雪は方円の器に随う   作:凍り灯

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予定の一日遅れで申し訳ありません。
ここで言う話ではないですが、ちょっとこの休日に精神に無量空処を喰らってて投稿が遅れてしまいましたと言い訳を。

それではどうぞ。







冬を雪ぎ、春眠暁を覚えず

 

 

五条悟が、椴之根(とどのね)が総監部に"召集"された時の感情を言葉で表すならばこれだ。

 

不釣合いという"疑問"と…"失望"。

 

五条は、この頃には椴之根と会うことはほとんどなかった。

高専でたまに会えば軽い挨拶程度はしたかもしれないが、それ以上に椴之根という存在をわざわざ気にかける理由もなかったし、何よりまだまだ余裕のない時期だったのだ。

 

…ただ、あと数ヶ月、椴之根が総監部に入るのが遅ければ五条から接触する機会はあった。腐った呪術界を変えるため、その下地作りのために信用できる術師を探していたからだ。善良な心を持った、常識のある、しかも学生時代に被っていれば尚更、五条がいつかは目を付ける人間の一人…のはずだった。

 

しかし彼は呪術総監部へと配属された。

 

それが強制に近いことは良く知っている。だとしても意外だった。やっていけそうにない人間だ。どこに目を付けたのか?まさか動きを勘付かれたか?

その答えは「偶然」だった。運が無かったのだ。領域展開を会得したばっかりに、上に目を付けられた。それはあまりに理不尽な話ではあった。

 

…けれども、五条にとっては、例え嫌々だとしても、もはや信用にたる人間にはなり得なくなってしまう。

つまり五条はこの時に一度椴之根を見限っている。今よりもずっと"青い"考えだったというのもあるだろう、感情的に判断してしまった。総監部の腐った人間など、と。

ようやく人を救うことを意識し始めたばかりの時に、虎杖の時のように救えなかった命を目の当たりにしていたのだ、間が悪いことに。

 

 

―――――そして数年後、高専にて彼らは再開する。

 

 

五条は意識を外していた椴之根と再開し、()()目の当たりにすることになる。

 

かつての"夏油傑"のような、何でも抱え込んでしまう弱い人間。

でもこの二人は五条にとって弱い人間には違いないが、あまりに大きく違う。心の中で"弱さ"の()()となってしまった夏油がいたために、それに匹敵しない椴之根はおざなりになっていた。言ってしまえば五条の考える基準が高かったのだ。

間もなく彼と話し、それによって自分の"甘さ"を理解することになる。

 

即ち、どうしようもなく流されて愚かなことをしてしまう人間がもっと多くいることを。

 

それは罪だ、だが、椴之根は諦観の中でも最善を目指そうと足掻き、そしてだからこそ心は倫理感と重圧の板挟みで荒んだ。果たして一体どんな葛藤の中で生きてきたのか。

 

 

『お久しぶりです、五条()()

 

 

すぐに引っ叩いて直させたものだ。

 

教師となって、恵と会わせて、そこから多くの子供達と触れてからは随分と元気になった。

あの今にも死にそうな顔を知ってるのは五条だけ、きっと、他の人には見せられない。

特に親しかった歌姫あたりには。

 

「大丈夫かな〜ユキヒロ」

 

うまく目を覚ましただろうか?

 

五条は椴之根を、たまに非術師側に近い存在として見てしまいそうになる。

弱いから、ではなく、感性が術師になる前からあまり変わってないからだ。比較的似ている歌姫よりも精神的に脆い理由はそれだ。当たり前の死や理不尽()()るまでにひどく時間がかかる。

 

…だからずっと教師だけやっておけばいいのにとも思ったことはあった。

それをわざわざ伝えたことはなかったけれど。きっと困ったように笑って「それでいいならそうしたいんだけどね」なんて言うだろう。

 

「渋谷にいたら、それこそ危なっかしい」

 

火に飛び込む()みたいに、すぐに飛び込んで死んでしまいそうだ―――――

 

五条だって彼が決して弱いばかりではないと言うことは知っている。

今まであんな環境の中でもなんとか生きてきたのだ。それは間違いなく「強さ」で、誇れることだろう。それが、同期が死んでしまったことによる"呪い"だとしても。

 

あぁけれども、椴之根は今まで一人で戦ってきた。()()()は?

彼には守るべきものがたくさん出来てしまった。

だから交流会で、彼は逃げずに立ち向かい、そして奇跡的に生きていはいるものの、ほぼ死んだ。

 

一人でいる間は強くあれる。だが、一人じゃなくなった時、椴之根は途端に死にやすくなる。五条が再会してから椴之根に思う、すぐ死にそうなイメージというのはそういったものだ。

で、あれば蛾というよりは雪虫か。ぶつかっただけで死ぬ。周りに何もなければふわふわ飛び続けるのに。

 

誰かの死を見たくない。見届けたくない。だから椴之根は術師とは関係のない日々を教師として教え、あわよくばこの世界(呪術界)から逃げてくれと願うのだ。

 

 

五条は獄門疆の中、髑髏に囲まれた空間で一人、世話のかかる先輩を脳裏に少しの間だけ思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸の傷が痛む。

 

いや、本当はずっと痛みがあった。悪化しないとは言え、傷が開いた状況を維持し続けているのだ。

それでも術式は痛覚にまでも働きかけられているために、かなりましではあるのだが。

 

