ーーー
「ぎゃああああああああああああああっ!?」
話は数時間前にまき戻る。
スペシャルウィークとのトレーニングが終わり、オレンジ色が空に差す夕暮れ。デスクワークをしていたトレーナーは、突如響き渡った絶叫に慌てて立ち上がる。その声量もさることながら、その声の主への心当たりがあったことがトレーナーを慌てさせた。
「この声...スペシャルウィークじゃないか!?」
張りつめた声は誰のものか判断しづらかったが、何となく彼女のものであるように思えた。
嫌な予感に心臓を跳ねさせながらトレーナー室から出ると、彼は声のした方に向けて走り始める。
ほどなく辿り着いたのは女子トイレ前。悲鳴に集まってきたのかトイレ入り口にはウマ娘たちが野次ウマに来ており、ヒソヒソと話しあっていた。
いったい何があったのか。そこにいたウマ娘の一人にトレーナーが尋ねようとしたその時、トイレの中からふらふらと一人のウマ娘が出てきた。
お腹を抑え、涙を浮かべた彼女はいつものハツラツとした元気さはどこへやら、苦しげな顔に玉のような汗を浮かべてこちらに歩いてくる。
「スペシャルウィークっ!!」
「トレー...ナー...さん...助け......」
飛び出したトレーナーがスペシャルウィークの身体を受け止める。意識はあるが苦しげにもだえる彼女を支えると、こちらまで苦しい気持ちになってきた。
いったい彼女に何があったのか...?
絶望感すら覚え始めたトレーナーはふと彼女の背中側を見る。
「ん?」
ウマ娘特有の尻尾の影に隠れ、何か見えた。
最初はただの染みだと思った。しかしその染みは今なお少しずつ、少しずつ広がり続けていた。
べっとりとジャージを濡らす赤い染み。その正体は血であった。
「おわああああああああああっ!?」
ーーー
そして現在、肛門科の待合室にスペシャルウィークとそのトレーナーはいた。
症状が落ち着いたスペシャルウィークは今は私服に着替えており、待合室のソファに座ったまま憂鬱げに順番を呼ばれるのを待っている。
トレーナーとの間に会話はない。いくら絆を深めた相手とはいえこの状況で明るい話題が出るはずもなかった。互いに黙ったまま、ただ時間だけが過ぎていく。
「スペシャルウィークさーん、2番にどうぞー」
「っ...っはい!」
しかしそんな静寂も順番が来ることで破られた。
立ち上がったスペシャルウィークはトレーナーの方を見る。
「それじゃ...行ってきます」
神妙な面持ちで頷いたトレーナーに見送られ、スペシャルウィークは重い足取りで2番診察室へと足を運んだ。
部屋に入ったスペシャルウィークを待っていたのは看護師だった。
「先生が来るまでこちらのベッドでお待ちください」
「あ、はい...」
いくつかのカーテンに仕切られた診察室のベッドにこしかける。壁にかけられた風景の絵を見て待っているとしばらくして奥のカーテンが開けられた。
「こんばんわー」
「よ、よろしくお願いします!」
現れたのは50代から60代くらいの女医。メガネとマスクをしていてその表情は解らなかったが、スペシャルウィークは落ち着いた印象を受けた。
女医の先生はスペシャルウィークが来院した時に書かされた問診票を手にしており、それに目を落としながら幾つか質問を始める。
「常用してる薬はない?」
「はい」
「大きな手術を受けたことは?」
「...ないです」
書いた通りにいくつか質問がされ、スペシャルウィークも順調に答えていく。女医は問診票にチェックをつけていき、くるりとペンを回すと最後の質問をした。
「それで症状の方は?」
「えっと...一時間くらい前なんですけど、トレーニングが終わってお手洗いに行って...とっても痛かったので確認したら、その...凄い血が出ていて...」
「なるほど、今まで同じ症状が出たことはありましたか?」
「ありません...」
顔を赤らめたスペシャルウィークがうつむく。多感な時期である彼女にとって、たとえ同性とはいえ、痔になったことを誰かに言うことが恥ずかしい。
最後に何かボールペンを走らせた女医は、慣れているのだろう、淡々とした態度で頷いた。
「解りました。では触診しますのでベッドに横になってお待ちください。この絵みたいにズボンはおろして」
「えっ、あっ、はい」
気がつかなかったが先程見ていた風景の絵の横にシールが張られており、そこに身体を丸めるようにして横になった女性のイラストが描かれていた。そのイラストの女性は横になったままズボンを半分以上降ろしており、その上からタオルをかけてお尻を隠している。
(えっ?私もこれするの?)
