照橋さんは告らせたい   作:ナイルダ

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オープニング
背中で睨み合う虎と龍みたいな間柄


 突然ではあるが、僕らが通う高校には2つの巨大な組織が存在する。そして、それらの組織の構成員はそれぞれ男性と女性に大きく偏っているのだが……

 そう。察した人も多いかと思うが、それは照橋さんと念花美──2人のファンクラブであり、その構成員にはPK学園の学生はおろか教師に他校の生徒、果ては大物政治家までいるとかいないとか。

 さて、これらの組織なのだが、それぞれに『鉄の掟10ヵ条』というものが定められている。当人らとの会話を制限するとか掟を破った者には粛清をするとか……まあそんな感じなのだが、実は暗黙の了解として『11条』が存在しているのだ。そしてこの『記されざる掟』は僕が1年生だった時、両ファンクラブ間の合意をもって締結されたのだが、今となっては全く機能していない。というのもその内容が──

 

〝照橋心美と念花美翔を近づけてはならない〟

 

 ──と、2年生となった今では守るに守れなくなってしまったのである。

 しかしこの『11条』、去年までは遵守されていたのだ。体育祭に文化祭にと、とにかく目立ちまくる両名を鉢合わせないようにする為、双方のファンクラブ会員は汗水垂らして奔走していたのだ。全てはそう──

 

〝自分達の偶像たる照橋心美(or念花美翔)を、念花美翔(or照橋心美)に奪われたくない〟

 

 ──ただそれだけの為に。

 2人をくっつけたい僕からしたら邪魔でしかなかったのだが、結局は1年間様子を見ることとなった。まあ2つほど理由があるので聞いてもらおうか。

 まずは第1の理由。並行世界の〝僕〟の証言によれば、照橋さんに付き纏われるのは2年生になってからであり、まだ猶予があること。それに、全校生徒を相手取るのはさすがの僕と言えど面倒だった。次に第2の理由。これは照橋さんが1組、そして念花美が5組に在籍していたことである。1組と5組は最も離れたクラス同士であり、合同授業などもなかったからな。まあそれ故に『11条』を死守できていたのだが……

 ともあれこういった理由で傍観を決め込んでいた僕だが、ついに〝その時〟は来た。遥か昔に計画し、僕が時間を掛けて育成した最強イケメンと照橋さんを出合わせる時が。

 そして2年生になって初めての始業式の日──

 

 

 

 ──彼らは出会い、恋に落ちたのだ。

 

 

 

以下、PK学園黙示録より抜粋

 

 

 

 その日、昇降口前の掲示板は喧騒に包まれていた。

 まあ無理もない。今日は新学期の始まりであり、掲示板にはクラス分けの結果が張り出されていたのだ。その人だかりには「一緒のクラスだね」とか「今年は2組なのね」だとか、友達と喜び合う者や自分のクラスを確認する声が溢れかえっていた。表面上はにこやかに。

 しかしその場にいた全員が思っていた──最悪の事態が起きたのだと。そして知った──自分達の無力さを。神に愛されし者たちの運命力を前に、膝を屈する他なかったのだと。その日──死力を尽くして守り抜いた『11条』は、いとも呆気なく破られることと相成った。

 そんな、絶望に打ちひしがれお通夜状態になりかけていた集団に声を掛ける者が現れる。

 

「みんなおはよう。……って、どうかしたの?」

 

 照橋心美である。

 しかし、彼女は暗い雰囲気に包まれている事情を知らない。そんな彼女はいつもより〝おっふ〟が少ない──そんな状況ながらも掲示板前の人だかりに歩を進める。するとモーセの海割りが如く道が造られていき、人だかりの最前列へと優雅に躍り出た。

 

「えーと、照橋…照橋……あ、あった。今年は3組ね」

 

 彼女は自分のクラスの確認と同時に、同じクラスになった男子生徒の名前を一瞬の内に記憶する。次に彼女はクルリとターンを決め、周囲の男子生徒を識別。そして名前と顔が一致した生徒に「今年はよろしくね」と、笑顔付きで挨拶をして教室へと歩き去っていったのだった。

 こうしてお通夜は瞬く間に終了し、その場には「おっふ」という言葉だけが残響していた──

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 その日、2年3組は異様な雰囲気に包まれていた。

 理由は単純だった。件のクラスの生徒……さらには事態を察した登校済みの生徒達が大勢その教室の前に集まり、歴史が変わってしまう瞬間を見届けに来ていたのだ。

 そんなザワザワと騒めく空気の中、クラス内にはすでに念花美翔が席に着いている様子を窺うことができた。

 『1組のイヴ』と『5組のアダム』──決して交わることなく背中で睨み合い続けてきた両者が遂に、邂逅する時がきてしまったのだ。そして邂逅の時は刻一刻と迫っており、もはやどうすることもできない。彼らは出会ってしまう──まるでそれが運命であるかのように。

