魔法少女リリカルなのはVivid 漆黒の翼 作:シンタ
「私は、カイザーアーツ正統……“ハイディ・E・S・イングヴァルト”……『覇王』を名乗らせて貰ってます。」
満月を背景に覇王を名乗る彼女が話す。
「それで、その覇王さんが僕に何のようなんですか?」
「アナタに聞きたい事は二つ、先ず一つ目です。私は人を探しています。聖王オリヴィエの複製体(クローン)と冥府の炎王イクスヴェリア……アナタはその両方の所在を知りませんか?」
「知ってるよー聖王オリヴィエのクローンかどうかは分からないけど、その人と同じ瞳の子は僕の友達にいる。冥府の炎王イクスヴェリアについては今日会ってきた。彼女は聖王教会付属の病院にいるよ?これでいいかな?」
アベルは知っていることをペラペラと彼女に話した。
「では、二つ目です。その鎧(デバイス)をどこで手に入れたのですか?」
「モルガンのこと?これはこの間、四年生に進級したお祝いにママがプレゼントしてくれたんだよ?かっこいいでしょー♪」
モルガンを彼女にまんべんなく見せる為にクルリと一回転するアベル………
「はっきり言わせてます。そのデバイスは危険なモノです。コチラに渡して貰いませんか?」
彼女は手を出す。
「嫌だね!これは僕のモノさ!そもそも僕のモルガンをどうする気なの?」
アベルは彼女の要求をきっぱりと断った。
「今言ったようにそれは危険なモノ……完全に破壊します!」
今の言葉で両者の間に亀裂が入る。
「何だか一方的な言い分だね?キミ、フルボッコけってー!」
怒ったアベルは、右手に持ったフレアライフルを彼女向けトリガーを数回引いた。
「ならば、そのデバイス……力づくでいただきます!」
アベルの先制攻撃を皮切りにモルガンを巡った二人の戦いの火蓋が切られる。
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「ったく!アベルのヤツどこに行きやがったんだ?」
一方、ノーヴェは引率者の責任としてアベルを心配したのか周辺を探し回っていた。
次の瞬間、大きな爆発音が辺りに鳴り響く。
「な、何だッ!!?今のは………あっちか!…………」
ノーヴェは音の聞こえた方に走った。
そして、アベルのいる広場にたどり着く。
そこで見たものに彼女は驚愕した。
なんとアベルは、傷つき倒れている碧銀の若い女性の頭を踏みつけていたのだ。
「アベル!!!お前は何しているんだッ!!!」
ノーヴェが怒りの声を上げる。
その声に気づいたアベルが、彼女の方へ振り向いた。
「ん?あぁ、ノーヴェさん……いったい、こんな所で何をしているんですか?」
「何をだと?……それはこっちのセリフだ!お前を心配して探しに来てみれば………!」
ノーヴェは怒りで震えている。
しかし、アベルは普段通りに接した。
「別に探して欲しいとは、僕、言っていませんよ?」
「うるさい!ソイツは噂の通り魔!!?」
「彼女のことを知ってるんですか?」
「ああ……」
ノーヴェが覇王を名乗る彼女について説明する。
「ふーん……この人って、そんなに有名人なんだ……まあ、僕にはどうでもいい事だけど……」
アベルは覇王イングヴァルトの頭から足をどけたかと思うと彼女の腹部を強く蹴った。
「な……ッ!!!」
アベルに蹴られた彼女は一度バウンドするとそのままノーヴェの足元へ転がる。
その一部始終を目の当たりにしたノーヴェの中で何かが弾けた。
「この、バカったれがぁぁーーッ!!!ジェット・エッジ!!!」
『セットアップ………』
ノーヴェはバリアジャケットを纏う。
「アベル!どんな理由があるのか、私には分からねぇッ!だけど、お前はやり過ぎだ!」
「え?なになに?今度はノーヴェさんが相手になってくれるのッ?!!」
頭部装甲でアベルの表情は分からないが、声のトーンからして彼は興奮しているようだ。
「いい加減にしろォォォーー!!!」
ノーヴェとアベルの戦いが始まる。
先に動いたのは、ノーヴェ………
自慢の機動力を生かしアベルに肉薄した。
「はああぁぁーーッ!!!」
ノーヴェ渾身の右ブローがアベルの体を捕らえた瞬間、凄まじい金属音が響く。
「があぁぁああッ!!!な、何だってんだ!拳がぁぁッ!」
「わぁ!凄いな!今の一撃……♪モルガンの構築した魔力変換装甲が変形しちゃった♪だけどノーヴェさんの拳も使い物にならなくなったね?」
悶絶するノーヴェを心配するどころか、アベルはさらに興奮している。
「じゃあ、次は僕の番だよ!」
アベルの右手から三つの薬莢(カートリッジ)が射出されると紅く光り出した。
「一撃で終わらせて……あ・げ・るッ!」
ノーヴェに迫る深紅の掌は一層の輝きを放つ。
「くッ!………」
本能的に危険を感じとったノーヴェは、咄嗟にアベルの右手を蹴り上げた次の瞬間、その右手から砲撃にも似た魔力エネルギーが空を切る。
アベルが外してしまったのは“プラズマ・ラム”……
正式には『零距離(ゼロレンジ)超高出力収束魔力砲』と言い、両手に一発ずつ計二発限定の魔導兵装である。
また一回にカートリッジを三本分を利用して放つこの砲撃魔法は一撃必殺の威力があり、相手のバリアジャケットの耐久値に関係なく、絶大な魔力ダメージを与える事ができた。
