一方、地球へ向けて先行していたアルビオンはハサウェイらを乗せてカスピ海沿岸のカスピスクで補給を受けることになった。
「ダグザ・マックール、ただいま帰投いたしました!」
「いつもグレーな任務ばかりですまない、それはそうと座りたまえ。」
2人は相対するようにソファにかける。
「本当のところ、ダゲスタン管区の司令は君の方が適任だと思うんだけどね。」
「恐れ入ります。しかし、私には現場の方が相応しいと感じております。」
そうかと少し間をおいて司令が発言する。
「思えば2年前か?トルクメンバシで君が打ちあがっていたのを拾ったのが全ての始まりだったな...」
思い出話を始めたのはアリ・ビダバディ、カスピ海南岸のラムサール出身のダゲスタン管区の司令官だ。ダグザをカスピ海東岸のトルクメンバシで拾ったのは彼が少佐のときだった。当時は中東地域を中心に治安が急激に悪化し、中でもカスピ海西岸から黒海沿岸部までのコーカサス地域はクルジスに勝るとも劣らない最悪クラスだった。資源こそ豊富だったが複雑な地形によって様々なテロリストの隠れ家にもなっていた。中でも厄介だったのがカタロン崩れと呼ばれる過激な分派で、たとえ民間人であろうと、連邦に敵意を抱かない人間は全て殺戮対象と掲げていた。
拾った当時からダグザは見慣れないとはいえ、隠密仕様とみえるノーマルスーツから軍人であると勘づいていたアリは独断で傭兵として契約、エコーズで培ったゲリラ戦術と隠密な制圧戦のノウハウがフルに引き出されたことでコーカサス地域を事実上牛耳っていたカタロン崩れの駆逐に成功した。正規軍が1年かかっても落ちなかったところをたった2週間で落とし、その初戦が現在基地の置かれているカスピ海西岸のカスピスクだった。
「正直、最初に見たときはここのMSの脆さにびっくりしましたよ。RPGでもあっさり打撃を加えられましたから。」
確かに、当時のカタロン崩れの主力はイナクトが中心だったので無理もない。ジェガンに比べればあれは生身の人間であっても仕留めるのは不可能ではない。もちろん、これはエコーズであればの話だが。ティエレンもそれなりにいたが、それは拠点を制圧したついでに強奪したイナクトで処理した。最終的には偶然見つかったアンクシャに乗り換えたが。
「いやいや、連邦に君のような生身でMSを仕留められるような人材はいないよ。」
「しかし、まさか正規軍にあっさりスカウトしてもらえるとは思いませんでしたよ。」
「連邦軍のポストがあると何か便利だろう?」
「確かにカタロンにいればアンクシャの量産はまずあり得なかったでしょう。」
「それに、コーカサス一帯を平定した。我々のテリトリーでガス抜きしようとしたアロウズ崩れに至っては1人残らずテロリストとして抹殺した。これなら連邦は口を出せないさ。例え協力関係にある組合さんがカタロンに流していたとしてもな」
「まるで我々が連邦の人間ではないかのような物言いですな。」
「なぁに、現に君の部隊は君のような漂流者の隠れ蓑になっているだろう?」
「それを言うなら組合もですよ。まぁ、ハサウェイもあなたが拾ったおかげですが」
「全くだ。さて、ハサウェイ、いや、マフティーは何と言っている?」
「例の機体はしばらく表には出さないといっています。」
「だろうな、連邦がガンダムを持つなんぞスキャンダルもいいところだ。」
「ただし、肩書を塗り替えればアロウズをはじくこともできると。」
「ソレスタルビーイングも視野に入れているのであろう?」
「ソレスタルビーイングについては彼の意向でマリーダ中尉の派遣、それと、東アフリカの秘密収容所の件を提供しました。」
「返事は来たのか?」
「戦術予報を待たれたし、です。」
「承知した。それまでにテストできる機体は一通りテストさせよう。ところでアルビオンで眠ってたバイアランは使えるようになったのかね?」
「いけます。アンクシャのテストに同行するつもりであります。」
「仕事がいつも早いなぁ、休めるときは休むんだぞ。」
「ヘンケンやギルボアからもよく言われますよ(笑)。一番休んでいるとは程遠いのはマフティーとマリーダですがね。」
「そうだ、マフティーは今どうしてる?」
「アラビア半島に見込み客がいると言ってたな」
「そうか、時間かけて済まなかったな。皆にも今は休むよう伝えておいてくれ。」
「皆あなたに拾われた命です、無駄にはしませんよ。」
ダグザが司令室から退出するとそこにはマフティー、いや、ハサウェイの姿があった。
「本来なら民間人、ましてや連邦に歯向かう人間がいるところではないんだがな。」
「そんなこといったら俺のような漂流者はこの世界の部外者さ。それに、ここは結局グルなんでしょ。」
「返す言葉もないな。それで、ここにいるからには何かあったということだな。」
「ああ、例の収容所なんだけど、マリナ・イスマイール皇女も収監されててね。」
「逮捕されたというニュースなら以前流れていたが、まさか強化人間研究用の収容所だとはな。事実上の国家元首ともあろう人にこのような待遇とはますます軍規違反だな。」
「さらに聞いて驚け、その皇女は俺らが漂着する前にソレスタルビーイングのパイロットと接触したことがある。これはアザディスタン筋だ。」
「なるほど、それでアロウズが危険視しているからいっそのこと思想ごと人体改造しようというわけか。ますます我々に接収する口実が揃ってきたな。」
「そこまでは分からないけどね。とは言え、連邦政府自体は支持されていないし、アロウズが食いついてくる以上保護もしたくはないだろう。」
「全く、ブライト司令にはない狡賢さはもっと売り込んでいいと思うぞ。」
「決まりだな。」
ハサウェイ達一行がカスピスクで補給を受けている間、プトレマイオスには新たに2機のガンダムが加わっていた。その内の片方には新たにパイロットも加わったのだが、そのパイロットというのはカタロンのメンバーでもあり、デュナメスのパイロットと瓜二つの弟でもあった。パイロットとは別に戦術予報士も刹那によって半ば強制的に連れ戻されたが、自分の部屋から出る様子はない。が、戦術プランは着々と構築されていた。
マリーダはというとイアンと共にモビルスーツデッキにいた。
「これで重力下でも使えるようになる。ダブルオーの予備パーツがまさかここで役に立つとはなぁ」
「恐れ入ります。返す借りが増えました。」
「そう気にすることはないさ、俺らの弾幕の張り方がうまけりゃあんたを戸惑わせることもなかった。俺たちを守ってくれてありがとうな!」
マリーダを励ますイアンだったが、マリーダの脳裏にはあの時の光景が再生されていた。
(それにしてもダブルオーガンダムから出ていたあの光は何だったんだ...)
「そういえば戦術予報士は...?」
「今はそっとした方がいい」
マリーダはすぐに察した。
(バナージも最初はそんな感じだったな)
そこにティエリアも駆けつけてきた。
「スメラギから送られてきた。うまく使うといい。」
「感謝する。それと、他のパイロットは?」
「生憎今は手が空いて無くてな。だが1時間後のブリーフィングで顔合わせはさせる。」
「部外者だというのにすまないな。」
「契約書にサインしたからにはしっかりと用心棒になってもらうからな。」
そう、マリーダの営業は見事に成功していたのだった。
次回:奪還・接収