〝ぼくのかんがえたさいきょうのイケメン育成計画〟を実行に移した僕こと斉木楠雄は、1週間の苦節(苦労描写はほぼ省略)を経てついに、お目当ての顔面偏差値最強イケメンを見つけ出したのだった──
さて、計画の第一段階をクリアした僕だがまだまだ問題は山積みだ。というよりも、最も重要と言っても過言ではない案件が残っている。それは──
──同じ高校に通わないと意味がないッ!
これだ。これが問題なのだ。どこぞの遠く離れた地で最強イケメンを育成したところで、僕の目標は達成できない。同じ高校に通ってもらわなければ困る。
しかし、僕が取れる選択肢は大きく分けて2つだな。僕が能動的に動き念花美と同じ高校に通うか、念花美の方からこちらと同じ高校へ通うように誘導するか……。さて、どうしたものか。
正直、〝僕が受験する高校を変えた段階で照橋さんと出会わなくなるのでは?〟とも考えたが、これは既に可能性から除外している。並行世界の〝僕〟の目が死ぬ程度には手に負いかねる存在だ。どうせ運命の強制力とかなんとかいって、僕と照橋さんは出会わざるを得なくなるだろう。だからこそ、なおさら同じ高校に通ってもらわなければならないのだ。
よし、答えは出た。念花美一家にはこちらへ越してきてもらおう。そうしよう。
……ん? 独り身の引っ越しならともかく、所帯ごと引っ越しするのは容易じゃないって? 確かにそうだな。僕の都合で経済的な負担を相手側に押し付けてしまう。こんなことが母さんバレたら、怒られるどころの騒ぎではない。そんな事態になることは僕も本望じゃないからな。
とはいえ、僕にも通さなければならない
ここで、いくつかの前提条件があることを伝えておく。
まず、僕が現在住んでいる場所は新築の一戸建て住宅だ。僕が〝ファイちん事件〟を契機に転校することとなった際、この場所に引っ越してきたのだ。
そしてもう1つ。この場所は近年集中して住宅地化が進んでいる、所謂ベッドタウンという地域になる。要するに、斉木家のご近所には新築の空き物件がまだいくつか残っているのだ。実際、僕が住む家の両隣もまだ空き家状態だ。
さて、これらの状況を鑑み、僕がすべきことを今一度まとめよう。
Q.同じ高校に通いたい。どうする?
A.同じ中学に通い、進学先を合わせる。
Q.同じ中学に通うには?
A.同じ地区に引っ越してもらう。
Q.どうやって引っ越しを促す?
A.頑張る。
よし、決まったな。
……なに? 最後が適当すぎると? 問題ない。諸君はまだ知り得ないだろうが、僕は知っているのだ──〝念花美一家はすでに、引っ越しを計画している〟──と。
テレパシーで念花美翔を発見した際、僕は彼の家庭環境も知ることとなった。
家族構成は父、母、当人、妹の4人。集合住宅で暮らしている。両親の仕事は夫婦揃ってツアーコンダクターであり、世界中を飛び回っている。それ故、ほぼ一年中家を空けている状況だった。幼いながらも当人と妹の2人暮らし──それが彼の常だった。そして、そんな現状を鑑み彼の両親は、せめて広い家で生活を送らせてあげたいと考えた。……そう、彼らはちょうど一戸建て住宅を探していたのだ。
とはいえ、念花美一家が住んでいる場所と僕が住んでいる場所は遠く離れている。それを全くの新天地であるこの左脇腹町に引っ越させるのは、まあ常人には不可能だろう。しかし、僕は超能力者だ。既に手は打ってある。
用意するものは簡単、レディースの白いハット帽。そして帽子と同じ値段の小物で、これは小さいモノほど好ましい。さらに、使う超能力だが……テレパシー(受信/送信能力)、トランスフォーメーション、テレポート・アポート、サイコキネシス、念写、千里眼、瞬間移動、透明化……そしてマインドコントロールだ。
帽子に関しては、母さんに怪しまれながらも買ってもらうことに成功。小物の方は父さんの私物を拝借した。これらの扱いの差はご愛嬌。斉木家では日頃から見られる風景なので気にしないでもらいたい。