結晶方円法による応急処置、それは特定要因の凍結、所謂"停止"だ。

 

限度は当然ある。

怪我は致命傷でも止められはする。でも治せないから解除すれば再び死へ急速に近づく。

術式効果もかなり限定的であるが内容によっては可能。しかしおそらく()()()()()()()()()()対処法を術式が見つけ出せない。

食べたことのない味を想像するのが難しいように、「理解」には「経験」が必要なのだ。

 

特級呪霊真人の"魂の操作"は直接俺が喰らい…俺の術式がこれ自体の凍結をすぐには出来ないと判断し、術式の進行をなんとか停止させるために俺の魂ごと全てを無理やり停止させた。それが真実だ。

 

そしてゆっくりと呪霊の術式を理解し、やがて停止させ、それでもやっぱり俺が起きてると都合が悪いからそのまま眠らせ、術式を動かすための「呪霊の呪力」が抜けきるまで冷え固まらせ続けた。放電を待ったのだ。

そうして一月の間、俺の術式は特級呪霊真人の術式と触れ続けることになった…だから俺もまた、魂へ干渉する()()を多少なりとも掴んでいる。薄い輪郭が、わかりかけてきた。

 

今回、再び左腕のみなれど受けて見てさらに一歩、小さな歩幅だけれども踏み込めた―――――次は、もっと魂への干渉を抑え込める。

 

安全地帯へ横たえらせた七海君の横で座り込み、額の傷や各部の怪我の応急処置を施しながら、俺はこの渋谷での自身の役割を理解する。

 

 

―――――そこに、交差点を挟んだ地下への入り口へ降りていく二つの人影。

 

 

「…!?何故っ…!?」

 

 

地下にいるはずの特級呪霊真人と―――――それを追う釘崎ちゃんの姿が見えた。

 

 

姿が地下へと見えなくなった直後、入れ違うように周辺のビルの中で待機していた補助監督がこちらに気が付き、近づいてくる。

補助監督は良く知っている。黒石さんだ。

 

「椴之根さん!ここにいましたか…!…っ!その怪我は!?狗巻さんがあなたを―――――七海1級術師!?」

 

雪に身体のほとんどを包まれている七海君を見て黒石さんは驚く。

だが、今はそれをどうこう言っている場合じゃない。

 

「黒石さん、聞いて下さい。つい今さっき、高専1年の釘崎3級術師が特級呪霊真人を追って地下へと入りました…俺はそれを追います」

「!?…っなんという無茶を…!ですが椴之根さん。あなたもどう見ても万全には思えないです。それは、他の術師に任せるべきです」

 

黒石さんは俺にこう聞いているが、きっとわかってる。

 

特級を相手にできる術師を向かわせる余裕はない。

だから今、釘崎ちゃんが呪霊を追っているこの瞬間、なんとか追いついて連れ戻す方がずっと希望はある。

 

俺は、それが間に合うと踏んでいる。

 

あの釘崎ちゃんが追いかけて呪霊は恐らく分身。彼女の術式が効くであろうことは、なんとなく想像がつく。"魂"というものを不完全なれど知覚した今だからこその推測だ。

多分、本体への攻撃が通ったんじゃないかと思う。

極上の"藁人形"となった分身はだから逃げた。

 

そして必ず、本体のところへ逃げ戻る、いや、誘っている。

 

―――――あの呪霊は俺と七海君で出来なかった、虎杖君への精神的揺さぶりを釘崎ちゃんでやるつもりなのだ。

 

殺してから死体を虎杖君に見せる?それもあるだろうけれど、わざわざ七海君と俺を生かしておくほどだ。同じことをやってもおかしくはない。

それを説明してる暇もないし、逆に止められなくても、()()()()()、間に合わせられる可能性が高いのは俺だろう。

 

そうだ、だから最初から、俺は何を言われようと行くつもりだった。

 

体力も、呪力も、ほとんど尽きかけてる。関係ない。杞憂かもしれない。虎杖君と釘崎ちゃんは、見事に二人であの呪霊を祓うかもしれない。けれど、けれどもそんな楽観的な考えが通ったことなど今まで一度だってない。そうやって俺は二人の同期を失くしたじゃないか。

 

かつては動けなかった。自分よりずっと強い彼らなら大丈夫だと、だけどそれは幻想で、結局二人は逝ってしまった。

七海君だって死にかけた。五条君ですら封印された。もはや"強さ"はここでは意味を成さない。これは狩りではない、殺し合いだ。絶対なんてない、誰が死んでも勝っても負けてもおかしくない先の見えない霞がかった薄氷の上と同じ。

そういう世界だと、俺はもうずっと前から知っていた。

 

―――――それに、生徒を見捨てられるほど、俺は腐ったつもりはない。

 

彼らはまだ、三人揃ってあの平和な"夏"を迎えていない。必ず、あの夏を。それが、俺の役割なんだから。

 

「―――――行きます。七海君をお願いします」

「…ええ、わかっています。ご武運を。正しいと思うことをしてきなさい」

 

頭を下げる時間も惜しんで俺は駆け出す。けれども本当は深く、頭を下げたい思いだった。

黒石さんにも、本当に随分と世話になった。総監部に入る前も、後も、教師となった後も、そして今も。

 