女医が去った後、スペシャルウィークは一瞬そんなことを考える。今までの人生で医者にかかったことは数あれど、上着を脱いだことはともかく下を脱いだことなど全くなかった。
それに触診ということはつまり、あれをそうされるということである。当然今までそんなことをされたことはない。それはスペシャルウィークの常識から大きく外れているように感じたが、しかし女医の先生があまりに当然のように言うので混乱する。肛門科と言うくらいなのだから、それくらい日常茶飯事なのだろうか。
「...」
いまいち覚悟がつかないまま、スペシャルウィークはベッドに横たわると身体を丸める。スカートを半分ほど脱ぐとお尻を露出した。
(わ、わたしこんな場所でお尻出しちゃってる...!)
例えば銭湯ならばスペシャルウィークとて裸になることに抵抗はないだろうが、ことここは病室。そんな場所でお尻を丸出しにする違和感はとてつもなく強かった。
慌てて置かれていたタオルを身体にかけるスペシャルウィーク。お尻が出ていないか入念に確認すると、固い枕に首を預けた。
それから数分待たされ、スペシャルウィークはカーテン越しに声をかけられる。
「準備は済みましたかー?」
「は、はいっ!」
すっとんきょうに返事をすると背中側のカーテンが開けられ、再び女医が入ってきた。
椅子に腰かけた女医がどんな顔をしているか、背中を向けて寝転んでいるスペシャルウィークには解らない。
「ではベッドあげまーす」
ベッドの足元についていたボタンを女医が押すと、駆動音と共にベッドが高くなり始めた。そして充分な高さで止まると、女医が何か動く。
「!」
そして次の瞬間にはスペシャルウィークのお尻にかかっていたタオルはぺろんとめくられていた。あまりにあっけなく人前にお尻を出してしまった驚きにスペシャルウィークは唖然とし、身体を強張らせる。
スペシャルウィークが混乱している間にも女医はテキパキと次のステップに移っていく。音しか聞こえないがブチュチュと何か液体が出る音が聞こえてきた。それが滑りをなめらかにするためのクリームを指に出している音だと解ったのは数秒後だった。
「はいじゃあちょっと触っていきますねー」
「えっ、あっ」
ヌルン、とあまりに呆気ない侵入はスペシャルウィークに強い異物感をもたらした。
「おうっ...!?」
「力は抜いてくださいねー」
「はい...」
ーーー
一方、待合室に残されたトレーナーは痔について改めてスマホで調べていた。
(実は日本人の3分の1は痔であり、その原因は近代になってデスクワークが増え、座りっぱなしでいるなどの生活習慣病が増えたからだと考えられている...か)
他にも便秘でいきみすぎると鬱血していぼ痔になりやすいなど、理由は多岐に考えられるらしい。
スペシャルウィークはずいぶんと落ち込んでしまっていたが、日本人の多くが痔だと言うのならそれは慰めになるだろうか。
相手は繊細な思春期女子、デリケートな話題は特に気をつけて話す必要がある。はたしてどう励ましたものか...トレーナーが頭を悩ませていると、診察室の扉がわずかに開き、その中から耳を垂らしちょっと悲しげな顔のスペシャルウィークが顔を出した。
「...トレーナーさん、ちょっと来てもらえますか?」
「あぁ、解った」
立ち上がったトレーナーは診察室まで歩いていくとスペシャルウィークに続いて中に入る。
診察室の中には年配の女医が待っており、トレーナーの姿を認めるとスペシャルウィークの隣の椅子に座るように促した。
「それで、スペシャルウィークの...傷の具合はどうなんですか?」
言葉を選びながら尋ねると、女医は二人の前に紙を見せながら答える。紙には肛門内の様子が模式図で描かれており、女医は赤ボールペンで入り口辺りに丸をつけた。
「えー、どうやらここにあったいぼ痔が切れて出血したようですね」
いぼ痔という直接的なワードにスペシャルウィークの顔が耳の先まで真っ赤に染まった。
それを気にすることなく女医は続ける。
「ですが小さいものなので日常生活では大きな問題を起こすものではないですよ。今回の出血も慢性的なものにはならないはずです」
「...逆に言えば、偶発的に今回のようなことが起こりうると?」
「はい。ここに痔がある以上はそこが切れやすいですから」
つまり切れ痔になりやすい下地がスペシャルウィークにある、ということだ。
トントンと赤ボールペンでこめかみを叩いた女医は紙に視線をおろす。
