照橋さんは告らせたい   作:ナイルダ

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Aパートからは短編的な感じにしたかった……



Aパート
照橋さんは交換したい《前》


ひとを好きになり、告白し、結ばれる

それはとても素晴らしいことだと、誰もが言う

だがそれは間違いである

恋人たちの間にも明確な力関係は存在する

搾取するか搾取されるか、尽くすか尽くされるか

それすなわち

『勝者』と『敗者』

恋愛は戦!!

その人生を謳歌したくば、敗者になってはならないのだ

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

「で、あるからして──」

 

 壇上にて、校長が夏休み期間中の諸注意を伝えている。

 毒にも薬にもならないありきたりな文言を聞き流す生徒たちは、クラスごとに整列している。彼ら彼女らは手をパタパタと扇ぎ、少しでも暑さを紛らわせようとしていた。

 そんな、ほとんどの生徒が集中力をなくしている中、異常なほど一心不乱に物思いに耽るの人物が2人いた。それは、PK学園高校の二大有名人、

 

 『照橋 心美』と『念花美(ねんげみ) (しょう)

 

 彼女らは極限の集中状態であった。

 だがしかし、校長の話を聞いているわけではない。

 

(くっ……。ついに後が無い状況にまで追い込まれたわね。もう、きょうがラストチャンス)

(やばいな……。どうにかしなくちゃと思いながら早2週間。きょうが最終日だぞ……)

 

 彼らの関心は専ら、

 

(あしたから夏休み。きょうのうちに念花美と連絡先を交換しないと……)

(もう夏休みだ。きょう中に照橋さんに連絡先を訊かないと……)

 

 隣にいる人物に向けられていた。

 

(1ヶ月間、会えないじゃない……ッ!)

(9月になるまで会えない……ッ!)

 

 とある超能力者が一肌脱いだことにより、全校集会の場においても隣り合って立っている完璧美少女と完璧美少年。品行方正で通っているはずの両名は校長の話など気にもせず、ただ、隣に立つ想い人のことだけを考えていた。

 時は2週間ほど前に遡る。

 そもそもことの発端は、斉木楠雄と照橋心美のカバン交換事件に始まる一連の出来事だった。2人はその出来事以来、お互いのことが気になって仕方がなかった。しかし、ふと湧いた淡い想いの対処に手間取り、どちらもこれといった行動を起こせずにいたのだ。「連絡先教えて?」などとは言えるはずもなく、両者は、いかに相手から連絡先を教えるように誘導するか、ということをずっと模索していたのだ。

 だが、照橋心美は失敗した。その高いプライド故に。

 念花美翔もまた、失敗した。その(うぶ)な心持ち故に。

 だからこそ、いま、両名は追い込まれているのだ。

 きょうは通常登校最終日。あすはもう夏休みだ。部活もやってなく、補習もない。彼女らは夏休み期間中に学校に来る予定がなく、出会うこともない。つまり、夏休みに会う約束をするには、連絡先を交換する必要があるのだ。

 だが、再三言うが、それができていない。

 照橋心美と念花美翔は、背水の陣に立たされていた!

 

(どうにかして聞き出すのよ……ッ!!)

(なんとか聞き出さなくちゃ……ッ!!)

 

 いまここに、恋愛初心者同士のにっちもさっちもいかない戦いの幕が切って落とされる!

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 読者諸君、初めましての方には初めましてと言っておこう。この物語が始まって17話。やっと「告らせたい」というタイトルに沿った本編が始まる。ここから読み始めるひとのためにも、やはり自己紹介は必要だと思ってな。

 では改めまして。

 僕の名前は斉木楠雄。超能力者だ。

 さて、自己紹介も済んだところで、ここからは僕が狂言回しを担当させてもらう。照橋さんと念花美が繰り広げる空回りしまくりのどたばた劇など、超能力者である僕にしかわからないからな。

 だがその前に、ついでと言ってはなんだが「完璧」を演じることに成功している少年少女たちを、改めて紹介させてほしい。少々長くなるが、どうか付き合ってくれ。

 

 『完璧美少年』こと、念花美(ねんげみ) (しょう)

 僕が育成した最強のイケメン。その端整な容姿は老若問わず、あらゆる女性を魅了する。その気になれば男性ですら、掘られてもいい、などと思うほど。まさしく空前絶後の美貌であり、神の被造物と呼ぶに相応しかろう。