左腕を覆っていた雪が肘先まで剥がれ落ちるのを尻目に、俺は振り向かずに下る。

 

再び虎杖君の元へと。

 

 

 

 

 

「トドノネ先生!」

「ん?なんだい虎杖君」

 

生物の授業を始める前、教室に入った俺は真っすぐと腕を上げた虎杖君を見た。

 

「先生に彼女はいますか!?」

「女子高生みたいな質問してきたね」

 

チラリと釘崎ちゃんに目をやれば肩をすくめた。

でも目が()えている。自分の手を汚さずに女子っぽいこと聞くつもりだなあの子…やるな。

ついでに伏黒君の方にも目をやる。

明らかに呆れてる。でも目が据えている。君もか。あれか、おじさんはいつまで独身なんですかっていう目だあれは。怖いって。

 

「そう言えば」

 

何でもないように伏黒君が口を開いた。

 

「4月に、京都校の女性の先生が会いに来てましたッスよね」

 

虎杖君と釘崎ちゃんに衝撃、走る。

 

「伏黒詳しく!」

「先生もちゃっちゃと吐いて下さいよ!こいつら二人ともそういう話し全くないんすよ!」

「確か五条先生が言ってましたよ。学生時代の先輩だって」

 

全部知ってて言ってるな恵君???

恵くんにしては珍しいアプローチだな…あぁ、いや、そっか。こっちの世界での、初めての友達なんだもんなぁ。

 

「女のほうは俺と似てるな」

「あぁ。物怖じしない所とか、なんとなく思い出すよ。でも君は一応 呪言使いの血筋に近いだろうに。最初はそんなざっくりとした感じでいいのかと心配になったもんだよ」

「あら?もしかして私のことそう思ってたのかしら?」

「思うでしょうに…加茂の分家なんだからもっとお(しと)やかなんだと思ってたよ。いい意味で裏切ってくれたけど。てか似てるのは二人ともでしょ?」

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」

 

 

 

 

振り向けば、白い世界が広がっていた。

 

もういない二人がそこにいる。

 

 

 

 

「いい顔になったなぁ随分と。やっぱり俺が言った通り教壇の上に立つのが似合ってるぜ。さっさと学長にでもなって五条のアホをこき使ってやれ」

「後は妻を(めと)って子をこさえるだけよ?歌姫先輩にはまだ手を出してないの?白髪バカにマウントとるならあなたはそこしかないんだから」

「そういや俺たちがやったスノードームはまだあるか?」

「術式は好きになれたかしら?」

「好き勝手言うなぁほんと」

 

本当にかってだよ。

 

 

俺は目を強く瞑り、真っ白な空を見上げた。

 

 

「俺は…"僕"がやってきたことは、よかったのかな」

 

高専の制服を着た二人は呆れたように溜息を吐いた。

 

「"水は方円の器に(したが)う"よ。何度も言ったでしょう?私たちは周りに、時代に、環境に、少なからず身を任せるしかない。私がお転婆でも血筋からは逃れられないように。だから総監部でやってきたことは決して、あなたのせいじゃない。罪はあるわ。でも、どうにかしようと、頑張って来たじゃない」

「ちっとは鏡をよく見ろよ?ナヨナヨしてた一年坊の時と、上にパシられてた時と、"今"とよ。本当に変わったんだぜ?俺たちと違ってさ。俺たちがしたかったことを、お前は五条のアホとちゃんとやってきたじゃねぇか」

 

水は方円の器に随う。彼女の口癖だ。

人は環境に、交友関係によって良くも悪くもなる。

 

偶然にも血筋を嫌った"彼"と"彼女"のおかげで、俺は総監部にいてもその意思を、目指した物を忘れずにいられた。だから五条君という強烈な"灯"に惹かれ、躊躇なくしがらみを振り払う選択が出来た。

彼らの目指した未来を、厳しい"冬"の、その先を。雪解けの終わった春、それを越えた夏を見据えるかのような遠くを見る二人の目を、俺はよく知っていたから。

恵まれている。恵まれすぎている。

 

あぁなんで、なんで君たちは、なんで、なんでさ。

 

 

「何で死んじゃったんだよ…」

 

 

高専の制服を着たまま、僕は涙を拭う。

二人はいっそ清々しい笑みを見せて笑い声をあげた。

 

「ああ、卒業間際で死んだのは惜しかったな!いや、悪いとは思ってる、一応。でもよ、あれはあれで満足な死だったかもしれねぇ。やれることやって、誰も連れて行かずに一人で死ねた」

「私はちょっと早すぎたわね…2年て…でもまぁ、子供を守れたんですもの。あれでよかったのよ」

 

かってだなぁ。

 

本当に好き勝手言いやがる。

じゃぁこっちだって好き勝手いってやるさ。

 

「僕は後悔してもいい」

 

悔いのない死はない。七海君の言う通り、そうなのかもしれない。

けれどそれがどうしたと言うんだ。

 

「"俺"は選んだ道を、走り切るよ」

 

今まで流され続けてきた。術師になったのも、総監部に入ったのも、教師になったのも。

 

けれどもあの時、俺自身の意思で五条君の手を取った。信頼されてないのも、これからもされないかもしれない事もわかった上で。その道を選んだ。

そこに後悔はあるんだ。俺は心底弱い人間だから。硬い意志と思っていたことすらも自信が持てず、正しいのかも時々わからなくなる時もある。

それでも過去の俺が選んだ選択だ。

 

