カードファイト!! ヴァンガード -隻眼のPSYクオリア- 作:キシヨウタ
3話と5話の合体です。
めっちゃ疲れた。
先導エミは訝しんでいた。
最近、兄である先導アイチの様子が少しおかしいのだ。
具体的にいえば、今までは自分が起こさなければ朝まともに起きれなかった筈なのに、今では自分よりも早く支度を終えて家を出ていたり。
かと思えば帰って来るのは遅くだったり。
なので、
「ここが、アイチの学校…。」
宮地学園初等部の帰り、気になったエミは兄、アイチの通う後江中学校の校門前に立っていた。
他の下校中の後江生徒が珍しそうに彼女を見る中、エミはただ一点を凝視していた。
「アイチ…。」
前髪を伸ばした青い髪に、そこから見え隠れする白い眼帯と目立つ格好をしている兄を見つける事は、たとえ妹のエミでなくとも難しい事ではなかった。
しかし、エミは目撃してしまう。
「おーいアイチ、待てよ!」
「さっさと先に帰んじゃねーぞ!」
「森川くん、井崎くん。」
「んだよ、黙って先に帰るなよなぁ!今日も『あそこ』寄ってくんだろ?」
「うん。」
ガラの悪そうな同級生と見られる生徒二人に、アイチが絡まれている場面を。
「……!」
その後も、「俺の強さを見せつけてやる」「俺にもやらせろ」「ボコボコにした後でな」など物騒な言葉が聞こえてくる。
「アイチを、助けないと…。」
小学生の身で何が出来るのか。そんな事はエミには関係なかった。
恐怖はもちろんあった。しかし、それでも今動かなければ彼女は再び後悔に苛まれる事になる。
「『あんな事』、もう二度と…!」
無策で挑んでも意味がない。
アイチを連れてどこかへ行こうとする二人を、エミは尾行する事に決めた。
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エミの追跡もしばらく経ち、不良生徒二人はアイチと共にとある場所に入っていく。
「『カードキャピタル』…?」
カードゲームに興味がなく、またどの様なものなのかも知らないエミにとって、カードショップは未知の領域。
嫌な想像の一つもしてしまう。
「放っておけない…!」
意を決してドアの前に立ち、店内に入る。
エミの目に飛び込んで来た光景はーー、
「…なに、ここ…?」
店の中は小中学生くらいの子供が多く、そのほとんどがテーブルに着いてカードゲームで遊んでいた。
「あっ…。」
その内の一つに、兄の姿を見つける。
「用意はいいかアイチ、今日も俺の強さを見せつけてやるぜぇ!」
「いつでもいいよ、森川くん。」
「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」
先程アイチを連れていった二人組と向かい合う様に席に着き、周りの人たちがやっているものと同じカードゲームを始めた。
次々と展開が進んでいきアイチは楽しそうな表情に、対する相手はなんだか苦しそうである。
カードゲームをやった事のないエミにもわかる。
アイチが勝っているのだ。
『あんな顔するアイチ、初めて…。』
幼少の頃の出来事からエミは兄であるアイチに過保護、とまでは言わないがよく目をかけていた。
そんなエミでさえ見た事がない兄の、心から楽しそうな笑顔。
「Vにアタック!」
「ガ、ガード出来ねぇ…!ダメージチェック、…トリガーなし。俺の負けだ…。」
「マジかよ…。いくら森川のデッキがアレだからって、ノーダメージって…。」
「何ィッ⁉︎ほ、本当だ…。なんて事だあぁーーー⁉︎」
『アイチが、勝った…?』
エミが信じられないといった目で呆然とアイチを眺めていると、
「あーこれはまた派手にやられたねぇ、彼。」
「…えっ⁉︎」
「いらっしゃい、『カードキャピタル』へ。私はこの店の店長、新田です。今日は何のご用ですか?」
