(よし。やるわよ、照橋心美)
中間テストを来週に控えた月曜日。誰も彼もが「もうテスト来週じゃん」だとか「昨日の『サザエさん』見た後からずっとダルいんですけど」だとか、そんな愚痴をこぼす中……照橋さんだけは違っていた。
彼女は、言うなればそう──念花美に対し、戦いを仕掛けようとしていたのだ。完璧美少女としての矜持を保つ為に、是が非でも怨敵に「おっふ」させてやろうと企てていたのだ。
とはいえ、これは僕にとっても嬉しい展開である。照橋さんに恋愛的な感情を抱いていない念花美のやつが、自ら彼女に対してのアプローチをとる可能性はほぼ0%。だからこそ照橋さん側からの攻勢は大変ありがたい──のだが、不測の事態に陥る可能性は否定できない。
それ故に油断は御法度であり、念花美のやつが「おっふ」しそうものならば……サイコキネシスであいつの口を強制的に塞ぐことも視野に入れる必要がある。まあ、可能であればそのような事はしたくないのだが。
ともあれ、だ。この1週間は2人の動向に注意しなければならない。1ヶ月半近く何もなかったとは言え、照橋さんの本気とはどれほどのモノなのか──
「あ、あの……念花美くん。放課後なんだけど……時間あるかな? その……実は付き合って欲しくて……(さあ覚悟しなさい念花美翔。必ずやアンタにギャフん……じゃなくて「おっふ」って言わせてやるんだからッ)」
「……え、えーと?(放課後に時間? うーん、確か今日って月曜日だよな……)」
「え、あっ…そ、そのねッ! 付き合って欲しいって言うのは、彼氏彼女とかそういうのじゃなくってッ!? ほら、来週はテストがあるし……それに念花美くんって成績すごかったよね? だからその、勉強を教えて欲しいなって(喰らえーーッ! 美少女奥義『か、勘違いしないでよね!?「付き合って」って、そういう意味じゃないんだからね!?』的なヤツーーーッ!!)」
「あの、ごめんね……今日は用事があるから無理なんだ。明日だったら大丈夫なんだけど、どうかな?(折角のお誘いではあるけど、今日はバイトがあるんだよな)」
「…………(…………え?)」
「えーと、照橋さん?(反応がないけど、どうしたんだろう? ……あ、そっか。明日の予定を思い出そうとしているのか)」
「…………(……えーーと。もしかして、もしかすると……断られた? この私の誘いが? てか私の奥義スルーされてない?)」
「…………(なんか気不味いな、このままじゃ間が持たないぞ。……そう言えば、照橋さんって習い事とかしてるって聞いたことがあるけど……よほど予定が詰まっているってことなのか?)」
「…………(いや待て。落ち着くのよ照橋心美……これは罠ッ! いえ……罠というよりはカウンターの
「あの、別に無理しなくてもいいからね?(もしかしたら余計なこと聞いちゃったかも)」
「う、ううん…こちらこそ大丈夫だよ。明日、ファミレスかどこかで勉強しようね?(くっ……完全に抜かったわね。まさか断られるだなんて…………そんなの1ミリも想定してなかったわよッ! 私が悪いって言うのッ!? それより生まれて初めてよッこんな屈辱はッ……この完璧美少女 照橋心美の誘いを断るだなんて、マジで信じられないんですけどーーッ!! 例え総理大臣に面会する予定があったって、私を優先するのが普通でしょッ!?)」
いやはや、僕の出る幕はなかったな。
それにしてもこれが照橋さんの本気か……奥義が完全スルーされたのは流石の僕も同情せざるを得ない。ひょっとしたら念花美のやつ、恋愛的なトラブルを避ける為に「好き」だとか「付き合って」だとか──そういった言葉を自動でブロックする脳内フィルターでも付いているのかもしれないな。一体どこの世界のハーレム主人公なんだか……
まあいずれにせよ──念花美翔…おそろしい子……!
