カードファイト!! ヴァンガード -隻眼のPSYクオリア-   作:キシヨウタ

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 タグ:残酷な描写



秘めし過去/記憶の先に

 ミサキは今、戸惑っていた。

 それは友人であるアイチから、予想もしない言葉が出てきたからだった。

『ぼくが勝ったら、『チームQ4』を辞めて下さい。』

 まさかアイチが、そんな言葉を口にするなんて。

 あまりの事に身動きが取れないでいると、アイチが話を再開する。

 

「…今のミサキさんは、とても不安定な状態です。そんな人がチームにいたら、全体の士気にも関わる。なので、ぼくに負ける様ならチームから出て行って欲しいんです。」

 

 微笑みながら、はっきりとそう言った。

 

「…本気で言ってんの?」

 

「はい、もちろん。」

 

 笑顔を崩さないアイチの一方で、ミサキの目つきは段々と鋭さを増していく。

 

「…つまり自分から出て行くか、それとも追い出されるかの違いって訳…?」

 

「解釈はお好きな様に。」

 

 アイチがどういうつもりでこんな事を言っているのか計りかねるが、要するに彼は自分に対して喧嘩を売っているのだ。

 そう解釈したミサキは、アイチの提案を受ける。

 

「…いいよ、その挑発に乗ってあげる。」

 

「ありがとうございます。…ああでも、今日デッキを持ってくるの忘れちゃって。」

 

「…ハァ⁉︎」

 

 ファイトをしに来たというのに、デッキを忘れるとは。

 ふざけているとしか思えないその態度に、ミサキは益々苛立ちを募らせる。

 

「えっと…、そうだ!今回はお互いにこれで戦いましょう。店長、使ってもいいでしょうか?後で代金も払いますので。」

 

 アイチが手に取ったのは、カウンターに置いてあった構築済みデッキの『黄金の機兵』と『桜花の姫巫女』だった。

 その使用の許可を得るために、先程から事態を静観していた店長のシンに話しかける。

 

「…いいですよ。それとお金の方も、後でデッキを返してくれれば大丈夫ですから。」

 

「ありがとうございます、店長。」

 

 快く承諾してくれたシンにお礼を言うと、箱を開封してデッキを取り出す。

 アイチが『桜花の姫巫女』を手に取ったので、残った『黄金の機兵』をミサキが使う事になり、ファイトテーブルの前に着いてそれぞれ準備を始める。

 

『どういうつもりか知らないけど、絶対に勝つ…!』

 

『……。』

 

 互いの思いが交錯する中、ファイトが始まる。

 

「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」

 

「《バトルライザー》!」

 

「《ロゼンジ・メイガス》!」

 

「私の先攻、ドロー。《オアシス・ガール》にライド!《バトルライザー》は左後列に移動し、ターンエンド。」

 

 ミサキの手札・5枚

 V・《オアシス・ガール》(G1、パワー7000、能力)

 R・左後列《バトルライザー》(G0、パワー3000、能力)

 

「ぼくのターン、ドロー。《バトルシスター めーぷる》にライド!《ロゼンジ・メイガス》は中央後列に移動。さらに《ダーク・キャット》を左前列にコールして、バトル!《ダーク・キャット》で…、」

 

「待ちな。」

 

 アイチが攻撃しようとすると、ミサキが《ダーク・キャット》を指で刺して、

 

「…登場した時、オラクルシンクタンクのVがいれば全てのプレイヤーが1枚ドロー出来る。」

 

 と指摘する。

 

「ああ…、すみません。初めて使うので忘れてました。じゃあ能力で、お互いに1枚ドロー。」

 

「……。」

 

「それじゃあ改めて、バトル!《ダーク・キャット》でVをアタック!」

 

「ノーガード。ダメージチェック、《叫んで踊れる実況 シャウト》…トリガーなし。」

 

「《めーぷる》でVをアタック!手札が4枚以上なので、パワー+3000!」

 

「ノーガード。」

 

「ドライブチェック、《ラック・バード》…トリガーなし。」

 

「ダメージチェック、《Mr.インビンシブル》…トリガーなし。」

 

「ターン終了です。」

 

 アイチの手札・6枚

 V・《バトルシスター めーぷる》(G1、パワー6000、能力)

 R・左前列《ダーク・キャット》(G1、パワー7000、能力)、中央後列《ロゼンジ・メイガス》(G0、パワー3000、能力)

 

 ミサキのダメージ・0→2

 手札・5→6

 

