takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
「どうしたのマエストロ?いつもの服じゃないけど?」
「シュヘンベルグ特別監査官から出撃要請が下りてね。」
「出撃なら僕たちムジカートの仕事でしょ。」
さて、「僕」という第1人称こそ使っているが、このムジカートは紛れもなく女性だ。
そしてムジカートが疑問に思うのも無理はない。コンダクターが宇宙にでも行かんばかりのパイロットスーツを着込んでいれば困惑するのは当然である。
「ボレロ君、無論君にも仕事はしてもらうさ。ただ、今回はとっておきのフリーライドもついている。それにいい機会だ、私の正体もそろそろ明かすとしようではないか。」
ボレロ、なんともボーイッシュな見た目が特徴のムジカートで、服装は全体的に青い。髪の毛も青い。そしてボレロはキョトンとしている。
「コンダクターとして勝利をつかむ以外に何があるのさ。」
「全く、正直のところコンダクターもマエストロもどれで呼ばれても慣れないんだな。」
そういうとパイロットスーツを着たコンダクターはさらに一言加える。フランクな口調ではなく、それは死線をくぐった軍人の口調になっていた。
「ボレロ君、私にも私なりの勝利の美学がある。その一端を見せるためにシンフォニカ本部の最深部まで君を連れた。」
ライトアップされるとそこには1機の巨人が安置されていた。
「EMS-010、ヅダ。私の軍人としての人生そのものだ。」
ボレロは他人に基本的に興味をもたない性格の持ち主だが、今回ばかりは例外だ。完全に見とれている。パイロットスーツの男はそんなボレロの前に背筋をピンと張って立つ。
「ではボレロ君。改めて、ジオン公国軍第603技術試験隊所属ジャン・リュック・デュバル少佐である。これより貴官は私と共にヅダに搭乗する。任務の詳細は登場後改めてブリーフィングを行う。以上。」
ボレロは感情に支配されるのを嫌う。しかし、ヅダを前にしてからは感情に完全に呑まれている。言っていることは理解できていなかったにしても、巨大な青い兵士を見て感動の涙すら浮かべている。軍人の言う勝利は並みのコンダクターに比べればそれはとても重いの一言に尽きる。
「ちぃ、ニューヨークだけはピンピンしてるってのに隣はこれかよ!」
FA-78のコックピットではイオが悪態をついていた。無理もない、着陸予定ポイントのロングアイランドのラガーディア基地がD2の襲撃を受けていたのだ。ロングアイランドはニューヨーク市街地の東に延びている島で、半ばD2に対する防波堤のような役回りを担っていた。
悪態をついていたイオに通信回線がつながる。アンナだ。
「基地のみんなが総力を挙げてるけど、相手は大型D2が主力だから今の戦力じゃとても足りないわ。あれをどうにかしないと...」
そこをイオが遮る。
「そう心配なさらずともいつでも出れるぜ」
「最後まで話を聞いてみたらどうなんだ、ジャズ厨。」
「うるっせぇなぁ、義足野郎!」
「イオとダリルの機体は足が速いからすぐにパージするわ。ニコル君はステルスが使えるから基地の真上に着くまでそのまま待機をしてて。」
「待ってましたぁ♡!そういうこったぁ、イオ・フレミング、フルアーマーガンダム、発進する!」
フルアーマーガンダムは輸送機から背中から落ちるように一旦降下する。そこからスラスターを思い切り吹かすと先ほどまで収容されていた輸送機を追い越した。追い越した先でダリルの駆るサイコザクとランデブーする。見える限り、目標地点は白い化け物に侵食されているのがよく分かった。
基地の内部はそれはそれは地獄だった。そもそも隠密任務のために人員が限定されていたことが凶となった。戦車部隊はいるものの、あっさり大型D2に蹂躙されていく。ムジカートもいることにはいるが、大型を仕留めるのに2人から3人は必要だ。1年前にワルキューレと運命、タイタンの3人を連携させてようやく1個体を仕留めたことも記憶に新しい。
