照橋さんは告らせたい   作:ナイルダ

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照橋さんは正したい

 季節は体育祭からいくぶんか進み、テレビや折り込みのチラシにはサンタやらツリーの存在が幅を利かせつつある。つまり、もうすぐ冬休み……ではなく、一年で最もリア充たちが騒がしくなるあの時期なのだが──

 

「あ、あのさ……24日、用事ある?」

「……な、ない……です」

「そ、そうか! じゃ、じゃあさ、俺と──」

 

 ここPK学園も例に漏れず、浮ついた雰囲気に支配されている。

 やれやれ。嫌になるな、まったく。テレパシーがピンク色の思考ばかりを受信して頭がどうにかなりそうだ。

 とはいえ悪いことばかりではないのも事実。件の2人もまた、思春期真っ只中の健全な少年少女である。聖夜直前の甘ったるい毒気に侵食されているようだ。ひょっとしたら、今年中に僕の目標は達成できるかもしれない。

 上述したような告白紛いのやり取りを聞いたのか、照橋さんはソワソワとした様子で隣に座る完璧美少年の様子を伺っていた。

 対する念花美はというと、先程からスマホの画面と睨めっこを続けている。

 せっかく照橋さんが乗り気でいるのに、何をしているんだか……。僕は少々気になり、テレパシーを念花美に集中させた。

 

(うーん……24日か……。そもそも年末は繁忙期だし、クリスマス付近はなおさらだもんなぁ……。でも、できればイブは照橋さんと……。いやでも、店長にはお世話になってるし、お店の方の力にもなってあげたいしなあ……)

 

 どうやらバイトの日程交渉らしい。視力を上げスマホの画面を覗いてみると、こんな文言だった。

 

『 FROM:店長

  T O :念花美君

  件名:24日の件

  本文:何度も連絡しちゃってごめんネ(T ^ T)

     でも、しょー君だけが頼りなの❤️

     20日から年始にかけては特別手当で時給UP❗️

     イブ当日は店長特製ケーキもプレゼント⭐️ミ

     ……ごめんなさい。ホントのこと言います

     もうホントしょー君しかいないの❗️❗️

     24日はしょー君目当ての太客ばかりなの❗️

     一生に一度のお願い❗️❗️❗️

     ついでに25日も来てくれたらマヂ最高❤️

     年始は融通効かせて休み入れるから❗️

     あと25日も来て欲しいな⭐️(๑>◡<๑)

     予定があるのは百も承知だけど^^;何卒❗️

     24、25日来てください❗️❗️❗️❗️    』

 

 ……うん。これは酷い。

 というか、途中からサブリミナル効果のように「25日も来てほしい」と打ち込み連日勤務させようとしてるし……。あの店長、恐ろしいほど面の皮が厚いな。

 僕は念花美が通うバイト先の店長の顔を思い浮かべた。

 名前は『虎之洲(とらのす) (ふう)』。近しいひとからは親しみを込めて『(かえで)さん』と呼ばれている。明るい茶髪のボブカットで(僕にはよくわからないが)目鼻立ちも整っていて、よくナンパされるようだ(店員を捕まえて長々と自慢話として語る、とは念花美の談)。29歳独身。対人コミュニケーション能力も高く、多くのひとに慕われるタイプ。ちなみに、念花美がフロアに立つようになってからは売上が右肩上がりで、よく目が『$』とか『¥』になっている愉快なひとでもある(僕が女体化して店に行った時、たまに見かける)。

 さてどうしたものか。少し、思案する。

 僕としては24日、念花美には照橋さんとの約束を取り付けてもらいたい。何が起こるにせよ、好感度は上がるだろう。あわよくば告白まで漕ぎ着くことができるかもしれないしな。

 であれば、さっきから睨めっこしている店長からのメールには『NO』と返してもらわなければならない。だが天然かつ正直者で優しいあいつの性格を考慮するのなら、こうも強く出られては断りづらかろう。ほんと、どうしたものやら。

 目を閉じ、瞑想するように考えていた僕だが目を開けると、照橋さんが念花美のスマホをちらちらと覗いていた。姿勢も顔の向きも変わらずに器用なものだ。

 しかし、妙にうるさいな……。なんなんだ……?

 

(ちょ、え、なに……なんなのあのカラフルなメールッ!? 絶対同い年からのメールじゃない……。でも念花美のやつ、やたらと真剣な表情ね……)

 

 なるほど。確かに、『おじさん構文』とか『おばさん構文』と呼ばれているものに似ているな。まあ当人は29歳なんだが。……とはいえ、そんなに驚くようなことだろうか。

 僕が照橋さんに意識を向けると、あまりの動揺からか念花美に話しかけていた。

 

「ね、ねえ……念花美くん。さっきから熱心に何か見てるみたいだけど、何かあった?(い、いったい何者からなのッ!?)

「え? ああ、うん。24日、どうしようかなって」

「に、24日が……どうかしたの?(24日の予定ッ!? そのメールの相手とッ!?)

「うーん。行こうか行くまいか悩んでて……」

「へ、へぇー……(行くのッ!? 24日ッ!? ソイツのところへッ!?)

「……うーん。いつもよりお金貰えるしなあ(しらせ)にちょっと高いプレゼントとか買ってやれるけど……。でもあいつ、俺なんかよりもよっぽど稼いでるし……)

「……ッ!?(お金ッ!?)

「……それに、楓さんも困ってるみたいだしなあ」

「……ッ!?(か、カエデ……女ッ!? それも念花美のこのアンニュイな感じ……年上ッ!?)