 だが、その性格には難がある。やつは少々、天然なのだ。上述したような美貌を持ちながら、それを理解していない。例えば、念花美は女子に告白されたことがない。その理由は美少年すぎるから。あまりに美少年すぎて、女子たちは告白を前にして尻込みしてしまうのだ。「好きです付き合ってください」と言うより先に、「やっぱり(あなたは容姿がかっこよすぎて)無理です(わたしなんかじゃ釣り合わないから、付き合えません)ごめんなさい」となってしまうのだ。そしてこれを念花美は、何もしてないのに拒否された、と額面通りに受け取ってしまうのである。「俺様に告白するなんて愚かなことを。100回転生してから出直すんだな!」とは、万が一にも思わないのだ。ここまでとはいかずとも、もう少し自覚を持ってほしいところだが。

 容姿は完璧のくせに妙に腰の低い少年は、言わずもがな恋愛初心者。上述した告白詐欺に遭いまくり、女性不信一歩手前までいったほどだ。当然好きなひとすらいなかった。だが、やつも天然とはいえ思春期男子。色恋には興味があった。とはいえ、男色家になられても困る。そこで僕は、苦肉の策ではあったものの、所謂ギャルゲーや乙女ゲーと呼ばれる恋愛ゲームを薦めたのだ。その甲斐あってか、いまとなっては恋愛ゲームマニアと言っても過言ではないほどに詳しくなっている。とまあ要するに、何が言いたいのかといえば『念花美の恋愛観はゲームに依存している』ということだ。

 

 『完璧美少女』こと、照橋 心美。

 別の世界線において僕に災難を齎す、究極絶対最強の愛されガール。その端整な容姿は老若問わず、あらゆる男性を魅了する。その気になれば、同性を百合の世界へと誘うほど。まさしく僅有絶無の美貌であり、神の寵愛を受けし者と呼ぶに相応しかろう。

 だが、その性格には難がある。彼女は少々、自尊心が高いのだ。上述したような美貌を持ち、それを余さず理解している。例えばどこぞの大金持ち(容姿には恵まれなかった)に求婚されたとしても、照橋さんはやんわりと断るだろう。口では「ごめんなさい。いまは勉学が第一優先なの」とでも言って。だがその内心は「所持金だけセーブして、100回転生して出直してこい」と、彼女の恋愛相手に求める最低ボーダーははるか天上である。その傲慢な性格故に。

 容姿が完璧であるばっかりに相手を見下しがちな少女は、言わずもがな恋愛初心者。その可憐な容姿が数多の男性を惹きつけるものの、彼女のお眼鏡にかなう人物は現れなかった。だが、彼女も尊大とはいえ思春期女子。色恋には興味があった。とくに『念花美翔』という、自分と対等と言っても過言ではない美少年の出現以来、彼女の中の乙女心は桃色に染まっていった。だが彼女に恋愛相談の場たるガールズトークを開く相手はいなかった。「照橋さんって彼氏に困ったことなんてないよね」と、その容姿が災いしたレッテルを貼られていたのだ(照橋さんに彼氏がいないとわかっていた上でのアイロニーではあった)。

 そんな完璧美少女は、兄に上目遣いでお願いした。漫画を買ってきて、と。彼女は少年漫画少女漫画と問わず、恋愛要素を含む漫画を買い漁っているのだ。リアルに相談相手を作れない以上、ひとの価値観をもって作られた創作物を頼るほかないと、そう思ってのことらしい。まあここまで語ったが要するに『照橋さんの恋愛観は漫画に依存している』ということだ。

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 2人のことを考えていると、担任は拍手をして注目を集めた。次いで一層大きな声が響く。

 

「それじゃあ夏休みになるけど、くれぐれも警察のお世話になることはしないように。あと、ちゃんと宿題もしなさい。高校2年の夏。大学受験はもう始まってるのよ」

 

 勉強よりも警察沙汰の不祥事を心配するのかと、内心でツッコむもふと気付く。全校集会後のホームルームも、もうすぐ終わりを迎えるらしい。

 僕はテレパシーを2人の思考に集中させた。

 

(とりあえず、ホームルームが終わったらお茶に誘いましょう。中間テストの結果は散々だったけど、あの時に勉強をみてもらったお礼はまだしてない。それを口実にすれば……いける!)

 

 いい作戦だ。建前さえあれば、照橋さんはそこそこ大胆な行動が取れる。おそらく、一緒にお茶しよう、と切り出すことはできるはずだ。だが……、

 

(ダ、ダメだ……。全然考えがまとまらないッ!)