「それにしても、発売して間もないカードの能力をもう記憶しているなんて、流石ですね。」

 

 再びミサキを刺激する様なセリフを言うアイチ。

 しかしミサキはこれを無視し、自分のターンを進める。

 

「…私のターン、ドロー。《超電磁生命体 ストーム》にライド!さらに左前列に《NGMプロトタイプ》、右前列に《バターリング・ミノタウロス》、中央後列に《オアシス・ガール》をコールして、バトル!《オアシス・ガール》でVをアタック!」

 

「ノーガード。ダメージチェック、《オラクルガーディアン ワイズマン》…トリガーなし。」

 

「《オアシス・ガール》のブースト、《超電磁生命体 ストーム》でVをアタック!」

 

「ノーガード。」

 

「ドライブチェック、《デスメタル・ドロイド》…トリガーなし。」

 

「ダメージチェック、《オラクルガーディアン アポロン》…トリガーなし。」

 

「《プロトタイプ》でVをアタック!」

 

「《ラック・バード》でガード!」

 

「ターンエンド。」

 

 ミサキの手札・4枚

 V・《超電磁生命体 ストーム》(G2、パワー9000、能力)

 R・右前列《バターリング・ミノタウロス》(G1、パワー6000、能力)、左前列《NGMプロトタイプ》(G2、パワー8000、能力)、左後列《バトルライザー》、中央後列《オアシス・ガール》(G2、パワー7000、能力)

 

 アイチのダメージ・0→2

 手札・6→5

 

「ぼくのスタンド&ドロー。《ソードダンサー・エンジェル》にライド!《ダーク・キャット》を後列に移動し、もう1枚の《ソードダンサー・エンジェル》を左前列にコール。バトルだ!《ダーク・キャット》のブースト、Rの《ソードダンサー・エンジェル》でVをアタック!」

 

「《キャノン・ボール》でガード!」

 

「《ロゼンジ》のブースト、Vの《ソードダンサー・エンジェル》でVをアタック!」

 

「ノーガード!」

 

「ドライブチェック、《花占いの女神 サクヤ》…トリガーなし。」

 

「ダメージチェック、《ゴールド・ルチル》…トリガーなし。」

 

「ブーストした《ロゼンジ》を山札に戻し、ターン終了。」

 

 アイチの手札・5枚

 V・《ソードダンサー・エンジェル》(G2、パワー8000、能力)

 R・左前列《ソードダンサー・エンジェル》、左後列《ダーク・キャット》

 

 ミサキのダメージ・2→3

 手札・4→3

 

「…そういえば、私が勝った時の事を決めてなかったよねぇ…。」

 

 と、今度はミサキの方がアイチに挑発的なセリフを吐く。

 それに対してアイチは、

 

「…ミサキさんが好きに決めて良いですよ。そのままチームを辞めるでも、チームに残るでも。…あるいは、ぼくをチームから追放するでも。」

 

 さらに挑発的な態度で返した。

 

「そう…。それじゃあ、アンタの望み通りにしてあげる…!スタンド&ドロー!《デスメタル・ドロイド》にライド!《ミノタウロス》を後列に移動して、《ストーム》を右前列にコール!バトル!《バトルライザー》のブースト、《プロトタイプ》でVをアタック!《バトルライザー》の能力でパワー+3000!」

 

「ノーガード。ダメージチェック、《ラック・バード》…トリガーなし。」

 

「《オアシス・ガール》のブースト、《デスメタル》でVをアタック!《デスメタル》の能力、CB1でパワー+3000!」

 

「ノーガード!」

 

「ツインドライブ‼︎ファーストチェック、《クイーン・オブ・ハート》…トリガーなし。セカンドチェック、《バトルライザー》…醒トリガー!パワーは《ストーム》、《プロトタイプ》をスタンド!」

 

「ダメージチェック、《お天気お姉さん みるく》…トリガーなし。」

 

「《ミノタウロス》のブースト、《ストーム》でVをアタック!」

 

「ノーガード!ダメージチェック、《ロゼンジ》…治トリガー!パワーはVの《ソードダンサー・エンジェル》に、そしてダメージ1回復!」

 

「…《ストーム》の攻撃がヒットしたので、ダメージを1枚表に。《プロトタイプ》でRの《ソードダンサー・エンジェル》をアタック!」

 

「《ドリーム・イーター》でガード!」

 

「《バトルライザー》を山札に戻して、ターンエンド。」

 

