takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
9月15日。
ニューオーリンズはあわただしかった。イオのフルアーマーガンダムが眠っていた空港跡地だったところは飛行場として再利用され、そこにはアントノフ型の超大型輸送機が3機着陸していた。
「大目玉を食らったかと思えば今度はVIPかよ(笑)。」
イオはチューインガムを膨らましながらしゃべる。ニコルはそれが見えないふりをしているが、明らかに気に障っている様子だ。
「貴賓室でも膨らますんですか?」
「呼ばれてみたいねぇ(笑)。」
イオのチューインガムは破裂した。さぼっている「迷子」を探していたアンナの目にも留まった。
「そこ!油売ってないで手伝ってちょうだい!」
「ほら、アンナさんに怒られちゃいましたね(笑)。」
「うっせぇなぁ(笑)。あ、そうだ。ちょっとしたプレゼントだ。」
そういうとイオはニコルにミュージックプレーヤーを渡した。
「ニューヨークジャズのコレクションだ、ガンダムの中で眠っててな。」
「でも....」
「ニューヨークに着いたらまたセッションだ、それまでに予習しときな!」
そう言うとイオは大型トレーラーで横たわっているフルアーマーガンダムのコックピットへと上っていく。
ニコルも別のトレーラーの方へ走っていく。そしてブリッツのコックピットに入る。するとダリルから通信がタイムリーに入った。
「イオに絡まれたみたいだな(笑)。」
「大人でもあんなにはしゃげるものなんですね。」
そういいながらニコルはブリッツをトレーラーから起こし、輸送機へと歩かせる。
「ロッテさんとはあれからどうなんですか?」
「それは君の慕っている姉さんに訊けばいいんじゃないか?」
ニコルは言葉に詰まるがなんとか絞り出す。
「ダリルさんも意地悪ですね(笑)。」
そこにさらにアンナから通信が入る。
「ブリッツの収容状況は?」
「ブリッツ収容完了です。」
ブリッツのモニターにはアンナ、ダリル、イオが別々に映っていた。
「フルアーマーガンダム、収容完了だ。」
「サイコザク、収容完了だ。いつでもいけるぞ。」
それにしてもロッテが映っていないのが気になるが、同行者リストには入っているので特に心配することはないだろう。強いて言えばダリルとの一件だろうか。
「パーフェクト、大西洋上を迂回するルートになるけど、ニューオーリンズの時みたいに襲撃を受ける可能性は0じゃないわ。申し訳ないけど...」
アンナは発言途中だったがイオが遮る。
「そん時は致死率100%のジャズでタコ殴りにしてやるさ、そうだろ?」
ニコルは気まずそうだが、ここはダリルが回収する。
「致死率100%には同意だな。手筈通り、敵襲があった場合に備え、MSで待機している。」
次は再びアンナの番。
「言おうとしたことが全部言われちゃった、そういうことだからよろしく頼むわね!」
MSパイロット一同、
「了解!」
モビルスーツのパイロットは曲者ぞろいだが、こういう時だけは軍人だ。
(通信が切れたらイオさんがくれたジャズでもかけるかな)
Destinyとアストレイはニューファンドランド上空を脱してメーン州の沖合にいた。
「やるじゃねぇか、俺も危うく墜とされるかと思ったぞ(笑)。」
ハイネはトールの働きぶりにご満悦な様子だった。それはニューファンドランド上空でのこと。
「すごい!当たってる!」
花のような形をしたバーニアのスラスターがついていない方にはレールガンが連結されていた。その数は4つ、さらに背面から伸びているものと腰回りについているものを足すと計8つ。そこから放たれる光が飛行型D2をハエたたきの如く墜としていった。ただ、マルチロックオン機能こそあれど、実態は乱射の方が近く、これをコックピットでトールの隣で見ていたワルキューレからはこんな一言が。
「全く、どこぞのムジカートみたいにメチャクチャだ!」
