誰もが願うはハッピーエンド 作:すすき(仮)
「じゃあ、早速だが本題に入ろう!」
よぼよぼの学院長は、鼓膜が破れそうなほどの大声でそういった。
正直言ってうるさいことこの上ないが、流石に学院長に言うことはできないからなぁ…
「君にはだね、この『堂岡明』という君の同級生の護衛をしてもらいたい!もちろん面倒な仕事じゃないさ!彼が無事であればそれでいい!
ぜってぇ面倒な仕事じゃねぇか!
___
「じゃあ報酬はこれぐらいだね!交渉成立だ!」
違う!違うんだ!
俺が受けたくなさそうと知るとこの学院長、『理由を教えてはくれないか?』とかいうから『俺はこの学院に魔術を学びに~』だの、『絶対危ない仕事だろ?』だの言ったら、『別に暇なときに様子を見るだけでいい』だの、『明君は五体満足で生きているんだから危険な仕事じゃない』だのと答えるもんだから、なぜか話がまとまってしまっただけなんだ!
「では荷物は寮のほうに。」
学院長の大声がしなくなったからか、秘書さんが入ってきて荷物を持って寮へ案内してくれるようだ。
…この秘書、耳栓してやがる…だから話が通じねぇのかよ…
「あなたの部屋はこことなっています。」
耳栓を外しながら『男子寮棟』とかかれた建物の中の一室に荷物を運び入れる秘書さん。
室内は小綺麗で清潔感のある部屋になっており、学院生は全員一人部屋だそうだ。
「そういえば、誰も建物の中で見かけてないんですが…」
「入学試験中なので大体の人は帰省しております。…あぁ、そういえばこの建物のことどう思いますか?」
絶対に答えないといけない系の質問っぽいなぁ。
ここでつまらない答えを返したら『では、この話はなかったことに。』とか言われて寮から叩き出しそうな目をしてやがる…
「答えないといけませんかねぇ…?」
しかし!答えを間違えたら追い出されるなら、答えなければいいだけのこと!
さぁ!華麗にかわしたぞ?
「いえ、必要な質問というわけではありませんが…」
「あ、いえ。率直に言ったら外観が監獄っぽいなぁ、とか思ってました。…さすがに中身は違いますけど。」
なんかすごいシュンとした顔をされると罪悪感がわくんですけど?
…ていうか堂岡明ってやつが試験に落ちれば俺の仕事はなくなるのでは?
___
男子寮棟で荷物を置き終わった俺は校内の探索に出かけることにした…のだが、
「ここも『老朽化により立ち入り禁止』かよ…」
整備費用が足りないのか、学院の敷地内にある建物の大半が『老朽化により立ち入り禁止』という看板が貼られていて入ることができない。
「あぁ~、暇だ~…ん?」
灰色の建物が立ち並ぶ中、敷地内のはずなのにフェンスで区切られた建物には『老朽化により立ち入り禁止』ではなく『危険!立ち入り禁止!』と書かれた古い看板と、おそらくその看板が立てられた原因である大きな球体が建物の上半分をえぐり取ったかのような破壊痕が残されていた。
「あれ?キミこんなところに来たらだめでしょ?入学式でここは来たらダメな場所って聞いてないのかな?」
「うわっ!すいません!…いや、まだ入学式いってねぇよ!」
急に怒られるから思わず謝ってしまったじゃねぇか!
そして俺が振り向くと、後ろから声をかけてきた学院生はちょっと昔の近未来SFに出てきそうな杖状のものを俺の額に突き付けてきたのだった。
「じゃあ、何でここにいるんだい?不審者君。」
声をかけてきた人物は、ぱっと見て男と言われても納得できるような体つき…主に胸部装甲。
しかし、女子の制服と長い髪からして女子のようであるとわかる。
その華奢な体つきからおそらく腕力に訴えれば容易に制圧できるだろう。
次に目を引いたのは季節は春なのにサングラスをかけた顔と右腕に巻かれた『風紀委員』と書かれた腕章…
「いやいや。今着てるの制服だから不審者じゃないってわかってるよね?!」
しかし、腕力で勝てるとしても、函部は紳士。女性に暴力は振るわない主義なのだ!
「はいは~い。言い訳は詰所でね~…あとなんか失礼なこと考えてた気がするから、みっちり教え込んであげよう!」
だから、入学早々女子に手錠をかけられても素直についていく。
…決して風紀委員とかいう権力に屈したわけではないのだ。
___
「…というわけで!説明をされてなかったなら仕方ないけど、あそこは建物が老朽化してて危ないから入らないように!以上!」
夕日に照らされた風紀委員の詰所で風紀委員さん―――坂宮佳織というらしい―――からの長い説教が終わり、ようやく解放された俺は男子寮棟に帰ることを許されたのだった。
「…疲れた。寝よ。」
まだ、函部は知らない。
今日が入学試験ということは、後数か月は学院長の依頼は関係がないということを。
そして、それと同時に明日からはとてつもなく暇な日常がやってくるということを…
結局、魔術の勉強として教授さんから渡された本を読んだ後は、立ち入り禁止区域のすぐ側をうろついて風紀委員さんにみっちり扱かれるのが函部の日常になったのだった。