「今日は最悪であります!」
なんともいい天気かのような口調ではあるが、一度に大型個体が数十個体も押し寄せているのは絶望以外の何物でもない。そして見た目がくるみ割り人形な声の主、すなわち「くるみ割り人形」は格納庫セクションでその大型個体2体に挟まれた。シンフォニカの兵士も4人いるが、これではとても突破できそうにない。しかし、である。
「突破口ができたぞ!」
兵士の1人が叫ぶと、後ろにいたはずのD2が文字通り煙を吹いて蒸発していた。その奥からさらにピンク色の光が見える。
「伏せてください!」
くるみ割り人形が叫ぶとともに一同身をかがめる。その上を通ったのは光...ではなくビームサーベルをシールドから伸ばして突進するブリッツだった。ビームサーベルはD2にあっさり貫通した。そこにさらに別のD2が飛びついてくるが、ブリッツはビームサーベルを引き抜かないまま微動だにしない。そればかりか、左手から出たロケットアンカーが飛びついてきたD2を貫通する。
「あれも私たちと同じムジカートなの?」
誰に問いかけているのか分からないくるみ割り人形だった。モビルスーツの存在を知らされていないので当然といえば当然だが、上空でビームとミサイルが無秩序に行きかっているのを見ると事情は変わる。ニューオーリンズで暴れた2機については既に筒抜けになっていたからだ。
「まさか街を燃やしたガンダムまできてるというのですか!」
「くそっ!きりがない!」
続いて悪態をついたのはダリル。ジャイアントバズーカで大型個体を一撃で仕留めていくが、さらに飛行型D2まで加勢したことで空陸両方面の化け物を相手にしなければいけなかった。ダリルのサイコザクにはいくらいようと性能面では問題ではないのだが、気がかりなのは残弾だった。それを気にしていたのはイオも同じようで。
「義足野郎!射線を開けてくれ!」
「そろそろ名前を憶えてもらいたいな」
サイコザクが上昇するなり飛行型D2の正面にいたのはFA-78だった。
「ムサイ2隻はいけただろうなぁ」
残弾が気になるのであればメガ粒子砲で一網打尽にする。これで飛行型D2は残り30.
「一体どこから湧いてくるんだ!」
「義足はニコルのフォローに回ってやってくれ、致死率100%のジャズに巻き込まれる前にな!」
「あれを1人で...いくら何でも...」
そこに通信が入る。それもジオン公国軍の識別で。
「同胞に会えることに感謝する。第603技術試験隊ジャン・リュック・デュバル少佐である。これより貴官とガンダムを援護する。」
直後、背後から青い機体が突っ切ってきた。向かう先は飛行型D2の群れだった。
「おいおい、冗談だろ!いくらなんでもあのスクラップ(ヅダ)は無茶だろ....」
「ヅダを甘くみてもらっては困る!」
ヅダは群れに突っ込むと右手でマシンガンを撃ちかましながらも左手ではヒートトマホークで切り刻んでいる。小回りも優れているが何よりもスピードだ。
「無茶です!あれでは空中分解しますよ!」
ダリルが懸念したのも無理はない。事実、ヅダのパイロットの多くは加速中の空中分解で「事故死」しており、ヅダで「戦死」できたのは件の少佐のみ、これはジオン軍人であれば誰もが知ることだった。
しかし、ダリルの懸念を余所目にヅダは機動戦を展開していく。
その様子を地上から見ていたボレロはD2を攻撃しながら一言、
「少佐...今度は僕も一緒に乗って戦いたいなぁ...」
ニコルは相変わらず地上での掃除に追われていた。バッテリーの消費は押さえたいのでロケットアンカーで串刺しにしていく。終わりが見えないが、人と同じくらいのサイズのD2については地上にいる赤いムジカート(くるみ割り人形)や青いムジカート(ボレロ)たちが片付けてくれている点は心強い。無論、他にも戦うにはあまりにも装備が軽い少女たちは他にもいるわけだが、彼女たちは皆ムジカートだ。
「あんな戦い方...命知らずにも...」