ハイネのDestinyはというと弾丸をセーブしたいがために近接戦闘中心にした。アストレイの乱射するレールガンの雨をよけながらそれはそれはスリル満点なものだった。
「ハイネたんもトールたんも凄かったね!たくさんいたのにあっという間に終わらせて!」
タイタンの言ったことを通訳するようにワルキューレが通信越しに続く。
「30はいた、あれはとても10分で対処できる数字ではなかったぞ。」
それに対するハイネの返事は一言、「まぐれだろうな。」しばらく静けさに包まれた後、ハイネは続ける。
「あれから気配は感じていないんだな。」
「うん。」
「はい。」
タイタンとワルキューレの返事は重なっていた。
いよいよニューハンプシャー沖合に差し掛かろうとしていた時、アストレイのアラートが鳴り響いた。トールはモニターに映っていた文字を見て愕然とする。ワルキューレはまだ理解が追いついていない様子だったが。
「ハイネさん!緊急事態です!」
「どうした?(嫌な予感しかしないな...)」
「アストレイがハッキングされています!...光熱源体、2時方向!」
1本の緑色のビームは2機の間を貫いた。これでハイネの勘は当たってしまったことになる。レーダーに反応はないが、緑色の光の主は恐らくハイネやトールの乗る機体と同類だろう。
困惑するムジカートの少女たち、無理もない。D2の気配は一切なかったのだ。その状態でいきなり一方的に発砲されれば青天の霹靂である。おまけに発砲者の姿は見えない。そこにハイネの一言で疑問は晴らされた。
「ミラージュコロイドだ、相手は本気で殺すつもりでいる。(ここでも続ける気なら遠慮はしない...!ブルーコスモスの亡霊め!)」
緑色の光はさらに雨のように降ってくる。2機は散会するが、アストレイのトールは早速絶望に打ちひしがれていた。それ以上に...
「今ならキラの気持ちが分かる....あなたを守るにはこうするしかないんだ!」
アストレイは緑色の光が来た方向へレールガンを1発吹かす。勘が当たったのか、爆発した時の光が見えていた。一瞬ではあるが、被弾した対象のステルス効果がなくなったことでレーダーにも表示された。C.Eの地球連合軍の識別だった。
普段は強気のワルキューレも困惑はさらに深まっていく。何が起きたのかまだ理解が追い付いていない。
「トール...まさか...」
「そのまさかですよ...」
そこにハイネが通信越しに割り込む。
「こうなった以上、割り切れ。今度こそ死ぬぞ。」
緑色の光はまだ止まない。そればかりか、時折赤く、太く、レールのような光も混ざる。その光はハイネにとって既視感があった。
「あれが連合に奪われたって噂は本当みたいだな。」
「ハイネたん....」
「願いは叶わなかったみたいだ。人殺しにだけは巻き込みたくなかったのにな...」
「大丈夫!タイタンが守ってあげる!」
「よし、しっかり掴まってろ!」
一方のアストレイはレールガンを乱発しながら異変が起き始めていた。
「ヘリオポリスも....連合があんなもん持ち込まなかったら...」
トールはまるで怨念に魂が乗っ取られたかのような様相を示していた。ワルキューレが必死に呼びかけるが、全くレスポンスがない。どこぞのコンダクターは異常があったことを知りながらレスポンスを拒否された格好だったが、今回はさらに深刻だ。眼球は淀んだ紺色になり、次の一言でただならぬ殺意を感じ取ることになる。
「あげくにキラを散々コケにしといて...許さない...許せないんだよ!お前らが!」
アストレイのモニターには「Rafflesia Bloom Activated」とあった。
こうして大西洋上の災厄はC.Eの戦争を引きずる形で始まった。ついに姿を現した発砲者はスローターダガー、第81独立機動群ファントムペインにしか配備されなかった機体だった。
それにしてもあの時のハッキングは何だったのだろうか。それも戦闘の中で分かることになるのだろう。
次回:その名はマフティー・ナビーユ・エリン