「もっと大きないぼ痔であれば切除する患者さんもいらっしゃるんですけどねぇ。触ってみたかんじはそんなに大きくはなかったですし...」
「さわっ...?」
「ひょわぁ!?そ、それで先生!!どうすれば良いんですか!?」
トレーナーの言葉を遮るようにスペシャルウィークが尋ねる。顔を上げた女医はスペシャルウィークを見ると答えた。
「手術なさらないなら生活習慣を直すことが主な対処になるんですが...スペシャルウィークさんはウマ娘ですし、運動はされてますよね?」
「はい...」
「学生さんですから常に座りっぱなしでもないし...健康的な生活をしていて、かつその若さでというとちょっと珍しいかもしれないですね」
女医は少し考えた後、続ける。
「とりあえず今は炎症が治すためのお薬を出しておきましょう。大量に食べたり、辛いものを食べ続けたりすると肛門に負担がかかって痔になりやすいですので気をつけてください」
「はい...」
「ありがとうございました、失礼します」
二人は頭を下げて診察室を後にした。
ーーー
トレーナーの運転する車の中には重苦しい雰囲気が漂っていた。
(...気まずい)
後部座席に座るスペシャルウィークは押し黙ったまま窓の外を見つめており、対してトレーナーはというと何を喋りかけていいか解らなかった。
(喋りかけないことが正解かもしれない...)
トレーナーにそう思わせるほどに、今日はスペシャルウィークにとって初めての出来事が多すぎた。
出血然り、触診然り。加えて肛門科で貰った薬は飲む抗生物質と、お尻に指して直接薬剤を患部に出す有名ところで言えばボラギノールのような薬の二種類。スペシャルウィークとてその存在こそ知れど、よもや自分が使うことになるとは先程まで思いもしていなかったはずだ。そんな一つ一つの出来事が思春期の女の子にとっては大ダメージだろう。
憔悴したスペシャルウィークを助けたいとトレーナーが願うのは当然だが、どう声をかけるのが正解かは皆目見当がつかなかった。
悩んでいるうちにトレセン学園にまで車は戻ってきていた。
駐車場に車を停めたトレーナーは、敷地内とはいえスペシャルウィークを寮まで送ることに決める。
8時を過ぎた学園内には昼時のような賑わいはなく、ほとんどの生徒はもう寮に戻っていることが解る。スペシャルウィークと共に静かな学園内を進み彼女の住む栗東寮の前にまでやってくると、トレーナーは寮の入り口に誰かが立っていることに気がつく。
「あ、サイレンススズカ...」
そこにいたのはスペシャルウィークと同室でもあるサイレンススズカ。
オレンジ色の髪をした彼女は物憂げに地面を見つめながらジッと立ち尽くしており、誰を待っているかは明白だった。
二人が近づくとスズカは気がついたらしく視線をこちらに向ける。疲弊した顔のスペシャルウィークにスズカの瞳が揺れ動いた。彼女がどう聞いているか解らないが、彼女にとって大切な後輩であるスペシャルウィークが突然病院に行ったことを思えば心中穏やかではないだろう。
とはいえそれを闇雲に顔に出す彼女でもない。あくまで普段通りを繕ったスズカは優しく穏やかな声色でスペシャルウィークを迎え入れる。
「...おかえりなさいスペちゃん。フジキセキさんに頼んで夕食をとっておいてもらったの。食べる前に荷物を部屋に置いてきて?」
「はーい...」
フラフラと部屋に向かうスペシャルウィークを見送り、残されたのはサイレンススズカとトレーナーの二人。
オホン、と咳払いをしたトレーナーはサイレンススズカに喋りかける。
「...サイレンススズカさん。少し話したいことがあるんだが、良いかな?」
「はい」
「スペシャルウィークのことなんだが...痔だった」
「まぁ...!」
それは彼女にとっても予想外だったのだろう。あるいはもっと悪い予想をしていたのかもしれない。思わず開いた口に手を当てた彼女は少し喜びに見えかねないような、驚きの表情を浮かべていた。
しかしすぐに表情を改めると、真剣な面持ちで尋ねてきた。
「痔とは言いますが、どれほどのものでしょう?」
「いわゆる切れ痔のようなもので手術しなくちゃいけないほどひどいものではないそうだよ」
「そうですか...良かった」
ホッと初めて胸を撫で下ろすサイレンススズカに、ただしとトレーナーは続ける。
「どうも色々あったからか、スペシャルウィークは落ち込んじゃっているみたいでね。良ければ同室のスズカさんからも励ましてもらえないかな?...いかんせんデリケートな話題だし、男の自分からは言いづらくて」
