takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
一方、イオから「ベガスのガンダム」として名指しされたニコルは映像越しにニューオーリンズの狂気を目にしていた。
それはニコルが任務を完了し、無傷で帰投した直後のことだった。
何やら様子が騒がしい。ニコルがコックピットから出てくるとアンナが待っていた。
「直後で悪いんだけど、一緒に来てくれる?」
アンナの表情は曇っていた。ニコルは何か複雑なことになっていることを察し、アンナに連れられるがままにロッテの仮研究室に行く。研究室のTVには生中継でニューオーリンズの戦況が映っていた。
「あれは...!」
ニコルは自機以外にモビルスーツがあるというのが残酷な事実と映った。連合の機体でパイロットが仮にもブルーコスモスの一員だと間違いなく殺し合いになる。ニコルがコーディネーターである、この事実さえあれば彼らにはこの世界でも宣戦布告するのには十分だ。ところが、このモビルスーツには奇妙な特徴がある。
「頭部だけ見ればストライクだけど、GATじゃなくてFAになってる...それにE.F.S.Fって...」
ニコルがぼやいている間にアンナは小さく、でも振り絞りながら憤りを口にしていた。
「音楽を流しながら戦いを楽しむなんて....さい....てい....!」
ロッテは何もいわず、アンナが握った左こぶしの上に優しく手を添える。
その直後だった。
「イオ・フレミングだ。俺のJAZZが聞こえたら死神が来たと思いな!それとベガスのガンダムさん、セッションを楽しみにしてるぜ!」
3人は凍り付いた。TV画面は着地したGUNDAMに群がり、「ガンダム」と叫ぶ群衆を映していた。
アンナはただ一言、「狂気よ」
静けさは長くは続かず、ニコルが一言、「僕のピアノに付き合ってくれませんか?」
「いるんだな!忌まわしいガンダム!」
声の主のいる赤い巨人は黒夜隕鉄に封じ込められた状態で大気圏に入っていた。
「まさかザクで大気圏突入とはな...シャアに報告してみたかったものだ。カーラは怒るだろうが。」
赤いザクは黒夜隕鉄のおかげで1年戦争中に大気圏に飲まれて蒸発したザクのようにならず済んだ。強いて言えば常時索敵アラートが鳴っているのが鬱陶しいが、レーダー上の「UNKNOWN」はまだ動いていないし、まだ動けないので気にすることはない。だが、臨戦態勢に入っているには見過ごせない。
「パージと同時に排除だな、ポップも流すか」
モニターが示していた落下座標はニューオーリンズだった。
アンナが接してきた人間の中で、ワルキューレを除けばニコルほど軍人気質な人間はいない。しかし、任務が終わると生前のコゼットを彷彿とさせるような無邪気なティーンエイジャーになる。おまけにピアノ馬鹿なところはタクトそっくり。最初はタクトみたいに心を閉ざさないか心配していたが、コゼットみたいにあっさり心を許したことに内心驚いていた。
表向きはアンナとロッテが「ムジカートの可能性がある人物」として「監視」していることにしているが、実際のところはほぼ弟分になっていると言っても過言ではなかった。現に、今はニコルの部屋でニコルはピアノを弾き、その隣にアンナが座っている。ロッテは生憎研究室で分析中だったが、これもまたアンナとニコルを2人っきりにさせる策略の1つだった。が、そこに水を差すようにブリーフィングへの招集がかかる。
「アンナ・シュナイダー、ロッテ・シュナイダー並びにGAT-X207の操縦者は本部からの要請により、ニューオーリンズに派遣することが決まった。なお、ニューオーリンズでの任務が完了次第、速やかに本部へ向かわれたい。以上!」
任務とはすなわち、ニューオーリンズの治安回復と「FA-78 ガンダム」への威力偵察、場合によっては拿捕または破壊だった。シンフォニカの上層部にはジャズを流す「ガンダム」がシンフォニカの影響力を下げていると感じているらしく、現にニューオーリンズでは一時的とはいえ、音楽に対して一切の自粛もなかった。これはシンフォニカの方針に明確に反していたので彼らとしては見過ごすわけにはいかない。
ニコルは複雑な気分だったが、「セッション」というキーワードから戦闘は避けられないと感じていた。アンナたちもその予感はしていたが、その予想はニコルたちの想像とは違う方向で当たることになる。
9月11日。ニューオーリンズのお祭り騒ぎからたったの2日で街は殺気と静けさに支配された。街では2日前に暴れたFA-78/フルアーマーガンダムともう1機、赤をベースとし、脚部にMS-06R PSYCHO ZAKUと書かれた機体が睨み合っていた。2機とも重武装しており、撃ち合いになれば街全体が火の海になることはだれの目からも明らかだった。
「まさかポップ贔屓のジオンの義足野郎がいるなんてなぁ、今度こそ楽にしてやろうか?」
挑発するのはシールドが4枚の「ガンダム」。
「ジャズで殺せると思わないことだな、ムーアの狂犬が!」
答えるのは赤いPSYCHO ZAKU。
「相変わらず調子に乗りやがって、ダ・リ・ル・ちゃ・ん」
「お前を殺して全てを終わらせる!」
赤いサイコザクに乗っているのはダリル・ローレンツ。好きな音楽は主にポップ。イオの「ガンダム」とは1年戦争の頃から音楽をかけながら殺し合い、音楽が廃れたこの世界でもなお続こうとしていた。
D2も呼び寄せられていたがお構いなし、イオのフルアーマーガンダムは2連奏ビームライフルを、ダリルのザクはバズーカの雨を浴びせた。流れ弾はD2を執拗に巻き込み、さらに街も蝕んでいく。次第にミサイルやザクマシンガン、ビームバズーカ、メガ粒子砲も縦横無尽に飛び交っていく。彼らの視界にD2はないが、確実に巻き込んでいた。
ニューオーリンズで殺意に満ちたコンサートが開演した。フルアーマーガンダムが最初に暴れた時にいた観客はもういない。サンダーボルト宙域の再来となったニューオーリンズにもう住む人は殆どいなかった。
次回:Juego de fuego(火遊び)
2機のガンダムが戦場をさらに狂わせる...その背後には仮面をつけた男もいた。