では、今現在の状況を説明しようか。
「お? ここラーメンねーのか」
「燃堂、お前は何しに来たんだ。勉強するんだからサイドメニューやドリンクバーが鉄板だろ。なにガッツリ食おうとしてるんだ。それより、来週テストがあるって分かってるのか? いや、分かってないな、これは」
僕は照橋さんと念花美の2人を観察する為、ファミレスにいるんだが……邪魔な奴らも連れてきてしまった。やれやれ、どんな手段を使ってでも引き剥がしておくべきだったな。……まあ、騒がれたら気絶させるか。
さて、燃堂と海藤のことはどうでもいい。僕は食事をしに来たのでも勉強をしに来たのでもなく、2人の観察に来たんだ。頼むから邪魔してくれるなよ。それだけでいいんだからな。
「おい斉木まで何やってるんだ! お前ら勉強する気あるのか!? 来週はテストだって言ってるだろ!?」
ええい、五月蝿い。勉強したいのなら家に帰れ。
その方が絶対にお前のためになると断言できるぞ。
「ったく仕方ない奴らだ。こうなったらこの漆黒の翼が直々に……」
あ、窓の外にダークリユニオンが。
「なにっ!? ……ここも狙われていたかッ!」
何しに来たんだ、お前は。勉強する気があるのか言ってみろ。
やれやれ、本当にうるさい奴らだな。まったく……
「ここはこの公式に当てはめて……うん。それで解けるよ」
「そっか……こうやってみると、思っていたよりも簡単なんだね。ありがとう、念花美くん(くっ……コイツ、マジで勉強できたのね。ワンチャン教師に媚び売ってテストの問題を事前に知っていたとか思ってたけど…………いやこれ完璧に私の敗北じゃないッ!? テストの順位、毎度毎度1位のコイツとそれ以下の私……どう考えたって完敗じゃないのコレーーッ!!)」
「ううん。教えることって、自分の勉強にもなるって言うからね。むしろこっちがお礼を言いたいくらいだよ(こうやって勉強会をするのって初めてなんだよなー……。男子には誘われないし、誘ったとしても断られちゃうし……女子も概ね同じ反応だったし……)」
「そっか。もしかしたら邪魔しちゃうかもって思ってたんだけど、そう言ってもらえて良かった(ぬわーーっ! 教えるってもう完全に上から目線じゃない!? 「照橋さんって……勉強できないんだ。……ふっ(嘲笑)」とか思ってるに違いないわコイツーーッ!!)」
「よかったらまたやる? 今日だけじゃテスト範囲全てをカバーできないし」
「う、うん。念花美くんがいいって言ってくれるなら、また一緒に勉強したいな(くぅ…コイツ、あからさまにマウントを取れる状況だからって調子に乗りやがってぇ……ッ! この借りはいつか倍にして……いえ、100倍にして返してやるんだからッ! 覚えてなさいよ…………この、ガリ勉野郎ーーッ!!)」
よし。今日も念花美のやつは「おっふ」せずに済んだな。
「お、相棒。帰るのか?」
まあな。用事も済んだし……って、なんだその国旗の付いた爪楊枝は。……ん? お子様ランチ『魔眼探偵ジョーカー』グッズをプレゼント、ね。
「チビのやつがお子様ランチなら食べてもいいって言うからよ。まあ、ちっと物足りなかったけどな」
海藤お前、自分で注文するのが恥ずかしいからって……
「あ、いや、ちがっ……」
やれやれ、本当に何しに来たんだお前たちは──
よし。海藤もトイレに行ったことだし、僕もトイレに行くか。
……ん? いや、これは俗に言う〝連れション〟ではない。断じてな。ただ面倒なことに巻き込まれないようにする為の自衛行為であり、それ以上でもそれ以下でもない。いいな? まあ確かに、僕の隣の個室には両手で顔を覆った海藤が恥ずかしさに悶えているわけだが……
さて〝連れション〟だとかどうだとか、そんなことはどうでもいい。ついでに海藤の心情だとかもどうでもいい。じきに近所のペットショップから脱走したという蛇が現れるはずだからな、僕はそっちの方が気になるんだ。海藤に構っている暇はない。
では、さっさと千里眼で見てみようか──
「うわああー蛇だァァーー!!」
「ちょっ……うわぁ!!」
「キャアーー!! 何で教室に蛇がいるのよーー!!」