 ミサキの手札・4枚

 V・《デスメタル・ドロイド》(G3、パワー10000、能力)

 R・右前列《超電磁生命体 ストーム》、右後列《バターリング・ミノタウロス》、左前列《NGMプロトタイプ》、中央後列《オアシス・ガール》

 

 アイチのダメージ・2→4

 手札・5→4

 

「…楽しいですね、ミサキさん。」

 

「楽しい…?」

 

 治トリガーを引けなければダメージ5。

 控えめに言って追い詰められている状況でも、アイチはそう言ってみせた。

 

「そうです。勝っていても、たとえ負けそうでも、ヴァンガードは楽しいもの。そしてそれは、ヴァンガードに限らないと思うんです。」

 

「…?」

 

「…ミサキさんの過去を、聞きました。」

 

「ッ!シンさん…!」

 

「店長を責めないで下さい、ぼくが無理矢理聞き出した様なものですから。」

 

 シンを睨みつけるミサキを宥めて、話を続ける。

 

「…櫂くんが言ってました、『過去なんて誰にでもある』って。そしてこうも言ってました、『それをいつまでも自分の弱さの理由にするのは、ただの甘えだ』。…ぼくも、そう思います。」

 

 …その時、ミサキの中で何かが切れた。

 

「…アンタに、私の何が分かるの‼︎」

 

「……。」

 

「お父さんとお母さんは死んだ!その時の事をずっと憶えてる!どんなに辛い事も、苦しい事も決して忘れられない…。それがどれだけ、私を…!」

 

「…分かりますよ、ミサキさんの気持ち。」

 

「適当な事言わないで、アンタに分かるわけない‼︎」

 

「分かります‼︎」

 

「…ッ!」

 

 突然声を荒げたアイチに驚き、言葉を詰まらせる。

 

「…分かりますよ。ぼくにも、忘れたくても忘れられない過去がありますから。」

 

「……?」

 

 そう言うとアイチはぽつり、ぽつりと自らの過去を語り出す。

 その表情は暗く、しかし決意に満ちた顔だった。

 

「…ぼくが昔、いじめられていた事は知っていますよね?」

 

「…ええ。アンタが初めてうちの店に来た時、櫂と話してたのを聞いてたから。…でもアンタは、その時櫂と出会って…。」

 

「はい。櫂くんから《ブラスター・ブレード》を貰って、ぼくの世界は変わりました。希望を持てる様になったんです。…でも、それが彼らの気に触ったんでしょうね。ぼくに対する行為は、さらにエスカレートしていった。」

 

「……。」

 

「…ある日、廃工場に呼び出されたぼくは、そこでいつもの様に数人から暴力を振るわれました。するとリーダー格の少年に髪を掴まれ、階段の前まで連れて行かされて、そこから突き飛ばされました。階段は五、六段くらいのものだったので、彼も大事にはならないと思ったのでしょう。…でも、落ちた場所が悪かった。」

 

 すると、アイチは耳にかけた眼帯のゴム紐に指を入れ、ゆっくりと外す。

 

「……ッ!」

 

 眼帯に覆われていた場所には、大きな傷があった。

 穴を思わせるその傷は、出来た当時を彷彿とさせるほど生々しいものだった。

 右目を瞑ったまま、再び話し始める。

 

「…突き飛ばされた先には鉄筋が飛び出したコンクリート片が落ちていて、ぼくはそこに、顔面から落ちた。」

 

「……。」

 

「恐怖のあまり目を瞑っていたぼくは、最初何が起きたのか分からなかった。だけどぼくをいじめていた彼らの慌てて逃げる声がして、ようやく自分がどうなっているのかを理解しました。鉄筋は瞼を貫通して、そのまま右目を抉っていたんです。」

 

 淡々と、語っていく。

 

「…理解した途端に、顔に激痛が走りました。痛くて痛くて、泣き叫んで暴れていたら、「ブチブチッ」という嫌な音と共に鉄筋が抜けたんです。血と涙でぐちゃぐちゃになった顔でさっきまで目に刺さっていた鉄筋の方を見ると、その近くに『白い小さな塊』が落ちているのを見て、ぼくは気を失いました。」

 

 瞼の傷を撫でる。

 

「気がつくと、病院のベッドの上で寝ていました。ぼくが目を覚ますとお母さんが泣きながら抱きしめてきて、その時ぼくの顔の右半分を、包帯が覆っている事に気づきました。…包帯の上から顔に触れると、失ったものの事を改めて思い知らされました。」

 

