takt op. 運命という名の巨人/ガンダム 作:Gfish
一方、ブルデュエルの猛攻から難を逃れたサイコザクのパイロット、ダリル・ローレンツは意識を失っていた。
「遂に接触してしまいましたか。」
最初に口を開いたのはボビー・ブラウン指揮官、かつて朝雛ケンジと同じ楽団にいたアフリカ系アメリカ人で、シンフォニカ再建でスカウトされた。タクトとも面識がある。
「はい、被害は甚大ですが、これでニューオーリンズはしばらく黙るでしょう。」
もう1人はモハメド・バシール、傭兵あがりの情報屋だ。
「黙るというより、もとから人口は少なかった。消滅も時間の問題だったのでしょう。」
ボビーは自嘲気味に返す。事実、彼の判断は結果としてニューオーリンズを跡地に変えてしまったのだ。そのままボビーは続ける。
「乱入した2機は...」
「断定は早いですが...差し金とみていいでしょう。情報が間に合ったのが幸いでした。避難も間に合いましたからね。」
モハメドの返答にボビーは小さく頷いて安堵する。そしてボビーは再び口を開く。
「戦端を開いた2機ですが....」
「GAT-X207と共にニューヨークに来てもらいましょう。」
最後に口を開いたのはイオリア・シュヘンベルグ特別監査官だった。30代という若さにしてシンフォニカの事実上のトップの1人である。
ダリルは無いはずの手足を伴って浜に立っていた。ただ静けさに飲まれるのかと思えば瞬く間にジオンの軍服に着せ替えられて1年戦争初期の地上戦に引きずり込まれた。ひたすら走った。走り続け、後方に砲弾が着弾した衝撃で体が浮いたと思えば、今度はノーマルスーツを着用した状態でザクⅠの中にいた。足はなく、間もなくハンドグレネードは至近距離でザクを抑え込んでいたガンダムもろとも巻き込んだ。
光が収まったと思えばダリルは再び浜に立っていた。浜には手も足も失ったダリルの他に傷ついた男にキスをする赤いドレス姿の少女の姿があった。キスをされていた男の大部分が赤く染まっていた。キスが終わると少女はまもなく花が散るかのごとく消えた。
「残酷だが美しいな...」
ダリルはとある曲を思い出そうとした。リビングデッド師団にいたときにラジオで偶然耳にしたラブソングだ。が、その猶予を与えることもなく、突如として緑色の光に包まれる。
視界が開けると、そこには先ほどの少女がいた。しかし、キスをしていた時のような悲しく、でも穏やかな様子はなかった。苦しんでいる。何故だろう、ダリル無意識にカーラを重ねた。
「俺はダリル...君は?」
「う....運....命」
ダリルは口を開こうとしたが、一旦引っ込める。
「あ....アンナ....たす...けて....あ...げ...」
ダリルは倒れこんだ「運命」に駆け寄ろうとした。
「運命!助けるって、何があったんだ!運命!運命!」
「運命!」
ダリルはそう叫びながら飛び起きた。ダリルは義足、義手の両方が外された状態で病室に横たわっていたようだ。夢か、あるいはNT能力による残留思念との共鳴なのか、あるいはニュータイプの呪いとでもいうのだろうか。我を取り戻して目線を右に向けると4人で映っている写真があった。その中の2人はダリルにとって既視感があった。
「運命...君は一体...」
ダリルは気が付いていなかったが、写真にはもう1人の目線が注がれていた。
「あの子はムジカート、ううん、私たちの妹なの。」
ダリルの脳裏に苦しんでいた「運命」が再び浮かび上がる。
「あの子...苦しんでいたんだ...ヴ、ぐはっ!」
鎮痛剤の効果が切れたのだろう、激痛が走ったダリルはたまらず吐血した。「運命」の「アンナを助けてあげて」が脳裏に聞こえる度に呼吸も苦しくなっていく。そこにもう1人の声の主が車椅子を器用に動かしながらダリルを看病する。酸素マスクを装着されたダリルは続ける。
「よくあることです...。リユース・サイコ・デバイスの...はぁはぁ....副作用です....多分....はぁぁぁ....」
吐き捨てるように言葉を出すダリルを余所目に車椅子の女性は処置を続ける。
「私はロッテ。あなたは?」
ダリルは一旦深呼吸する。
「ダリル・ローレンツ、元ジオン...」
「名前だででいいわ。今鎮痛剤増やしてるから、少ししたら気が楽になるはずよ。」
鎮痛剤入りの吸引マスクに取り換えられたダリルはロッテにカーラを重ねたのか、表情は安心しきっていた。
「ところで...ジャズ野郎は...」
「ジャズなら今頃取り調べを受けてるわ。犠牲者が出なかったから見逃されるらしいけど。」
「ムーアの亡霊に説教か...0079年の12月みたいに暴れないといいが...」
ダリルはさらに続ける。
「ところで...今日の日付は?」
「2048年9月13日よ。」
ダリルは小さく頷くとまぶたは閉じ始めていた。
ロッテが再びダリルに目線を向けたときにはすでに熟睡していた。
「ニコル君もだったけど、記憶が残ってるのね...」
イオも同様に記憶が残っていることはアンナから聞いていた。ダリルも回復すればイオと同じく大目玉を食らうことになるだろう。少なくともイオはある種の狂気を隠していなかったらしいが、ロッテの前にいる悲しみを秘めた優しさすら感じるダリルがとても都市を地獄に変える悪魔のようには見えなかった。が、アンナから聞いたイオの言葉を借りれば事実として、「サンダーボルト宙域の再来」にしてしまっている。
気が付けばロッテの目には涙が溜まり始めていた。ダリルは確かに写真を見て「運命」と言っていた。偶然にしてはいくら何でも出来過ぎている。眠りに落ちる前に聞いておけばよかったと小さく漏らす。
「運命、どこにいるの?」
線が切れたように、いつしかロッテも意識が途切れた。
ロッテが起きた時、背中には誰がかけたのか分からない毛布がかかっていた。そして視線も妙に多い。
「まさかの初ボーイフレンド!?おーめでとー!」
アンナに続いて大目玉を食らったイオが続く。
「俺が貧乏くじを引いている間にホットなシーンとは感心しないなぁ、義足野郎。」
ロッテは気付いた。ダリルに自分の上半身が覆いかぶさるように眠っていたことに。
「そういうことですよ、ロッテさん。あ、起きましたよ!」
ニコルがとどめの一撃を放つ。ロッテは顔が真っ赤、思考停止状態に陥った。
一方の目が覚めたばかりのダリルはこともあろうに敵だったパイロットと援護してくれたパイロットが一緒にいること、そして顔が真っ赤になるロッテを見て状況が分からず、ポカーンとしていた。
「おい、義足野郎!まさか...」
「イオさん!」
「わりぃな、ピアノを愛するティーンエイジャーにはまだ早かったな(笑)」
「そういう問題じゃなくて...」
2人の会話を遮るように、ロッテは再びダリルに顔を向ける。
「調子はどう?」
ダリルの表情は柔らかくなった。
次回:ZGMF-X42S Destiny