「早く教室から逃げるぞ!」
「扉の前にいて出られねーよ!」
「とりあえず机の上に登るんだ!」
「ちょっと男子、なんとかしなさいよ!」
「てか蛇どこ行った!?」
「男子、早く先生呼んできてよ!」
「無理だって! 蛇がどこか行ったし、噛みつかれたらどうするんだよ!!」
やれやれ、カオスだな。予知能力もたまには役に立つ。
しかし……ん? 燃堂、お前……いや、大丈夫か。
「燃堂が死んだぁぁ!!」
「かなり最悪の死に方だぁぁ!!」
まったく、全然騒ぎが収まりそうにないな。念花美にテレパシーでも送って早急に捕まえさせるか。……ん? いや待て。海藤、いつのまに教室へ移動したんだ。
「早く逃げろ! ここは俺が何とかする!!(何やってるんだ僕はぁぁーー! 怖い怖い怖いッ!!)」
「今の内に逃げるんだ!」
「海藤、頑張れー!!」
「ふっ……俺が怖いか、
うーん。それにしても、蛇という存在は常人からしたら恐怖の対象なのか……
……ん? よし。念花美のやつも、やっと教室に来て騒ぎを聞きつけたな。これでもう大丈夫か。……いや待て。この状況は利用できるな。
恐怖によるドキドキと恋愛におけるドキドキを勘違いして恋に落ちる的なアレだ。勉強会程度では2人の関係に進展などなさそうだしな……少しだけ後押ししてやる。即興の作戦だが、まあ念花美なら大丈夫だろう。
「おい! 蛇がこっちに来たぞっ!!」
「えっ!? きゃあああああぁーー!!」
「くっ! お前の相手は俺だァァ!!(ゴメン、お母さん……僕、死ぬかもしれないッ)」
海藤、恐怖心に支配されながらも女子を庇うその姿勢……なかなかどうしてカッコいいじゃないか。
だが、その蛇は僕が利用させてもらうぞ──〝サイコキネシス……ッ!!〟
「おいっ! 蛇が照橋さんの方に方向転換したぞッ!!」
「ぬおおぉッ!! 何としてでもお守りしろーー!!」
「スクラムを組んで壁を作れーー!!」
やれやれ、海藤ただ1人しか庇いに行かなかった一般女子生徒と反応が違いすぎるだろ。
しかし、他の奴らが庇ったんじゃ意味がないからな。数秒だけ、サイコキネシスで体を動かせなくさせてもらうぞ──お前たちは緊張で体が硬直したってことにしておいてくれ。
「なっ! 体が!?」
「照橋さんッ!!」
「お逃げくださいっ!!」
「えっ……(う、嘘でしょ! 何で私の方に来るのよ!? ちょ、ちょっと神! なんとかしなさいよーーッ!!)」
「照橋さーーんッ!!」
やれやれ、まあ何とかなったか。
念花美の奴には、ジャングルの奥地に住まう大蛇と戦わせたこともあったからな。あの程度の蛇に苦戦する理由などどこにもない。
しかし、即興の作戦だったが思いのほかうまくいったようで安心したぞ。〝危機的な状況において庇ってもらう〟──これはかなり効果があるらしい。
今まで〝完璧美少女〟と〝完璧美少年〟──双方が〝完璧〟であるが故に、照橋さんは念花美に対し同族嫌悪のようなライバル意識を元にした感情を抱いていた。……だが先ほどの一件を通して、少しではあるものの恋愛的な感情も抱き始めたようだ。これはまあ、上々の結果といえよう。
とは言え、海藤の見せ場を奪ってしまったのは申し訳なかったな。まさか再びトイレに戻ってきて涙を流すとは……今度なにか奢ってやるか。
さて、今日は図書室か。昨日の騒動で照橋さんの心境にも多少変化があったからな……一体どうなることやら。それに、今回は念花美の方からのお誘いだ。それ故に彼女の計画が多少狂ったようだが……まあどうとでもなるか。他の生徒たちの目もあるし、余程のことは起こらないだろう。
と言うわけで、僕は今図書室にいる。
席は2人が直接見えない少し離れた場所なのだが……今の図書室は〝静かに〟というルールが一切守られていない。めちゃくちゃ騒がしい。「ザワザワ...」という効果音がひしめき合うくらいには騒がしいのだ。
まあ理由は単純である。
なにせ学校の2大有名人が、肩を並べて座っているのだから──
「…………(えーと、ここの問題は……よし。次はっ…と──)」