いつの間にかエミの隣に立っていた眼鏡をかけたエプロン姿の男が話しかけてくる。
カードを購入するでもカードゲームで対戦するでもなく、対戦エリアの一点を見つめているエミの事を気にかけての行動だったが、はたから見ればただの不審者である。
「あの、私…。あの…。」
突然の事でしどろもどろになってしまう。すると店の奥の方から、
「エミ?どうしてここに…。」
「ア、アイチ…。」
ファイトを終えてカウンターに向かおうとしていたアイチが、自分の妹の存在に気付く。
「知り合いなの?」
「ああ、はい。知り合いというか…。」
カウンターで店番をしていたミサキの質問にアイチが答えようとした時、
「ぎゃああぁーーー‼︎ま、負けた…。」
「言っただろ、オレ様は強いってな!」
先程アイチと森川がファイトしていたテーブルの周りに人だかりが出来ており、騒がしくなっていた。
「中学生相手に29連勝、流石ですカムイさん!」
「SSッス!世界最強ッス!」
「お前見かけ倒しだなぁ、今まで戦った中で一番弱え。」
「ぐっ…!今日はたまたま、星座占いで調子が出なかっただけだ!」
「オレ様が勝ったら『さん』付けで呼ぶんだったよな、マ・ケ・ミ!」
「そうだったなぁ、クソガキさん…!」
んだとぉ!なんだよぉ!と小学生相手にマジギレする中学三年生の姿がそこにあった。
「あの子、すごく強いみたいですね。」
「まあ、今回は相手が弱すぎただけだろうけどね。」
「あはは…。次はぼくが挑戦してこようかな。」
「いいんじゃない?見た感じ、実力もそんなに変わらなそうだし。」
アイチとミサキのやりとりの自然さにエミは困惑する。
エミは、今まで自分と母以外の女性と会話をする兄の姿を見た事がなかった。
ましてその相手が大人びていて少し怖そうな年上の女性だったのだから尚更だ。
「さーて、次は誰が相手だ?」
30連勝に向けて対戦相手を探すために辺りを見渡す『葛木カムイ』。
店の入り口付近にまで目を向けた彼の視界に飛び込んで来たのはーー、
「……?」
ーー女神の姿だった。
「……ぐぅっ⁉︎」
心臓に衝撃が走った。
これまで様々なヴァンガードファイターたちと戦い、時には強敵といえる者との激戦を制してきたカムイであったが、未だかつて感じた事のない感情の奔流に戸惑いつつも、確かな快感を覚えていた。
一目惚れである。
「それじゃあ、ぼくとファイトを…。って、聞いてない…?」
対戦相手を名乗り出たアイチの言葉も届かないくらい、カムイはエミに見惚れていた。
「アイチ、この子と戦うの?」
「うん、エミ。ああでも、何だか彼放心してるみたいで…。」
カムイの精神が一気に現実に引き戻される。
アイチ?エミ?呼び捨てにする関係?しかも何だか距離が近くないか?
『まさか…、まさか恋人⁉︎』
葛木カムイ小学六年生。
初恋にして一目惚れの相手は、まさかの彼氏持ちだった。
失恋である。
「…おい、そこのお前。」
「う、うん?」
しかしこんな事で挫けるカムイではない。
敵がいるなら倒す。
ヴァンガードでも、恋愛においても…!
「オレ様とファイトしろ!そして、オレ様が勝ったら『女神』を貰う!」
「め、女神?」
何の事だかさっぱりなアイチだったが、ファイトが出来るというのであれば願ったり叶ったりだった。
「わかった、よろしくね。えっと…、カムイくん。」
「ああ!」
お互い向かい合う様にテーブルに着き、デッキを取り出す。
「頑張って、アイチ!」
「うん。ありがとう、エミ」
目の前でこれ見よがしに声援を送られるアイチに対して、カムイは嫉妬の炎を燃やす。
『勝つ…!ゼッテー勝つ…‼︎』
FVをフィールドに裏向きで置き、手札を5枚引く。
アイチとカムイ、二人の『女神』を賭けた戦いが始まるーー!
