誰もが願うはハッピーエンド   作:すすき(仮)

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『学院』の黒いうわさ・裏

「…《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》…」

「なんかまずくねぇか…?」

「Foo~!野郎どもずらかるぜ!あの嬢ちゃんが暴走するんなら御の字だ!」

 

校門の近くで対峙する学生たちとアメリカTシャツ集団。

学生たちの最前列にたたずむ少女の周りには()()()()()()()()円状の幾何学模様が展開されつつある。

 

「…死ね。」

「Nah!あばよ嬢ちゃん、一人で勝手に盛ってな!」

「総員退避ッー!」

 

閃光が、辺りを覆いつくした。

 

 

___

 

 

事の始まりは数十分前、風紀委員長として倉崎茜がアメリカTシャツ集団への応戦に加わったことであった。

 

「痺れときなさい《ミョルニル》!」

「チャーリー?しっかりしろチャーリー!」

「ほーん、さすがは風紀委員長。一般生徒とは格が違うってか?」

「…違うわ。ただあなた達が疲れてきただけなんじゃない?」

 

『杖』から電撃を放って一瞬で敵を無力化する彼女は一瞬で戦況を変え、既に相当な手練れとうかがえるアメリカTシャツも数人が脱落している。

…まあ、残っている者たちにはそれをネタにできるだけの精神的余裕があるようだが。ちゃんと引きずって撤退させているあたり、仲間意識は強いようだ。

 

「風紀委員ってこんな強い認識なかったんすけどね…」

「バッキャロー!21世紀の名著(ライトノベル)の風紀委員長はたいてい武闘派で強いんだよ!」

「Yeah!その通りだ。風紀委員ってのは大抵とんでもねぇ権力を抱えてるんだよ…」

「…私たち校則違反とかの注意以外の業務は基本的にないんだけど…」

「僕達ってそんな横暴なんですか?!」

「いや、四月一日君はそんなに横暴じゃないと思うよ?…四月一日君は。」

 

もちろん、ほかの風紀委員や堂岡も負けているわけではない。

坂宮佳織は炎で相手の牽制を行っているし、堂岡も一歩劣るがしっかり魔術を打ち込んでいる。四月一日は…自分よりも頭一つ分大きい大柄な侵入者と格闘技で互角に渡り合っている。魔術は使っていないようだ。

 

「なぁ、俺達いらなくない?だからもう撤退したほうがいいんじゃない?ねえ?」

「うるさいわね。雄一、見なさい。あの侵入者は風紀委員長の攻撃すら軌道を読んでかわしているわ。まだ私たちにも出番が…あっー!見なさい!四月一日君の勝ちよ!あの男を投げ飛ばしたわ!」

「チッ。オッズは3.2倍だったから三万二千円だ!もってけドロボー!」

「やりぃ!次は何で賭ける?侵入者の脱落順?」

 

もちろん、ほかの生徒たちも魔術を打ち込んだりはしているものの3人の風紀委員と堂岡達で互角に戦えている以上、安全なところで休みたい。

しかも指導者たる西が率先してギャンブルをしているため、遠巻きに眺めているだけの状況になっていた。

だが。いや、だからなのか。

 

「…風紀委員長は強いな!…」

「…風紀委員長は格が違うぜ!…」

「…風紀委員長だからな…」

「うるさい。少しは口を閉じたらどう?」

 

茜の苛立ちには一人を除いて気付かなかったのだ。

『風紀委員長』という括りだけで評価されることに苛立つ茜のことを。

 

「なるほどねぇ…Foo!『風紀委員長さん』や。やっぱ『風紀委員長さん』だから強いのか~?どうした~『風紀委員長さん』俺たちゃあんた()()()に構わず『ラプラス』んとこまで行かなきゃなんねぇんだわぁ~」

 

アメリカTシャツの指揮官、桔梗又左衛門以外は、だが。

地下街の暴力沙汰に絡むことの多い彼にとって、学生ごときに精神戦で負けることはない。

若干不安定なところがあるならなおさらだ。

 

「…死ね。」

 

そして冒頭に戻る。

圧倒的な量の閃光はあたり一面を焦がしたが、茉莉花の指揮によってそもそも遠巻きになっていた彼らに負傷者は出ていない。

それでも彼らに絶望的な事態が起こったことに変わりはない。

 

「お、おい。風紀委員長まずくないか?まだ撃ってるし…ってかこっち来たし!」

「いや、ミョルニルっていうくらいだから北欧神話関連の奴だろ?ならヨルムンガルドは3回耐えれ…グハッ」

「一撃で突破されてやがる…」

 