「…………(嘘でしょコイツ……。私が隣に座っているにも関わらず無反応ッ!? 肘と肘が触れ合うくらいの距離なのよッ!? それなのに教本や問題集とばっかり睨めっこして……ちょっとくらいこっちを気にしなさいよッ!!)」
「…………(うーん、これは確か……)」
「…………(はぁ……まあいいわ。来週はテストだし、勉強しないといけないのも確かよね。…………それにしてもコイツ、本当にイケメンね……って何やってるのよ私っ!! 落ち着くの。そう…落ち着くのよ、照橋心美。昨日から計画が狂いっぱなしだけど、私は必ずコイツを「おっふ」させてやるんだから!)」
「あの…さっきから手が止まってるみたいだけど、解らないところでもあった? 全然質問してくれて大丈夫だよ」
「あっ…うん。じゃあお言葉に甘えて……この問題なんだけど(くっ、どこまでも上から目線できやがってぇ……確かに勉学という分野においては完敗よ、現状はね。……でも、弱い立場なら弱い立場なりの戦い方ってものもあるのよ。……さあ覚悟しなさい。ここで必ず、息の根を止めてやるわ)」
「えーっと、これはね……」
「あ、そっか。そうやって解けばいいんだ(喰らえーーッ! 美少女奥義『説明をし終えて顔を上げたら美少女との距離──実に20cm。その事実に気付いた瞬間「あっ…」とドキマギした声を上げ、気恥ずかしさで目を逸らしてしまう』的なヤツーーーッ!! 更にッ『前に垂れた髪を耳にかける』を発動ーーッ!!)」
「えっと、こうやって解くんだけど……うまく説明できてたかな?(びっくりした……。そんなに覗き込むほどだったかな? ……うーん。それにしても、照橋さんは勉強が好きなのだろうか。この間も勉強会に誘ってくれたし、今日はこっちから誘っても付き合ってくれたし……)」
「うん! 流石だね、念花美くん。バッチリだよ!(まだまだぁッ! 更に更にッここから両手を胸の前で合わせ、流れる様に優雅な動作で誰がどこからどう見ても完璧美少女と言わざるを得ない究極の笑顔──『
「あはは、ありがとう。でもコツコツ勉強すれば、照橋さんでも俺程度にはできるようになると思うよ。特別なことはしてないからね(こんな風に感謝されるのって、なんだかいい気分だな。もっと照橋さんの為に何かしてあげたくなるような……そんな感じ。それに照橋さんってやっぱり……すごく可愛いな)」
「そんなことないよ、私なんかじゃ……(無反
「ううん。できるよ、照橋さんなら! 何か俺にできることがあったら言って? 可能な限り協力するからさ!」
「あ、ありがとね……そう言って貰えてすごく嬉しい(ぐぎぎ……コイツ、私の究極奥義を受けてなお平然と攻撃を仕掛けてくるとはッ! 机に向かっていた体を私の方に向け、更に真剣な様子で視線を逸らすことなく私の瞳を覗き込む……ッ! そして、まるで意趣返しの様に顔を近づけてきやがったッ!! くっ……だ、ダメよ。ここで屈するなんてッ! 落ち着いて。そう、落ち着いて──)」
「うん。バイトがない日はいつでもいいからね」
「わかった。何度も言うけどありがとう、念花美くん。お言葉に甘えて頼らせてもうね? ……あっ、そうだ。そう言えばお母さんに買い物頼まれてたんだった。テスト勉強もだいぶ進んだし、今日はもう帰るね(──撤退ッ!!)」
「え、そうだったの? 用事があるなら断ってくれればよかったのに」
「ううん、全然大丈夫だよ。最悪忘れちゃってもいいくらいの用だから。それじゃあ、また明日(くぅ……まさか『
やれやれ、凄まじい独り相撲だったな。
念花美の天然気質と恋愛感情への無頓着っぷりが、照橋さんのアタックをことごとく無効化している。あいつの奥手すぎる性格も考えものだったが、照橋さんの猛攻を凌ぐには割と丁度いい精神状態なのかもしれないな。まあ最悪、照橋さんに対しての悪感情さえ抱かなければ問題ないか。〝恋はいつでもハリケーン〟とも言うことだし……
しかし、念のため図書室に集まった生徒たちに催眠能力を使っていたのだが、正解だったな。あいつらが目にしたのは黙々と勉強を続ける2人の姿だけ。決して、お互いに近づいたり近づかれたりといった光景など目の当たりにしていない。奴らにとっては刺激が強すぎるからな。