 

 念花美のやつは相当テンパってるな。僕の経験上、こいつがテンパってるときは碌なことにならない。それに、これは予想でしかないが、おそらく照橋さんの作戦は遂行されないだろう。

 僕は考えてみる。

 

 まず、先生がホームルームを終わらせる。多少生徒が捌けるまではその場に居残るだろう。生徒の流れが一段落し、駄弁っている生徒たちに出ていくよう促す。それでも他のクラスに在籍する友達を待つ生徒もいるはずだ。ここでいったん見切りをつけ、先生は早く帰るように言い残してクラスを出ていく。

 さて、照橋さんはどうなるのか。

 ホームルームが終わる。クラスの男子たちは照橋さんのもとに集まる。そこで、見納めだと言ってお茶に誘う。女子たちもまた、念花美のもとに集まる。男子と同様、念花美をお茶に誘う。だが2人は、想い人とのお茶に興味はあれど大勢の集まりには関心がない。

 果たして照橋さんは、こうなった場合にどう切り抜けるのだろう。好感度を保つために誘いを受けるのか、はたまた自身の目的のために断るのか。

 ……ちょっと待て。照橋さんは念花美をお茶に誘おうとしている。言ってしまえばこれは、放課後に一緒になる時間を作るための口実。さらに厳密に言うのであれば、連絡先を交換するための機会を作る口実だ。お茶の誘いを断る、ということは、放課後に時間がないということを示す行為に他ならない。そうなると念花美は、照橋さんこれから用事なんだ、と彼女を引き止めることを諦めるだろう。そして照橋さんも、体裁を保つために念花美への誘いを断念せざるを得なくなる。

 だとすると、だ。照橋さんはクラスメイトの要望に応える可能性が高い。だが彼女は完璧美少女。望むものは全て手に入れなければ気が済まないはず。自分の目的も忘れないだろう。

 つまり、照橋さんは念花美のことも巻き込み、クラス全体でお疲れ様会的な催しをしようと、そう打開するはずだ。テンパっている念花美も、照橋さんが行くのであれば誘いに応じること請け合いである。

 

 と、まあこんな具合か。

 きっと照橋さんなら、お疲れ様会にて、そのどさくさ紛れでうまいこと念花美から連絡先を聞き出すだろう。完璧美少女と完璧美少年──両者をあえて比較するのであれば、場の空気を操作する技術は照橋さんの方が長けている。あしたから夏休みだという弛緩した空気が生み出す独特の隙を、クラスメイト全員を利用し、照橋さんは的確に射抜いてくれるはずだ。念花美はたまらず、連絡先を教えるに違いない。

 ふっ。勝った。念花美翔敗れたり。

 僕があれこれ考えるまでもなかったな。

 

「それでは、これでホームルームを終わります。無茶せず健康に過ごすようにね」

 

 さあ、どうなる。

 最初に動いたのは、名もなき男子生徒だった。

 彼はわざとらしく大きな声で、

 

「なあ、これから飯行かね? あしたから夏休みだしさ、ぱぁーっとな!」

 

 抑えきれない高揚感を漂わせた声を受け、他の男子が応える。

 

「お、いいね。誰行く?」

 

 ここからはもう、予定調和だった。

 

「あ、俺も行けるぜ」

「俺も大丈夫」

「やべ、きょう財布忘れた。夏休み明けに返すから、貸してくんね」

「おめー返す気ないだろ!」

 

 次第に盛り上がりをみせたところで、

 

「でもさ、華がねーよ。野郎だけじゃむさ苦しいって」

「じゃあさ、照橋さんも誘わね?」

 

 男子たちは照橋さんを取り囲んだ。

 

「照橋さん! 俺らとお疲れ様会的なことしませんか!?」

「近くのファミレスとかで!」

「あまりお時間は取らせません!」

「俺たちがお金出すんで、好きなもの注文してください!」

 

 彼らの圧は相当で、珍しく照橋さんは半歩退いた。

 しかし、半秒もおかずに、すぐに切り返す。

 

「えっと、クラスみんなで行くなら」

 

 そう言い、ちらりと隣を一瞥する。

 そこには当然、女子に囲まれた念花美がいた。

 男子たちは、男たちの中に照橋さん一人では流石に無理があると懸念していたらしく、彼女の提案に乗っかる。

 

「よーし、女子はどうだ? あ、念花美も大丈夫か?」

「うん。予定はないから、いいよ」

 

 冷静な男子生徒がさりげなく、女子の一塊の中核をなす念花美を抱き込み、その場の勢いで同意を得た。女子はそれに続く。

 