遠くから乱射されて拡散された雷に当たっただけのため、直撃してもまだ息はあるようだが近くで食らえばひとたまりもないだろう。

しかし、生徒たちが打つ魔術も彼女に当たる直前に打ち消されているようだ。

 

「…まずいわね。なんでああなってるかは分からないけど、茜は止められないわよ。」

「なんでだ?」

「彼女の『ミョルニル』は、北欧神話も()()()()けど基本的にあらゆる雷関連の体系が含まれてるの。だから相性がいい魔術一つだけで対処するのは無理だし…」

 

堂岡明は佳織の指さした先でかき消されている雑多な魔術を見る。

 

「茜は『ミョルニル』のために魔術体系をだいぶ漁ってたみたいだから、雷が含まれてる体系の魔術は大体見ただけで対処可能よ。ちなみに私の使ってる四元素説も『風と火』にして組み込まれてるわ。」

「本当に、止められないのか?」

「私が知る限り、生徒が学べるような魔術体系では止められないわ。一回撤退して…」

「だめだろ…倉崎さんの脳、魔術使用過多で焼き切れるぞ?」

 

坂宮佳織の顔は、一瞬で青く染まった。

 

___

 

 

「…《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》…」

 

脳が焼けるような激痛の中、『ミョルニル』を乱射する倉崎茜の頭は人生で一番冴えていた。

シューティングゲーム感覚で目に入った魔術を片っ端から打ち消してゆく。

消せば消すほど、撃てば撃つほど魔術の展開速度も速くなる。

ただ、記憶が剥がれ落ちるように消えて行っている気がする…いや、今は目の前にいる者たちに努力の成果を見せつけてやろう。

 

「…《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》…」

 

茜にとって『ミョルニル』は自分の努力の結晶だ。

『風紀委員長』ではなく、ほかの何者でもない『倉崎茜』が作り上げた努力の結晶。

学院長も、梶島教諭も、佳織も、気に食わない函部も。この『ミョルニル』には敵わない。

そうだ。何も考えず、『ミョルニル』を撃つだけでよかったのだ。そうすればきっと…

 

「《ミョルニル》」

 

こちらに向けて一直線に走ってくるのは四月一日皐月か。

あいつも嫌な奴だ。そう思って『ミョルニル』を頭に撃つが躱される。

…まぁ、そんなまぐれもあるだろう。

 

「…《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》、《ミョルニル》…」

 

2発目、3発目、同じように躱される。

4発目も…違う。()()()()()()()?!

 

「何でッ?!」

「はッ!…ふぅ、熱っついなぁ~。燃えるかと思った~」

 

一瞬できた隙の間に四月一日が茜の『杖』を蹴り飛ばした。

 

___

 

 

「ね、ねぇ?!どうしよ?茜が!」

「話は聞かせてもらったわ!脳が焼き切れるまでの時間は?」

「分からない。でも『ミョルニル』は一発一発に演算しまくってるだろうから…このペースだと十分持つかどうか…」

 

学生を指揮する茉莉花が『ミョルニル』などの説明を聞いて立てた作戦はとても簡単なものだった。

 

「?魔術が効かないなら殴ればよくない?」

「それだと『ミョルニル』が直撃して消し炭に…」

「そういうときのための魔術でしょうが!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!だから熱系の魔術が使える奴らは道の下のほうの空気をあっためときなさい!四月一日君は突撃準備!それと…」

「それと?」

「余ってるやつらは作戦成功を雄平に祈っときなさい。ご利益あるわよ。」

「「「Yes,ma'am!」」」

「…ボクってなんかのご神体?」

「待って?単身突撃させられんの?ちょっと!」

 

そう。『ミョルニル』が何でも貫く鉾だとしても、当たらなければどうということもない。

同じく、彼女の防御が魔術では崩せなくても殴り飛ばせば効果はあるのだ。

ご神体のように崇められている東を尻目に、茉莉花は佳織に歩み寄り。

 

「シャキッとしなさい!あんたの友達でしょう?…終わった後に叱るのはあんたの役目だからね!」

「は、はい!」

 

感動の場面を前にして、四月一日は突撃の恐怖に涙ぐみながらも一言愚痴をこぼす。

 

「先輩…その子入学してから一か月もたってないんですよ…」

 

その声は誰にも届かず祈りの声にかき消されるのだった…

まぁそんなことがあって、

 

