そして、収容所にいるパイロットの奪還に向けて作戦は動き出す...。
「例の組合からの情報に加えて、王(ワン)の筋から収容されている区画も分かった。」
ティエリアのプレゼンを聞きながらマリーダは思考を巡らせていた。
(なんだかんだでソレスタルビーイングの情報屋も伊達ではないということか)
作戦としてはざっとこんな感じだ、ダブルオーは突撃をかけて収容所に侵入、アレルヤを解放。その間はセラヴィーとケルディムが敵を蹴散らす。さて、クシャトリヤはどうする。
「マリーダなんだが、刹那が突撃したらファンネルで網を張ってほしい。回収が終わたら組合への連絡も頼む。」
「そういや、マリーダもソレスタルビーイングの新入りか?」
声の主はライル・ディランディ、ケルディムのパイロットだ。そういうのも無理はないだろう、何せ彼女だけプトレマイオスクルーのユニフォームをつけていなかったのだから。実際のところ沙慈もつけていないが。
「まだ言ってなかったな。彼女は組合の人間だ。お前よりかは長くここにいるがな。」
「心強いねぇ、ちなみに俺はライル、ライル・ディランディだ。背後は任せときな。」
「彼はもともとカタロンにいたが、俺が連れてきた。そういえば俺もまだだったな、刹那、刹那・F・セイエイだ。この前の援護は助かった。」
「こちらこそ宜しく頼む。あの収容所は私とて因縁が浅くはないのでな。」
(また戻ってくるのか...それにしてもまさかジーン1がガンダムに乗り込むとはな...)
「ブリーフィングは以上だ。アレルヤを絶対に取り戻すぞ。」
ブリーフィングが終わるとマリーダはライルのところに歩み寄り、小声で一言。
「久しぶりだな、ジーン1。」
「最初は冗談抜きで別人かと思ったぜ。」
アルビオンはインド洋上で待機、ここでもブリーフィングは行われていた。発表者はダグザだった。
「本作戦は連邦の軍規を破った収容所の接収であるが、その前座にソレスタルビーイングとカタロンを使う。」
ここでハサウェイが変わった。
「第1段階としてソレスタルビーイングのガンダム部隊がかく乱する。事前に提供した情報に沿ってその間に収容されているパイロットも奪還する。マリナ姫についてはカタロンかソレスタルビーイングのいずれかが回収するので、ソレスタルビーイングが戦域を離脱するまで待機。ソレスタルビーイングが公海に脱したらバイアランを先頭にアンクシャの編隊で急襲、制圧する。」
話し手はダグザに戻った。
「そういうことだが、質問は?」
手が挙がったのでダグザは頷いて許可する。
「これはつまり...テロリストとの共同作戦みたいに思えるのですが...」
発言したのはアンクシャのパイロットを務めるヨナ・ハイネセン。元々はアロウズにいたが、えん罪ではないかと疑った捕虜の扱いを巡って上官と揉めたことが原因で正規軍に戻され、ダグザにスカウトされてここに至る。アンクシャのパイロットの中ではリーダー格にあたる。
ヨナの質問にはハサウェイが代わりに答えた。
「その懸念は大いに理解できます。何しろ、本作戦はいわゆるテロリストがいてくれないと成立しない作戦だからです。」
ブリーフィングルームはざわついた。無理もない、ダグザの部隊はこれまでグレーな任務をこなしてきたが、ソレスタルビーイングとの事実上の共同作戦は前代未聞だったし、これまでの経緯も「漂流者」以外のパイロットには殆ど知らされていなかった。
「しかし、標的の収容所が軍機違反を犯しているのも確かです。であれば、まずは彼らに荒らすだけ荒らしてもらって、時間差でテロリストの排除と接収を行います。」
そこにヨナが挙手する、アンクシャのパイロット陣を代表するように。
「しかし、その頃にはもういませんよね?」
今度はダグザが回答する。
「そう、テロリストの排除を行おうとしたが手遅れだった、というのが今回の筋書きだ。ヨナ中尉、つまりあれだ。」
「なるほど、アロウズを脅すわけですね!」
そう、ヨナは連邦軍人とはいえ、アロウズを大いに嫌っていた、いや、憎んでいた。上官と揉めた原因となった捕虜は彼の唯一の肉親だったのである。そして持病持ちにも関わらず治療を拒まれ、独房の中で息だえた。
「他に質問がなければ解散する。各員健闘を祈る!」
