takt op. 運命という名の巨人/ガンダム   作:Gfish

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Juego de fuegoと呼ばれた乱戦で跡地と化したニューオーリンズは急ピッチで前線基地として再整備されていく。戦端を開いたイオとダリルの内、戦闘後に意識が残っていたイオはダリルの分も含めて大目玉を食らうことに。そこからダリルの容態が回復するまでの紆余曲折である。


セッション

9月12日。

 

「本来なら厳罰に処したいところだが、事前に全住民を避難させ、D2に加えて後から乱入した"MS"とやらの乱戦状態から遠ざけたことを評価し...」

 

イオは背筋を伸ばしたまま立っている。こういうときだけさすがは軍人とでも言ったところだろうか。

 

「今後はアンナ・シュナイダー監視官並びにロッテ・シュナイダー上級研究官の監視の下で行動するように。」

 

どこの馬かも分からないがシンフォニカの制服を着ていることだけは確かな「上の人」はさらに小声でぼやく。

 

「全く、こんな暴れん坊なムジカートなんて前代未聞だぞ!」

 

隣で聞いていたアンナはイオにも見えるようにうなずいていた。そしてイオには丸聞こえだった。内心今からでも拳銃を向けたい気分だったがここは抑える。

 

(人間としても見られてないってわけか...義足野郎に至っては今後が憂えるぜ。)

 

「とにかく、今後は行動を慎んでくれたまえ。君は確か...JAZZだったか。」

 

「はい!」

 

(イオ・フレミングって言った気がするんだけどな...)

 

「適切な処置を施せば無論...」

 

「上の人」の言葉を聞くとアンナはタクトとの「冒険」から培った予知能力が開花した。

 

(やばい...こいつはタクト以上にヤバい...!)

 

「了解であります!かくなる上は適切な処置を施した上で実行致します!」

 

「そういうことだ、後は頼んだぞ、アンナ監視官。」

 

この後イオは真っ先に急ごしらえの自室で机をドラム代わりにしてたたき出した。その音は外にも丸聞こえだった。

 

 

9月13日。

 

イオの部屋をノックしたのは意外な人物だった。

 

「初めまして、元ザフト軍のニコル・アマルフィです。」

 

「お前、ベガスの黒いガンダムか!助かったぜ!」

 

何故ラスベガスの時からいたのが分かったのか気になるところではあるが、そこについては訊く勇気がなく...

 

「ガンダム...僕の機体のコードネームはブリッツですけど?」

 

「名前がどうあれ、あの頭は典型的なガンダムフェイスってやつだ。覚えときな!」

 

ニコルはイオを案内しながら訊く。

 

「ところで、あなたは確か、ガンダムに乗ってましたよね?」

 

「ああ、そうだ。厳密にはフルアーマーガンダムだ。」

 

「ということは連合の...」

 

「近いようだが違うな、連邦だ。」

 

ニコルは耳を疑った。日本語では漢字一文字の違いなので聞き間違いと思えるだろうが、Confederation(連合)とFederation(連邦)となるとそうにはいかない。

 

「つまりだ、俺とニコルは違う世界にいたのに偶然にもMSという共通点があったってわけだ。知らんけど。」

 

「まだ追いつかないんですが....」

 

「どのみちアンナの嬢ちゃんに聞かれることだ、その時に詳しく話すさ。ところで、楽器できるか?」

 

「あなたのジャズ好きならもう有名ですよ!僕でよければピアノ弾けますよ。」

 

「決まりだな。」

 

「駄目ですよ、ちゃんとアンナさんに許可もらわないと...」

 

「大丈夫だ、適切な処置をほどこしてりゃいいんだ、お偉いさんも言ってたぜ?」

 

ニコルが降参のため息をつくと間もなくニコルの部屋に着いた。そこにはアンナもいた。

 

そして長い、長い話が始まる。イオの口からは確かにユニウスセブンもエイプリルフールクライシス、ましてやC.Eも出なかった。代わりに出てきたのは地球連邦政府、ジオン公国、1年戦争、コロニー落とし、ジオン残党狩り、確かにニコルのいた世界ではない。そして、アンナとニコルに固唾をのませたのはやはり...1年戦争末期から戦後にまで及んだ「義足野郎」との終わりの見えない殺し合いだった。