「「スタンドアップ・ヴァンガード!」」
「《スターダスト・トランペッター》!」
「《バトルライザー》!」
「ぼくが先攻、でいいんだよね?」
「ああ、オレは後攻が好きなんだ。」
「それじゃあ、ドロー。《小さな賢者 マロン》にライド!そして、手札の《孤高の騎士 ガンスロッド》の能力!山札から《ブラスター・ブレード》を1枚、手札に加えます。山札をシャッフルして、ターン終了です。」
アイチの手札・5枚
V・《小さな賢者 マロン》(G1、パワー8000)
「オレのターン、ドロー。《叫んで踊れる実況 シャウト》に、オレ様ライド!能力で《バトルライザー》は左後列に移動、さらに左前列に《クイーン・オブ・ハート》、中央後列に《シャイニング・レディ》をコール!」
後攻1ターン目から戦力を大量投入してきたカムイ。
彼が後攻を好む理由。それは先に相手を攻撃出来るからに他ならなかった。
「《バトルライザー》のブースト、《クイーン・オブ・ハート》でVにアタック!《バトルライザー》の能力で、パワー+3000!」
「ノーガード。ダメージチェック、《幸運の運び手 エポナ》…☆トリガー!パワーは《マロン》に!」
「《シャイニング・レディ》のブースト、《シャウト》でVをアタック!」
「ノーガード。」
「ドライブチェック、《タフ・ボーイ》…トリガーなし。パワー13000には届かなかったか…。ターン終了時、《バトルライザー》は山札に戻る。」
カムイの手札・4枚
V・《叫んで踊れる実況 シャウト》(G1、パワー7000、能力)
R・左前列《クイーン・オブ・ハート》(G1、パワー6000、能力)、中央後列《シャイニング・レディ》(G0、パワー5000)
アイチのダメージ・0→1
「ぼくのターン、ドロー。立ち上がれ、ぼくの分身!ライド、《ブラスター・ブレード》!」
『アイチの、分身…。』
エミは、初めて間近で見る兄の戦う姿を不思議と受け入れていた。それほどまでに、様になっていた。
「中央後列に《ういんがる》、左前列に《沈黙の騎士 ギャラティン》をコール。バトルだ!《ギャラティン》でVをアタック!」
「ノーガード!ダメージチェック、《ハングリー・ダンプティ》…トリガーなし。」
「《ういんがる》のブースト、《ブラスター・ブレード》でVにアタック!」
「ノーガードだ。」
「ドライブチェック、《マロン》…トリガーなし。」
「ダメージチェック、《ラッキー・ガール》…醒トリガー。《クイーン・オブ・ハート》をスタンド、パワーは《シャウト》に。」
「ターン終了。」
アイチの手札・4枚
V・《ブラスター・ブレード》(G2、パワー9000、能力)
R・左前列《沈黙の騎士 ギャラティン》(G2、パワー10000)、中央後列《ういんがる》(G1、パワー6000、能力)
カムイのダメージ・0→2
「オレのスタンド&ドロー。《ハングリー・ダンプティ》にオレ様ライド!《クイーン・オブ・ハート》を後列に移動、空いた左前列に《キング・オブ・ソード》をコール。さらに右後列に《タフ・ボーイ》、その前列に《ジェノサイド・ジャック》をコール!」
『一気に盤面を埋めた…!』
手札が残り1枚になる事もお構いなしという様に、カムイは大量のユニットを展開する。
「《ジェノサイド・ジャック》の能力、CB1で拘束解除。そして《タフ・ボーイ》のブースト、《ジェノサイド・ジャック》でVをアタック!」
「ノーガード。ダメージチェック、《竪琴の騎士 トリスタン》…トリガーなし。」
「《シャイニング・レディ》のブースト、《ハングリー・ダンプティ》でVをアタック!」
「ノーガード。」
「ドライブチェック、《バトルライザー》…来た、醒トリガー!効果は全て《ジェノサイド・ジャック》へ!」
「ダメージチェック、《閃光の盾 イゾルデ》…トリガーなし。」
「スタンドさせた《ジェノサイド・ジャック》で、Vにアタック!」
「ガード、《世界樹の巫女 エレイン》!」
「ガードしたか…。だがオレの攻撃はまだ終わりじゃねぇ!《クイーン・オブ・ハート》のブースト、《キング・オブ・ソード》でVをアタック!《クイーン》の能力で、合計パワー20000だ!」
「ノーガード!ダメージチェック、《イゾルデ》…トリガーなし。」
「ターン終了だ。」
カムイの手札・2枚
V・《ハングリー・ダンプティ》(G2、パワー9000、能力)
R・右前列《ジェノサイド・ジャック》(G2、パワー11000、能力)、右後列《タフ・ボーイ》(G1、パワー8000)、左前列《キング・オブ・ソード》(G2、パワー10000)、左後列《クイーン・オブ・ハート》、中央後列《シャイニング・レディ》
アイチのダメージ・1→4
手札・4→3
『このターンだけで3ダメージ…。カムイくん、本当に強い…!』
『イケる…!これで『女神』はオレ様の…!』
あは、あははは…!と若干気味の悪い笑みを浮かべるカムイ。このファイトは彼の言うところの『女神』も見ているというのに。
しかし幸か不幸かエミは彼の様子など全く気にも留めず、ただただ自分の兄の心配をしていた。
「アイチ、負けちゃうの…?」
「大丈夫、アイチはこんな事じゃ負けたりしないよ。」
エミの言葉に反応したのはミサキだった。直接戦った事のある彼女だからこそ確信を持って言える、最大限の励ましの言葉だった。
「ぼくのスタンド&ドロー、来たッ!」
「何ッ⁉︎」
カムイは知っている。
ヴァンガードファイターがこの表情になった時。それは…!