 アイチがゆっくりと瞼を開ける。

 そこには綺麗ではあったが、生命の宿っていないアクリル樹脂製の眼球があった。

 

「右目があった所には義眼を付けていますが、瞼の傷もあるので、普段は眼帯をしています。」

 

「……。」

 

「その後、ぼくをいじめていた子たちは全員転校して、ぼく自身もその少し後に転校しました。」

 

 そこまで話し、眼帯を付け直す。

 アイチの身に起きた悲劇を知り、ミサキは言葉を失う。

 そして理解した。

 なぜヴァンガードをした事のない自分が、あの時ファイトをしようなどと彼を誘ったのかを。

 

『同じ、だったんだ…。』

 

 ミサキは不慮の事故で両親を失い、アイチは凄惨ないじめの結果右目を失った。

 当たり前にあったものを突然奪われたという共通点が、二人にはあった。ミサキはその事を心のどこかで感じ取ったから、あの時のアイチを放っては置けなかったのだ。

 

「…とても辛くて、苦しくて、誰にも話せないし理解もされない。そう思ってました…。でも辛い事、苦しい事だけじゃなかったんです。」

 

 アイチの顔に再び笑顔が戻る。

 

「いじめられていた時も、右目を失った時も、家族はぼくに優しく接してくれた。皆で出かけたり、話をしたり、遊んだり…。楽しい思い出をいっぱい作ってくれたんです。」

 

 本当に楽しそうに、嬉しそうに話す。

 

「ミサキさんはどうですか?思い出すのは、辛い事だけですか?苦しい事だけですか…?」

 

「えっ…?」

 

 突然の問いかけに、ミサキは上手く答えられない。

 そんなミサキの様子を見てアイチは、

 

「…ファイトの途中でしたね。ぼくのスタンド&ドロー。」

 

 と、ファイトを再開する。

 

「《花占いの女神 サクヤ》にライド!能力でRを全て手札に戻し、左右前列に《ソードダンサー・エンジェル》、左後列に《ダーク・キャット》をコール!《ダーク・キャット》の能力でお互いに1枚ドロー。カードを引いたので、《ソードダンサー・エンジェル》のパワー+1000!さらに右後列に《オラクルガーディアン ジェミニ》、中心後列に《みるく》をコール!」

 

 Rを全て埋め、盤面を整える。

 その間にもミサキは、先程アイチに言われたことをずっと考えていた。

 

『辛かった事、苦しかった事以外の記憶…。』

 

「思い出して下さい、ミサキさん!…バトル!《ダーク・キャット》のブースト、左の《ソードダンサー・エンジェル》でVをアタック!」

 

「…ッ!ラ、《ラウンドガール クララ》でガード!」

 

 アイチの攻撃に、なんとか反応する。

 しかしその手つきはあまりおぼつかない。

 

「ご両親と過ごした楽しかった日々を、思い出して!その時のご両親は、笑顔だった筈です。…あなたも、笑顔だった筈です!…《みるく》のブースト、《花占いの女神 サクヤ》でVをアタック!」

 

「ノ、ノーガード…。」

 

「記憶の中のご両親を笑顔に出来るのは、ミサキさん。あなたしかいないんです。…あなたになら出来るんです!…ツインドライブ‼︎ファーストチェック、《オラクルガーディアン ニケ》…☆トリガー!パワーは右の《ソードダンサー・エンジェル》に、☆は《サクヤ》に!セカンドチェック、《ニケ》…☆トリガー!右の《ソードダンサー・エンジェル》にパワー、《サクヤ》に☆+1!」

 

 ━━ 思い出せ、戸倉ミサキ‼︎

 

「…ダメージチェック、《プロトタイプ》…トリガーなし。セカンドチェック、《Mr.インビンシブル》…トリガーなし。」

 

 これでミサキのダメージは5。

 追い詰められ、次のダメージをめくる手が止まる。

 しかし、それは敗北を恐れての事ではない。

 アイチの心からの叫びが、彼女の今まで封印してきた記憶を呼び起こしたのだ。

 

『そうだ…。私は、憶えてる…。』

 

 お父さんとお母さんが、楽しそうにファイトをしていた事。

 それを見て、私も笑っていた事。

 カードを憶えたら、二人が褒めてくれた事。

 ヴァンガードの世界は広くて、どこまでも楽しいと教えて貰った事。

 

『お父さんが、私のためにデッキを組んでくれた事…。』

 

 ━━全部、全部憶えてる…!

