据え置き版ウマ娘プリティーダービー 母娘孫三世代三冠RTA 実績『三冠の一族』Any%チャート   作:サイリウム(夕宙リウム)

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PART10《スタート、そして。》

 

 

(大逃げ、大逃げ、大逃げ……、確かどこかで聞いたことがあったはずなんだけど……。)

 

 

そうやって一生懸命に思考を回すカナリア。なんといっても自身にどれだけお礼をしたらいいか解らないほどの奇跡をくださった神様からのお告げ。なんとしてもそれを実行しなければならないという想いが彼女にあった。

 

ウマ娘が必ず持つといっていい“走りたい”という欲望。体の虚弱さが故に絶対に叶えられないと思っていた願いを実現させてくれた、そして考えることすらできなかった夢のレースに出させてもらえるほどの力をくださった。風をその身で切る、風と一体化する、自身の脚でターフを踏みつける、走った後の高揚感、気持ちいい疲労、一生自分が味わうことができない感情を沢山くださった。

 

 

それに、神様は私にたくさんお告げをくださる。

 

 

私がそのお声を十全に聞き取れないせいで途切れ途切れになってしまうけど、頂いたお告げのそのすべてが私にとって素晴らしい出会いに繋がったり、素晴らしい経験に繋がった。そのお声に従わないという選択肢は私の中にない。そんな恐れ多いことできるはずがない。

 

 

(大逃げ大逃げ……、あ、そういえばトレーナーに戦法について教えてもらった時に……。)

 

 

思い出すのはスピカに入った後、デビュー後にもっと詳しく色々教えてもらおうとした時、トレーナーさんがそれまで自分が走れないことを突き付けられている気がしてレースという存在を目に入らないようにしていた私に、基本的なことを教えてくれた時のこと。

 

 

 

 

『……んでまぁこんな風にレースってのは格付けがあってメイクデビューから始まって頂点はGⅠになるわけだ。距離も色々あって四種類に分けられるってのは……、おわかり?』

 

 

『はい! 覚えました!』

 

 

『よし、じゃあ次に戦法について話していこうか。これも距離と一緒で四種類あって逃げ、先行、差し、追込とある。上げた順にレース中での位置が分かれる感じだな。』

 

 

『このバ群って言うんですか? これを四等分して分けたのが戦法ですか?』

 

 

『あ~、まぁ最初はそんな感じでいいだろ。この後色々レースの動画見てもらう予定だし、追加で俺が教えられないライブの映像も見てもらうからそこんとこよろしく。……次は棒立ちしないでくれよ。俺上からめっちゃ怒られたから……。』

 

 

『あはは……、頑張ります。…………あれ? トレーナーさん。この逃げの前に書かれてる大逃げって何ですか?』

 

 

『ん? あぁ、大逃げね。ま、簡単に言ったら作戦も何も考えずに自身のスタミナが持つまで全力で走る方法かね? 一応作戦ともいえるしスタミナ配分とかもあるから一概には言えんが……、まぁ滅多に見ないから今は気にしなくてもいいな。』

 

 

 

 

 

 

…………思い出した! これだ!

 

 

神様! わかりましたよ! 私、とにかくたくさん逃げます! スタミナなんか気にしないぐらいに!

 

 

見ててくださいね! 私の大逃げ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ第44回皐月賞。全ウマ娘ゲートに収まりまして……、スタートです!』

 

 

 

瞬間、飛び出るは18人のウマ娘たち。

 

 

 

『一斉にそろって飛び出しております。先行争いですが、間からスーッと早くもシンボリルドルフ、シンボリルドルフ行きかけますが……』

 

 

 

(よし、スタートは失敗しなかった。位置も最内に付けている。このままレースを操り勝利す……)

 

 

 

『内から内からロードカナリアぐんと上がってきております。そのまま彼女が抜きまして先頭、シンボリルドルフは二番手と言ったところ。その外からルーミナスレイサーが来ております。』

 

 

 

(ッ! 何!)

 

 

 

レースが始まってすぐの位置争い、その先のスタミナの消費を決める大事なコース運び。ゆえにシンボリルドルフもそれを重要視する。その身に宿る世代屈指どころか国内屈指の身体能力に慢心せず、レース展開を自由自在に操る管理能力をほしいままにする彼女。

 

そんな彼女が内から入ってくるウマ娘を見逃す? そんなわけがない。最内とは彼女が求める最適解、他人に渡すはずがない。本来ならばそうであったし、彼女の想定でもそうだった。

 

 

しかしながら目の前にあるのはなんだ。何故内側にウマ娘がいる。

 

 

 

(何故! 何故そこに! いや何故私は最内にいない!)