これは後悔しようが逃れられないようにした、未来の自分への"呪い"だ。俺は未来の自分が後悔することを知った上でその渦の中心へと俺を突き落とした。

 

思ってた通り後悔は()()()。けれども今、この道を走り切ることに悔いはない。

 

だから許して欲しい、とかは言わない。

そっちに行くかもしれないことを、謝ってなんかやらない。死の間際にまた後悔していようとも、堂々と胸を張って歩いてやるさ。「どうだ、走り切ったぞ。これでみんな同じだ」とか言ってやろう。

 

「俺は、俺と同じ思いを生徒たちにはさせたくないよ、例え、道半ばに死んでも。君たちのように」

「それでいいぜ。全力でやれ。なぁにどうせ2回死んでんだ。もっかいぐらい死んでも問題ねぇさ」

「どうせ死ぬなら、()()()死になさい…でも、足掻いて足掻いて…それでお墓に結婚報告でも持ってきてね。先輩が独身なのが可哀そうだから」

 

あまりにさっぱりとした物言いに、俺も笑顔になる。

これでこそ俺たちだ。さぁ、行かなくては。

 

 

『若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ』

 

 

五条君はそう言った。俺もそう思う。

呪術師は皆、近しい人を失っている。五条君も例外ではない。だからこそ、少なくとも虎杖君の時のようなことは、絶対に、絶対に―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トドノネ先生っ!!!」

「先生っ!?」

「まず一人ってね」

 

 

 

腹の内側を抜けて背まで貫く感触があった。

 

 

 

虎杖君がこっちに向かって走りながら叫んでいた

俺が咄嗟に呪霊の手に触れさせないように押しのけた釘崎ちゃんも、片膝を付いて叫んでいる。

 

呪霊は、俺が目の前にいたとわかった瞬間、触れるのではなく腕を変形させ、俺の腹を串刺しにした。

 

穂霜でとっさに防ごうとしたが間に合わず、柄がへし折れ刃は滑って通路の壁へとぶつかる。

 

 

 

―――――これでいいんだ。

 

 

 

呪霊がハンマーのように肥大化させた腕で俺にとどめを刺そうとした瞬間、虎杖君が呪霊を殴り飛ばし、俺の身体は地下の通路へと放り投げられた。

 

呪力が、足りない。

血を止められない。

 

「釘崎ぃッ!!!先生をッ!!!」

「任せな!アンタこそくたばんなよ!!」

「おいおい、いいのかよ!せっかく二人いんのにさぁ!そんな虫ケラよりも呪力がスッカスカのやつなんか気にしてよ!!」

 

血溜まりが通路を彩っている。俺の血の上で虎杖君と呪霊は戦う。あぁ、寒い。

 

うつ伏せのまま動けない。辛うじて、視線は戦う二人と俺の傍でしゃがんだ釘崎ちゃんへ。

ダメだ、背を向けるな。

見える。

呪霊はまだ、釘崎ちゃんを殺すことを諦めていない。或いは、俺への完全なとどめか。

 

呪霊の視線がこちらへチラリと向くのが見えるのだ。

 

まだ、まだ意識を失うわけにはいかない。

まだ、まだ。

 

3度目の死が俺を白い世界へと今度こそ引き込もうとする。

まだ、まだ。

まだ駄目だろう。

これで終わるなんて、あいつらが許してくれるわけがない。

 

 

まだ。

 

 

『なぁにどうせ2回死んでんだ。もっかいぐらい死んでも問題ねぇさ』

『どうせ死ぬなら、らしく死になさい』

 

 

もういい加減、限界だ、呪力はほんの少しを残して出し切った。

 

だからせめて最後に一回、一矢報いてから眠らせてもらおうじゃないか。

だからまだ、まだ、目を閉じるな、まだ。まだ。

 

 

…そして特級呪霊は俺の思っていた通り、こちらを殺さんと動き出した。

 

 

不意をつき、虎杖君が蹴り飛ばされる。釘崎ちゃんがそれに気が付き、振り返る。おれは、釘崎ちゃんごしに、今にも閉じそうな瞼を持ち上げて呪霊を睨みつけた。

 

 

 

 

 

―――――真人は笑う。

虎杖を蹴飛ばし、その隙を使って椴之根へと先程彼を串刺しにした真っ赤な腕を再び伸ばそうとした。

 

「やらせっかよ!」

 

その兆候(ちょうこう)を感じ取った釘崎は椴之根の前へ立つ。

呪力を高め、なんとしても通しやしないと金槌と釘を構えた。退く気はない。釘崎は退かない。それが真人の狙い。

 

「止めろ!!」

 

虎杖は再度、椴之根を狙う真人に叫び、走る。

リーチの差は、ここに来て凶悪に牙を剥くだろう。その場を動けない釘崎が耐えきれるか?わからない、だから走る。

 

そして椴之根の掠れた、(ささや)くような声がそれぞれに届くことになる。

 

 

「術式は開示したはずだよ、呪霊」

 

 

 

 

 

"凍り篭り"は、最初に必要に応じた呪力を持っていく。

 