「はい、そういうことでしたら任せてください」
「あっ、あと朝晩に座薬を使わなくちゃならないからそれは気づかないであげてもらえると...」
「え、あ、はい...」
ポッとスズカの頬が染まる。後のことは彼女の任せ、トレーナーは寮を後にしたのだった。
ーーー
翌日のお昼時、生徒達で賑わう食堂の片隅にスペシャルウィークとトレーナーはいた。
「さて、例の件についてだけど」
「はい...食事制限ですよね...」
スペシャルウィークの耳が垂れ下がる。
今の彼女はお尻が炎症になってしまっている状態だ。できるだけ刺激しないことが回復への近道であり、そのためには食事制限をして出るものを減らす必要がある。
しかし学園でも三本指に入るスペシャルウィークにとって食事制限はとても辛いことだろう。
「うん、しばらくはね。でもただ食事制限するのも辛いから、少量でも満腹感が得やすいメニューを食堂の人に相談して作ってもらったんだ。早速行こうか」
二人は食堂のカウンターまで行くと特別に作ってもらった料理を受けとる。
お盆に乗せられた料理の数々を見たスペシャルウィークの顔は渋かった。
「これは...なんというか...」
そこには納豆や餅のような腹持ちの良い食べ物と、ナッツとバナナ、ブロッコリーのような栄養価の高い高い食べ物がそれぞれ少量ずつ乗っていた。
それは普段彼女が食べている量に比べれば確かに雀の涙ほどしかなかった。
「...ダメか?」
「いや一つ一つはおいしそうなんですけど...量が......いや、解りました」
こくりとスペシャルウィークが頷く。辛いことを強いているのはトレーナーも解っていたが、今は我慢してもらうしかない。
「炎症が治まるまでの辛抱だから、頑張ろう!」
「はい...」
「スペちゃーん!」
トレーナーが励ますと同時に、食堂のイートスペースからスペシャルウィークが呼ばれた。
見ればそこにいたのはエルコンドルパサー、グラスワンダー、キングへイロー、セイウンスカイの四人。クラスメイトであり仲の良い友達でもある彼女たちはどうやらスペシャルウィークのことを待っているらしい。
それから幾つか確認をしてから、トレーナーはスペシャルウィークを見送る。
「しっかり噛むんだぞー」
「はーい...」
トボトボと歩き、スペシャルウィークは同期四人と同じ席についた。見るからに落ち込んでいる様子のスペシャルウィークに、四人は声をかける。
「オーウ、スペちゃん可哀想デース!私のハンバーグあげマース!」
「エル、それだと食事制限にならないでしょう?...スペちゃん、元気出してください。きっと良くなりますよ」
「そもそもなんで食事制限するか知らないけどね~...あっ、もしかして激太りしたとか~?」
「スカイさん!デリカシーがないわよ!...スペシャルウィークさん、私たちのことは気にしないで頑張りなさい!それでも助けがほしいときはキングに言うことね!この私が力になってあげるわ!」
「あはは、ありがとう。みんな...」
スペシャルウィークの顔にわずかに笑顔が戻る。良い友達を持っているな、と安心してトレーナーはその場を後にする。
「むぅー。あっじゃあまたデスソース使ってみマスか?せめても味変ってことで」
「うーん、また今度借りようかな」
「解りマシター!」
ーーー
それから一週間。スペシャルウィークの食事制限は続いていた。
「おはようございます、トレーナーさん!」
「おはよう、今日は元気だね。ところでお尻の調子はどう?」
「はい!あれから一回も血は出てないし、良い感じです!」
スペシャルウィークのお尻の具合は順調に快方へと向かっていた。
薬の効果か否か、今では炎症は治まってきているらしい。最初は辛く感じた食事制限も、慣れれば美味しく感じるようになったようだ。それどころか最近は食欲の方が減衰してきているらしい。良く噛む癖がついたからだろうか。
「じゃあ食事制限ももう少しで解除かな」
「本当ですか!?」
「たーだーし、表面が切れやすいってのは変わらないから暴食は禁止」
「はーい、解ってまーす」
エヘヘとはにかむスペシャルウィークに一週間ほど前の悲壮感はなかった。
「さて、じゃあまずは軽く流していこうか!外周一本、始め!」
「はい、行ってきます!」
トレーニングにもしっかり精を出せている。
このまま痔は完治するだろう、トレーナーはそう思っていた。
ーーー
事件が起こったのは、それから更に一週間後のことであった。
