誰もが願うはハッピーエンド   作:すすき(仮)

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閑話 学院襲撃舞台裏

___日本国、東京。

 

かつての第三次世界大戦は世界中の主要都市を焦土に変えた。むろん日本も。

しかし、各国が首都を変更する中で日本は東京が首都のままである。

商業や工業、経済の中心地は移転したものの、権力はいまだに東京が握っているのだ。

 

「な~んか、肩身が狭いな…」

 

その理由は日本の実質的な政府といっても過言ではない目の前の灰色の建物にある。

23区沿岸復興地区。もともとは霞が関と呼ばれていた地区に存在するその建物の名前を、『警視庁』と呼ぶ。

…永田町が多くの政治家や官僚とともに文字通り消滅した日本は、偶然外出していて無事だった警視総監によって混乱が収拾された。

その際に組織された臨時政府の首班にまで成り上がった警視総監。その根城たる警視庁はこの建物を見る誰もに威圧感を与えている。

 

「見てるだけで気分が下がるぜ。」

 

警視庁の敷地内に入った男は小声で悪態をつくと、建物の裏に回りだす。

そして、建物の裏についた男は灰色の壁に隠すように小さく取り付けられた扉を開いて中に入る。

 

「お邪魔しま~す、っと。」

 

窓もなく、目印になるようなものも置いていない灰色の入り組んだ通路を迷いもせずに進む。

そして、灰色の通路の中で特段に目立つ扉の中に入ると…

 

「おぉよく来たなぁ、桔梗殿!案内なしで迷わないとは流石だ!」

「HaHaHa!何回も来てりゃさすがに慣れるっての、黒山のおっさん。」

 

でっぷりと太っている警察官の制服を着た男はブランデーグラスに黄金色の液体を注ぎ、全体的に豪奢な装飾の施された…いわゆる成金趣味の部屋でソファにゆったりと腰掛け桔梗を歓迎する。

 

「儂なんぞ案内なしでは休憩もできんのだ…」

「Uh…おっさんは苦労人だからな…」

 

分かるか?!とでもいうように同意を求める黒山に頷きを返す。

そして、

 

「…で、そろそろ退いてくれよ。」

「あぁそうだった…すまなかったな。」

 

黒山が腰かけていたソファを自分で動かすと、そこには黒山の腹がギリギリ通れる程度の引き戸が姿を見せる。

 

「ありがとよ!」

「いやいや、こちらこそ済まなかったな。これもまあ…仕事…仕事だしな!」

「ダイエットには運動がおすすめだぞ!」

「いちいち要らんことを言うな!儂も好きでこうなったわけじゃないのは…待たんか!話はまだ…」

 

中に入って一言煽り立ててから引き戸を閉め、先ほどの豪奢な部屋とは打って変わって簡素になった通路を歩き突き当りの引き戸を開けると全体的に質素な、しかし大きく威圧感を与える部屋に出る。

 

「おお!これはこれは学院を襲撃しに来た又左衛門殿じゃないか!奇遇だなぁ!」

「…いや、お前誰だよ爺さん。」

 

ただ話しているだけなのにとんでもなく胡散臭そうに見える老人。

確か…誰だっけ?とりあえず会ったことはないはずだが、おそらく警視総監の()()()だろう。

大体のろくでなしは警視総監の知り合いだ。…もちろん、俺も含めて。

 

「爺さんは何しに来たんだ?警視総監におねだりか?」

「いやいや!飛んでもない!()()()()()()()!」

 

どうせ世間話とは名ばかりの談合か何かだろう。

…とにもかくにも老人と話をしていると、入ってきた引き戸とは違う大きな扉が開かれる。

 

「ごきげんよう。臨時政府首班にして国土復興大臣、および公安委員長兼警視総監の…」

「御託はいいから本題に入るぞ、婆さん。」

「弥生様とお呼びッ!…まったく、あたしの役職を聞かないものが多くて困るわ。」

「どうせ数日で変わるだろうに!」

「HaHaHa!爺さんも言うねぇ!」

 

入ってきた老婆のすっと背を伸ばした柔和そうな優雅な貴婦人…の皮は一瞬で剥がれ落ち、隣に座る老人や自分と同じ欲望にまみれた表情に早変わりする。

初めて見れば相当なインパクトだろう。

 

「さっさと用件を伝えな。あたしゃ忙しいんだ。」

「ふむ…ならば私は後にしておこう。」

「OK、助かるよ爺さん。」

「じゃ、後で呼ぶから出ていきな!」

 

質素な部屋に一つだけ設置された大きなスリガラスから差し込む夕日を浴びながら、老婆はだらしなく足を机に乗せる。

そして、執務机に足を乗せながら老人にぎょろりと目を向けると出ていくように促す…というか怒鳴る。

…さて、老人は部屋から出たようだし商談に入るとするか。

 

