誰もが願うはハッピーエンド 作:すすき(仮)
「あ~!忘れてました!今からだったら間に合いますよね?」
倉崎先輩が電話で話してくれなければ今日が入学式ということを忘れてしまっていただろう。
風紀委員などの役職を持った学生は式に出席する必要があるのだ。しかも風紀委員は警備も担当している。
…だからこそ坂宮佳織はそれなりに自由な裁量を持った風紀委員になったのだが。
今日は
風紀委員が入学式を忘れるなんて笑えない。風紀委員の詰所前から歩き出した彼女はそんなことを考えながら急ぎ足で入学式の会場へと向かっていった。
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しかし、式までには余裕がある。
いくら会場となっている講堂とは反対に、校門から離れたへき地に詰所があるからと言って歩いて一時間もかかる距離ではない。しかし、倉崎先輩は時間に厳しいから5分前には絶対に到着しておくべきだろう。
「は?」
そして、彼女は立ち入り禁止区域内に入っていく学院生に既視感と眩暈を覚えたのだった。
「お~い、ちょっと君止まって…ってか足早ッ!追いつけないんだけど?!」
『杖』による演算で速度を上げているのに、中々その学院生に追いつくことができない。
『杖』を手に持っているようではないから自前の足であのスピードを出しているのだろうが、そんなスピードを出せるのなら魔術学院にくるよりアスリートになったほうがいい。心の中でそんな悪態をついてみるものの距離は開くばかり。
「ちょっと!止まりなさい!聞こえてるでしょ?止まれって言ってるでしょ~が!」
そうしてスピードを出しながら角を曲がると、大きな球体が建物の上半分をえぐり取ったかのような破壊痕が目立つ建物の前で止まったその生徒に猛スピードで突っ込みかけてしまうのだった。
「ちょ、急に止まんないでよ~!」
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「…すみませんでした。」
どうやら、眼帯を付けたその学院生は堂岡明という名前の新入生らしかった。
素直に謝っているし、何より時間がないため説教を手短に終わらせた彼女はその新入生と共に会場まで向かうことにした。
「そういえばさ。その眼帯って趣味?なんか『俺の右手に封印されし漆黒の…』とかいう感じの。」
「…少々タチが悪いですが、そんな感じのものですよ。」
話を聞いた坂宮佳織は彼が患う難病が、自然に治癒することを祈ってさっさと話題を別のものに変えようとした。
が、
「いや、今の話の流れで眼帯外す?」
彼が唐突に外した眼帯に隠された左目は、若干右目と色は違うが神秘性の一欠けらもないただの眼球。
瞳孔にも異常なものは何もなく、思わず突っ込んでしまった彼女も拍子抜けだ。
「…できるだけこの眼帯は外しておくべきですね。」
「うん。もう高校生だからその病気からは卒業したほうがいいと思う。」
それを聞いた少年は、一瞬首をかしげると顔を赤くして反論を始めるのだった。
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「ん?いや…道はこっちだよ…な?」
堂岡明は自他ともに認める方向音痴である。
「どうやったらまっすぐ歩くだけで迷える…」
と言われるほどであり、今も校門から見えていたはずの魔術学院の入学式会場へと向かい道に迷っているところだ。
「あれ…ここって?」
しかし、そんな方向音痴が幸いしたのかはわからないが堂岡明は
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薄く記憶に残った道を歩く。
何回も、何十回も通った道のように感じるその道を歩き、顔を上げる。
「あ…」
ふと顔を上げた先、目の前にある建物には大きな球体が抉り取ったかのような破壊痕が残されていた。
「いや、ここじゃ…」
「お~い、ちょっと君止まって…」
堂岡明は、とっさに走り出してしまった。思い出しかけた何かを忘れ、ただ
頭に、誰かの笑い声が響いたような気がした。
頭の中に埋め込まれた脳内拡張領域で必死に演算をしながら走る。
立ち止まってはいけない。止まったら…
「…どうなったんだっけ」
角を曲がって立ち止まると、『風紀委員』と書かれた腕章を腕に巻いた少女が
「ちょ、急に止まんないでよ~!」
といいながら自分の横をもうスピードで走り抜け、建物にぶつかる寸前で華麗にズッコケたのであった。
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「だからここには入んない!以上!」
「…すいませんでした。」
説教には、素直に謝ったほうがいい。そう知っている少年は無駄な抵抗をやめて説教を聞いているとそれなりに早く切り上げられ一緒に入学式の会場まで向かうことになった。
「そういえばさ。その眼帯って趣味?なんか『俺の右手に封印されし漆黒の…』とかいう感じの。」
「…少々タチが悪いですが、そんな感じのものですよ。」
そう。堂岡明は方向音痴である、という以前に特別なものを持っている。
けして祝福でなく、かといって誰かが悪意を持って授けたわけでもない。そんな力。
「壊しちゃうんですよ、見たものを。」
左目で見たものを壊す。ただし、すべて壊すわけではない。
法則性も何もない
実際は、左目の能力はそれだけではないのだが。
「いや、今の話の流れで眼帯外す?」
眼帯を外すと、とたんに開ける視界。
極力隣の彼女を見ないようにしながらあたりを見渡すと、
(やっぱり、いた。)
彼の視界からそれは消え去り、筒のようなものは建物の下へと落下していった。
(この目で破壊されるものは、
堂岡明は、左目の法則を追い求めている。
「…できるだけこの眼帯は外しておくべきですね。」
「うん。もう高校生だからその病気からは卒業したほうがいいと思う。」
一瞬顔を赤くした彼は、自分は中二病ではないと主張したが風紀委員の憐れむような眼は終始変わることはなかったのだった。
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「…やはり、無作為ではないか!そうかそうか!」
「というか私はすでに見たことはあるんですが。」
学院長室で話す二人の男。
といっても片方はほとんど大きな独り言で、もう一方は辛辣な相槌を打っているだけに過ぎないのだが。
「ふん!しかし、これを見ろ!
「心にもないことを…下手したらアレがずっと眼帯をつけずに過ごす羽目になりかねなかったというのに。」
高らかに笑う学院長だが、その隣の男は不満げだ。
そして、男が学院長に語り掛ける。
「私の都合もあるんですよ?函部の方も『魔法使い』かもしれないのですし。」
「わかっている!『魔法使い』だったら
『第三法則』も上手くいけば見つかるとも!
耳栓をつけた男は、渋々といった表情で学院長室から退出していくのだった。
「それにしても、『魔法使い』か。魔術すら『第二法則』足りえるか怪しいというのに…」
よく手を出せるものだ。
老人は目の前に置かれた紙の『第二次神の奇蹟計画』の文字を見て嗤うと、その紙を机の引き出しに放り込むのだった。
堂岡明君のスペックです。
ネタばれは入れていないのでどうぞ。
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堂岡 明(ドウオカ アキラ)
12年前に孤児として引き取られ、梶島孝也という人のもとで生活していた。
頭の中に『脳内拡張領域』という魔術の演算領域を持っているが、どこからどう見てもマッドでヤベェ奴が脳を弄ったやつです。はい。
黒とダークブラウンのオッドアイという誰も得をしない目を持っているが、左目は見たものを法則性も何もなく破壊する。しかも、その破壊方法すら定まっておらず機械の壊し方だけでも数十通り確認されている。(梶島孝也談)
国立第一魔術学院の新入生…のはずだが、どうやら『旧学院中枢』に既視感を覚えている…?