 

 静寂。人だかりが分断されていく様。「おっふ」という奇声。

 

 照橋心美はついに、『エデンの園(2年3組)』へと足を踏み入れた。そして両者は出会う。奇妙な縁によって導かれた両者の席は隣同士であり、自然と距離は近づいていく。

 しかしその時、その場に居合わせた全ての人間が息を呑むこととなった。それは果たして神の悪戯(イタズラ)だったのか、それとも──

 

「きゃあ」──誰もが聞き惚れ、思わず手を貸してしまいたくなる可愛いらしい悲鳴。〝それ〟は照橋心美の声だった。彼女があと少しで席に着ける──それくらいの距離に達した瞬間、彼女はナニカに躓き前のめりになって倒れてしまう。そしてその時、口を()いて出た悲鳴だったのだ。

 

 〝女神に危機が〟──居合わせた男子生徒は背中に悪寒を走らせた。だが動くことはできない。誰もがただ見ていることしかできなかった。

 しかし、照橋心美が怪我を負うことはなかった。彼女は無事だったのだ。咄嗟に動いた念花美翔に抱き止められ、彼女は事なきを得たのだ。

 その瞬間、人々は悟った──〝神は死んだ〟のだと。

 

 

 

Ψ 出典 PK学園黙示録 邂逅の章第1節 Ψ

 

 

 

 やれやれ。随分と仰々しいもの書きだったな。

 

「お? 保健室誰もいねぇじゃねーか。こうなりゃ人工呼吸を……」

「なにが人工呼吸だバカ! ふざけンな、仮病に決まってんだろ!」

 

 しかし大体が事実であるのも確かだ。

 

「おい斉木、テメェ仮病のこと言うんじゃねーぞ(燃堂の人工呼吸……おろろろろろ)

 

 これらは記されざる鉄の掟である『11条』が破綻した瞬間であり、僕の目的でもあった照橋さんと念花美の出会いでもあるのだ。

 

「聞こえたぞ。まさか仮病だったのかッ!!」

「……ッ!!(げっ、松崎!?)

 

 おい、さっきから五月蝿いぞ。あの場で先生に指示されたから付いてきたが、僕は念花美と照橋さんの観察で忙しいんだ。

 

「斉木、お前もグルなのかッ! おい、何故寄り目なんだ! おちょくってるのかッ!!」

 

 ちっ……高橋。僕を巻き込んだ代償は大きいぞ。毛病にでもなってろ。

 

「あ、あれ……なんか眩暈が」

「おい高橋ぃぃいいーーッ!!」

 

 やれやれ、大分グダグダになってしまった。まあ始業式までの追加説明も必要だからな、少々時間を戻そうか。

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 高校2年生──それは僕にとって重要な年である。まあ諸君は既に分かっていると思うが、並行世界の〝僕〟によって齎された情報である〝照橋さんに認識される年〟なのだ。

 だからこそ、僕は入念な準備をしていた。まずは──

 

〝念花美と照橋さんを同じクラスにする〟

 

 ──これだ。

 とは言えこの程度であれば簡単だった。教師達をテレパシーで誘導するだけで済んだからな。まあその影響なのか、3年生のとあるクラスが〝あ〟で始まる名前の生徒ばかりになってしまったのだが……

 さて次だ。過去は振り返らない。

 

〝念花美と照橋さんを隣同士の席にする〟

 

 まあこれも簡単だったな。念花美と照橋さんを同じクラスにする作業と同時に、クラス内の〝て〟から〝ね〟で始まる生徒の調整も並行して行っていたのだ。もっともこの時、〝僕が2人と違うクラスになる〟という選択肢もあったのだが、結局は同じクラスになろうという結論に至った。これには同じクラスの方が2人をくっつけやすいというメリットがあったし、照橋さんの運命力を計り知ることができないという判断もあった。

 

 では次のステップに移動……と言いたいところではあるが、事前の準備は上記の2つで十分だ。そして僕がやるべきことはあと1つ──

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 今日は学年が変わってから初めての始業式。それ故に昇降口前の掲示板は賑わっていた。自分はどこのクラスなのか、気になるあの子はどのクラスなのか──と、様々な思いが渦巻いていた。まあ〝とある現実〟を知った生徒達は絶望していたのだが……

 ともあれそんな状況下にありながら、照橋さんはいつも通りに振る舞い新しい教室へと向かっていた。

 ちなみにこの時、僕はテレパシーと千里眼を使い彼女を観察していたのだが……まあこんな感じだ。

 

「あ、おはよう。今年も同じクラスだね(張り出されていたクラス分けの結果……。ふっ、ついに念花美翔とやらをオトす時が来たのね。去年はどういうわけか接触できなかったけど……ふふっ。悪いわね、女子のみんな。あなた達の王子様、明日からは私しか目に入らなくなっちゃうわ。さあ覚悟しなさい! 念花美ッ!!)