スペシャルウィークのお尻から再び血が出たのである。食事制限が解けて5日目の出来事だった。
「なして~...?」
「うーん...」
保健室でうつぶせに寝るスペシャルウィークをトレーナーは見ていた。彼女のスカートのお尻の部分には以前と同じように血が円形に広がってしまっている。
しかし何故、一度落ち着いたはずの彼女の痔は再発してしまったのか。
「...もしかしてうっかり食べ過ぎたとか?」
「それはないですよぅ。しばらくは気をつけようって思ってて...だから、なんでまた起こったのか私にもさっぱり...」
確かにトレーナーも彼女の食事を制限解除後も何度かチェックしており、それほど多くなかったのを確認している。後はスペシャルウィークが隠れておやつを食べている可能性だが、彼女はそんな嘘をつくような性格ではない。
「うーん、じゃあなんでなんだ...?」
反動で暴食したとかならともかく、今回は本当に理由が解らない。それとも回復はしたが、偶然切れてしまったということなのか。
「あの...」
そこで同じく保健室にいたグラスワンダーが思案顔で声をかけてきた。というのも今回の爆発の第一発見者が彼女である。悲鳴をあげたスペシャルウィークをグラスワンダーは保健室まで運び、トレーナーを呼んだのであった。
何やら神妙な顔で考え込むグラスワンダーに、トレーナーは同じく神妙な顔で答える。
「なんだ?」
「もしかすると...心当たりがあるやもしれません」
「なに?それは...」
「ホンットーに、ごめんなさい!スペちゃん!」
「いや大丈夫ですよ、試してみたいって言ったの私からですし」
数分後、ベッドに寝るスペシャルウィークにエルコンドルパサーが頭を下げる姿がそこにはあった。
事の顛末はこうだ。まずエルコンドルパサーが持ち込んだデスソースにスペシャルウィークが興味を持ってしまったことから事件は始まった。大の辛い物好きであるエルコンドルパサーがいつも愛用しているデスソースがどれほど辛いのか、怖いものみたさでスペシャルウィークは試してみたくなったのである。
そこでエルコンドルパサーに頼み味見をしてみたは良いものの、慣れない激辛にスペシャルウィークの体は耐えきれなかった。今までにない刺激物に尻は爆発するに至ったのである。
しかし味的にはけっこうスペシャルウィークの好みだったのが良くなかったのだろう。食事制限が開けたスペシャルウィークに、辛い美味しさを共有したいエルコンドルパサーは再度デスソースをおすすめした。スペシャルウィークも喜んでこれを試し、再び爆発するに至ったのである。
そして一部始終を見ていたグラスワンダーの名推理によって遂にその原因が明らかとなったのだった。
「確かに良く考えてみると今までだっていっぱい食べてたわけだしなぁ...まさかデスソースが原因とは」
辛い物も痔になる原因のひとつである。スペシャルウィークといえば大食みたいなところがあり、それに気をとられて他の原因を考えることができなかった。
まぁ何にせよ理由は明らかになった。回避できる問題はもはや問題じゃない。
「というわけで、デスソースは禁止ってことになるね」
「ケッー!?せっかくできたデスソース友達なのにー...でもスペちゃんが食べれないなら仕方ないデース、諦めまーす...」
しょんぼりとしてしまったエルコンドルパサーに、スペシャルウィークが声をかける。
「え、エルちゃん!」
「ケ?」
「デスソースはダメだけど...辛い物は好きだから、今度エルちゃんのおすすめのお店教えてください!辛すぎなければ大丈夫だと思うし...ですよね、トレーナーさん!」
「あ、あぁ...あんまり刺激の強いものじゃなければ」
正直な話、デスソースはかなり特殊な例だ。ちょっと辛い物程度であればスペシャルウィークでも問題なく食べれるだろう。
スペシャルウィークの言葉にしょんぼりしていたエルコンドルパサーの顔に笑顔が戻る。腕を広げて大胆にプロレスのポーズをとると、快活に答えた。
「わっかりましたー!今度エルがおいしいお店に連れていってあげまーす!グラスもいきましょーう!」
「え、私ですかー...?私は辛い物はあんまりー...」
「問答無用デース!」
「え~...」
二人のやりとりにスペシャルウィークが笑いだす。つられてエルコンドルパサーとグラスワンダーも笑いだした。
三人の少女たちの笑い声が保健室に木霊する。初秋の今日、スペシャルウィークが痔になった事件はこれにて解決となったのだった。