「まさか超兵の素体が宙を漂っていたなんて出来過ぎじゃないですか?」
「きっと人革連の証拠隠滅だろう」
「それにしてもモビルスーツごと放り出すことはないでしょうに」
「とは言え、カタロンに発見されなかったのは幸いだ。アロウズには超兵を適格に運用するだけの器が揃っているからな。」
この会話の声の主にもう1人人物がいた。
(...この会話を聞いたらバナージは怒り心頭になるだろうがな)
もう1人の人物は連邦軍ダゲスタン管区から出向で同行している、というのは表向きのプロフィールで実際はダゲスタン管区が独自に抱えている特殊部隊の隊長だ。
「忘れちゃいないですね、暴走したら即刻始末すると」
「正規軍の臆病者なんぞに言われなくてもそれくらい分かってる」
アロウズの士官は唾を吐きながら暴言を吐く。
アロウズの2人の士官は気付いていないが、ダゲスタンから来た特殊部隊の隊長は気付いていた。
マリーダの意識は戻りつつある。
「超兵マリーダ・クルスは暴走したので直ちに処理する」
隊長によって始末されたのはアロウズの2人の士官だった。
「あまりいい思い出はないと思うが、エコーズのダグザだ。バナージが世話になったと聞いている」
「バナージ...その言い方だとあなたも世話を焼いたようですね」
「まったくだ。とりあえず言い訳は作った。まずはここから出るぞ」
あれから2か月後、マリーダはプトレマイオスでヒッチハイクしている。モビルスーツハンガーではイアン・ヴァスティの興奮が止まらない。
「OSが連邦やアロウズ、人革連、AEU、ユニオンはおろか、ソレスタルビーイングですらない。そもそもアナハイムはどこのどいつなんだ?」
そんなイアンの興奮をよそ目にマリーダはミレイナに連れられて応接室へ向かっていた。
「そういえば青いガンダムのパイロットは?」
「刹那なら今地球に行ったです!」
「そうか...」
「気になるですか?」
「いや、まだ挨拶をしてなかったからな」
マリーダが返事すると応接室のドアは開いていた。そこから沙慈が怪訝な表情で出てきた。どういうわけなのか、マリーダには理由がすぐに分かった。
沙慈がミレイナに連れられて後にすると、ティエリアはため息をついていた。
「あの男はガンダムを憎んでいるのだろう」
「勘が恐ろしく鋭いな、マリーダ。」
「分からなくもないさ、私にもかつてガンダムを憎んでいた時期があったし、やり合った経験もある」
「だとすると申し訳ないことをしたな」
「気にすることはない、私はガンダムに乗ってガンダムとやり合ったこともあるからな」
「それはどういうことだ?」
ティエリアの疲れ切った表情が一気に鋭くなった。
「連邦が最初にガンダムを作ったとすれば」
「それはあり得ない。仮にそうだとすれば我々の武力介入はそもそも成立しなかったはずだ。」
「そのガンダムがGNドライブではなく、核で動いていたとすれば」
「ますます分からないぞ。」
「ちなみにクシャトリアは核で動いている」
ティエリアは頭が痛くなっていた。
「最初は所属から聞こうと思ったが、生まれた最初の時点から聞かせてもらおう。」
「さらに頭が痛くなるが...?」
30分後、ミレイナが応接室に様子を見に行くとポーカーフェイスなマリーダに対してティエリアは放心状態だった。
「ティエリアさん生きてますですか?」
「そっとしておいてやれ」
「用心棒になってくれるのは有難いがスポンサーになってくれとまでお願いしたつもりはないぞ!!」
「アナハイム組合をご利用いただきありがとうございます。」
「契約書にはまだサインしてないからな!!」
一連のやり取りは途中からブリッジにも聞こえていた。
「あーあ、投降したかと思いきやまさかの営業担当だったとはな!」
腹を抱えて笑っているのはラッセ。
「スメラギさんが戻ってきたら怒られそうですね...」
もう一人の声の主はフェルト。
その頃、ハサウェイの姿は月面開発局跡地にあった。
「事後報告で申し訳ない、マリーダは今ヒッチハイク中でね」
「ヒッチハイクならバナージの得意分野だな(笑)。」
「ダグザ中佐!」
ヘンケン艦長は頭を抱え込んでいた。
「彼女は確かに優秀なパイロットだが...」
「なぁに、彼らが頭を痛めていればそれでいい。」
「なぁにが頭を痛めていればいいだ!こっちの頭も痛いんだからな!」
割って入ってきた声の主はギルボアだった。
「お、マリーダから「ソレスタルビーイング 頭痛」と来てるぞ。ハサウェイの狙い通りになったな」
ダグザの一言にヘンケン艦長はため息をもらすしかなかった。
それをよそ目にハサウェイは口を開く。
「ダグザさん、マリーダが見つかった収容施設には確か...」
「ああ、他にも超兵と思われる人間がいた。どうもそいつがガンダム乗りだったらしい。」
「捕虜として扱われていたのだろう?」
「そうだ。」
「なら決まりだな、これはトライアル特典だ。」
「サインもないのに羽振りのいいこった」
ギルボアはあきれ顔から笑顔に変わっていた。
「ダゲスタンの連邦にも口外しないよう伝達しておく。今時アロウズの下請けに成り下がっていないのはダゲスタンくらいだからな」
「報告じゃなくて伝達ね、さすがは中佐だ。」
忘れてはいけない、ダグザは一応連邦ダゲスタン管区の特殊部隊の中佐であることを。
第5話:ダブルオーガンダム起動