 

 やれやれ。念花美とは違ってかなりのナルシストだな。まあ知ってたけど。…………さて、来たな照橋さん。悪いが覚悟するのは君の方だ。

 

「……みんな、おはよう(居たわ、あいつが念花美翔ね……ってなんなのよあのイケメンはぁぁああッ!? お、おおお落ち着くのよ照橋心美ッ! 表情を崩しちゃダメッ!!  ……ふぅ…ふぅ。あ、危なかったわ。危うく持っていかれるところだった。し、しかし女子が噂するのも当然か……って、隣の席ッ!? ……ふ、ふふっ…こ、これはラッキーね。隣になった男子生徒をオトす会話パターンは32通り……この完璧美少女に隙は無い──貰ったッ!!)

 

 残念だが貰うのもこっちだ。悪く思うなよ──〝サイコキネシス……ッ!!〟

 僕はサイコキネシスを使い照橋さんの上履きを固定。すると彼女は「きゃあ」という悲鳴と共に前のめりになって倒れる……が、転ぶことはなかった。

 まあ諸君ならば分かるだろう。そうだ。彼女は僕の狙い通り、咄嗟に反応した念花美に抱き止められたのだ。

 

「だ、大丈夫?(お、おぉっふ……この子、めちゃくちゃ可愛い。もしかして、楠雄が事あるごとに可愛い女子がいるって言ってた人なのかな……?)

 

 『そうだぞ念花美。彼女が照橋さんだ。そのまま告れ』

 

「……ッ!!(急に話しかけてくるなよ、ビックリするだろ。……って何言ってんの!?)

 

「あ……う、うん。大丈夫。あ、ありがとね……え、えーと……念花美くん(あ、あひゅぅぅ……う゛う゛んッ! ん゛ん゛! わ、私は「あひゅ」なんて訳のわからないことは言ってない! 断じて! そう、断じてッ! そ、それよりも顔が近いッ!?)

 

 ちっ…念花美のやつめ。『畳み掛けるチャンスだぞ。そのまま一目惚れさせるんだ』

 

「そ、そっか。怪我がなくてよかった(いや、さっきから何言ってんの!? この子とは会ったばかりなんだけどッ)

 

「あ、あはは。新学年になって早々コケちゃうなんて、私ツイてないね。でも、念花美くんに受け止めてもらえるなんて……やっぱりツイてたかも?(……ふぅ。ど、どうにか体裁は保てたわ。しかしさっきは危なかったわね……二重の意味で。……ん、そう言えば、さっきはなんで転びそうになったんだろう。何かに足を引っ掛けたのかな? でも何も落ちてないし、机や椅子が動いた様子もない。うーん、他に考えられるのって…………はっ!? ……ま、まさか……この私が見蕩れていた? この男に見蕩れて足元がおぼつかなくなったとでもッ!? それで転んだとでもッ!?)

 

 くそっ。念花美のやつ、もう少し自分の容姿に自覚を持たせるべきだったか。元来が母さんと同じ気質だからな……無自覚爽やか系に育ってしまった。これは失敗だったか。

 しかし照橋さんの方は上々の反応だ。

 

「ちょ、ちょっとお花を摘みに行こうかな……(み、認めないッ……認めないわッ! この完璧美少女 照橋心美が、逆にオトされかけるだなんてッ……しかも「おっふ」させることすら出来なかったなんてッ……そんなの絶対に認めないんだからぁぁああーーーッ!!)

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 さて。まあ上記のような感じだったのだが、両者のファーストインプレッションはおおよそ理想通りになったな。1年間様子を見た甲斐があったというものだ。

 しかしあの2人、始業式でも隣り合うように調整してやったんだがな。特段何も起きないとは。……まあ初日にしては上出来か。

 

「お、相棒! もうナントカ式終わっちまったってよ。んじゃ、ラーメンでも食いに行こうぜ」

 

 やれやれ。今日は気分がいいからな、付き合ってやらんこともない。

 

 

 

 

 

(念花美翔、覚えてなさいッ……絶対にあんたの方から告白させてやるんだからッ!! そして……「私、あなたみたいな人……タイプじゃないの。ごめんなさい」──って振ってやるんだからぁぁああーーーッ!!)

 

 

 

 

 

 僕は照橋さんの心の叫びを聞きながらも、ラーメン屋へと足を向けたのだった──

 

 

 




Ψオリジナル用語Ψ

・PK学園黙示録:とある学生2人が送った学園での軌跡を記した書物。その書体は所々で変わっている為、複数名が変遷に関わったと思われる。代々図書委員会の長によって厳重に管理されており、読むことができた者は絶対に好きな人と付き合えるとか付き合えないとか言われているらしい。
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