"術式"を凍結させる場合もまた同じなのだが、椴之根の時のように、内側に入り込んできた真人の術式を停止させるケースだとそうはいかず、長い時間をかけてゆっくり呪力を消費しながら凍結させた。

しかし基本的には呪力の供給なしで維持が出来る術式だ。

 

一度()()()に成功させさえすれば、今、呪力がなかろうと問題ないのだ。

 

 

 

 

 

「は?」

 

真人の腕は真っ赤な柔らかな雪で覆われていた。

 

 

―――――腕が、変化しない。

 

 

すぐさま真人は右腕を切り離す。

この雪は見覚えがあった。間違いなく、そこで死にかけている術師の術式だと理解し、けれどもそれが最後っ屁だと気が付いて背後の虎杖に対応しようと振り返る。

 

やむを得ない迎撃の構えは、真人の意図しない所でフェイントのような動きとなり、虎杖の不意をつく。

必死に走っていた虎杖は不完全な体勢からの攻撃をしなければいけないことを覚悟して拳を振り上げた。ありったけの呪力をこめて。

 

 

 

―――――そして真人の後ろで、釘崎が笑う。

 

 

 

呪力を(まと)った釘が指し示す先は…真人が切り離した腕。

 

「余所見してんじゃねぇよ!!」

 

 

 

"芻霊(すうれい)呪法"―――――"共鳴り"っ!!!

 

 

 

呪霊の動きが止まり、そしてすぐに虎杖によって殴り飛ばされる。強烈な破壊の音は、もう聞こえない。

その景色を最後に、椴之根は笑って目を閉じる。

 

 

 

 

 

―――――椴之根の術式は直接触れた相手にも作用する。

釘崎を庇って刺された時、その刺した腕に椴之根は触れているのだから、術式をかけることも当然出来た。

しかし椴之根には"縛り"があった。それはまだ解けていない。椴之根は真人を害するために術式を使えない。

 

だから真人の手に付着した大量の()()()()()()()()()()()()

 

術式は自身の一部であれば呪力は然程必要ない。加えて血液は水と等しい、発動速度もまた十分なものになる。さらに術式の開示がブーストをかける。

 

まさに、椴之根が開示した通りに彼は()に触れ、術式をかけた。

 

雪の結晶を素早く形成する事を極めていたこともあって、椴之根は瞬時に、真人の腕を染める血液を赤い結晶の塊とする。それが、気が付くのが遅れた理由。あまりに早すぎたのだ。

そして"凍り篭り"は、停止させ維持する術式。そこに冷たさが付随するがために「凍結」と言い表しているが、明確に凍らせることとは違う。

だから、力技で突破するには「膂力(りょりょく)」ではなく、術式効果を壊すために「呪力」で壊さなければならない。

 

しかし真人は変化させる瞬間にまで本気で殴る時と同じ呪力を纏ったりはしていない。それが、変化を遅らせ、困惑させた。

 

何気なく手を広げようと思ったら拳を布で包まれていたようなものだ。薄くとも、気が付いていなければ破るのも上手くいかない。

 

そう、真人は腕を切り離すのではなく、呪力で力任せに突き破ればよかった。七海や椴之根の左腕を覆った雪のように、"無為転変"を()()()()()()()()()()してしまっために、選択を間違えた。真人は椴之根の"縛り"を知らないのだから。

真人が七海を連れ出す前、椴之根の左腕を掴んだ後、意味のない術式がへばりついただけなのに指を切り離したのを椴之根は見逃してはいない。それを癖としてやるかどうかの、賭けだった。

 

椴之根は最後に、自分を有象無象の術師だと思ってる呪霊に一矢報いれたのだ。

 

 

「今度、こそ、終わり、かもな」

 

 

奇妙な程に満足感があった。

まだ死ねない、それはわかっているはずなのに。それはあの特級に俺程度の人間が牙を突き立てられたことによる高揚感?いや違う。

子供たちの未来を守り、背中を押せたことによる達成感なのかもしれない。教師としては、これ以上のものは無いだろうな…あぁいや、わかってる。死んでしまった二人と、ようやく同じところに立てたと思ってしまったからだ。

 

まだ死ねない。

その感情を追いやって、「満足」してしまった。

 

今や「後悔」から呪力を練ることも出来ない。

 

 

ボコリ

 

 

あぁ、クソ。

 

 

未だに()()()()()()()()()()()()()()が動き出す。

 

あの呪霊の術式だけ凍結し、けれども凍らせるだけだったために残り続けた腫瘍(しゅよう)。それが今、刺された時に流された呪霊の呪力に反応し、目覚めようとしていた。

その寝起きに気が付くように、左腕にかけられた術式も。

 

 

俺の術式が雪解けのように溶けてしまったために、抗えない春に、"()の芽"が芽吹く。

 

 

ボコリ

 

ポコリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『先輩が独身なのが可哀そうだから』

 

 

あぁクソ、あんなこと言われせいで歌姫先輩の顔を思い出す。

バレバレの学生時代の恋心なんて、今更引っ張ってこないでくれ。人が怒らないからって散々弄り倒しやがって。本当に、そっちに行ったらただじゃ済まさないからな。畜生。

 

 

だから。

 

 

あぁ、やっぱり。

 

 

まだ死ねない。生きたい。あの夏を、もう一度、また一緒に―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「椴之根君が、生きてる?」

 

すぐに呆けた表情を引き締め直し、平常心を保つ。

渋谷へと教え子と共に向かう電車の中で情報を集めていた時、何気なく転がり込んできた内容。

術式の応用を用いてサポートに回っているというではないか。

 

何故?だったら、今までずっとどうしていたの?

