誰もが願うはハッピーエンド 作:すすき(仮)
「おいおい顔役さんよぉ…どうするつもりだ?この建物に裏口でもあんのか?」
「…ない。」
桔梗が山寺に対して発した問いは、建物内に設置された見取り図を指さすことで答えられた。
どうやら5階建てらしいこの建物の地図は煤けていて読めない部分があるが、5階の削れている部分にある『特別会議室』や3階の『EAoB設置室』、1Fの真ん中にある『特殊実験室』などの怪しい部屋が満載のようだ…まあ、ここ最近は掃除もされていないようでところどころほこりがうっすらと積もっているが。
「あのなぁ、あんたの目的は知らねぇぜ?でも脱出ルートぐらい考えてこの建物に入ったもんだと「違う、ここだ。」…What?」
「
そう言うと、山寺はずんずんと奥のほうへと進んでいく。
そうして歩きながら、桔梗に説明をしているつもりなのかは分からないがぼそぼそと何かをつぶやいている。
「…姉貴が作ってたのは馬鹿でかい機械なんだ。搬入の時にゃ俺も姉貴も運搬する羽目になった。そのときにな、この建物に搬入したんだ。」
「Uh…それで?その機械とやらを探しに来たのか?」
ある部屋の前で立ち止まると、山寺は答える。
「この建物にあれを入れるんだったら、1フロアじゃ全然足りねぇんだ。2…いや、3フロアはつぶす。地上部分に入れるんだったら、耐震とかを考えるとそれじゃあ危なっかしい。なら、この建物にゃあ地下がある。『ラプラス』は、一回置いたら動かすのは至難の業だ…」
「だからこの建物にまだあって、この部屋は地下への入り口だ…と。OKOK、すごく興味深い話なんだが一つ質問がある。」
「なんだ?…ま、大体想像はつくが。」
「
「…もちろんだ。『魔術』なんていうガキの妄想は消したほうがいい。そうだろ?」
そして、山寺夕輝は『特殊実験室』の扉を開け放つ。何の器具もない室内には、見取り図に存在しない錆びた鉄扉が不気味に存在感を放っていたのだった。
___
山寺夕輝は少しでも『WW3の黒幕』の邪魔をしたかった。
彼の姉は、彼女の作った『学院』の警備機械の群れに襲われ命を落としたのだ。
WW3で襲ってきた機械の群れには、『国立神秘学研究所』の文字の代わりに『あくのひみつけっしゃ』などというふざけた文字が刻まれていたことも許せないし、WW3でその機械を動かしていたであろう『学院』には怒りだけでは済まされない気持ちもある。
(そうだ。『ラプラス』を壊せば、魔術は消える。それでいいんだ。それで…)
山寺はひとりごちながら鉄扉を開ける。桔梗はそれを後ろで見守るだけで中には入ってこない様子だ。
扉の向こうには想像通り薄暗い階段があり、地下への道は開かれていた。
(『ラプラス』の原理なんざ知らねぇ。でも、姉貴の吞み仲間が言ってたことだと『知内先生が特殊実験室で魔術の検証実験やってたのがすんごいかっこよくて~』だったか?あと『魔術はアサちゃんが作った機械で動いてるの?!すご~い!』とか言ってたらしいが…)
そんな話を顔を赤くしながら山寺に言い、『わらしはぁ、すりょいんらろ~!』と言いながら洗面台に吐いていた平和な頃を思い出す。姉との思い出は山寺を感傷に耽らせ…
(…?やばいな。酒癖が悪い姉貴を思い出すと殺意がわいてきそうだ。)
ない。
酒を飲んでは吐いて飲んでは吐いてを繰り返す姉、酔っ払って居酒屋で寝ている姉を連れ帰りに何度夜の街を歩かされたことか。しかも、終電はすでに無いうえに姉の呑み友達もたまにぶっ倒れているのだ。
酔っぱらいの介抱の記憶は流石に勘弁願いたい。
「…よし。」
そして、感覚的にはあまりにも長かった階段を降り終わる。
降りた先にある錆びた鉄扉を押し開く。軋む音が心なしか響き渡ったのち、目の前に開けた空間が広がる。
種々雑多な機械類が円を描くように壁を作り、その真ん中には小さな紙片が貼られた大きなガラス管。
そしてガラス管は透明な液体で満たされており、8m程下に底が見え…
「これはなんだ?」
セロハンで貼られていた紙片をはがす。
紙片には薄暗いここでも読みやすいようにという配慮か、大きな字で『おめでとう、山寺夕輝君。』の文字。…何かとてつもなく嫌な予感がする。
とりあえず裏を見る。
『
山寺夕輝殿
拝啓
正式な手紙ではないから時候の挨拶や日付等は省略させてもらうよ。すまないね。
とりあえず書きたい内容を簡潔に言わせてもらうと、我々学院は君が思っているような極悪非道の人間などではない、ということだ。WW3が我々の起こした事件だと思って、奇想天外な行動や結果を出す函部君を陽動として送り込んだり今回襲撃してきたりしたのだろう?
