takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
ハサウェイは皿を空っぽにしていた。軽食とはいえ、こんなに食事に夢中になれたのは恐らく初めてだ。
「ジェントルマンかと思ったけど、凄い食いっぷりだね(笑)。」
コゼットは笑い飛ばしながら生前に世話を焼いたピアノ馬鹿のことを思い出す。D2の襲撃前にピアノ馬鹿と共演したときのなんともいえない、火照った感じが忘れられない。
「彼が例のピアノ馬鹿か?」
コゼットの目線が4人で映っている写真に向かっていたので、1人だけ映っている男を指すハサウェイ。
「そ、そうだよ。ピアノ以外は何の取り柄もないろくでなしだったけど...」
「愛してるんだな(笑)。」
ハサウェイに急所を突かれたコゼット、釈明しようとするが言葉が出ず、顔が一方的に赤くなっていく。
「いや、その...」
「分からなくもないさ、俺も何かと世話焼きな役回りだったからな。」
「へぇ、ハサも恋心あったんだぁ...(笑)。」
どうも突っ込みどころがあるが、ハサウェイは顔が赤くならないばかりか、暗くなる。
「救えなかったよ...」
ハサウェイが言い終えると、気が付けば机の上にあったハサウェイの右手にコゼットの手が重なっていた。その時、コゼットには緑色の光に包まれたとあるものが見えていた。それはハサウェイにとって忌まわしいものであった。
「トール!前に出過ぎだ!」
ハイネの声はトールに届かなかった。そればかりか、アストレイ・ラフレシアフレームのツインアイは緑色から赤に変色していた。さらに、花の形をしたバーニアからは赤い粒子のようなものが出ていた。アストレイはレールガンの乱射をやめたかと思えば今度はビームサーベルでビームを器用に跳ね返していく。
「ハイネたん!」
「ああ分かってる!」
なんとかアストレイのフォローへ向かおうとするDestinyだったが、3機のスローターダガーの連携になかなか身動きがとれなくなっていた。一番もどかしかったのは守られる側になったムジカートだろう。しかし、文字通りの空中戦では生身で戦うムジカートに出番はない。
アストレイはDestinyを引き離し、ビームサーベルを見えないはずの敵機に次々と刺していく。コックピットをピンポイントに狙って。暴走が止まらないアストレイに赤い光が放たれようとしていた。
「トール!しっかりしろ!」
必死に呼びかけるワルキューレ、顔面を殴っても瞳は淀んだ紺色のまま微動だにしない。アストレイは目の前のスローターダガーを縦に2等分した後、動きを急に止めた。目の前をレール状の赤い光が擦れ擦れで通っていった。
「あの光...なんというか、温かかった。」
ハサウェイにはコゼットが言ったことがよく分かった。温かくも忌まわしいもの、それはあの時の隕石落としに他ならなかった。
「そんな光を見ても、結局殺し合いはむしろ激しくなっていったけどな...。」
ハサウェイは深呼吸してさらに一言加える。
「とは言え、人の生きる意味を犠牲にした団結もまた悲しいな。その意味でピアノ馬鹿は立派な奴だよ。」
コゼットの目には涙が浮かんでいた。
「タクト、ボロボロなの...。」
一方のハサウェイはMSにいるときに感じるようなGを感じ始めていた。
「どうやら俺は簡単には楽にさせてもらえないらしいな。」
光も少しづつ眩しくなっていく。
「ボロボロってことは生きてるってことか。」
「心配なの、あいつ無理をするから。アンナがついてくれてるけど...」
「時々ここに来てるってことはかなりヤバいんだろ。」
コゼットは言葉を出さず、ただ頷く。そしてハサウェイは再び戦地の気配とやらを感じ始めていた。同じくしてピアノの音色も...。
「分かった。さ、ピアノ馬鹿のところに行った行った。」
「ありがとう!ハサ!」
「いつから俺はお前の兄さんになったんだ?」
涙を浮かべながらも笑顔のコゼットは光の中に消えた。
(アンナたちを助けてあげて...か。)
「う、うぅぅ...」
ハサウェイは見覚えのあるコックピットの中で目を覚ました。今はフリーフォール状態にあるようだ。
「お前までついてくるくることはなかったのに、XI-G。」
NEJENと表示された全展望モニターを見渡すハサウェイ。懐かしさもこみ上げたが、それ以上にどこからとなく強い敵意を感じ取っていた。
「助けてとはこういうことか。」」
洋上、いや、その上空で戦火が上がっている様子は目視でも分かった。そして、これまでに感じたことがないほど強い憎しみに満ちたプレッシャーも感じていた。
そして、そこに辿り着くにはもう1つ障害があった。
「あれがコゼットを殺った類のやつか。」
コゼットの手がハサウェイに触れた時、彼には音楽を失った世界が見えていた。コゼットの最期も。