 

疑問は尽きないが、今は唯、生きていたという事実だけに安堵する。

現在は渋谷の状況は最悪と言ってもいい。その中でこれは状況に作用する程の事ではないのかもしれないけれど、確かに朗報だった。

 

 

でも何故だろう。

 

すぐにまた、遠くに行ってしまうような、そんな気がした。

 

 

歌姫が椴之根に抱いてる感情はいつもそれだった。

彼の同期たちのように、私たちを置いて死んでしまう。それはとても寂しいこと。けれども今自分は、ただここで到着を待つしかない。

 

 

―――――どうか皆が無事でありますように。

 

 

そしてもう一度、彼と話をしたい。

愚痴の言い合いみたいな、おいしいお店の話だとか、そんな何気ない日常の話を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その安否を確認する間もなく。

東京はあっけなく終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さっさと起きなさいな』

『こういうのもあれだが、本当にしぶといよなぁお前』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な世界が拡がっていた。

二人はいない。あそことは、違う白い場所。

 

割れた薄氷が辺りを漂い。気泡が上へとポコリと浮かびゆらゆらと、ゆっくり昇っていく。

まるで水の中みたいだ。

けれども俺はそこを当たり前のように歩き、雪のような真っ白な地面に足跡を残す。

 

昇る気泡の代わりには、白い雪が億劫そうに降り積もる、そういう世界。

 

ここは俺の生得領域。

 

薄氷のような境界線を取り除き、氷の上と下が一つになった世界。

水はどこまでも透き通っていて、空気のように抵抗感なんてなく、ただ腕を振れば振り続ける雪と昇り続ける気泡が波に煽られるかのように大袈裟にうねった。

 

 

まさにスノードームだな。

 

 

五条君の言う「突然変異」とやらは、俺の中にこの世界を作らせるに至ったということかな。

けれどもこれこそが本来の姿と思えてしまうのは、ちょっとおかしいだろうか?

 

 

あぁ、そっか。

 

 

俺はずっと夢見てきた。

こんな風にガラス玉の中に閉じこもり、自身の嫌う存在(あの時の雪山の白)すらも穏やかに美しく見える世界を。

ほら、ここには険しい山の坂すらなく平坦だ。

雪は薄く積もるばかりですぐに舞い上がるから足を取られることもない。

ついに割れそうで踏み出すことも躊躇するような薄氷だって、今はそこら辺を泳ぎ回るばかりだ。

 

なんて心地のいい。

 

ずっとここにいられたらな。

 

 

「―――――けれども駄目だ」

 

 

呪言の反動を受けたせいで掠れてしまった声で独り言ちる。

胸に、腹に開けられた穴から血が足元の白い雪を赤く溶かし、左手の手の甲の穴から噴き上がる血は水のような空気に混じって視界を濁していく。額の傷は頭を叩くようにズキズキと痛んだ。

 

そうだ、それでいい。

 

 

「俺は呪術師だよ」

 

 

安泰(あんたい)を、平和を、穏やかさを願っても俺が一人でそこに届いてはいけない。

俺が殺してきた命を、忘れることがあってはならない。決して。

 

 

「…そもそも、俺は彼らの先生だ」

 

 

そうだそうだ。なに休もうとしてるんだ馬鹿。

あれだけ足掻いておいて、柔らかいベッドを与えられただけでぐっすり眠るようじゃ本当に笑われてしまう。

忘れたのか?

 

 

あの夏をもう一度―――――

 

 

「あの夏を、皆で」

 

 

俺の深層心理、願望が、俺をここに導いた。

俺の根源。

本来ならば領域展開を得た時に知るであろうこの景色に、今、ようやく辿りついたのだ。

…多分、また死にかけたから。

 

俺の術式はどうにも最初に発現した時の状況のせいで、「死の感覚」が術式の核心へと至るためのトリガーとなってしまっている。今回、2度も間を開けることなく経験したことで嫌でも理解した。

 

ひど過ぎる。

出来ればもう2度とごめんだ。けれども本当にこうでもならない限りステップアップ出来ない術式になってしまっているのだろう。

つまり、強くなりたければまた死にかければいい。あぁうん。まぁ今はそういうの考えるのやめよっか…

 

俺は赤黒く濁った水の中を歩く。

俺の世界なんだ、どこに行けばいいかはわかる。

 

やがてこの領域の縁に辿り着いた。

 

曇りガラスのような境界があって、その先は酷いくらいに真っ暗で、何も見えない。

 

「よし、行くか」

 

俺はノックするかのように手で叩いて境界を割り、真っ暗闇へと悠々と歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開ければ真っ白な空が拡がっていた。

 

あぁ、いや、眩しいだけだった。デジャヴュが過ぎる気がするな。ここは多分、高専の病室。

朝…だな。蛍光灯じゃない。朝日だ。

俺は今、病室のベッドに寝かされている。

 

なんとなしに、起き掛けの低いテンションのまま辺りを見渡す。

 

「…」

「…」

 

目が合った。

左目の眼帯と、顔の左半分に酷い火傷の跡があるが、良く知ってる人間だ。

 

