教祖が呪い、豚猿が嘲笑う。こいつら、ヒーロー志望なんだぜ……? 作:かりん2022
寝たのが明け方で、起きてきたのは昼頃だった。
今日は授業はない。仕事がないわけではない。
3人揃って食事をしつつ、尋問タイムである。
「なー。未来の俺ってどんな? お前、逆行してんだろ」
その言葉に、傑は激しく動揺した。
「なっ なっ なっ!?」
「隠してるつもりだったのかよ、あれで」
「ふっ やるじゃないか、悟」
気を取り直した傑は格好つける。つけられてないけど。
「だから、隠してるつもりだったのかよ。今、俺たち初対面なんだからもうちょっと遠慮しろ」
「ウケる」
傑は、それ以上ごまかすつもりはないらしく、簡単に教えてくれた。
「悟は、いい先生だったよ」
「教師? 想像できねーな」
「へー」
「それで最強。反転術式も使えたし、控えめに言って敵なしかな」
「マジで?」
「私は? 私は?」
「もちろん、名医だね」
「お前は?」
「……呪詛師かな」
すいっと目を逸らしていう。
「は?」
「いや、そこは誤魔化しとけよ」
流石に硝子が心配そうにいう。全くだ秘匿死刑になるぞ。
「非術師アレルギーになっちゃったんだよ。今でも、正直人ごみは苦手かな。非術師を守るためにすり潰される、迫害される、それが苦しくなっちゃって。認めるまで随分掛かったけど。もうさ、猿にしか見えない、猿の言葉が理解できない、嫌悪感がして猿の作ったものが食べられない、着れない、そうなるともう行き着くところまで行くしかないよね。まともな判断力も残ってなかったし」
穏やかに言う。穏やかにいうが、すげー深刻じゃん。
こいつ、あれだけ強いのに精神チワワかよ。
非術師アレルギーってすげー大変じゃん。生きてけねーじゃん。
硝子が頭を撫でると、それをそのまま受け入れる傑。
「だから、そう。私は、今度こそ呪霊にも、非術師にも脅かされない未来が欲しい。さらにいうなら、非術師だってちょっとは苦労を負担してほしい。その為なら、頑張れるつもりだよ。最近、ちょっと迷走してて自分でも何やってるかわかんなくなりつつあったけど……」
「それで、非術師巻き込んで色々やってんのか」
「そう」
「キョーソサマってのは?」
「宗教団体を乗っ取ったんだ。呪霊集めや資金集めの為にね。こう、五条袈裟を着てさ。なんちゃって僧侶?」
「何やってんだよ……。五条袈裟ってもしかして、俺にそれで縋ってるつもりだったのかよ」
「そう、だね。そうなのかもしれない」
「俺、お前が助けてって言っても助けねーほど薄情だったわけ? 同級生だろ」
「私が、その……壊れた時、村一つ皆殺しにしちゃってさ。もう取り返しがつかなくて。それも悪かったんだと思う。罪を認めるんじゃなくて、自分が悪くないって方向に走っちゃって」
多分、話すのすげー辛いと思う。それでも、傑は誠実に話してくれた。
「でも、悟は私を殺してくれたんだ。親友って言ってくれて……」
その笑みに、暗いものはなかった。本当に、俺の与えた死が救いになったのだとわかった。
たまらなくなって、ぎゅっと抱きしめてやった。硝子も頭をなでなでと撫でる。
どうしよう。あって五日も経ってないのに、もう、俺は傑を殺すのが辛くなっている。
それは今の俺自身に対するものではないとわかっていても、傑の俺への信頼は温かく重かった。
守りたいと思う。傑も。硝子も。だって同級生なのだ。
これから、きっと仲良くなっていくのだ。
「またそうなる前に、ちゃんとやばそうだったら助けてって言って俺らの影に隠れとけよ」
柄にもないことを言う。
傑は目を見開く。そして、笑った。
「うん、今度はそうするよ」
「今は、非術師殺しとかしてねーよな?」
「ビジネスパートナーが非術師でね。そこらへん、折り合いはつけてる。……つけてるよ」
折り合い、ついてるわけじゃねーんだな。
強い分、闇落ちされたら厄介だ。これは監視対象だな。
「ネイバー社がなんで術師を募集してんのかと思ったけど。仕事内容普通だったし。まさか、お前の身の回りの世話の為だったりする?」
「それもあるけど、基本、術師の保護が社是だからね。私が保護してる子供達も、虐待されてたんだ」
「呪術界、ただでさえ人いねーんだから人材融通しろよ」
「窓の仕事の手伝いくらいだったら、斡旋できると思うよ。あくまでも本人の意思になるけど。こっちも呪霊の所在地が知りたいし、連携は豚猿に頼んでおくよ」
「豚猿って?」
「私の側近。非術師で、ビジネスパートナー。オタクでパソコンしながら食べてばっかで太ってるどうしようもない奴だけど、有能なんだよね。ネイバー社の実質支配者」
「非術師か……本名何?」
「灯台の里と書いて灯里。向井 灯里」
「ふぅん。そいつも逆行してんの?」
「そう」
「逆行させた奴って誰? お前の呪霊?」
言ってて、そう言うパターンもあるかと思って聞いてみる。
傑はあっさりと言った。
「知らない。豚猿は『何か』様って言ってた。何かの拍子に願ったんだって。ただ、二度目はないんじゃないかな」
「じゃあ、ボーダーについて聞いていい?」
「いいよー。元々、悟と硝子には相談するつもりだったし。六眼だけネックだったから、今まで接触できなかったけど。それについては腹括ったし」
いいのかよ。
「なんで六眼がネック?」
「私の呪霊操術、未来で呪詛師に奪われるんだ。でも、あると知らないものは襲えないだろう? だから、できるだけ開示したくなかったんだよ」
「報告しちまっただろうが、先に言えよそう言うことは!!! お前の悪用し放題の術式じゃん!!」
「で、でも、悟がぐれない方が大事だったから」
「そういうことじゃねーんだよ!!」
「そうだ、後で一緒に先生に謝りに行こうね」
「そういうことでもねーんだよ! 笑うな、硝子!」
ほんと手が掛かるな、こいつ!
「いーからボーダーについて話してよ。動画サイト経営してんだろ。一番お勧めの動画見せて」
「それなら、対産土神戦がいいかな。未来で私の後輩を殺した呪霊だから、だいぶ私怨が入ってるけど」
ということで、食事も終わったし、パソコンのある傑の部屋に移動する事となったのだった。
移動の為、すっと腕を解いて俺と硝子が傑から離れると、傑はあからさまに寂しそうな顔をした。
俺らは五条袈裟じゃねーんだよ。
まーでも、これだけで安心するなら、できるだけ近くにいてやるか。
また非術師虐殺でもされたらたまらない。