「何でッ?!」

「はッ!…ふぅ、熱っついなぁ~。燃えるかと思った~」

 

四月一日君が『杖』を蹴り飛ばしたわけだが、すっかり油断してしまった四月一日君は気づかなかったのだ。

 

「…まだよ。まだ!」

 

蹴り飛ばされた右手ではなく、左手で『杖』を構えなおす倉崎茜の姿を。

佳織がそれを見てとっさに駆け出すが、距離が遠くて走るだけでは間に合わない。

 

「《ミョル…なんで?!」

「あんまり使いたくなかったんだけどな…」

 

しかし、彼女の『杖』は無残にもねじ単位まで分解される。

堂岡明の黒い左目は、しっかりとその眼に『杖』を捉えているのであった。

 

___

 

 

「なんで…なんでそんな目で見るのよぉ…私は、私は風紀委員長でも何でもない『倉崎茜』なのよぉ……」

 

『杖』が目の前で分解された茜は人が変わったかのように泣きじゃくる。

そして、そんな茜に佳織は歩み寄り。

 

「…ごめん茜。うすうす気付いてはいたの。でも、それに気づいてないふりをしてたのは私のせい。」

「ならどうして!」

「元々は、風紀委員になってしたいことがあるから入っただけで茜のことなんか見てなかった。でも、今回のことで気づいたの。茜は私にとって大切な友達なんだって。」

「そんなの嘘「本当よ。信じて頂戴!私の目を見て!」…わかった。信じるわ。」

 

そして、お互いが涙を流しあい抱き合う二人…

 

「ふっ。漢は…ズビッ…黙って…エグッ…見守るもんだぜ…」

「「「Yes,ma'am!」」」

「なんだろ。茉莉花さんのイメージがすんごい壊れてるんだけど。」

 

ジト目で四月一日が見るのは、涙を流して見守る茉莉花と学生たちだ。

東や堂岡も感動して涙を流していた…

 

「さっ。後で茜は説教だからね!」

「ふふっ…分かってるわよ。」

「私たちも撤収よ!」

「もうちょっと、余韻があってもいいと思うよ茉莉花…」

 

しかし、今の学院は侵入者の襲撃中。

涙の跡を残しながらも全員が動き出す。

 

「さ、堂岡君。侵入者を探しながらでいいからその眼の事話してもらうわよ。」

「一回話した記憶があるんだが…っていうか場所の心当たりは?」

「…立ち入り禁止区域。そこの削れた建物のことだと思う。」

 

そして、佳織が道を指し示すように指で指そうとしたものの…

 

「わかった!こっちだな!」

「ちが~う!そっちは女子寮棟!」

 

猛スピードで堂岡は走り去るのだった…

 

「…そういえば、魔術使用過多で脳が焼き切れるのって『杖』無しの時だけじゃなかったかしら…」

 

坂宮佳織も少しの疑問を抱えながら後を追う。

 

___

 

 

風紀委員長の暴走が止められたころ、校内を走る一人の女性の姿があった。

 

「うわ~!どうしよ!どうしよ!」

「阿川先生。廊下を走るものではありませんよ…どうかしましたか?」

「梶島先生!私思い出したんですよ!朝美さんが『この学院はヤバい』とか言ってたの!」

 

呼び止めたのは梶島孝也。

阿川さくらは思い出したことを必死で語る。

 

「…だから、変なアフロとか見るからに不審者な学院長って、そういうヤバい人なんじゃ…」

「どういう人を思い浮かべてるのかは知りませんが、たぶん違いますよ…ところで『朝美さん』って誰でしたっけ?」

「ほっ…あ、『朝美さん』って学院が研究所だった時に来てたエンジニアの人ですよ。『ラプラス』とか実験装置作ってくれてた…梶島先生はいなかったから知らないですよね。『山寺朝美』さん」

 

それを聞いた梶島の口がみるみる開く。

そして、彼の頭の中に学院長に対する罵詈雑言…くそ爺、大ボケ野郎、学院長…がひとしきり飛び交ったのちに声を上げる。

 

「何が『君に迷惑はかけないよ』だ!ふざけやがって!」

「梶島先生!廊下は走っちゃダメって…」

 

梶島孝也は確信をもって走る。

()()夕輝の目的は、『ラプラス』の破壊なのだと。

脳裏に気に食わない老人の笑い声を思い浮かべながら走るのだ。

 

「あのジジイ!先に何で伝えないんだ!」

 

お互いさまではあるのだが、いったんそれは脇に置いて怒る梶島なのだった…

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