ニコルはラスベガスでの惨状を思い出していた。虐殺と形容したくなるような戦闘で犠牲になった人間に妙に少女が少なくなかった理由がこれで改めて分かった。それをじっくり振り返ってる余裕もなく、不意を突くようにダリルから通信が入る。
「ニコル、新手が来るかもしれない。」
ダリルはプレッシャーを感じていた。近くに同類がいるらしいと感じ取っていた。その瞬間、である。
「こちらザフト軍ホーキンス隊並びに特務隊所属のハイネ・ヴェステンフルスだ。ザフトの識別コードを確認した。状況の説明を請う。」
「こちらザフト軍クルーゼ隊所属ニコル・アマルフィであります。ご無沙汰しております、教官殿!」
丁度ブリッツの真ん前には恐竜のようなD2がいたが、返事が終わったと同時に対艦刀が貫通していた。D2が撃破されるとそこにいたのはオレンジ色の翼を背負った機体、Destinyだった。隣には動く気配のない機体が肘をついていた。
「マフティー・ナビーユ・エリンより全軍へ、本戦闘の終了後、我々は然るべき組織に投降したい。」
空を見上げれば飛行型D2は見る影もなくなっていた。確かに途中からミサイルの雨が妙に増えているとは思ったが、それはXIガンダムの仕業だった。これを間近で見ていたイオは興奮が止まらず、フルアーマーガンダムはXIに接触回線をつなぐ。
「とんでもねぇセッションだったなぁ!言いたいことは色々あるけどよぉ、まずは繋いでやるぜ」
「こちらニューヨークシンフォニカ所属、アンナ・シュナイダーです。ブリッツを含む3機のモビルスーツについて責任を負っています。事情をお聞きしたいので、ご同行願います。」
「アンナたん!」
アンナの姿は既に輸送機の外にあった。基地に上陸したD2は全て片付け終わった。そこにどこからとなく駆け寄ってきたのはオレンジ色のツインテールの少女、タイタンだった。
「タイタン!どうしてここに!?」
「ハイネたんのDestinyに乗せてもらったの!」
タイタンの指指す方向には輸送機の方向に向かって着地するオレンジ色の翼を背負った機体があった。武装が「運命」と妙に似てなくないのが気になるが、それ以上にいつの間にヅダとかいう巨人まで参戦していてもはや訳が分からないに尽きていた。それでも、久しぶりの顔をよく知る人(ムジカート)との再会は素直に嬉しい。
「無事でよかったわ、Destinyにも感謝しないとね。」
しかし、ニコルからの通信で表情は再び険しくなった。
「アストレイが...うわぁ!」
「ニコル!どうしたの!?ニコル!?」
通信はかろうじてつながっている様子だったが、ノイズばかりでまともに聞こえない。
今度は別の人物から通信が入る。
「ハイネ・ヴェステンフルスだ。タイタン、聞こえるか?」
「いるよー!」
「アンナさんたちを連れて退避してくれ。アストレイがまた暴走を始めた。」
「ワルキューレたんとトールたんは...?」
「最善は尽くす。アンナさんにも代わってくれないか。」
タイタンは通信機をアンナに返す。
「代わりました。」
「教え子のニコルからかわいがってもらったと聞きました。上官として、絶対に救います。」
通信は切れた。
思えばワルキューレは不憫だった。コンダクターを持たず、ザーガンのシンパであるシントラーには使い捨てにされ、ニューヨークシンフォニカで黒夜隕鉄が暴走した際にはタクトの身を案じるも黙らされ、今は暴走したアストレイの中に閉じ込められている。強がりな性格ではあるが、本当は孤独に苦しんでいることをアンナは分かっていたのだ。
そんなワルキューレは今はニコルを殺そうとしているアストレイに閉じ込められている。意識もなく。ワルキューレの隣にいるトールは瞳が紺色に淀んだ状態で目覚めていた。
モニターには
「Rafflesia Bloom Activated」
次回:Rafflesia Bloom/ヘリオポリスの怨念
D2は片付いたが、暴走したアストレイは...。