「何故コーディネーターの味方をする!?」
遂に赤い光の主がビームサーベルを引き抜いてアストレイに切りかかる。どこからとなく出現した機体は黒く、背中にはジャスティスの背中についていたファトゥムのようなものがある。それは3機のスローターダガーを片付け終わったDestinyにも見えていた。
「プロトセイバー...それもリジェネレイト付きか!」
これでアストレイをハッキングした犯人も分かった。
「ハイネたん...」
「追いついてくれよぉ!」
「結局オーブの連中はいつもそうだ!なら青き清浄なる世界の生贄になれぇ!!」
アストレイとプロトセイバーはお互いのビームサーベルを乱暴にぶつけ合う。バルカンも乱射し合う。一旦離れるとスローターダガーの集中砲火を浴びることになるのでアストレイはあくまでもプロトセイバーから離れない。2機のぶつかり合いがヒートアップしていく中でトールに呼びかけ続けていたワルキューレも意識を失った。
「なんと...もどかしい...」
薄れていく意識の中で振り絞ったワルキューレの言葉だった。タイミング悪く、ハイネとタイタンの声が再びアストレイに響いたのはその僅か5秒後だった。
「タイタン、あのアストレイを止める....ん?どうした?」
「気配を感じるの....D2じゃなくて...優しくて悲しい...」
その時だった。
「マフティー・ナビーユ・エリンより、全軍へ。本機に発砲したものは所属に関わらず全て敵と見なす。」
XIのモニターにはハッキングアラートが表示されていた。レーダーにはUNKNOWNと表示されていたが、問題ではなかった。黒いガンダムからは忌まわしいほどの敵意がむき出しになっていたのがハサウェイには分かった。
「了解した。それではマフティーの名において粛清する!」
一瞬の出来事だったが、これでプロトセイバーの関心がアストレイから逸れたことをハイネは確信した。しかし、その割に件の機体は見当たらない。
「さっきの気配...まさか」
「ハイネたん、たぶんさっきのマフティーなんとかたんだよ。」
間髪をおかずにDestinyに通信が入った。件のマフティーだった。
「突破口を作る。」
返事をする時間も与えずに通信が一方的に切られたかと思えば、気が付けば見覚えのないモビルスーツがプロトセイバーにマッハのスピードで突っ込んで切りかかっていた。
スローターダガーの包囲網が崩れた隙を見逃さず、Destinyは牽制射撃を加えながら落下していくアストレイを回収する。すでにアストレイは動かなくなっていた。
一方のプロトセイバーとXIは目にもとまらぬ速さで鍔迫り合いを展開する。
「マフティー!貴様ぁ!」
「データは揃った。帰還しろ。」
「マフティー!!」
「エレナ・マコレンスキー、直ちに帰還せよ。これは命令だ。」
エレナの駆るプロトセイバーはXIに至近距離でバルカンを吹かすと、ミラージュコロイドを起動して姿を消した。
「これで終わったんだね....」
タイタンは補助席から見守っていただけとはいえ、初めての人間同士の戦争に巻き込まれて焦燥しきっていた。
「なんてことだ....」
ハイネは頭を抱え込んでいたが、「マフティー」はその暇を与えない。
「こちらRX-105 XIガンダム搭乗中のマフティー・ナビーユ・エリンだ。そちらの状況は?」
「ムジカートと同行してニューヨークへ向かっている。俺たちみたいな漂流者が補給を受けられるのはそこしかない。それに、1機はパイロットが意識を失っている。」
「了解した。危害を加えないことを保証する。」
「初対面なのに申し訳ない。ちなみに俺はハイネ、Destinyのパイロットだ。同乗者は...」
「タイタンだよ!マフティーたん宜しくね!」
タイタンの馴れ馴れしさ、ハサウェイには既視感があった。いや、コゼット以上に馴れ馴れしい。
「曲名か....ムジカートなんだな?」
「マフティーたんぴんぽん!後、ワルキューレたんもいるけど今は気絶してるみたい。」
ひとまず助ける相手を間違えなかったことにハサウェイは安堵していた。
「了解した。俺もニューヨークまで同行する。」
いくらあの世にいるコゼットと対談したとはいえ、この世界に関する情報はもっと欲しいと感じていた。それに、味方がいるに越したことはない。
3機のMSはマサチューセッツ州を抜け、コネチカット州沖合に差し掛かる。その途中、ボストン沖に差し掛かったところでタイタンは独り言を口走った。その独り言にはハサウェイの聞き覚えのある名前が入っていた。
「タクトのこと、もっと聞かせてくれ。」
初対面の「マフティー」からいきなりこんなことをピンポイントで聞かれるとは誰が思っただろうか。
次回:ロングアイランド防衛線
タイタンとワルキューレは遂にアンナたちと再会を果たす。
しかし、それは穏便な再会となるだろうか...。