「…起きましたか」

「あ、うん。おはよう」

「気分はどうですか」

「…昼まで寝過ごした気分だよ」

「それなら」

 

七海君が手に持った本を閉じ、パイプ椅子より立ち上がる。

 

「一先ず家入さんをお呼びしますので安静に」

「…うん、わかった」

 

ぼうっと、現実感の湧かない頭でドアを開けて部屋から出ようとする七海君の背中を見る。

…ふと、これだけは言わなければならないと思って口を開いた。

 

「生きててくれてありがとう」

「それはこちらのセリフです。無茶し過ぎなんですよあなたは」

 

心底、何言ってるんですかと言わんばかりの溜息を零して彼は言う。

それはこちらのセリフです。なんて返しそうになったのは流石に抑える。今はただ、彼が生きていたことを喜んでいたかった。

 

 

―――――間もなくして、七海君は家入ちゃんではなく何故か歌姫先輩を連れて戻ってきた。

どうやら家入ちゃんは今忙しく、すぐに来れなかったようだ。そこでまだ東京に留まっていた歌姫先輩が俺のことを聞きつけてわざわざ来てくれたそう。

 

 

その時の俺の感情は、歌姫先輩を見た時の心境は、何と言えばいいのか…強烈だった。

 

 

何度も死にかけて、なんとかやり遂げながら今まで命を薄氷の上で繋ぎ続けて、きっとおかしくなっていたのだと思う。今まで蓋をしてそのまま2度と開かないと思っていたそれが、唐突に飛び出て、それで突拍子もないことを言ったのだと思う。いや、俺が死の間際に見た二人の言葉がやはり決め手だったのか。

こうでも言い訳しなけりゃ、正直、思い出すのもあれなことだった。忘れて欲しい。

 

俺は歌姫先輩が安堵の表情を見せ、口を開くよりも前によく分からない言葉を口にした。

 

 

 

 

「………歌姫先輩」

「何?」

「婚約指輪を買いに行きませんか?」

「お、落ち着いて?」

 

七海はふぅっ、と軽く息を吐き。冷静になる。

そして今はかけていないのに眼鏡を押し上げる動作をした。

 

「…お二人の式はマレーシアでやりませんか?」

「落ち着いて!?」

 

 

ずっと冬で在り続けようとした彼の、春はやっと始まったのかもしれない。

 

 

 

 

 






前回もまた誤字修正報告をありがとうございます!
結構多かったのでものすごい助かりました。

そして短い間でしたがこの作品を読んでいただいて本当にありがとうございます!
これにて完結とさせていただきます。

基本的にこれ以上続ける気はないのですが、いつかもしかしたら本誌の状況とかで続きを出すかもしれません。或いは番外編とか?そこは、あまり期待せずに。
それと気軽に感想等いただけると嬉しいです!


以下いつもの補足…気を付けろ皆…最後だからっていつもよりなげーぞ…!


▼椴之根 恭弘【トドノネ ユキヒロ】

最後まで容姿を描写しなかった主人公。姿は自由に思い描いて下さい。
一応、作者の中のイメージは乙骨の顔をベースに、目を小さくして老けさせて白髪が目立ってきてる感じ。

五条と同じで、同期の"彼"に指摘されて(適当な理由だったが)一年の時に一人称を変えている。
"水は方円に随う"という諺は"彼女"が良く言っていた言葉。
受け継いでいたからこそ、生きる意味を見出せない日々でも生き続けれた。
それは確かに彼を生かすための"呪い"だった。

あと乙骨の指輪を見て「いいなぁ」と思ったことがあったり。


▼結晶方円法【ケッショウホウエンホウ】

最初から最後まで、拡張術式を除けば雪を降らす以上はない。そういう術式なのだから。

生得領域はまさにスノードームのようになっていて、それをようやくはっきりと認知できた。
薄い硝子に覆われた、水の中で白が昇っては降りて来る穏やかな空間。おおよそ呪いとは言い難い、彼の心の中。
しかし自らの血で濁し、溶かし、呪術師として抗うことを思い出した。


▼拡張術式:凍り篭り【コゴリゴモリ】

最後の最後まで椴之根を生かすために酷使されるも、限界を迎える。
そこに東堂と新田が到着したことで命を繋いだ。

「こおり(氷)にこもる」という名付けは彼の願望であり、亡き同期たちから貰ったスノードームのことを想って付けられた。
他にも「凍り」は「氷水」、つまりかき氷の略称。夏の風物詩。その思い出に浸かりたいと言う理由もあったり。


▼領域展開:霞薄氷【カスミウスライ】

拡張術式の効果は領域展開にもまた影響を与えている。
これを得た時に飛ばしてしまった多くのステップを、今は埋めつつある状態。
"縛り"を解くことが出来るならば、可能性はもっと広がるだろう。

ちなみに縛りを解いた場合、領域内に拡張術式の効果も付与できるので、本来の内と外から結晶化させて凍死させる用途以外にも広範囲を同時に殺さずに無力化する事が出来るようになると思う。(全身雪だらけになって意識が落ちる)
或いは、改造人間の時のように、それが慈悲だと思うのならばもう出来るのかもしれない。