 

 

 

明らかに私は先ほどまで内側、最内にいたはず。しかしながらなぜ今の私はスペースを開けている。なぜだ。頭の中で暴れ回る違和感。視点、位置、何かがぶつかった記憶、衝撃、ブレ。

 

……いや、考えるな。私がすべきことは過去の事ではなく今のことを考えないといけない。考えろ、考えろシンボリルドルフ。為すべきことを思い描け。

 

 

 

『さぁ競り合いですが、ロードカナリアが前に前にと行きまして後続と離れていきます。続きましてケンセツエース。アサカジャンプが抜き返してルーミナスレイサー。そして外を付いてスズマッハであります。現在四番手から五番手までが並びまして……』

 

 

 

 

 

 

 

(あ~、はいはい。スズちゃん解っちゃいましたよ? 逃げを選ぶ子達よりも前。つまり大逃げの位置にいるカナリアちゃん。でも単なる大逃げ、掛かったが故の独走にしてはいささか遅いし必死さも見えない。だからこそ困惑するわけだ。私やビゼンはカナリアちゃんとある程度の面識があるし、お休みに一緒に遊びに行くとかして彼女の性格はある程度解ってる。)

 

 

 

(けどルドルフにはそれがない。私たちはまだクラシックの初め、経験が少ない。ゆえにカナリアが何故大逃げを選んだのか、何故内側から出て来れたのか、経験からも彼女の人となりからも判別が不可能。)

 

 

 

(そんなわけで混乱する。なぜ、なに、どうして? ってな感じで頭はハテナばっかり。にゃはは、考えたらちょっと面白くて笑いそう。レース中だぞスズ~。……まぁカナリアちゃん策とか考えるタイプじゃないし、彼女のトレーナーさんもそういう気質には見えないから単純に『最初から最後まで先頭!』ってことじゃないかな?)

 

 

 

(ルドルフはその地頭の良さですべてを見通し管理しようとしている、だからこそ弥生賞で私はまんまとはめられたわけだ。……あぁ、落ち着け。ビゼンニシキ! 一人のことを意識しすぎて負けたのを忘れるな! 俯瞰しろ!)

 

 

 

(ま、そういう色々張り巡らせるタイプ代表のルドルフだからこそ一つ狂った時に全部うまくいかなくなるのはよくあることで。今まで彼女のレース映像やら後ろから色々見させてもらいましたけど。計画に支障が生じた時のうまい対処法なんて考えてないですよねぇ? だって今まで失敗したことないですもん。練習するにしても一度失敗しないと人間対策なんか考えませんもんね~。最近言われだした“皇帝”も人間だったわけですな。)

 

 

 

(だからこそルドルフ、奴がとる作戦は身体能力によるごり押し。作戦を狂わされたとしても困惑する時間はほんの少し、復帰が早かったのはその体に動きがしみついているのかそれとも私が想定していたよりも復帰が早かったのか。空いた隙間に入り込まれないようにすぐスキマを埋めてるし、プレッシャーやコース運びで周りを思うようにさせない戦略をもう始めている。)

 

 

 

(でも、すでに前で一人旅しているカナリアちゃんは範囲外。このまま好き勝手やらせるとそのまま最後まで先頭でゴールインされる。だからこそ策を捨てて力で踏みつぶす必要があるってわけ。)

 

 

 

(策を捨てればルドルフが構築していた、この気付いたとしても抜け出せないフィールドが破壊される。私も少しスタミナを使えば無理やり抜け出せるけど最後のたたき合いに残しておきたかった。でもこのまま奴の作った流れの中に居たら負けるのが確定してたからどっかのタイミングで抜け出そうと思ってたけど……、自分から捨ててくれるのならおいしいわね。)

 

 

 

 

(んま、崩れるのはいいけど私たちもそろそろ出発しないと追いつかないですかな? スズちゃんも負けるためにレースしに来たわけじゃないので頑張りませんと!)

 

 

(カナリアも脚の不安定さを抜きにしたら私の併走に平気でついてこれるぐらい速いしね。スズは少しキツそうにしてたけどアイツは平気そうだった。……つまり侮れない相手ってこと。こっからまた連勝記録作ってやるんだから負けてられないの、よッ!!)

 

 

 

 

『依然先頭はロードカナリア。後続と2馬身程離しまして、二番手に……、おっとここでルドルフ、シンボリルドルフが速度を上げて二番手に上がりました。』

 

 

『そしてその内からビゼンニシキが追い上げを開始、スズパレードも来ている。現在先頭が最終コーナーを回りまして最終直線に入ります!』

 

 

 

 

(落ち着け! 落ち着けシンボリルドルフ! まだ追いつける、まだ間に合う。落ち着いて前を見定めコースを選択肢しろ! 幸い先頭はコーナーでもたついて減速した! 内側が開いている! そこを詰めれば……)

 

 

「そんなこと考えてるんでしょうッ、ねッ!!」

 

 

 

『最終直線先頭カナリア少しふらついたが依然先頭! 後ろからシンボリルドルフ! その内からビゼンニシキ! 他のウマ娘も来ている! 激しい先頭争いだ!』

 

 

 

(何故、何故ビゼンニ……、ッ! 差を詰めるために前に出過ぎた! レースが既に私の手から……)

 

 

 

思考の海に陥りそうになった瞬間、肩に何かが当たる。激しい音。

 

意識を現世に戻し、目線を元凶に向けるとビゼンニシキの勝負服の装飾が私の肩に当たったようだった。

 

 

 

彼女の目は、前だけを見ている。

 

 

 

 

 

 

 

『ルドルフとビゼン! 猛追! 猛追! しかしながら先頭は変わらずカナリア、ロードカナリアです! 後続も追いすがりますが、そのまま逃げ切ってゴールイン! ホープフルSからGⅠ二連勝! クラシックロード一つ目の冠はロードカナリアが手に入れました!』

 

 

『二着はシンボリルドルフか、ビゼンニシキ。写真判定のようです。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて見る背中。手を伸ばせば届きそうな、でも小さい背中。

 

 

 

口の中に血の味が広がった。

 

 

 






なぜ、開いていないはずのコースが開いたのでしょうか?



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