 

「…サードチェック、《ラウンドガール クララ》…治トリガー…!Vにパワー+5000、そしてダメージ1回復!」

 

「…まだ攻撃は残ってます。《ジェミニ》のブースト、右の《ソードダンサー・エンジェル》でVをアタック!トリガーとブースト、合わせてパワー27000!」

 

「《バトルライザー》でガード!さらに《プロトタイプ》のインターセプト!《プロトタイプ》の能力でシールド+5000!」

 

「…ターン終了。」

 

 アイチの手札・4枚

 V・《花占いの女神 サクヤ》(G3、パワー10000、能力)

 R・右前列《ソードダンサー・エンジェル》、右後列《オラクルガーディアン ジェミニ》(G1、パワー8000)、左前列《ソードダンサー・エンジェル》、左後列《ダーク・キャット》、中央後列《お天気お姉さん みるく》(G1、パワー6000、能力)

 

 ミサキのダメージ・3→5

 手札・4→3

 左前列《NGMプロトタイプ》退却

 

「…流石ですね、ミサキさ…!」

 

 アイチの言葉が止まる。

 それはミサキが、涙を流していたからだ。

 今まで記憶を押し殺し、封をしてきた感情が溢れ出していたからだ。

 

「…シンさん…。私、あの宝箱…。…鍵がないの…。お父さんの組んでくれたデッキ…、鍵がなくて…!…どうしよう…!」

 

 泣きながら話すので普通なら要領を得ないが、シンには伝わった。

 

「…やっと思い出してくれたんですね。私が預かってましたよ、ミサキの大切な思い出ですから。」

 

 鍵を取り出し、ミサキに手渡す。

 それを大事そうに握りしめ、より一層大粒の涙をひとしきり流すと、落ち着いたのか彼女の表情に笑顔が戻る。

 

「ありがとう、アイチ…!アンタのおかげで、私…!」

 

「…よかったです、ミサキさん。でも、まだファイトの途中ですよ?」

 

「フフッ、そうだったね。」

 

 そんな彼女にアイチも笑顔で応え、それを見てミサキも笑う。

 先程までの重苦しい空気は何処へやら、二人は初めてファイトをした時の様な和やかな雰囲気でファイトを再開する。

 

「私のスタンド&ドロー。左前列に《キング・オブ・ソード》、左後列に《クイーン・オブ・ハート》をコールして、バトル!《クイーン》のブースト、《キング》でVをアタック!《クイーン》の能力で、《キング》のパワー+4000!」

 

「ノーガード!ダメージチェック、《ダーク・キャット》…トリガーなし。」

 

「《オアシス・ガール》のブースト、《デスメタル》でVをアタック!CB1でパワー+3000!」

 

「2枚の《ニケ》でガード!」

 

「ツインドライブ‼︎ファーストチェック、《キャノン・ボール》…醒トリガー!パワーは《ストーム》に、そして《キング》をスタンド!セカンドチェック、《シャイニング・レディ》…☆トリガー!効果は全てストームに!」

 

「ここで、ダブルトリガー…!」

 

「そして《ミノタウロス》のブースト、《ストーム》でVをアタック!」

 

「…ノーガード。ダメージチェック、《ワイズマン》…トリガーなし。ぼくの負けです。」

 

 勝負はついた。

 ミサキが勝利した事によって、チームを辞めさせられる事はなくなった。

 が…、

 

「そういえば、私が勝ったら『好きに決めて良い』って言ってたよねぇ?」

 

「そ、そうですね。確かに、そう言いました…。」

 

 なんだかミサキの表情が、笑顔なのに怖い。

 それもそうだろう。

 ミサキの本心を引き出すためとはいえ、あれだけ挑発的な事を言ったのだ。

 ただでは済まされない。

 

「んー、どうしよっかなー?」

 

「あ、あんまり無茶な事は出来ませんよ…?」

 

「分かってるって。…それじゃあ━━、」

 

 チームを辞めるだのなんだのと言っていた事などすっかり忘れた様に楽しそうに話す二人。

 そんな二人の様子を、笑顔で見守るシンの姿がそこにはあった。

 

『よかったですね、ミサキ。そしてありがとう、アイチ君。私には出来なかった事を、君はやってくれた。…本当に、感謝してもしきれません。』

 

 その後、カムイがミサキに先日の事を謝りにやってくるが、それまでの間に来店して来た客を全員倒してカムイを困惑させるのはまた、別の話…。




 次はアイチ君の設定でお茶を濁すかなぁ。
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