しかし、僕が実行した〝念花美一家引っ越し作戦〟を説明するのは多少大変なのだが……そうだな、諸君らには申し訳ないが箇条書きで端折らせてもらう。言っておくが、これは書くのが面倒になったとか、そういうことではない。断じてな。とはいえ、〝40〟の工程を踏むことになる。覚悟だけはしておいてくれ。
では仕切り直して、解説を始めようか──
1.隣の空き物件の家から不審な音がすると管理会社に電話。翌日、担当者を確認に向かわせるとのこと。
2.電話の翌日、件の担当者が来るかなり前から行動を開始(後に使うトランスフォーメーションの為に時間が必要だった)。玄関先に買ってもらった白いハット帽を置いておく。
3.瞬間移動で対象の家の中に移動。
4.トランスフォーメーションを使用。白いハット帽に白のワンピース、そして2メートルを超える高身長かつ黒髪ロングの生命体に変身。(一応人間の体を保っているので超能力のコントロールは可能)そして待機。
5.千里眼で家に入ってこようとする人間を監視。
6.担当者が到着。玄関先に置いた白い帽子を視認したことを確認。(男性2人だった)
7.家に入ってくる前に透明人間化する。(透明化するまでに1分、維持できる時間にも制限がある為絶妙な時間管理を要求される)
8.担当者ら2人は様々な場所で異常がないかを確認。その先々でサイコキネシスを使いポルターガイストを演出。そこそこビビらせる。
9.内心びくつきながらも足早に諸事項を確認し帰ろうとする2人。しかし、これまたサイコキネシスで玄関の扉を固定。逃しはしない。もう少し作戦に付き合ってもらう。彼らの血の気が引いていく。
10.2人の背後で透明化を解除。その結果、両名とも気絶。
11.2人の内、気が弱そうな男性のポケットに父さんからくすねた……ではなく、拝借した財布を入れておく。(ハット帽とほぼ等価)
12.トランスフォーメーションを解除。そして瞬間移動で帰宅。
13.千里眼で両名を観察。
14.2人とも気絶状態から復調し、玄関から外へ出る。そして僕が置いた白いハット帽を再び視認。脱兎の如く逃げていった。
15.普通にハット帽を回収。
16.その後も2人を千里眼で追跡。会社に戻り、涙ながらにありのままを上司に報告している様を観察。
17.報告中、タイミングを見計らってテレポート・アポートを使い、父さんの財布と白いハット帽を交換。突如としてポケットから白いハット帽が飛び出し〝夢だけど夢じゃなかった〟状態を演出。
18.上司に体験したことを信じてもらえなかった2人だったが、再び恐怖のどん底へ。
19.あまりの取り乱しように上司も信じざるを得なくなる。
20.ダメ押しでテレパシー(送信能力)を使い、上司の頭の中に「ぽぽぽ」という声を再生させる。
ふう。ここで一旦休憩だ。
……ん? 随分と畜生じみたことをしているって? まあ一見そう感じるだろう。しかし、どうか最後までご清聴願いたい。それに、まだ使うと言って使っていない超能力もあるだろ?
さて、僕がここで解説を止めたのには理由がある。というのも一通りの作戦を考えた際、住宅の管理会社があの家をどう扱うのかが読みきれなかったのだ。隠蔽してそのまま売りに出すのか……あるいは取り壊すなどの処置を行うのか……といった具合だ。
そして肝心の結果なのだが、お祓いのみで済ませることとなった。まあ問題なかったな。修正はいくらでもきく。
では改めて、解説を続けようか──
21.お祓いを行う決定を受け、ネット上で左脇腹町に所謂──〝八尺様〟が出没したと書き込む。(田舎に出没することや子供を狙うという設定とは異なるが、そこまで問題ではない)
22.念写でそれっぽい画像を作り、上記と同時にネット上にアップロード。
23.情報の流布と共に千里眼とテレパシー(受信能力)で管理会社の状況を確認。依然としてお祓いのみで済ませる模様。
24.数日後、隣の家でお祓いが執り行われる。
25.お祓いの様子をカメラで撮る。
26.上記の画像を元にし、そこに〝八尺様〟を映り込ませるように念写を使う。
27.念写で作ったお祓いの画像を、これまたネットに流す。
28.ネットがざわつき始める。
