマッカランの18年物をご用意致しましたので、親睦を深める意味でも一杯やりながらジックリ語り合うというのは?」

 

 

 そこへ空母棲姫が進み出て来た。

 

 

「…私もご相伴にあずかってよろしいですか?よろしければ御礼としてマッカラン30年物を進呈致しますが」

 

 

「「さ、30年物ぉっ!?」」

 

 

 田沼だけでなく、清霜も素っ頓狂な声を上げてしまう。そそくさと退散していたГангут(ガングート)も物凄い勢いで引き返して来ていた。

 

 

 マッカランとはスコッチ・ウイスキーの最高峰とされ、「シングル・モルトのロールスロイス」と称される程の逸品である。

 

 その中でも18年物は長期熟成による深く複雑な余韻が楽しめる至極の逸品とされている。

 

 流通が寸断された現在の世界情勢下の日本では、この手の高級な嗜好品は入手難易度が極めて高い。どうしても食糧や燃料などの一般生活に根差した消耗品の輸入が優先され、流通量は極めて限られていた。

 

 

 それを手にする事が出来るというだけでも、それなりの人脈という独自のパイプを持っているとの証明にもなる。

 

 

 だが空母棲姫の30年物はそれすら上回る、正に伝説級の逸品なのだ。

 

 田沼の(ひたい)から汗が流れ落ちる。

 

 

 何故空母棲姫がここで出て来たかというと、彼女には田沼と少なからず因縁があった。

 

 

 嘗て東京が壊滅した戦いで、引き上げる深海棲艦の艦隊対して土方と真志妻が護衛艦『やはぎ』で送り狼を仕掛けた際に、田沼が操作する主砲より放たれた5inch(インチ)砲弾の長距離砲撃の餌食となったのが、何を隠そう彼女だったのだ。

 

 

 射程外からの、しかも水上を動く人間サイズの目標に対して、いきなり初弾から命中弾を与えて来た。

 

 ()()()()()()()()()()()が必死になって考え出した、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で打ったつもりの一手が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事で、元々戦いには向かない優し過ぎる性格からくる強い自責の念により、あのヒトの心が壊れてしまい、その事実に打ちのめされて意気消沈し上の空となりながら引き上げていて完全に油断していたというのもあったが、この思わぬ送り狼の登場に空母棲姫は対応が遅れた。

 

 

 途中からこちらの反撃が開始された事もあって回避行動を強要したにも関わらず、それでも2発に1発は命中されるなどという、人間業とは到底思えない神業的な砲撃精度の前に、空母棲姫は恐れ慄いた。

 

 普通ならここまでの命中率は有り得ない。

 

 新ロシア連邦(NRF)陸軍の様な複数の砲兵隊や多連装ロケットシステムによる、圧倒的で莫迦げた火力投射による徹底した面制圧で押し潰す訳でもなく、たった一門の砲によって狙い撃ちにされ、大破し戦闘不能状態にまで追い込まれた。

 

 

 それでも艦隊に指示を出し、ややムキになりながら『やはぎ』を追い回したが、損傷こそ与えたものの、結果は逃げられた。

 

 

 だからこそ興味が湧いた。自身を戦闘不能にまで追い込んだ者に。

 

 この時に『やはぎ』の操艦指示を出していたのが土方であった事は、つい先日アンドロメダを介した通信のやり取りで知る事となった。

 

 土方の経歴はアンドロメダ、そして特使としてやって来ていた霧島(キリシマ)から聞いており、「納得」の二文字しか思い浮かばず、惜しみない称賛の言葉を贈った。

 

 その土方から、『やはぎ』で砲撃の指揮をしていたのが艦娘母艦『かが』の艦長を務める田沼という軍人であると聞き出せていた。

 

 それが今自身の目の前にいるのだ。

 

 

 先程周りの深海棲艦達がざわめいたのも、護衛艦『やはぎ』はその交戦記録から、要警戒の軍艦としてそれなりに有名だったというのもある。

 

 