『マスター。今のでプラズマ・ラムの残弾はゼロになるですぅ。』
「やっぱり、ノーヴェさんって凄いんだね!僕の“プラズマ・ラム”を本能的に往なすなんて……」
「ああ、直感で分かったよ………今のヤバいって………」
「まあ!プラズマ・ラムは今ので打ち止めだけど、僕の魔導兵装はまだまだあるんだよね!!!」
次に取り出したのは『六銃身連装電動駆動式機関砲(デュヒュージョン・ブラスター)』であった。
ちなみに武装形態(アームズアップ)中のアベルは2mを超える身長になる。
このデュヒュージョン・ブラスター全体は、その身長の1/3以上の大きさを誇っていた。
「ノーヴェさん!こっちもかなりヤバいよ!」
電動音とともに砲身が回転し始める。
そして、砲身が回転し始めて2秒後……両手に持ったデュヒュージョン・ブラスターからは猛烈な勢いで魔力弾が発射された。
「うわあぁぁッ!!!」
ノーヴェは発射される前に回避運動を取ろうしたが間に合わず、魔力弾による圧倒的な暴力に晒される。
「アハハハハ………ッ!!!」
アベルは高笑いしながら、デュヒュージョン・ブラスターのトリガーを引き続けた。
『マスター!爆煙で目標が見えない!』
火器管制を担当するモルガンはアベルに警告したが、とうの彼は無視して引き続ける。
この一斉射は20秒近く行われた。
爆煙が晴れると、そこにはバリアジャケットがボロボロに破損し、倒れているノーヴェの姿が……
「あ~あ、終わったね…ノーヴェさんも意外にも呆気なかったなぁ〜」
勝ち誇ったような態度のアベルは不用意に倒れているノーヴェに近づいた。
その時だった………
「まったく………ツメが甘いぞ?アベル!」
「エ……?」
次の瞬間、倒れて気を失っているはずのノーヴェがカッと目を見開き、素早く立ち上がるのと同時にアベルを蹴り抜いた。
不意を突かれたアベルは、顔面にノーヴェの蹴り『リボルバー・スパイク』が直撃、数メートル吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。
「ぐッ!……ガッ!…………」
苦しみながらも立ち上がるアベル。
しかし、その立ち上がる姿は壊れかけのロボットの様で、破損した頭部装甲からはアベルの顔の一部が見えていた。
「い、今のは……か、なり効いたよ………モ、モルガン……フルパワーだ………ッ!」
『了解ですぅ……マスター、あんまりムチャしちゃダメですよぉ?』
アベルは飛び上がり、一度ノーヴェから距離をとる。
上空で飛行型に変形と同時に全身から炎熱変換された深紅の魔力が彼の全身を包んだ。
その姿は燃え盛る紅蓮の鳥のよう。
そして急加速しノーヴェ目掛けて再度向かって来た。
「ジェット……まだ、いけるか?」
『もちろんです!スタン・ショットをスタンバイします!』
ノーヴェもまた気合いを入れ直し、さらには左拳に魔力エネルギーが集中し強力な電撃を帯びる。
「いくぞ、アベル!お前の目を覚まさせてやる!」
「アハハ!……何を言っているの?僕の目は完全に覚めているよ!今度こそ終わらせてあげる!勝つのはこの僕だ!」
ノーヴェは、自身の魔力で生み出した道『エアライナー』の上を猛スピードで移動しアベルを迎え撃つ。
「必殺!天熾鳳!フェニックス・ブレイブ!!!」
「うおぉぉぉ!雷撃必中!スタン・ショットォォ!」
そして、ノーヴェ渾身の『スタン・ショット』とアベル必殺の『フェニックス・ブレイブ』が正面からぶつかり合った。
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アベルとの戦闘を終わらせたノーヴェは仰向けになり、夜空を見上げていた。
一方、アベルはうつ伏せに倒れたまま起きない。
どうやらデバイスのモルガン共々、ノックアウトされ気を失っているようだ。
「ふぅ……マジでやり過ぎちまったな。大丈夫か?ジェット……」
『はい……何とか………』
「それにしても、アベルの奴、本当むちゃくちゃだよ……いてて……体も自由に動けん。」
ノーヴェは痛む体にムチを打ち、どこかに連絡を取り始める。
すぐに連絡した相手先から反応があった。
『はい、スバルです。』
通信に出たのは『スバル・ナカジマ』……ノーヴェの姉である。
四年前、訳あって二人は敵同士だったが今は中の良い姉妹の関係になった。
「ちょっと頼まれてくれないか?喧嘩して動けねぇ………」
『ええッ!!?……』
驚くスバル。
「相手はアベル・ガーネット………お前なら知ってるよな?」
『アベル・ガーネット………ガーネットって、もしかして本局の特捜班の班長“エリス・ガーネット”一佐の……』
「そう、一佐の息子だ。」
『ええッ!!?ちょっと、何してるのッ!!?』
スバルは妹のやらかしたことに冷や汗が止まらない。
本局幹部のご子息をぶっ飛ばしたのだから……
「ああぁッ!とにかく理由はあとから話すから!それに例の通り魔“覇王イングヴァルト”もすぐ近くにいる……頼んだ。」
その後、ノーヴェ、アベルと覇王イングヴァルトを名乗る女性の三人は、駆けつけたスバルとそのである親友『ティアナ・ランスター』によって保護され、スバルの自宅に向かうのだった。
次回に続く。