「ふぅ…婆さ「弥生様とお呼びッ!」はぁ…弥生様よぉ。ちゃあんと、提案通りに『国立第一魔術学院』だっけか?襲ってきたぞ?」

「…ああ、で?」

「『ラプラス』っていうらしい機械…確かあんたの言ってた水の入ったバカでかいタンクとかは言ってた通りの場所に有った。あと、堂岡明ってやつも一応見たけど()()()()()()()()()。」

「…?どういうことだい?何をしたかぐらいは言えるだろう?」

「それだけを伝えるんだったら簡単だ。左目で見ただけで『杖』をバラバラにして銃の先端を破壊した。とりあえずそこまでは分かったが、どういうプロセスかまでは分からんし、法則性もわからんよ。」

…あの爺が言ってた通りかい

「なんか言ったか?」

「いんや、何でもないさ…しかし、()()()()()、ねぇ。」

 

老婆はぶつくさと独り言を言い始め、桔梗のことなど気にせずに思考の海へと漕ぎ出し始める。

 

「…とりあえず、俺はちゃんと報告したんだ。報酬はちゃんとしろよ?」

「あぁ、わかってるよ。警備隊の巡回は減らしてやるから…話はこれで終わりだね?」

「OKOK。じゃ、黒山と優雅なティータイムとでも洒落込むさ。」

 

桔梗はそう言いながら先ほど入ってきた隠し扉の奥へと入っていく。

顔役の山寺だろうが今話していた老婆だろうが、誰を犠牲にしてでも自分の、否誰もの居場所たりえる東京地下街を守り抜くという覚悟とともに。

 

 

___

 

 

 

「…入りな。」

「おや、もう話が終わったのかい?」

 

部屋の中に招かれた老人は来客用のソファにゆったりと腰掛ける。

そして、老婆はそんな老人を冷めた目で一瞥して問いかける。

 

「要件は?」

「私の学院には手を出さないでくれと何回言ったら分かるんだい?」

「あたしゃあんたを信頼できるほど初心じゃなくてね。『学院長』」

「あんなに見え透いたスパイを放り込むのもその一貫かい?」

「…あれは違うよ。それを分かってて聞いてるのかい?」

 

老婆は机の上の足を組みなおすと、さらに言葉を続ける。

 

「とにかく…聞いたよ堂岡明のこと。()()、ねぇ…あんたは子供どころか奥さんだっていないはずじゃないか。」

「いやはや!さすが警視総監!耳が早いなぁ!」

「茶化さずに答えな。どういうつもりだい。」

「私の勘なんだが…あれが『あくのひみつけっしゃ』への鍵だと思うんだ。例えで言わせてもらうと、相手が明君を主人公にしたゲームを組んでいるようだから私は別のゲームを組んでいる、というわけだ。」

 

そういうと、老人は顔を歪めて笑みを浮かべる。

 

「端的に言えば、相手の邪魔だよ…もちろん相手が私と同じように考えているかは知らんがね。」

「…はあ、難儀な性格だねぇ。楽しければそれでいい、なんてのはナンセンスだよ。」

「おいおい、君も人のことは言えないだろうに。」

 

老婆は嗤う老人を睨みつける。昔から反りが合わないこの老人のことを老婆はひどく嫌悪していた。

しかし、日本の事実上のトップになった彼女がこの老人を消さないのには理由がある。

 

「『あくのひみつけっしゃ』、そろそろかい?」

「もちろん!すでに地下街に追い込んでいるし、あと1,2年以内には潰し切れるはずだ。」

 

老婆は、『あくのひみつけっしゃ』なる輩を蛇蝎のごとく嫌っている。

そして、この老人も嫌っている。

嫌ってはいるが消したら消したで厄介な老人と手を組むには十分すぎる理由だろう。

 

「そうそう、地下街の警備隊の巡回はまた減らすことになったよ。」

「何故だい?これ以上治安を悪くする必要はないぞ?」

 

適度な治安の悪さを維持することで、『あくのひみつけっしゃ』を誘導するために作ったのが東京地下街だ。

治安維持をしないと不審に思われるから警備隊の巡回を定期的に行っているが、それを減らすのはどういう事情だろうか。

老人は気になるようで首をかしげている。

 

「ほら、あたしがさっき話してた桔梗ってやつの報酬だよ。アメリカ国旗着てる。」

「…あぁ!つまり、学院襲撃の報酬に警備隊の巡回を減らせ、と言われたわけか!」

「何やらかすつもりかは知らないけど、地下街の中だけで留めてほしいもんだよ。」

 

老人と老婆は暫しの間歓談に興じるのであった…

 

「そういえば仕事は大丈夫か?私は任せてあるから問題ないが…」

「おっと、もうこんな時間かい?…では堂岡様、本日は興味深い話ができて素晴らしい一日でしたわ。ですがわたくしにも仕事がありますので、失礼させていただきます。」

「…毎度毎度よく疲れないな、それ。」

 

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