 日本海軍で『もがみ』型護衛艦は第三次大戦以前の海上自衛隊時代から建造、配備が進んでいた比較的新しい世代の護衛艦であり、第二次日露戦役で初陣を飾って以降、老朽化しつつあった従来の汎用護衛艦に代わって最前線に投入される割合が多く、それに比例して損耗率も高かった。

 

 

 そして『やはぎ』が戦果を上げて以降、同型艦が集中的に狙われる様になり、『もがみ』型護衛艦は1隻を残してほぼ全滅。退役間際の老朽艦の老骨に鞭打つ状態となっている。

 

 

 だが皮肉な事に、その最後の1隻というのが『やはぎ』で、送り狼での戦果と引き換えの様にして少なくない損傷を受けており、特に機関部は無理な全力稼働による回避行動の連続が祟ってか、機関を総取り換えしなければならないほど傷みが激しいと帰還後に判明するも、それが行なえるだけの工業力と技術力は日本に残されておらず、修理不能と判断されて退役が決定。まだ使える部品で共食い整備をすべく、保管されていた。

 

 最終的にはまだ使える部品を全て取り終えたら外貨獲得を目的としたスクラップとして、アメリカから軍事機密の流出云々で文句を言われる恐れのあるイージス艦と潜水艦を除く、他の修理不能で部品取り用の退役・除籍となった新旧様々な護衛艦共々、廃艦となって新ロシア連邦(NRF)に売却されウラジオストクで解体される事が決定している。

 

 現在『やはぎ』はウラジオストクとの中継地点である舞鶴基地にて新ロシア連邦(NRF)行きの順番待ちの待機状態になっており、唯一残った最後の『もがみ』型として寂れた艦影を港の一角で確認する事が出来る。

 

 

 しかしそれも、近々訓練が完了し日本へと回航される輸出仕様の『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級フリゲート艦と入れ替わる様にして、ウラジオストクへと回航される予定だ。

 

 その後は新ロシア連邦(NRF)の技術者の手によって徹底的に、入念な技術分析が行なわれてから解体作業が開始される。

 

 田沼にとっては些か寂しい思いである。

 

 

 ただ、何よりも皮肉なのはそのウラジオストクには日本から新ロシア連邦(NRF)へと移り、現地の企業に吸収合併された元日本企業が数多く存在し、また祖国に見切りをつけて出奔した日本人技術者が数多く移り住んでいた。

 

 彼らの中には嘗て日本の防衛産業に携わり、日本の国防を陰で支えていた企業や技術者も少なくない。

 

 それが今や日本の国防を担っていた艦船の終焉に携わり、嘗て敵国として蔑んでいた国家の防衛産業の強化に貢献している。

 

 

 これを皮肉と言わずして何と言うのだろうか?

 

 

 しかしそれに関しては現場の軍人である田沼にとってはあずかり知らぬ事であるし、どうする事も出来ない。

 

 唯一言えることは、日本へとやって来る予定の『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級の艦長に選抜されなかった事が、非常に残念であるとの気持ちだけだ。

 

 何故ならこの『Стерегущий(ステレグシュチイ)』級の乗組員の多くは、『やはぎ』の元乗組員が多くを占めていた。

 

 再び彼らと共に大海原を駆け巡りたい。そして自らの手で砲を操作してぶっ(ぱな)したい。

 

 

 そんな願望をその胸中に抱いていた。

 

 

 だが今の自身の立場、第4水上艦隊司令であり艦隊旗艦の艦長で少将という階級の高さから、その願いはどうあっても叶わないと分かりきっていた。

 

 

 

 その日の夜、親睦を深めるとの名目で双方の代表者達がラウンジに集い、滅茶苦茶酒飲んで談笑した。

 

 

 

 酒が飲めるとГангут(ガングート)もちゃっかり自前のводка(ウォッカ)を箱で担いで持参して乗り込んでいた。そこに彼女預かりのPola(ポーラ)が紛れ込んでいたのは言うまでもない。

 

 

 土方は諸用があったため「程々にしておけ」と田沼達に言い残し、最初だけ参加して席を外した。

 

