takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
一方、FA-78 フルアーマーガンダムをポテンシャルな脅威として捉えたシンフォニカ本部はアンナ、ロッテ及びニコルをニューオーリンズへ派遣、場合によっては撃墜も許可される穏やかでない任務だった。戦闘が避けられないと悟ったニコルに一番遭遇したくない相手が迫りつつあった。
「申し訳ないね。こんな汚れ仕事を押し付けることになって。」
「気にすることはないさ、世界はどの道さっぱりさせる必要がある。人の業には当然裁きは必要だ。」
ピルを飲むと金髪の声の主は仮面をつけなおした。
「今頃彼らがテストに臨んでいることだろう。」
「かつての敵部隊をこうも容易く飼いならすとは恐ろしい男だよ、君は。」
「幸いにも私はナチュラルなのでね。それに所属は今となっては重要ではない。」
「はいはい、今はザーガンに共感してくれたことにただ感謝だよ。」
もう1人の声の主はシンフォニカの制服を着た白髪の若い男だった。
「何を言っている。私が共感しているのはシントラー、貴官だ。」
「ガンダムと所属不明機が交戦中!残存D2は40!」
「ブリッツは引き続き待機されたし!」
「目標空域到達まで120!ブリッツ降下準備急がれたし!」
「こちらブリッツ、いつでもいけます!」
ブリッツのモニターには割り込むようにアンナが映っていた。
「ちゃんと帰ってきてね。」
「分かってます、アンナさん。あんな戦いは終わらせないと。」
「ええ、それにあなたのピアノ、楽しみに待ってるから。」
「はい!そのためにも!」
ニコルはグーサインすると通信を切った。
「ブリッツ、射出のタイミングを譲渡します。」
「ニコル・アマルフィ、ブリッツ、発進します!」
ブリッツは輸送機から火の海と化したニューオーリンズへと飛び込んだ。真下では2機のMSが殺し合いをしていた。
「両方とも無力化させれば...」
ブリッツはPS装甲を一旦解除してミラージュコロイドで機体を隠しながら降下。後ろさえとれれば腕を切り落とすのは容易い。が、そうもいかなくなった。火の海のどさくさの中から赤い光が赤い機体を目掛けて発射されたのが見えた。それはニコルにとって見覚えのあるものだった。
「スキュラ...まさかイージス...それとも...」
一瞬ではあったが、狙撃手の姿が見えた。見たことはなかったが心当たりがないわけではない。
「まさかバスター...あんなに発展してたなんて」
肩にはGAT-X103AP、さらに連合のロゴも付いている。頭の上半分はバイザーのようなもので覆われていたが、これは紛れもなくバスターの後継機だった。
一方、部外者に照準を定められたサイコザクは間一髪で回避するが、バランスを崩したまま空中を不規則に漂う。赤い光には飛行型D2が代わりに飲まれていた。そこにもう1発、今度はレールガンがサイコザクを狙う。これも間一髪で回避するが、気が付いたころには燃え盛る地上に背中から落ちていた。
「くぅぅ...それにしてもさっきからなんなんだ...」
今度はレールガンの主の青い機体がザクの前に飛翔し、レールガンの照準をザクに向ける。
「許さない...!コーディネーターは1人残らず...!」
「まさか別のガンダムにやられるとはな...」
レールガンを向けられたダリルは観念した。が、再び目を開けると目の前には4枚のシールドを構えてザクに背を向けるガンダムがいた。先ほどまで殺し合っていた、あのFA-78 フルアーマーガンダムである。
「おいおい、義足野郎を殺すの特権があるのは俺なんだよ!」
「あくまでコーディネーターの味方をするか!ならヴェルデバスターが焼いてくれる!」
「コーディネーターの味方をするナチュラルが一番嫌いなんだよ!」
フルアーマーガンダムの脇腹を狙うようにヴェルデバスターは高エネルギービーム砲を乱射する。先ほどの赤い光だ。
それと同時に青い機体はフルアーマーガンダムの動きを止めるようにビームガンとレールガンを連射する。
「お前らごときがブルデュエルに敵うと思うなよ!」
しかし、さすがはフルアーマーガンダム、4枚のシールドは展開して微動だにせずにいる。
「さっきからコーディネーター、コーディネーターって何なんだ?俺はジャズ好きなだけだっつーの」
「借りは必ず返す!イオ!」
フルアーマーガンダムがヴェルデバスターとブルデュエルの猛攻を防いでいる間にサイコザクはスラスターを吹かして飛翔した。
それを確認したイオはヴェルデバスターを照準に捉える。
「まだ聞いてねぇかもだけど、俺のジャズは致死率100%なんだよ!」
一方のダリルは体制を立て直してブルデュエルと距離をとり、バズーカの雨を浴びせていく。1弾は相手のガンダムの脚部に命中したが、無傷なままだった。ビームバズーカに換装しようとした時にはかなり距離を詰められていた。
「チェック」
ダリルはヒートトマホークでなんとか受け止めるが、急加速しながらビームサーベルで迫ってきたブルデュエルに出力負けし、燃え盛っていた建物に叩きつけられた。ブルデュエルは真上からビームサーベルを串刺しにする勢いで迫っていた。
「死ねぇ!コーディネーター!」
今度こそもうダメだと思った。
が、今度は何もないところから突然黒い機影が現れ、シールドから出たビームサーベルで受け止めていた。
「なんで...なんでなんですか...」
ニコルは泣きながらブルデュエルに呼びかける。
「安心しろ、コーディネーターを全て消したら終わるさ!」
ブルデュエルはブリッツを蹴り飛ばし、手首あたりに格納していたスティレット(ナイフ)をブリッツに投げた。が、程なく蒸発し、追加でミサイルがブルデュエルに降ってきた。シールド2枚で受け止めるも、バランスを崩して後退。
「まさか本当にセッションに来てくれるとは感謝だぜ!」
「こちらこそ、援護ありがとうございます。」
「よそ見するな、くそジャズ野郎!」
ヴェルデバスターがガンランチャーを構えたそのとき、通信が2機宛てに入った。
「コーザ、ミューディー、潮時だ。」
9月11日22時。ニューオーリンズだった場所は夜だというのに炎で昼のように明るかった。この乱戦でD2は全滅こそしたが、その代償として都市が一夜にして壊滅した。ある者はサンダーボルト宙域を彷彿とし、ある者はヘリオポリスを彷彿とした。
「はぁはぁ...義足野郎の言う通り、住民を全員避難させたのは正解だったな...」
2048年9月11日の乱戦は後にJuego de fuegoと呼ばれるようになった。確かに、あまりに危険な火遊びであったことに間違いない。
次回:ダリル・ローレンツ