「……うーーん」

「……」

 

 それっきり、2人は黙り込んでしまった。

 まあ、まったく別々の理由だが。

 

(……というか、ちょっと待てよ。照橋さんの予定を訊いてみないことには始まらないのでは? そもそも24日に予定があるようなら、どこか行きませんかって誘えないし……。よし! 思い切って訊いてみよう)

(お、お金に……年上の女……。それも〝あんな〟イタい文章書いて寄越すような女。ハートマークもチラッと見えたし……。いったいどんな関係なのよッ!! ……ん? ちょっと待って。関係? うら若い美少年と年増女の……関係……ってッ!?)

 

 うーーむ。なんだか嫌な予感が……。照橋さん、念花美の勤め先は知らずとも、バイトしていることは知っているはずだが……相変わらず無駄に想像力が豊かだな。

 

「ね、ねえ……照橋さん。その、24日──(もしよかったら、一緒にどこか出掛けませんかッ!!)

ダメェェエエッッ!!!!

おっふ

「ダメダメッ!! ダメったらダメェェエエッッ!!」

「だ、ダメ……か」

「当たり前でしょッ!!」

「……ッ!?」

「何考えてるのッ! ダメに決まってるでしょッ──(援助交際だなんてッ!!)

「……すみません……でした」

「わ、わかってくれたらいいのよ」

「……じゃあ、24日は……行くか……」

全然わかってないじゃないッ!!

おっふ

 

 言わんこっちゃない。

 念花美は困惑した様子でうつむき、照橋さんは勢いよく立ち上がり、肩で息をしながら叱責を続けた。

 

(24日、俺はいったいどうしろと!? 照橋さんを誘うのもダメ、バイトもダメ……。何が彼女を怒らせたのか、まったくわからんッ!!)

(てかなによ! お金さえあれば誰にでもしっぽ振るってーの!? 見損なったわッ!!)

 

 やれやれ、どうしたものか。早く誤解を解いた方がよさそうではあるのだが……下ネタ方面に勘違いした照橋さんのメンタルは、はたして大丈夫なのだろうか。

 僕は再び目を閉じた。念花美への好感度が下がるのは避けたいところだが、まあ、なんとかなるだろ。よくよく考えてみると、この2人の間に割って入るのは不可能だ。単純に巻き込まれたくないし……今回は事後対応でいいか。

 

「……ちなみに、……本当にちなみにだけど……いくらなの?(相場がいくらなのかは知らないけど、相手は私と同格の美少年……。最低でも……1000万……とか?)

「えっと……時給2500円──」

安ッ!!

「そ、そうなのかなあ……十分高い方だと思うけど」

「安いよ! 安すぎよッ!! むしろ学生の方が高いんじゃないのッ!?(なんなの! こいつに2500円払えば好き放題できるってこと!? 2500円でおっふするんかッ!? てか時給ってなにッ!! エンコーにそんな概念あったのッ!?)

「いやあ……どうなんだろうね?」

自覚が足りないッ!!

おっふ

「どれだけ低く見積もっても100万はするでしょッ! 普通ッ!!」

「じ、時給100万円って、1時間で103万円ギリギリだけど……。2時間で完全に扶養の範囲超えちゃう……」

「知ったこっちゃないわよッ!!」

「いやそれは、親に迷惑かけちゃうから……」

もう十分迷惑かけてるでしょッ!! 親御さんが知ったら悲しむわよッ!!

おっふ

 

 照橋さんの暴走は続く。もはや衝動的に口走っている(思考と行動が同時に行われている)ため、僕のテレパシーは機能していない。つまり……燃堂化しているッ!

 

(さっきから、どうも話が噛み合っていないような……。照橋さんが何に怒っているのか見当つかないし、どっから100万という金額が出てきたのかもわからん……。……しかし、こうなったらもう、バイト先に呼んで実際に見てもらうしかない。いままでバイトのことを訊かれても、なんとなく恥ずかしいからはぐらかしてきたけど……しのごの言っている場合じゃないよな。……とにかく知ってもらおう、俺は正当な対価を貰った上で働いてるって)

 

 念花美は覚悟を決め顔を上げた。そして色んな意味で興奮気味の照橋さんをしっかりと見据え、切り出した。

 

「照橋さん! 24日、都合がつくようなら30分でいいから来てほしい!」

「い、行くわけないでしょ!? みくびらないでッ! いまの念花美くんに払うお金なんて、びた一文ありゃしないわよッ!!」

「お金のことは心配しないで。こっちが払うから!」

「んな!? わ、私のことなんだと思ってるのッ!?」

「さっきから何のことを言ってるのかよくわからないけど、とにかく、一回だけでいいからチャンスが欲しい! たしかに、俺が働いてるような店にいかがわしいイメージを持つひともいる。でも、従業員一同、少しでもお客さんの笑顔が見られるように努力してるんだ! どうか、照橋さんにもそれを知ってほしいッ!!」

 

 真剣な表情のまま、スマホの画面を硬直している美少女に突きつけた。そこにはカフェのホームページが映し出されていた。

 

「ここがバイト先。24日は混むだろうけど、楓さん──店長には友達を呼ぶって伝えて、席は確保してもらうから!」

 

 照橋さんは固まっていた。おそらく状況を理解したのだろう。自分はとんでもない勘違いをしていた、と。

 青白くなった顔は次第に赤みを取り戻し、今度は湯気が出そうなほど真っ赤に染まる。しかしその思考はどこまでも白く、放心していることが窺えた。

 先程まで興奮のあまり席を立っていた照橋さんは、すとんと力なく椅子に座り、たった一言呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっふ

 

 

 

本日の結果

照橋心美の敗北

(完璧美少年は所謂コンカフェで働いている模様)

 

 

 




Ψオリキャラ名簿Ψ

・名前:虎之洲 楓(とらのす ふう)
・名前の由来:トランスフォーメーション(変身能力)より。
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