 

「フレミングさん、また殺し合いを続けるんですか?」

 

ニコルの声は打ちひしがれていたかのように力が入っていなかった。

 

「俺以外の奴が義足野郎を殺るのは納得がいかない、それまで休戦だな。」

 

休戦という言葉に心配を隠せないニコルとは対照的にアンナの表情は晴れていた。

 

「その言葉が聞きたかったわ。くれぐれも私の許可なしで再開しないこと、これは上からの命令よ。」

 

こうしてイオはアンナの許可無しにダリルとの決闘はできなくなった。そこは一安心なのだが...。

 

「ところでアンナさん...実はその...」

 

「ニコルをセッションに借りていいか?あいつのピアノの腕はすげぇみたいじゃねぇか。」

 

イオについて嫌な予感を感じていたアンナだったが、まさかあのおとなしいニコルまで乗せられるとは想定外だったようだ。アンナは口を大きく開けるも呆れのあまりに声も出ない。代わりに顔が赤くなっていく。

 

「あの...アンナさん?」

 

「ニコル...義足が起きるまでは我慢して...」

 

アンナの返事にイオはさらにとんでもないことを思いつくのであった。

 

 

そして9月14日。アンナ、イオ、ニコルが揃ってダリルのいる病室に行くと、そう、あの光景だ。イオの言う「ホットなシーン」だ。もし「運命」がいたら包み隠さず爆弾発言を連発したに違いないが、イオとて変わらない。あくまでも言葉を「選んで」いるのだ。それもより誤解を招きやすい方向に。さすがにこれ以上いじるのは止した方がいいと判断したのか、イオもイオで先ほどまでの発言は冗談だったと種明かしをする。その頃にはすでにロッテは落ち着きを取り戻していたが。

 

「ところで、あんたが嬢ちゃんの姉さんか?」

 

「ええ、そんなところね。」

 

ロッテの返事を聞くなり、イオは軍人の目に変わった。

 

「義足野郎を看てくれたことに感謝する。借りは必ず返す。」

 

人が変わったようにかしこまるイオにロッテは気を取り直して言葉を返す。ニコルとアンナは開いた口が塞がらなかったが。

 

「気持ちだけでも受け取るわ。ありがとう、ガンダムのパイロットさん。」

 

「で、早速なんだが義足野郎を借りていいか、ホットなシーンの恩返しをしたそうなんでな....」

 

イオはそう言うと不敵な笑みを浮かべてニコルと共同でダリルを無理やりベッドから引きはがす。

 

「イオ...!貴様!」

 

「一応俺たちには借りがあるんだからな、返してもらうぜ!」

 

「悪く思わないでくださいね(笑)。ちなみに僕はニコル、黒いガンダムのパイロットです。」

 

「おい!どういうことだ!おい!」

 

ニコルとイオがダリルを連行すると病室に残っていたのは開いた口が塞がらなかったアンナとロッテだけだった。

 

「そういえばアンナ。」

 

ロッテは思い出したように口を開いたが、しばらく考えこんで結局撤回した。なんでもなかったとは言うが、実際に何でもなかったわけではない。ロッテの脳裏ではダリルが「運命」と言っていたのが気になって仕方がなかったのだ。

 

「ねぇ、ロッテ。格納庫に行かない?」

 

 

3機のMSが鎮座する格納庫は大いに賑わっていた。

 

「やっぱりこの土地にはドラムですか?」

 

ピアノを弾きながらイオに訊くニコル。

 

「跡地になったとは言え、JAZZの聖地だぜ、当然だ!」

 

イオはドラムの手を緩めない。

 

「ワンテンポ上げるぞ!ついてきてみせな!」

 

「こんなの聞いてないぞ...!」

 

弱音を吐いていたのは一方的にベースを持たされたダリル。

 

「ここで死ぬんじゃねぇぞ、義足野郎!」

 