『切り札を引いた時だ…!』
「ぼくに力を、気高き誇りの白き翼!ライド!《孤高の騎士 ガンスロッド》!《ガンスロッド》の能力!CB2でパワー+5000、☆+1!さらにもう一度能力を使う!」
「ヤ、ヤベェ…⁉︎」
「右前列に2枚目の《ギャラティン》、その後列に《マロン》にをコール。バトルだ!左の《ギャラティン》でVをアタック!」
「《キング・オブ・ソード》でインターセプト!」
「《ういんがる》のブースト、《ガンスロッド》でVをアタック!」
《ういんがる》の支援と、能力を二度使用した事により《ガンスロッド》のパワーは30000、さらに☆は3。
この攻撃を防ぐ手立てが、カムイにはない。
「くぅ…!ノーガードだ…。」
「ツインドライブ‼︎ファーストチェック、《スターライト・ユニコーン》…トリガーなし。」
「よし…!」
「《エポナ》を引け!あのガキを倒すんだ!」
横から見ていた森川も熱が入る。言っている事はアレだが、アイチとしてもここで勝利への王手となる☆トリガーを引きたい。
「セカンドチェック、《幸運の運び手 エポナ》…ゲット、☆トリガー!《ガンスロッド》に☆+1、パワーは右の《ギャラティン》!」
「ほ、本当に引きやがった…⁉︎」
「ヤバいですよ、カムイさん!」
「YKッス!」
「ま、まだだ…。アイツがトリガーを引いたんだ、オレだって引いてやる…!ダメージチェック!1枚目、《ドグー・メカニック》…トリガーなし。2枚目、《ドグー・メカニック》…トリガーなし。3枚目、《Mr.インビンシブル》…トリガーなし。」
「後、1枚…。」
「アイチ…!」
森川は願う。友の勝利と、相手のクソガキへの制裁を。
エミは祈る。兄の、ただ純粋なる笑顔を。
「…4枚目、《アシュラ・カイザー》…トリガーなし。」
「カムイさんが、負けた…⁉︎」
「K、M…。」
「…まさか、後攻を選んだのが裏目に出るとはなぁ。負けたぜ、アンタ強いな!」
「ありがとう、カムイくんもすごく強かったよ。えっと、それで約束の事なんだけど…。」
「ハッ⁉︎そうだ…!お、オレの『女神』がぁ〜!」
あまりの展開にすっかり失念していたカムイ。
そう、これは『女神』を賭けた戦い。
敗者が得るものは何もない。
「あの、そもそもその『女神』ってーー。」
「やったー!すごいアイチ、あの子に勝っちゃうなんて!」
「おめでとう、アイチ。」
二人の女性から称賛を受けるアイチ。羨ましい光景である。
「ありがとう。エミ、ミサキさん。おかげで、『妹』の前で格好悪いところを見せずに済んだよ。」
「へ?『妹』?」
「ああ、そういえば自己紹介もまだだったね。ぼくは先導アイチ。そしてこっちが、妹のエミ。」
「きょ、兄妹ィ⁉︎」
「うん、そうだけど…?」
失恋したかに思えたこの初恋。
しかし、彼女の恋人だと思っていた人は、その兄だった。
カムイには、アイチの背中に後光が差して見えた。
「…アイチさん。」
「えっ?」
「いえ…、アイチお兄さんって呼ばせて下さい…!」
「ええっ⁉︎」
カムイの突然の発言に、アイチのみならずミサキや森川、さらには彼の取り巻きである右野レイジと左賀エイジまでもが驚く。
その後も「お兄さん、お肩をお揉みしましょうか〜。」「お兄さん、お喉が乾いてませんでしょうか〜。」など明らかなおべっかを使ってくる。
アイチがカムイから逃げ回る中、エミは先程までアイチとカムイがファイトをしていたテーブルを見る。
まだカードを片付けていない、アイチが勝利を収めた盤面がそこにあった。
『私の知らないアイチ…。この、ヴァンガードっていうカードゲームがアイチを変えたの…?』
兄の、成長とも言える変化に当然嬉しさもあったがその反面。自分の知らないところでこれからもどんどん変わっていってしまうのかと思うと、どこか寂しさを感じてしまう。
『どこにも行かないよね?アイチ…。』
「アイチお兄さ〜ん!」
「うわぁ〜⁉︎」
はやくレン様出したい。