パイロットたちは一斉にMSデッキへ向かった。その中にはハサウェイの姿もあった。ヨナもさすがに気になったので話しかける。
「あなたも出撃するんですか?」
「人手が足りないんです、居候させてもらっている以上役に立ってみせますよ。副隊長殿。」
「ダグザ中佐のおかげですよ、組合長殿。」
ヨナはかつてダグザが乗っていたオリジナルの緑色のアンクシャに、ハサウェイは試験量産された方のアンクシャ初号機に乗り込む。カラーリングは正規軍仕様のGN-XⅢに準じている。そこにダグザから通信が入る。
「今頃遅いだろうが、組合長自らが出ることもないんじゃないか?ギルボアがやる気満々だったというのに。」
「駄目ですよ、操舵手はもっと貴重なんですから。」
「返す言葉もないな。とりあえず君の新しい取引先が暴れてくれるのを待とう。」
今度はモニターにヘンケン艦長が映りこむ。
「マリーダから通信が入った。ソレスタルビーイングはまもなく戦闘予定空域に到達する。各員、間違えてもソレスタルビーイングのガンダムとカタロンとは戦闘状態にならないように。繰り返す、ソレスタルビーイングとカタロンには喧嘩を売るな。喧嘩を売ってきたアロウズのメンツを徹底的に叩き潰すぞ!」
(そうか、そういえばヘンケンさんが親父をエゥーゴに呼んだんだっけな...)
モニターはダグザに切り替わる。
「各員、ソレスタルビーイングの撤収を確認してからの出撃だ。万が一接触することが見込まれる場合、私の機体から通信を送る。つまり、手出し無用ということだ。」
一方の収容所では建物の1階部分が波に飲まれていた。プトレマイオスが海に突進したことによる人口津波で、地上に配備されていたティエレンは使い物にならなくなっていた。一方の赤いGN-XⅢは浮遊できることが幸いして波には飲まれなかった。建物に向かってくるのはダブルオーとセラヴィーの2機、数で勝る赤いGN-Xは2機を囲もうとするが四方八方からくる緑色とピンクのビームで墜ちていく。しかし、赤いGN-Xには狙撃手が見えない。厳密には片方は遠隔操作によるものなのだが。
赤いGN-Xの動きが乱れたと見るや否やダブルオーは急降下。
「うぉぉぉぉぉ!」
ダブルオーは勢いよく建物にぶつかり込む。マリーダのいた世界のMSならこれは特攻以外の何物でもない。
「まさかとは思ったがそのまさかだったな...」
そして気を取り直す。
「刹那、ファンネルで網を張っておく。クシャトリヤのIフィールドも使える。マリナ姫も連れてこい。」
「ティエリアからも言われた、感謝する。お前も無理はするな。」
ダブルオーの背後にクシャトリヤが着地したことを確認して刹那はコックピットを後にした。
赤いGN-Xは的となった2機に狙いを定めたがファンネルでハエたたきのごとく落とされていく。
無論、セラヴィーとケルディムもいる。ケルディムはしびれを切らしたように空中に舞い上がる。
「マリーダ、くれぐれもパワーダウンはよしてくれよ。俺が狙い撃つからよ。」
「それならブリーフィング後にティエリアにも言われてる。それに刹那にも言われたばっかりだ。」
「お節介だったかな。」
「いや、恩に着る。」
そんなマリーダはただならぬプレッシャーを感じていた。
(例の超兵がいると厄介だな...)
「マリーダから収容所の侵入に成功したと連絡が入った。これより手筈通り、俺のバイアランが先行する。アンクシャは俺の指示があるまで待機だ。」
ダグザはさらに続ける。
「なお、今回は超兵との交戦も想定される。アロウズの機体のラインナップからしてアヘッドだろう。」
ハサウェイが割り込む。
「アヘッドの相手は俺なんだな。」
「そうなるな。」
「了解。」
「気を付けてくださいね、組合長殿。」
「期待に応えて見せますよ、副隊長殿。」
なお、ハサウェイは「漂流者」と組合の人間以外には基本的に敬語で接する。以前のクライアントで接触したパイロットは例外だが。
「ダグザ・マックール、バイアラン・カスタム、発進する!」
バイアラン・カスタムは大海原を軽々と高度を上げながら滑空していった。偶然にもその機体のカラーリングも連邦正規軍仕様のGN-XⅢに準じていた。
こうして連邦ダゲスタン管区の特殊部隊、エコーズによる接収作戦も開始された。
次回:アレルヤ・ハプティズム