それは残念ながら筋違いというものだよ。我々も被害者なんだ。あの事件を起こしたのは…
おっと、余白が足りないね。伝えたいことは色々あるんだが直接会って話をするとしよう。
追伸 その機械が大切な者もいるからあまり手荒に扱わないでくれよ?ちなみに私の役職は学院長なんだ。以上
』
「様式にこだわらなきゃ書けたよな?!つーかそもそも、『おっと、余白が足りないね。』の部分に書けるだろ?!」
『ラプラス』を破壊しに来たもののすっかり毒気を抜かれてしまった山寺。
…壊すのはやめたほうがいいのか?
しかし、推定『学院長』…いや、堂岡銀次のことを信用してもいいのだろうか?
「…どうにも、食えねぇな。」
思考は堂々巡りに陥った。破壊したら確実に後悔するように『学院長』はきっと進めてくるだろう。
そして、その後悔が間違っているのかを判別する手段は山寺にはない。
…先ほどから拡声器を使って呼びかける男の声もあることだ。
「どうすりゃあいいんだろうな。」
「山寺!俺は白旗上げに行くがどうするんだ?」
「…あぁ!オレも白旗を上げるさ!」
階段の上から大声で呼びかける桔梗の声に応じる。
…そうだ。ひとまず話を聞いてみよう。
機械類の中にいざという時のための爆弾を埋め込みつつ、爆破スイッチをどこに隠そうか考えるのだった。
___
…至急、風紀委員詰所まで。
朝起きた時に堂岡明にFAXで送られてきた文面はとても短く、しかし要点だけはまとめて書かれていた。
「えっと…無理だ。分かんないぞ…?」
地図も同封されていたものの、いざ行くとなるとどうしてもたどり着けないのはいつものことなのだが。
結局のところ堂岡明は、迎えに来てくれた自称父親に連れてこられざるを得なかった。
「…えっと、何でこんなに拘束を?」
「君がこんなにも迷いやすいとは思っていなかったんだよ!仕方がないことさ!」
いつもの眼帯に加え、目隠しや手錠、足枷までつけて挙句の果てには縄でぐるぐる巻きにされて滑車に乗せられ運ばれる姿は、滑稽と言わざるを得ない格好だったことだろう。
「お!着いたぞ明君!」
「頭ガンガンする…」
大声で話しかけてくる老人、堂岡銀次学院長は堂岡明の拘束を解くと深く笑みを浮かべていた。
「そもそも何のために呼ばれたのかさっぱりわかんないんだけど…」
「ん?お楽しみだよ、集まってからのね!」
悪戯っ子のように笑う老人はもう一つ言葉を付け足した。
「…ふむ、そうだ。私が父親だと知らせないということは守っているかね?」
「わかってますよ。もしも聞かれたら『養父代わりの梶島さん』とでも言っとけばいいんですよね?」
それはおいておくとしても、堂岡明には胃が痛くなりそうな予感がしていた。
―――数十分後。
「…何がしたいの?」
「どういうことだ…?」
「ハハハ!まあ、とにかく本題に入ろうじゃあないか!」
予感は的中し、風紀委員の坂宮さんと襲撃の主犯格の…山寺?さんが学院長をにらみつける中、学院長が話を始めだす。
「あ~、集まってもらった君たちは、私のことを実に怪しい人間だと思っていると思う!しかし!私は清廉潔白な人間なのだよ!」
絶対に嘘だ…とてつもなく胡散臭い雰囲気を漂わせているのはおそらく無自覚なのだろう。
坂宮さんも山寺さんも怪しんでいるようだ。
「…じゃあ、俺から少し質問いいか?」
「もちろんだとも!じゃんじゃん聞いてくれよ!」
怪しい。すんごい怪しい。
「
最初から核心を突くつもりか。
しかしその質問を予想していたのか、学院長は間髪入れずに答えを返す。
「ふむ…答え方はいろいろあるが…
「ちょっと待って、どういうこと?第三次世界大戦なんてなかったっていうこと?!」
「その通り。あの事件はある人物が行ったものだよ!彼女がなぜ、どうやって行ったかは分からない。しかし、犯人は彼女以外にあり得ない…ということだ!」