とはいえ、注目されること自体は防げない。1人で居たって目立つような奴らだし……
やれやれまったく。学校で恋愛心理戦とやらを繰り広げるのは、学校中の生徒のためにも止めて欲しいものだ──
さて、今日は金曜日。長かった1週間も終わりを迎える。ついでに言うのであれば、照橋さんにおける決意の1週間の最終日でもある。
昨日の帰り際、何やら不穏なつぶやきを残していったが……一体どうなることやら。
ともあれ、今日の放課後も2人は図書室で勉強会を開くらしい。
昨日の段階で既に騒がしかった図書室だが、今日は更に酷くなりそうだ。「あの2人が揃って勉強している」と噂になっていたからな。放課後の図書室はごった返すに違いない。
やれやれ、どうしたものか。人の多いところにはわざわざ行きたくないし、かといって放置するのも心配だ。まあ、離れた場所で千里眼による観察──これが無難といったところか。
「…………(今日は暗記モノを中心にやろうかな)」
「…………(ふん…今日も今日とて余裕そうな顔をしてるわね。でも、一体いつまでその
「…………(暗記系の勉強って1人でやると気が滅入ってくるけど、誰かが隣にいると集中力が続くな……。それに今までやったことないけど、一問一答形式でお互いに問題を出し合うこともできるし)」
「…………(さあ覚悟しなさいッ! この戦いも今日で終わりよッ!!)」
「…………(うーん。隙を見て照橋さんに、問題を出し合わないか提案してみようかな? でも邪魔するわけにはいかないしな……って、あれ?)」
「…………(ふっ、やっとこっちを見たわね念花美ッ! 震えながら昇天しなさいッ! 美少女究極奥義『
「…………(照橋さんって眼鏡かけるんだ)」
「…………(これは伊達メガネ……しかし、性能にこだわらないが故にオシャレ属性に極振りされているのだッ!! そして! 私はまだ変身を残しているッ!!)」
「…………(なんだかいつもとは違った可愛さがあるな……ってダメだ、あんまりジロジロ見るのは失礼だ)」
「…………(コイツ、そっと目を逸らしたわね。……ふっ、まあこの私に小道具を使わせるだなんて大したものよ。〝照橋心美に眼鏡〟──こんなのもう〝鬼に金棒〟どころか〝鬼に
「…………(なんか集中できなくなってきたな……何でだろう?)」
「…………(さあ喰らいなさいッ! 美少女奥義『リップクリームを塗り、唇をあざと可愛く動かす』を発動ーーッ!! キスを連想させる唇から派生する思春期男子の妄想は無限大ッ! 相手は死ぬ!)」
「…………(うーん。そんなに乾燥してるのかな? あまり気にしたことがないから分かんないや)」
「…………(くっ…これに対する反応はいまいちか。……まあいいわ。どうせ次の〝
「…………(あれ、照橋さんがまた何か……って、これは!)」
「…………(ここまで私を追い込んだこと……それは賞賛に値するわ。でも、もうこれで終わり……絶大な効果故に封印してきた私の〝
──普段は隠された私の
「…………えっと、照橋さんって──」
やれやれ、とんだ騒動になったな。今日は催眠能力を使ってないから、図書室は阿鼻叫喚の様相を呈していた。ギャグ世界故なのか、鼻血を吹いて倒れる奴までいた始末だ。まあ〝おっふ死〟する連中もいなかったし、念花美の奴も「おっふ」しなかったから良しとするか。
しかしながら、来週に控えた中間テスト……全学年の成績が軒並み下がらないことを祈っておこう。2人の関係が気になりすぎて勉強が手につかなかったとか、そういうことは本当に止めて欲しい。目立たない為におおよそ平均的な点数に調整している僕の点数まで下がってしまうからな。頼むぞ、本当に。
さて。まあ随分と騒がしい1週間ではあったが、上々の結果に終わって何よりだ。両者の好感度もいい具合だし、〝思っているよりも早く2人は結ばれるのかもしれない〟と、僕は楽観視していたのだが──
「えっと……斉木くん。今、ちょっといいかな?」
──どうやら僕は、彼女の妄想力を甘く見ていたようだ。