 

 この酒宴の席で、砲撃の有り得ない命中精度は田沼個人の卓越した技量に依る所が大きく、他者や現状の科学技術的な能力では再現が困難であることが分かった。

 

 

 だが深海棲艦達にとっては、言葉にこそ出さなかったものの、その田沼の意見に否定的な考えだった。

 

 

 何故ならば、その有り得ない精度を遥かに発達した高度な科学技術力で発揮出来る存在が、一番新しい仲間(家族)に居るのだから。

 

 

 いずれ人類の科学力もその領域に達する日がくるかもしれない。

 

 いや、既に新ロシア連邦(NRF)は従来のミサイルの弾頭に多数の超小型高機動ミサイルを仕込む事で、その領域に片足を付けていると言っても過言ではない。

 

 

 元々地政学の観点からこの北の大国新ロシア連邦(NRF)とは相性が頗る悪い。

 

 

 その海洋の殆どは余りにも寒過ぎてマトモに活動が出来ない上に、他の交戦国と違って海洋交通を遮断しても、産業への影響は少なく、さ資源や食糧は自国内だけでほぼ自給自足可能で、今まで事ある毎に西側諸国から経済制裁を受け続けた結果、内需だけでも経済が充分に回せる構造となっているのが新ロシア連邦(NRF)という国家なのだ。

  

 

 なにより強大な陸軍国である上に、その広大な国土という大陸国家としての土地そのものが、そのまま天然の障壁として侵略者の足を底無し沼の様に沈める。マトモな陸軍運用能力を持たない自分達では到底勝ち目が無い。ダーダネルスでの悲劇が拡大再生産されるだけだ。

 

 

 そんな国家が自分達と正面から、しかも艦娘に依存しなくても戦える手段を手に入れ、その配備を急速に進めつつある。

 

 

 これ以上戦いを続けても、得るものは少なく、失うものだけが大きくなりつつある。

 

 

 戦争の時代は、この辺りで幕引きとしなければならない。

 

 

 既に食糧生産能力といった、所謂第一次産業は安定期に入り、余剰作物の輸出による市場の拡大を進めている。

 

 

 もう食糧を求めて戦うという理由は無くなったのだ。

 

 

 これからは戦いではなく、話し合いの時代だ。

 

 

 

 この親睦を深めるためとの名目の酒宴も、その意味合いも兼ねて開かれたものだった。

 

 

 なお、この酒宴の席にアンドロメダ達の姿は無かった。

 

 






 因みに、空母棲姫さんが仕えていたヒトとは中間棲姫さんです。

 いずれ本編に登場予定ですが、現在隠居兼療養のために南太平洋の小島でヒッソリと静かに暮らしてます。


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補足説明

Котёл(大釜)戦術

 特別軍事作戦(Специальной военной операции.略称:СВО 読み:SVO)に於いてロシア連邦軍が活用している半包囲の消耗戦戦術です。


 敵軍を両翼から包み込む、或いは敵軍突出部に対し、敵補給路を火砲や航空攻撃、ドローン攻撃等の射撃管制下に収めて補給を不安定化させる事から始まります。

 そして大釜内とその釜の口周辺の敵長距離防空システムを徹底的に潰し、航空優勢を確保します。

 後はFAB滑空爆弾や重火炎放射システムTOS(トス)によるサーモバリック弾頭の多連装ロケットシステム、各種重砲や必要ならば高価値目標への短距離弾道ミサイル9K720‹Искандер(イスカンデル)›を使用しての土木工事、若しくは解体工事を実施して工事区画内の敵軍を地均しします。


 重要なのは完全に敵の補給路や連絡線を遮断しない事。敵の上層部や支援国のスポンサーに「まだやれる!」「維持出来る!」と(儚い)夢と希望(的観測)を持たせて徹底的に沼らせる事。特にプロパガンダの大本営発表で「自分達は優勢である!」と喧伝しまくっている相手には、自分達の作り上げた“物語”を壊すわけにはいかない、スポンサーからの資金調達を絶たれないためと、一種のコンコルド効果で焼却炉に次から次へと札束や債券に株券を放り込む様に、自らの貴重な兵力を一生懸命に溶かしていきます。

