takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
シンフォニカに入隊したアンナはラス・ベガス基地に赴任。ラス・ベガス基地は前線基地となっていたが、突如現れた羽付きの黒い「巨人」の奇襲で壊滅状態に。
D2討伐に出撃したムジカート部隊とは既に通信途絶し、基地に侵入してくるD2を前に絶望するしかなかった。
別の黒い巨人、GAT-X207が現れるまでは。
9月7日。アメリカ中西部戦線の要の1つだったラス・ベガス基地は一瞬で大半が瓦礫と化した。1つ確かなのはその主犯格はD2ではなかったということだ。
しかし、不幸中の幸いにも隣接するファームが無傷だったため、当面の間基地の一部機能はそこで代替されることになった。先の奇襲攻撃で死傷者も大量に出したため、翌日派遣という異様なスピードで欠員補充も行われることになった。その中に車いすに乗った白衣姿の女性もいた。
「アンナ!無事だったの!?」
顔面に絆創膏が貼られ、腕などにギプスが巻かれているアンナを案じるのはロッテ、アンナの姉で、シンフォニカの研究員でもある。足に障害があり、車椅子を使用している。
「ロッテ姉さん!」
アンナは背をかがめてロッテと抱擁を交わす。
「もう動いていいの?」
「瓦礫に少し埋もれただけよ。あの巨人が来なかったらどうなることかと思ったけど。」
「タクト君にはどう言ったらいいのかしら(笑)」
「運命も文句言うかなぁ...」
喜びの再開も束の間、アンナの表情は再び曇った。あの2人のことでまだ振り切れていないというのもあるが、それだけではない。
「姉さん。その巨人なんだけど...」
「ええ、一通りレポートは見たわ。新しいムジカートかもしれないわ。」
アンナはロッテの車椅子を押しながら病棟へ向かった。基地の中で奇跡的に無傷で残った区画である。
「アスラン、下がって!」
「うあああああ!」
「アスラン...逃げて...」
イージスがパワーダウンしてからストライクに両断されるまでの間が再生され続けた。対艦刀が刺さってから爆散するまでは短く見えたかもしれないが、ニコルはそれまでに激しい痛みにもがいた。
まず対艦刀が腹に刺さる。この対艦刀がとにかく熱い。あまりの痛みに意識を保つことすらままならない。コックピットの中ではショートして火花が散っている。ノーマルスーツのヘルメットにもヒビが入り、間もなく顔面に突き刺さった。そこから爆散するまでは一瞬だった。
「母さん...僕の...ピアノ...」
これがアンナたちが最初に聞いたムジカートと思しき人物の一言だったが、意識が戻った気配はない。
「彼が...」
「GAT-X207の中にいたの。見つけたときは血だらけで...」
「GAT-X207って..それが例の巨人?」
「黒い巨人の肩にそう書かれてたの。凄く機械的な巨人だったけど。」
「まずは調べてみないと何もわかりそうもないわね...」
ロッテの一言は病床に横たわるニコルにも聞こえていた。痛みは残るが意識は徐々に回復していた。
「連合の...好きに..させ..るか..」
アンナとロッテには聞いたこともない用語が出てきた。が、これはまだ序の口だ。
「ユニウス...セブン...の仇は...」
聞いたこともない用語の連呼に困惑する2人だったが、1つ確かなのは記憶を伴っていることである。そしてその記憶というのはどうも戦争の記憶らしい。
「終わらせて...ピアノを....」
ピアノという言葉に触発されたのか、アンナはいつの間にニコルの左手を握っていた。
アンナの脳裏に不意にタクトとコゼットの演奏がよぎった。
音楽が敬遠される世界の中で2人は存分に音楽を奏でて幸せそうだった。
「あなたの演奏、聞いてみたいな」
アンナの不意の一言に触発されるようにニコルは目を覚ました。大西洋連邦にいるとすれば敵地で捕虜ということになるが、その割に目つきが妙に優しく、丁寧に看病されていることに困惑を隠せなかった。
「私はアンナ、隣は姉のロッテ。シンフォニカのメンバーよ。」
「ザフト軍クルーゼ隊所属ニコル・アマルフィであります!」
背筋をピンと張ったかと思えばすぐに咳き込んだ。
「かしこまることはないのよ。今はゆっくり休んで。」
アンナはニコルを介抱し、再び横にする。
横になったニコルはさらに続ける。
「僕は...どれくらい寝てましたか?」
「丸1日ってところね。」
ロッテの答えにうなづいたニコルは再び眠りについた。
それにしても聞いたことのない組織まで耳にして2人の疑問は一層深まったが、それはニコルがまた起きてから聞くことにした。
「今回も世話係はアンナにお願いしようかしら」
第3話:ムジカートか、或いは