椴之根らしい、甘くて優しい領域。


▼五条 悟【ゴジョウ サトル】

椴之根と出会うことで五条は救うべき人間の幅を広げることが出来た。そういう感謝はある。
恐らく生きている人間の中では一番五条が椴之根のことをわかっている。信用しきれないから(または信用したいと思ったから)こそ色々と探った結果でもあった。
封印された今、上の動きをある程度把握しながら動けるのは椴之根ぐらい。なので期待する人間の一人に今は入っている。


▼黒石さん【クロイシ】

互いに長い付き合い。
渋谷の地下へ行かせた先、そこで燃え尽きるかもしれないと思っていても、その生き方を否定できなかった。
昔より、ずっといい目をするようになったのを知っているから。


▼虎杖 悠仁【イタドリ ユウジ】

椴之根はある意味、未来の虎杖の末路の一つ。
それを目の当たりにして、それでも死ぬなと言われたことが一つの呪いになるのかもしれない。
あの時、虎杖一人であれば救えなかった命を救う姿を、燃える短い導火線のような姿が焼き付いている。いや死んでないけど。


▼釘崎 野薔薇【クギザキ ノバラ】

目の前で自分を庇って死にかけた先生の姿が与えた衝撃は大きい。
最後の最後まで抗うその姿は、やはり優し気なこの先生も呪術師なのだと再確認させられた。

ちなみに椴之根は釘崎を追う時点で、真人の腕でも足でも切り離せてやれないか考えながら動いていた。そこで真人の切り放す行動を思い出している。


▼伏黒 恵【フシグロ メグミ】

寝てるうちに魔虚羅と宿儺による犠牲を減らして貰ってたのを知ったのでもう頭が上がらない。
でも取り敢えずこの人は誰か近くいないとダメだ。


▼七海 健人【ナナミ ケント】

普通にびっくらこいた。
私いる時に言いますか??
とりあえず反射的にマレーシア行きたいなって思った。


▼庵歌姫【イオリ ウタヒメ】

まだまだ時勢的にも精神的にも混乱が多いので色々保留。
七海がやたらマレーシア押しなのは何なのだろうか。

意識したことが無いのかと言われれば互いにある。
けれども死に不慣れな椴之根はそういった感情を持ち続けれる余裕がなく、歌姫もそれに気が付いていたから踏み込むことはしなかった。
そうやって時が経ち、この縁はもう繋がってはいないのだろうと思っていた。いたんだけどなんか死人に背中を押されて失くしていたものがまた芽生えてしまった。

"呪い(誰かの存在)"がいつも椴之根を生かしてきている。
愛は呪い。これが生かす呪いとなるかは、まぁ頑張ってねとしか。


▼"彼"

呪言使いの家系。狗巻家と血が近い。
しかし呪言の術式ではないものが発現し、幼少期は辛い日々を過ごす。
そのため古いしがらみを嫌っており、将来はそれをどうにかすべく動くつもりだった。
五条は会って速攻で嫌いになった。最初は椴之根が普通に話せてるのが謎過ぎて驚いてた。
任務にて他の術師と補助監督を逃がすために殿となり、死亡。

名前は日方(ひがた)


▼"彼女"

加茂家の分家の人間。
単純に暑苦しいのが苦手で、古いしがらみも苦手。一応お淑やかそうにしてるが実際はざっくりした性格。
将来を然程考えてなかったが、同期と過ごす内に"彼"の考えに同調していった。
五条は会って速攻で嫌いになった。椴之根が普通に話せてるのが謎過ぎるが、それが段々と面白くなっていた。でも嫌い。
任務中に現場に迷い込んでいた子供を庇い、死亡。

名前は円香(まどか)


▼蛇足【トイウナノウラセッテイ】

何度も使ってる「あの夏をもう一度」は主人公が記憶で見た景色の他に、深層心理にて冬というものを好きになれないと言う理由のための願望でもあったり。
遭難したり、そのせいで術式が発言して呪術界に巻き込まれ、しかも術式はそのトラウマと同じだし、死ぬ時も寒いから思い出すしで散々です。
逆に、その負の感情があったからこそ有象無象背でしかなかった存在から昇華できたということでもあります。ままなりませんね。サイヤ人だし。

同時にメタ的な意味もあります。
今作は「冬」「春」「雪解け」などの季節要素をテーマとして置いてますので、終わりに向かう=冬から春、やがて夏(未来)へ行くという流れです。最後の文章もそれを表すために入れられました…本当はこの二人については距離が縮まらないままだろうなーと思ってたんですが、なんかこうなりました。頑張れ主人公。

それと、最初らへんの後書きに書いた「元々四角い領域展開だった」は彼の移り変わりを表すためでした。
方円の「方(四角)」が過去、即ち総監部で荒れて角が立ってた時期を意味し、「円(丸)」が今の五条と共に教師をしてる、所謂丸くなった次期を意味してました。

このタイトルとリンクさせる試みは至る所でやろうとしてたりします。
作者のこだわりみたいなものかもですね。いや、みんなやってるか。

例えば死んでしまった同期二人です。

この二人は本当はもう少し早い段階で登場する場合もありました。
ですが、ただでさえ時系列がばらばらだったのでこれ以上入り乱れすぎないように最後だけの出番となってます。

(ゆき)弘は日(ほう)(えん)香の呪い()に随う。

これは、そういう物語でもありました。



では皆さん、またどこかで!良い春を!

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