…普通に僕も聞いてないんだけど。
学院長とはほとんど話したこともないし、養父らしいが会ったことも皆無と言っていい。
でも、そういう重要なことは情報共有するべきだと思うんだ。
「ある人物ってだれのこと?」
「学院の研究員の一人、皆川小百合だ。彼女以外になしえた人物はいないはずだよ!」
…聞いたことがある。でも、会ったことはなさそうだ。
なんで先に言わないのかなぁ…
「待って!皆川准教授って人はWW3直後の事故で「それは嘘だ。あと彼女は死んでなどいないよ。」…はぁ?」
「…証拠はあるのか?」
「ある。『事故』…いや彼女の襲撃の際に在籍していた研究員は『彼女を除いて』あの建物の特別会議室にいて…吹き飛ばされた。」
そういえば…梶島さんの話していたことで思い出したことがある。
「襲撃に使われた警備機械は「全世界を襲うには量が足りんよ。研究所で使っていた警備機械はせいぜい数十基、東京の襲撃で使われたのは数千基だぞ?」…それもそうか。」
「何の話?そんなの聞いたことないんだけど!」
…しかし、
「そうだ!山寺君が紹介してくれた明君の護衛、彼には少し注意しておいてもらいたい!
大事なことは先に伝えてよ…
ていうか誰だよ!学院襲撃の時に護衛なんていなかったよね!
___
「詳しい話は今はしないが…ま、そんなわけで君たちには地下街に潜伏しているであろう皆川小百合を追ってもらいたい!安心しろ、すでにエサは撒いてある!」
雇われていた護衛…でいいのか?
クラスメートの函部修一君の紹介が終わったところで解散の流れのようだ。
僕が言うのもなんだけど函部君は呼ばれて紹介されてすぐ解散っていう…
ちょっと不憫に思える。護衛してなかったことに目をつぶれば。
「あ~…オレってどうすりゃ?」
「ん?そのまま地下街に帰ればいいじゃないか!」
「…何しに来たんだろ。」
真っ先に山寺さんが帰り、
「えっ、ほんとにもう解散?」
「そうだとも!今後ともよろしく頼むよ!」
函部君も首をひねりながら帰り、
「あっ、僕も帰り「待て待て待て。男子寮棟まで送るさ。」…」
僕はこの後拘束される未来が待っている…
しかし、
「…最後に一つだけ聞いても?」
「もちろん!何でも聞いてくれ!」
「
学院長はすぐに答えを返す。
「ただのしがない老いぼれだ、というか研究所時代の政府側の折衝役さ。その縁で学院長をやっている。」
「…なら、もう一つだけ。」
「おいおい!質問は一つだけじゃないのかい?…まあ、今回は君たちからの信頼も大切だから誠実に答えるがね!」
茶化すように答えを返すと、2つ目の質問にもきちんと答えを返すようだ。
「
「…あ~、その、なんだ。私は『政府側の』折衝役でね。研究内容にはあまり関わっていないんだよ…強いて言うなら魔術の研究じゃないかい?『魔術は第二の法則』とか言っている者もいたようだしね。」
「そうですか…」
質問を終えた坂宮さんはしょんぼりと意気消沈したように帰路に就く。
…その背中を、学院長はしばらくの間見送るのだった。
「さぁ!君も帰る時間だよ!」
「なんでそんなに拘束を…?」
そして僕も滑車に乗せられ帰路に就く…どうしてこうなるんだろう…
山寺夕輝さんのスペックです。
ネタばれは入れていないのでどうぞ。
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山寺 夕輝 (ヤマデラ ユウキ)
地下街で顔役をしてる悪いおっさん…というわけではなく、『第三次世界大戦』で死んだ姉、山寺朝美の敵討ちを願うおっさん。
もともと警備機械などを作っていたこともあって機械類には詳しい。
この後地下街に帰って田中と山田に号泣される未来が待っている。