2年生となり最初の登校日──ついに邂逅を果たした照橋心美と念花美翔。そんな2人の出会いは、とある超能力者の手によって多少ドラマチックな展開と相成った。しかしその瞬間に両者が恋に落ちることはなく、照橋心美は念花美翔に対し必ずや「おっふ」させ、告らせてみせると心に誓ったのだった。そして──
(もーーッ! どうなってるのよーーーッ!?)
照橋心美は動揺していた。
隣の席である隣人をチラチラと観察し、敵の情報を集め弱点を探っていたがついぞ見つけること叶わず。それに加え毎日の挨拶、消しゴムをわざと落とし拾ってもらうこと、下校時に偶然を装い途中まで一緒に帰ることなどなど──彼女の『おふらせ作戦』は悉く失敗していたのだ。それが照橋心美という完璧美少女を焦らせていたのだ!
(ゴールデンウィークも特に何もなかったし、もうすぐ中間テストだし……てかアイツをオトすことに夢中で全然勉強できてないしッ!?)
そして、そんな焦りまくりの美少女を横目にほくそ笑んでいる男が1人いた。──そう、とある超能力者こと斉木楠雄である。もっとも、彼こそが彼女の焦りを生み出した張本人でもあるのだが……
というのも、彼は自身の目的の為、あるいは友人の初恋の為──念花美翔へと助言を送っていたのだ。
『照橋心美に「おっふ」してはならない』
──この言葉を。
理由は単純である。彼女に「おっふ」する事とはすなわち、彼女に隷属することであるのだ。その美貌に屈し、服従し、格下であると認めてしまうことに他ならないのだ。照橋心美という人間と恋仲になりたいのであれば、対等でなければならない。だからこそ、有象無象の様に「おっふ」してはダメなのである。
と、このような理由で助言を送っていた。
しかし、当の本人である念花美は──
「確かに照橋さんは可愛いと思うよ。でも告白するとか付き合うとかは……」
──と、かなり後ろ向きであった。
もっとも、彼が破格の美貌を持っているにも関わらず恋愛に奥手であることには理由がある。
彼は告白されたことがないのだ。校舎裏に呼び出されど、手紙を渡されど──
「やっぱり無理ですごめんなさーーいッ」
このように、念花美翔は告白の直前で女子側の敵前逃亡にあっていた。これはただのイケメンと比べ、頭ひとつ抜けるどころか膝下まで飛び抜けた美少年っぷりが原因となっているのだが、彼はこの行為をネガティブに受け取ってしまっていたのだ。「なんか分かんないけど振られた」と、勘違いしたのである。
そして、このような告白詐欺と勘違いを幾度となく繰り返しながらも彼は高校生になった。
斉木楠雄のフォローの甲斐もありどうにか女性不信に陥ることはなかったが、それでも男女で友人以上の関係になることに躊躇いをみせるようになってしまったのだった──
やれやれ、念花美のメンタル管理には本当に苦労したものだ。いや、今も大して変わらないか。母さんと同じで思い込みが激しい気質なんだよな、あいつは。照橋さんの爪の垢でも煎じて飲めば、多少のナルシシズムが身に付いたりしないものか……
まあ愚痴はいい。僕は僕自身の目的の為、あいつには照橋さんを好きになってもらわなければならない。
そしてその為には、照橋さん側からのアプローチを待つ必要がある。念花美のやつが面倒な性格でなければ、もっとシンプルな手段を取れたんだがな。
ともあれ、だ。当面は受け手に回る他ない。念花美が照橋さんに好意を抱くまでの辛抱である。
そう。今現在、僕がしなければならないこと、それは──〝両者の好感度を下げることなく、しかし念花美が恋愛的な嫌悪感を持たないギリギリのラインを維持し続けること〟だな。
やれやれ。恋愛というものが
照橋心美は決意した。必ず、かの眉目秀麗な美少年を「おっふ」させなければならぬと。中間テストが来週に迫る中、今週中に決着をつけなければならぬのだと。
そう。これは戦争である。照橋心美という人間が、完璧美少女たる矜持を保つ為の戦いであるのだ。
そしてこれから記すは──その(一方的な)戦いの一部始終である。
1日目。月曜日──
その日、照橋心美は攻勢に出た。
彼女はテスト勉強を理由に、念花美翔をファミレスへと誘ったのだ。
しかし、残念ながら断られることとなった──
──のだが、翌日ならば大丈夫とのことで作戦は繰り越し。
よって、戦略的撤退を余儀なくされた。
2日目。火曜日──
放課後、予定通り2人はファミレスへ。
1年生の時、ただの一度も学年首位を譲らなかった念花美翔は照橋心美の勉強をサポート。
照橋心美は有意義な時間を過ごした。
3日目。水曜日──
昼休みの際、〝蛇騒動〟があった。
昼の騒動で作戦を見送った照橋心美は放課後に動きを見せた──が、念花美翔に予定があったため放課後は特に何もなかった。
結果、特段の進展なし。
4日目。木曜日──
放課後、念花美からの誘いで図書室にて勉強会が開かれる。
照橋心美は有意義な時間を過ごした。
5日目。金曜日──
この日も図書室にて勉強会が開かれる。
今日も今日とて照橋心美は有意義な時間を過ごした。
こうして、決意の1週間は終わりを迎えたのだった──
やれやれ、この1週間は少々肝を冷やしたぞ。
照橋さん側からのアプローチを待つと決めた手前、彼女の攻勢は大変ありがたい。念花美の方もかなり照橋さんを意識し始めたからな。まあ、
とはいえ、おおよそ嬉しい誤算と言ってもいい具合だ。恋愛においてトラウマを持つ念花美が特定の女子に興味を持つ──これは大きな前進である。……だがしかし、念花美が照橋さんのことを意識することとはすなわち、彼女に対し「おっふ」する危険が高まるということでもある。楽観視ばかりはしていられない。
さて、まあ上記のことを鑑み、僕は今〝両者の好感度バランスを保つのが非常に面倒〟な状況にいるのだ。念花美が「おっふ」し照橋さんが彼に対する興味をなくすことも、照橋さんの『おふらせ作戦』とやらを許容しすぎて念花美が彼女に対し嫌悪感を抱くことも、どちらもアウトなのだ。
と、そのような感じで大変な1週間だったのだが……水曜日に教室へと現れた蛇(海藤によって仮に随分な名前を付けられた近所に出没した蛇)を照橋さんに
やれやれまったく……今思い返しても本当に面倒な状況だな。
しかし、やらなければならないのも事実。念花美という名の防波堤が破られようものなら、照橋さんの次なる標的は間違いなく僕になる。元はと言えば、僕が照橋さんに付き纏われないようにする為の育成計画なのだ。この程度の災難で匙を投げる訳にはいかない。
本当に、厄介な状況だ。
本当の本当にな。
やれやれ、なぜ君が僕の目の前にいるんだ──
「えっと……斉木くん。今、ちょっといいかな?」
──照橋さん。