誰もが願うはハッピーエンド   作:すすき(仮)

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記憶の中の失楽園・裏

 

 

「…えっと、よろしく?」

「あっ、はい坂宮さん。」

 

函部が夏休みの予定を勝手に決められる数時間前。風紀委員詰所には一組の男女が気まずい沈黙に耐えかねていた。

普通の学校の学習範囲と魔術関連の知識の双方の試験が終わった後なので、ほとんどもう夏休みと呼んでもいいような時間。なので、部外者の山寺を学院に呼び出して話を聞くなら今が最適だから集まったのだが…

 

「…明君のテストはどうだった?」

「…普通、でしたね」

 

この二人、一切会話が続かない。

坂宮佳織は堂岡明に学院長の養子ということで興味を抱いてはいるが、実は彼女は会話の糸口の作ることができない人間である。

何とも言えない絶妙に続かない話題ばかりを不毛にも提供し続けている。

堂岡明は堂岡明で上級生ということで遠慮でもしているのか、堅苦しい返答を努めて行っているため会話が続かない一因となっている。

というかその返答によって話題は強制的に打ち切られているのだが…

 

「えっと、じゃあ…いい天気ですね?」

「そ、そうですね?」

「「…」」

 

そして、二人の会話は、一切続かないのだった。

 

「…担任の先生って、誰?」

「…社会系科目の梶島先生です。」

「知らない人だ…」

 

 

___

 

 

 

「…まず、あなたの知ってることを全部話してちょうだい?」

「わかってるさ。言わなきゃ信用できねぇだろうしな。」

 

ようやくやってきた山寺は二人に「やっときてくれた!」と歓迎されたことに不信感を抱いたが、それはどうでもいい話。今日は話し合いを目的にやってきたのだ。

内容はもちろん、学院の前身たる『旧学院』つまりは神秘学研究所についてである。

一呼吸開け、とても深刻な話をするように話し出す。

 

()()()()。強いて言うなら、ラプラスが魔術を使うのに必要だってことぐらいだ。」

 

正々堂々、真実を語ろう。

山寺夕輝は『旧学院』のことなどほとんど知らない。だって働いていたのは姉であって自分ではない。

確かにプログラム関連は触ったことがあるが、それも誤差のようなもの。

実際問題ただの部外者に過ぎない。

 

「…は?」

「オレは何も知らん!」

「えっと、じゃああの思わせぶりな言葉は…?」

「あー、あれはな。姉貴が酔っ払ってた時の寝言だよ、寝言。」

 

どや顔で、身もふたもないことを言う彼には二人からの殺気が送られている。

 

「ふざけないで!」

「知らんもんは知らん!」

「いや、何も知らないって…」

「…だが、推測にはなるが気づいたことはある。」

 

そう。今回話し合いに来たのは『旧学院』の知っていることを共有しに来たわけではない。

 

「ラプラスが脳のない人工知能なら、()()()()()()()()()っつーことだ。」

「それがどう…って!」

「そういうことだ。AIよりも使える演算装置なんてのは、一つしかないとオレは思ってる。」

「…人間の脳。」

 

純粋な疑問だ。

なぜ、魔術などというものの研究者が有機化学や脳神経医学の権威なのか。

どこをどう考えてもおかしいが、人間の脳を使って魔術というものを生み出したなら筋が通る。

 

「…ここに『神の奇蹟計画』の研究者名簿があるわ。」

「おいおい、なんか思ってたよりもヤバそうな研究の名前だな」

 

しかし、この仮説が正しかったとしても疑問点が残る。

堂岡銀二。あの皴まみれの老いぼれた怪人は『政府側の折衝役』と言ったらしい。

ならばなぜ、そんな研究を許可したのか。

…いや、そもそも()()()()()はどうやって行ったのか。

どう考えても矛盾ばかり。だが、『第三次世界大戦』などというふざけたパレードの元凶に一泡吹かせるためならば、どこまでも追究してやろうではないか。

 

「…函部君は」

「ん?どうした?」

「函部君は何か知ってるでしょうか。」

「あいつが?…いや、ありえないわけではないか。」

 

確かにあいつは身元不詳ではあるから何か知っているかもしれないが…

待てよ?確かあいつの客にも変な客がいた気がする…か?

 

「…あいつの客に何かわかる奴がいるかもしれねぇな。確か闇医者でもないのに医療器具を発注するような変人がいたはずだ。」

「地下街に行けば会えるかしら」

「そもそも地下街に行って帰ってこれますかね…」

 

…大丈夫じゃないかもしれないが、関わらなければ警備隊もエセ坊主も闇市場(ブラマ)の連中も問題ないだろう。きっと!

 

「大丈夫だ、問題ない。」

「ならいいわ。夏休みに行くから地図くれない?」

「早やっ!…っていうかその言い方は大丈夫じゃないやつですよね。」

 

大丈夫に違いない。多分。

だが、少しだけ教えておくとするか。

 

「そんなに心配ならいいこと教えてやるよ、耳貸せ坊主。」

「え?何ですか?」

「『見るな、話すな、近寄るな』」

「へ?」

「ま、簡単に言うと地下街じゃ人を信用しないほうがいいってことだよ」

 

地下街には見てはいけないものがある。だから目を開くな。

地下街には話をするだけでもヤバいやつがいる。だから話しかけるな。

地下街には近寄るだけでも不味い場所や人がいる。だから安易に歩き回るな。

そう。地下街の住民と深く関われば碌なことにならないし、話すことすら遠慮したほうがいいのだ。

 

…特に『第三次世界大戦』の直後に地下街に来た連中とは。

 

「…大丈夫、だろう。うん。」

「…とにかく函部に『旧学院』について確認してみるわ。」

「いや、地下街について確認したほうがいいのでは…?」

 

地下街きっての厄介な連中達を頭に浮かべながら山寺はため息をつく。

会わなければ問題はないし、もしも会っても…

まあ、あれだ。きっと何とかなるだろう。

 

たぶん。

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