イオの挑発にダリルに答えるだけの余裕はない。

 

3人のMS乗り(表向きは一応ムジカート)のセッションの観衆にはアンナとロッテもいた。

 

「クラシック派のタクトには合わないかなぁ...」

 

「ニコル君にリクエストすれば?アンナの部屋でいつも弾いてるんでしょ?」

 

ロッテの不意打ちにアンナの顔は赤くなった。ロッテは不敵な笑みを浮かべてさらに続ける。

 

「それはそうと、タクトと運命の次は3人のじゃじゃ馬だけど、気分は?」

 

アンナの顔は風船のように膨らんでいく。

 

「タクトが起きたら根性を叩き直してやるわ。3人にも協力してもらうんだから!」

 

「アンナったらいつの間にしたたかになってたのね(笑)。」

 

「ロッテ姉さんも大胆になったようで...」

 

今度はロッテが赤面した。これが見えたダリルは今にも死にそうな表情から一転、穏やかになった。イオとニコルも見逃さない。

 

「クライマックスですよ!2人ともついてきてくださいね!」

 

ニコルが発破をかけると格納庫は歓声に包まれた。

 

 

 

 

一方、ニューヨーク州北部のバッファローでは2人の少女と2人のパイロットによるセッションの地ならしができつつあった。

 

「そしたら俺たちは君らを乗せてニューヨークに向かえばいいんだな。」

 

「はい、恐れ入りますが宜しく頼みます。」

 

「ワルキューレたんが敬語使ってる!」

 

「タイタン、今日だけで10回目だよ...」

 

トールは届かない声で突っ込みを入れる。

 

「分かった。それではタイタンは俺の機体に、ワルキューレはトールの機体に乗ってくれ。」

 

トールは内心難色を示していたが、現時点で上官であるハイネの言うことには逆らえない。が、同時に難色を示すのも無理はない。

 

(あの人怖かったなぁ...)

 

思い返せばトールにとってワルキューレの第一印象はアークエンジェルにいたとある堅物上官に他ならなかったからだ。が、トールはそれ以上にタイタンのことを気にかけていた。思い返せばそれは彼らとのファーストコンタクトの時のことだった。

 

「そっか...運命たんは本当にもういないんだ...」

 

ツインテールの少女にしてムジカートのタイタンがハイネとDestinyを見たときの最初の一言だった。その後、タイタンは人が変わったように明るく、馴れ馴れしく振る舞っていたわけだが、当のハイネも気づかなかった訳ではない。が、トールの突貫訓練に付きっきりだったのでとても確かめる暇もなかったのである。

 

4人はそれぞれのMSに乗り込んでいく。タイタンとハイネはオレンジ色のDestinyに、トールとワルキューレは花のようなバーニアを背負ったアストレイ・ラフレシアフレームに。

 

タイタンが補助席に座ったことを確認するとハイネは口を開いた。

 

「済まなかったな、あの時は俺の機体の名前が誤解させちまって。」

 

タイタンは空元気で謙遜するが、ハイネはさらに一言加える。

 

「運命のこと、ニューヨークに着いたら聞かせてくれないか。」

 

タイタンの表情は哀しみに入れ替わった。

 

「ハイネたんの意地悪...」

 

「言っておくが、気付いているのは俺だけじゃないんだからな。それに、タイタン。」

 

タイタンは顔をハイネに向けるが言葉は出さなかった。タイタンを見たハイネは一呼吸おいてから再び口を開く。

 

「いや、まずはニューヨークを目指そう。」

 

2機のMSは跡地となっていた都市バッファローから飛翔していった。

 

ハイネは戦場で培ってきた勘から嫌な気配を感じていた。

 

(トールには人殺しはさせたくなかったんだが...)

 

 

 

 




次回:Nervioso

アデレードの戦いで敗れ、処刑された青年は夢の中でとある少女に出会う...。
一方、ニューヨークへ向かっていた一団の中でハイネだけはナーバスだった。ニューヨークまでの道は一筋縄ではいかないのだろうか...。
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