29.多くのネット民が謎の団結力を発揮。すさまじい勢いで情報を収集し始め、実際にお祓いが行われていたと証言が集まる。それにより〝八尺様〟の信憑性が増していく。
30.父さんが慌てふためき、僕に〝八尺様〟を倒すように言ってくる。
31.父さんを腹パンで黙らせる。
32.そんなこんなしている間に左脇腹町の地価がみるみる内に下落。
33.上記の結果を受け、管理会社は僕の隣の家を破格の値段で売り捌くことを決める。
ふう。途中で無駄な工程を挟んだが、秒で片付いたから問題ない。
まあとにかく……僕はお隣の物件を新築一戸建てながら、破格の安値で扱われるよう誘導することに成功したのだ。
さて、本当の勝負はここからになる。引っ越し先の調整は済み、残すは念花美夫妻の決断を誘導することだけ。
こうして僕は作戦を完遂させるべく、千里眼とテレパシーの使い先を住宅管理会社から念花美一家へと移動させたのだった──
34.絶賛物件探し中だった念花美夫妻へテレパシー(送信能力)を使い、地価暴落がニュースとなった左脇腹町のことを想起させる。
35.夫妻はニュースを思い出すものの、不吉な存在である〝八尺様〟の情報も思い出す。
36.上記のタイミングでマインドコントロールを使い、〝八尺様〟を不吉な存在から吉兆の存在へと反転。要するに、
37.夫妻にテレパシー(送信能力)を使い、2013年に流行語となった某予備校講師のセリフを脳内に再生させる。
38.〝八尺様騒動〟に始まった左脇腹町のマイナスイメージはマインドコントロールにより反転。地価は下がったままであり、その中でも格別激安物件である僕の隣家。そして某名台詞。これらの情報を元に夫妻は左脇腹町に移住することを決める。
39.紆余曲折あったが、念花美一家の引っ越し先が僕の隣家に決定。
やれやれ、随分と遠回りをしてしまったな。
正直……夫妻に直接、斉木家の隣家に引っ越すように仕向けることもできた。なんならそちらの方が圧倒的に楽だ。しかし、これをやってしまっては超能力によって他者の人生を操ってしまうことになる。これでは僕と母さんとの約束に反してしまう。だからこそ僕は、今回のように回りくどい方法を採用したのだ。
「いや、同じようなものだろ」──そう感じる人もいるだろう。しかし僕は言いたい。僕はただ外堀を埋めただけだと。あくまで誘導しただけだと。
……ん? 住宅管理会社の2人がトラウマを植え付けられた? 人生を変えられた? 残念だが、それは解決済みだ。マインドコントロールを使った際、彼らが抱いた感情も反転したからな。今となっては〝八尺様〟に出会えたラッキーガイたちだ。
あとは……そうだな、左脇腹町の活気も地価も元通りだ。いや、元通り以上だな。移住者は増え、地価も跳ね上がった。上記の現象により、念花美一家に激安で家を売って発生した損益もカバーできたことだろう。
とはいえ僕の隣家が有名なパワースポットと化したばっかりに、見物人が多くなってしまったのが玉に瑕なのだが……まあ照橋さんと対になる予定の念花美が引っ越してくれば、自然と有名になるだろうから誤差の範囲だ。
と、こんな感じで僕は──計画の第二段階を突破したのだっt…………あ、そういえば〝念花美一家引っ越し作戦〟最後の工程を解説し忘れていたな。
40.父さんに財布を返す──これにて完遂だ。
Ψ計画失敗!? 念花美一家引っ越し作戦Ψ
・念花美一家引っ越し作戦の被害者:念花美くんが元々通っていた小学校の女子生徒、並びに女性教員。
上記の被害者たちは当作戦終了後、心神喪失状態へと陥った。更に、彼女たちから発せられた負のオーラは男子生徒にまで及び、そして学校全体を覆い尽くす。当該地域の教育委員会、並びに地方公共団体は超法規的措置として1ヶ月の休校を決断。
後日、事態の重大さを知った斉木くんの手によりどうにか収束に至ったらしい。なお、念花美くんは何も知らない。
・左脇腹町における〝八尺様騒動〟の震源地ともいえる家の隣家である斉木家。多くのメディアの取材が来るも、調子に乗った斉木父が全て対応。斉木くんが目立つことはなかった。ただし父のインタビューのせいで近所で変な目立ち方をした。