 
 現実、キエフ政権は接触戦線で沼ってます。反転攻勢で突出部を作ったら挟まれて大釜。攻め込まれて重要拠点や要塞都市は半包囲で大釜の中に放り込まれてじっくりコトコトと茹でられての茹でカエルにされてます。現状、局所的に追い返せても全体の接触戦線の推移を見れば抵抗の強い所は釜の中に放り込まれる状況が繰り返されています。


 問題は進撃速度が遅くなる傾向にあり、傍目からは停滞や苦戦している様に見えますが、敵地上軍を消耗戦に引き摺り込みその戦力を確実に潰せますし、敵防御拠点となる建物や陣地の防御能力を文字通り解体工事や土木工事で無茶苦茶に出来ます。ただそれだけの弾薬を補充出来る兵站システムと生産能力が求められますが、兵隊を無闇に敵陣へと突撃させる肉弾攻撃による損害リスクを低減出来るなど、後々に掛かる遺族年金や戦傷手当などの膨大な社会保障コストを考えると結果的に安上がりとなるメリットもあります。
 


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 とある数字のパラドックスについての面白い指摘を見付けました。



報道やウクライナ寄りのSNS投稿者が信じる、ロシア兵の犠牲者数の謎。


 CIA長官ジョン・ラトクリフ氏およびウクライナ政府高官は、「ウクライナ戦線に到着したロシア兵の新兵の平均寿命は20~30分」 「ロシア軍の損害は月間約3万人」と主張。

 銭好き大統領は「ロシアの死傷者の80%はウクライナのドローンによるもので、819,737のロシアの標的がドローンによって攻撃された。2025年12月には、我々の部隊は35,000人の占領者を無力化し、死傷させた」とソーシャルメディアに投稿。


 防衛研究所の兵頭慎治氏によると、 ウクライナのキルゾーンの定義は、ロシアの占領地域に沿った南北1,000km×20kmの広大な面積の地域であると定義。


 軍事史上、極限の死闘とされたスターリングラード攻防戦は平均寿命約24時間。今回の主張(キルゾーン)の平均寿命は20~30 分。それは“あのスターリングラードの48倍~72倍のペースで兵士が死に続けている”ということになる。

 狭い市街地に砲弾と弾薬が飛び交ったスターリングラードでさえ 24時間、詰まり“1日”もったのに対し、南北1,000km・幅20kmという広大なエリア全体で、その48倍以上の速さで兵士が全滅し続けているというのは、兵器の密度や空間の広さから見ても、戦史・物理的にあり得ない数値である。

 巨大なキルゾーン全域で“スターリングラードの48倍の速度(20分)で兵士が死んでいる”とするなら、戦史の常識を遥かに逸脱している。

 人数の矛盾。それほどの超絶な殺傷ペースが発生しているなら、1日の犠牲者は数万人規模になるはずであり、ウクライナ側自身が発表している「月3万5千人(1日約1,100人)」 という数字とすら桁が2つ以上ずれてしまい、ウクライナ側の発表データ同士で大きな矛盾を起こしている。

 しかし、ウクライナ側が主張する数字は「月3万5千人(1日あたり約1,100人)」。1 日1,100人程度の損耗ペースでは、スターリングラード(1日1万人以上)の足元にも及ばない。


 
 「数字は嘘をつかないが、嘘つきは数字を使う」と言いますが、この現在発生している上記のパラドックスを、今後どの様にして言い訳、もとい、矛盾無く説明するつもりなのか見ものです。

 まぁどうせいつもの御得意の“論点ずらし”や“見て見ぬふり”で逃げ回るだけでしょうけどね。


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 それではこれにて失礼致します。励みや参考になりますので、お気が向きましたらお気軽に感想、若しくは分からない点に関しましての質問がありましたら返信で可能な限りお答えし、後書きの補足説明にも加筆致しますので、よろしくお願いいたします。
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