「念花美くんが行くなら」

「わたしも行くー」

「あ、私も!」

「結構な人数だけど、どうする?」

 

 盛り上がりは一層大きくなる。

 しかしそこに、ひとりの刺客が現れた。

 

「ちょっとあなたたち、先生の話聞いてたの?」

 

 居残っていた担任が、騒々しくなりそうな集団に釘を刺す。

 だがこれは、心を読む限りは建前のようだ。優秀な生徒である照橋さんと念花美がいるのなら間違いは起きないだろうと、本心ではそう思っているようである。

 

「まあ、周りに迷惑をかけないように気を付けなさい」

 

 先生は軽く注意しながら教室を後にした。

 生徒もそれに、軽く答えた。

 

「はーい」

「先生また1ヶ月後ー!」

「宿題忘れても怒らないでね」

「さよならー」

 

 先生は教室を去り、クラスは予想通りの盛り上がりをみせた。

 あしたからは長期休暇だという事実。男子は照橋さんと、女子は念花美と放課後のお出かけという状況。これらを加味した高揚感にクラスは一種の異様な雰囲気を纏っていた。

 だが、それはどうでもいい。僕には関係ないからな。照橋さんと念花美が参加するお疲れ様会が開かれるというのなら、僕はそれでいいのだ。

 僕はカバンを持ち、席を立つ。

 念花美がテンパっているいまがチャンスだ。あいつは気を利かせて、きっと僕のことも誘うはず。だが、僕はあの雑踏に巻き込まれるのはごめんである。

 長年かけて培った超能力なしの隠密スキルを使い、僕は誰にも気づかれることなく帰り支度を済ませ、教室の扉を開けた。

 あとは若いもんに任せよう。

 そう思ったときだった。

 熱気に包まれた空気は冷や水を浴びせられ、静まり返ったのだった。

 

 

 

 

 

「お? なんだ? みんなどっか行くのか? じゃ、俺んち集合な」

 

 

 

 

 

 燃堂力。

 

「やべー。俺、きょう用事あるんだった」

 

 超能力者である僕ですらコントロール不能のミステリアスバカ。

 

「ま、1ヶ月後に会えるからな。今生の別れでもないし」

 

 鬱陶しい奴だが、根は悪い奴ではない。これは僕も保証する。

 

「あー。宿題早めに片付けないとなー」

 

 ただ単純にアホなのだ。感じたことをそのまま行動に移すため、決定的に間が悪く、空気を読むことができない。

 

「わたし、今日は帰るね。さよならー」

 

 それ故、こういった機会では敬遠されがちである。

 瞬く間もなく、扉の近くに立っていた僕の隣をクラスメイトたちは通り過ぎていった。

 これはイジメレベルだと若干頭にきた僕だが、当の本人はこともなげである。そのかおは、毒気を抜かれる間抜け面だった。

 

「お? なんだ、やっぱり用事あったのかよ。でもよ、モテ()(念花美翔)。オメーが暇だって言ってたのは聞こえたぞ。相棒とチビも、ラーメン食いに行こうぜ」

 

 燃堂は念花美の肩を掴み、僕の方へと歩いてくる。

 やれやれ。途中までは完全に僕の読み通りだったが、あっけなくひっくり返されてしまったな。きょうのところは幕引きか。……まあ、連絡先の交換に期限などない。今度じっくりと、念花美と一緒に作戦でも考えてやろう。

 僕は駆け寄ってきた海藤と、念花美を引っ張ってきた燃堂の3人を伴って教室を出ようとした。

 すると……

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 僕らは呼び止められ、完璧美少年はどこかぎこちない表情で言った。

 

「て、照橋さんもどうかな。よかったら行かない?」

 

 海藤と燃堂は凄まじい勢いで頭を回転させ、照橋さんを視界にとらえる。

 

「おっふ! 照橋さん!」

「おっふ! 照橋さん!」

 

 僕もまた、完璧美少年の耳が真っ赤になっているのを、視界にとらえた。

 僕ら以外出ていってしまった教室で、取り残されたように立っていた照橋さん。おそらくは作戦が破綻した影響で放心していた彼女は、驚いたような様子で念花美を見た。そして笑顔で──

 

「うん! 行く!」

 

 どうやら試合終了を告げるブザーは、まだ鳴っていないらしい。

 





ここからはタイトルをマネた『かぐや様は告らせたい』に寄せていきたいところ。今後ともどうぞよろしくです。

Ψ追記情報Ψ

・念花美は斉木を通じ、燃堂、海藤とも交友がある。そこそこ仲がいい。
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