今日からはじめる 目指せデュエリスト日記 作:すずなりゆうか
『えっ、どうしよう…。』と、私が困惑したのは本来なら負けるつもりだったデュエルが予想以上に楽しくて精霊たちの楽しげな声に流されたままデュエルに勝利してしまったからだった。
「私の勝ちだな。約束通りお前の大切な〈スターダスト・ドラゴン〉は私がいただくとしよう」
わざわざ魔法で偽装して姿を変えていたからこそ、困惑する言葉は表に出ることはなくスムーズに悪役としての言葉が出る。そうだ、私はこのデュエル。アンティルールにして『勝ったらスターダスト・ドラゴンをもらう』と宣言していたんだった。
「そ、そんな…まって、まってよ!!そのカードはぼくの大事な…」
「大事なカード?はっ、何を言ってるんだ。カードはカードだろう。大事なカードだったのなら、このデュエル勝てたはずだろう?」
デッキケースから精霊の声が聞こえる。
『一番、カードをカードとして扱ってないのは貴女のくせにどの口が言うのかしら』やら『途中、わりと本気になってたよね。おれたちの声聞いてたもん。おとなげなーい』やら。
私は黙らせるようにデッキケースをノックして声をかき消す。
「そんなに返してほしければ…そうだな。この大会に一般枠として出場しろ。勝ち上がり、この私をデュエルで倒せたら返してやってもいい」
それは、偶然に目についた参加者募集の張り紙だった。丁度いいとばかりに指し示し、どう反応するか…。
「本当に…、勝ったら返してくれるんだね?」
「あぁ、俺は約束を違えない」
さきほどまでの弱々しさとは違う。獲物を狩るかのように目を爛々とさせてこちらを見るその様は―――私が憧れたデュエリストそのもの。
「絶対に、取り返して見せる」
「できるならやってみろ。私は楽しみに待っている」
かっこいい。情けなかった少年が奪われたものを取り返すために立ち上がり、奪い返そうと立ち向かってくる。そう、これだ。これが、成長。
きっと、彼は次に会うときには驚くべきほど強くなってるんだろう。ド素人の私を圧倒してしまうくらい強くなってる。
なにせ、彼はデッキに…カードたちに愛されているんだから。
でも、言ったからには私もそう簡単には負けてやらない。約束を守るためには私もこの大会で勝ち抜いて、対峙しなくちゃいけないから。
おもしろい、おもしろくなってきた。
私はその場から離れた後、一本の電話を入れる。
「もしもし、私だよ」
「気が変わったからさ。大会、出場するわ。エントリーの申込み頼んだ」
私が頼むと通話先の相手は『あんなに嫌がってたじゃないか』って言ってくる。だって、大会に出たところで目立つだけで楽しくないじゃないか。でも、楽しい理由が出来たら参加しない理由はない。
「あー…ちょっとおもしろいことになっててね。うまくいけばおもしろいゲーム…いや、デュエルができそうなんだ」
批判的な言葉が返ってくる。『デュエル苦手だろ』とか『どうせまた無理をするんだ』と。心配してくれるのはわかるが今回は自分自身が決めたことだからもう下がることはできない。
「うん、わかってる。ぶっ倒れるほど無理はしないよ。あはは…心配しすぎ。私は弱いけど強いんだぞ?」
大会に出場する時は今日と同じブラックフェザー・ドラゴンを使ってやろう。次に会うときは変装抜きで。私は笑みを浮かべながら電話を切り、決意を胸に秘める少年をビルの屋上から眺めていた。
―――翌日。
「アぁぁカぁぁさぁぁんん?これはいったいどういうことだ!僕は『無理をするな』って言ったよなぁ!!?」
「…無理はしてない。」
「ぶっ倒れる=無理してんだよテメェは!!いい加減にしろ!!体調管理もできねぇのか!」
「…直前まで元気だった」
「『元気だった』じゃねぇええ!自分の体くらい大切にしろっつってんだよ!美雨を半分くらい見習え!!」
「…私に怠惰に過ごせと?」
「そうじゃねぇよ!どうせテメェのことだから夢と現実、ダブルで行動し続けてんだろ!それほぼ徹夜じゃねぇか!」
「…入れ替わるように眠ってる」
「アホか!!夢を見てる。こっちにいるってことはそれだけ眠りが浅いってことだろ!!たまにはぐっすり寝ろつってんだよこの馬鹿!!ただでさえ体が弱いのに何やってんだ!!」
フライパン片手に怒り狂うライくんの怒号とベッドの中、枕を被るように音を軽減する私がいた。