照橋さんは告らせたい   作:ナイルダ

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※キャラ崩壊注意……なのですが、それと同時にオリキャラと斉木くんの間には確かな絆があることを書けたらな、とも思っております。喧嘩するほど何とやら、的な。


世の中には『飲鴆止渇』という言葉があるらしい

 突然だけど自己紹介するね?

 私の名前は夢原知予。誕生日は6月11日で血液型はB型。身長は156㎝で体重はヒミツ。好きな人は──って、それもヒミツ! …………ヒミツ…なんだけど……はぁ。

 ……え? 何でため息をついたのか聞いてくれるの?

 それがね、中間テストが終わって1週間、私はずっと気になっていた男の子にアプローチしてたんだけど全然上手くいかなくて。ついでにテストの点数も全然上手くいかなくって……って、そんなことはどうでもいいの!

 ……え? 気になっている男の子は誰なのかって?

 うーん、どうしよっかなー……言っちゃおっかなー……って、ちょっと待って! ブラウザバックしないで!

 もう、わかった。言うからさ。少しだけ深呼吸させてよ。

 

 ふぅ。……じゃあ教えちゃうね。私が好きな人は、斉木君って言うの!

 実は念花美君を目で追っている時に偶然気づいちゃったんだ。〝あぁ、こんなにかっこいい人が近くにいたんだ〟──って。

 ……ん? 念花美君は好きじゃないのか?

 もう……ダメだよ、念花美君を好きになっちゃ。いやさ、そりゃ一度くらいは妄想したことあるよ? 〝念花美君が彼氏だったらな〜〟って。

 でもダメなの。何回妄想したって、その夢の最後には必ず〝私なんかじゃ釣り合わない〟って、こんなオチになって自己嫌悪するんだから。周りの友達に聞いてもだいたい同じような感じだし。

 なんて言うのかな……高嶺の花? いや、空前絶後のグレート・ミラクル・アルティメット・スーパー・デンジャラス・ハイパー・超高嶺の花って言えばいいのかな? まあよく分からないけど、とにかくダメなの。

 ファンクラブの間では「照橋さんなら」…って話だけど、どうなんだろうね。正直言ってめちゃくちゃ気になるけど、念花美君に彼女ができたという事実なんて聞きたくないというか、この世の終わりというか…………いや、念花美君が誰と付き合ったとしても、彼が幸せなら私たちはそれでいいかな。念花美君の幸せが私たちの幸せだし!

 

 ……って、そうじゃなくて! 私の好きな人の話でしょ!?

 ……はぁ。まあ話を戻させてもらうけどさ、好きな人がいるの。それでどうにか彼に振り向いてもらおうと──

 

『曲がり角でごっつんこ! あいたた〜と転ぶ私に差し伸べられる手。「大丈夫かい、知予?」そう言って斉木君と私は結ばれて──大作戦』

 

 とか

 

『あれ……ハンカチ落としちゃった。どこにいっちゃったんだろう? そんな私に声を掛ける人が現れる。「このハンカチ、知予のでしょ? ふふっ、お日様のいい匂いがするね」そう言って斉木君と私は結ばれて──大作戦』

 

 とか、とにかく色々な方法でアプローチしたの。

 

 でも、全部、失敗しちゃった。

 失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した私は失敗した失敗──

 

 まあネタはともかくとして、私の作戦は全て空回りに終わっちゃったの。まるで、斉木君と私は一緒になるべきではないって言われているような、そんな感じでね。

 そして私は今、昇降口で雨宿り……というか立ち往生している。なぜなら雨が降っていて、そんな状況において私は傘を持っていないのだ。

 でも……それでも、私の心はまだ晴れている。〝今実行している最後の作戦〟さえ成功すれば、斉木君と彼氏彼女の関係になれるチャンスが再び訪れるに違いない。

 外は雨。おそらく傘を持っているであろう斉木君。そして立ち尽くしている私──そうだ。彼ならきっと、私に傘を差し出してくれるはずだ。「家まで送っていくよ?」──太陽のような笑顔でそう言ってくれるはずなのだ。

 

 

 

 ……そう、思ってたんだけど……晴れちゃった、空。降ってきちゃった、心の雨。

 天にまで見捨てられたんだ、私。だったらもう、諦めるしかないのかな?

 

 

 

 ……そう、思ってたんだけど……晴れちゃった、心の雨。

 

「あれ、雨止んだんだ」

 

 あひゅぅぅ〜……念花美君だ。きっと念花美君が帰るタイミングだから雨が止んだのね!

 それにしても念花美君、今日も「雨、降ってるぜ。あんたの心に涙の雨が」かっこいいな〜〜! もう見てるだけで幸せ! 斉木君のことでちょっぴりナーバスになってたけど「俺があんたの心の傘になってやるよ」……って、さっきから五月蝿いわねこの人。念花美君が見えないじゃないッ!!

 

 ……はぁ。誰だか分からないけど、やっと行ったわね。

 まったく、やれやれね。せっかく念花美君を眺めて心の雨が止んだっていうのに……って、あれ? 念花美君、こっち見てる。……はっ!? 背後に照橋さんっ!? ……は、いない。

 ……ん? じゃあ何でこっちを見てるんだろう。私の後ろには誰もいないし何もないけど。

 

「ねえ、夢原さん」

 

 ……ん? ひょっとして私、話しかけられてる?

 誰に? 念花美君に? 誰が? 私が?

 いやいやいやいやいやいや、あり得ないって。

 そりゃ挨拶くらいはしたことあるよ? 「おはよう」って言ったら、何もかもが浄化される最高の笑顔で「おはよう」って返してくれるんだもの。でも話すとしたら学校に関係することくらいで、世間話なんてとてもじゃないけどしたことないのよ?

 というか、緊張して上手く喋れないし。それにこっちから話しかけることはあっても、念花美君の方から話しかけてくれることなんて滅多なことがないとありえないし…………ちょっとほっぺたを(つね)ってみよう。これはたぶん夢だ。

 

「えっと、どうしたの? 赤くなっちゃってるよ?」

 

 …………ええええぇぇっっ!!!

 痛いしッ! 心配してくれてるしッ!!

 夢みたいだけど、夢じゃないしッ!!!

 下校直前に昇降口で話しかけられるとか……それも雨上がりというタイミング。いやこれ、明日死ぬんじゃないの私!? こんなラッキーあっていいの!? しかもいつの間にか目の前にいるし!!

 

「ちょっと気になることがあるんだけどさ、聞いてもいいかな?」

 

 …………ええええぇぇっっ!!!

 なんかすごく神妙な面持ちなんだけどッ!

 え、なに!? 一体なにが起きてるのッ!?

 いや……これから一体、何が起ころうとしているっていうのッ!?

 

「ひょっとして夢原さんって──」

 

 もうダメだ。頭が追いつかない。

 というか、今更だけど距離が近いッ!? 教室とか周りに人がいるならともかく、2人しかいないのにこの距離感はダメなの! もう私! おかしくなっちゃうよぉぉおおーーーッ!!??

 

「──楠雄のこと、好きなの?」

 

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 

 

 

 …………ええええぇぇっっ!!!

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 本当に、よくもやってくれたな。

 僕が1週間という時間をかけて避け続け、ようやく夢原さんが諦めてくれそうになったものを……それをお前は、たった一瞬で台無しにしたんだぞ。

 

「いやさ、ずっと言いたかったから言わせてもらうけど、流石にあの仕打ちは酷いと思うよ?」

 

 おい待て。なぜ僕が説教されているんだ。文句があるのは僕の方だぞ。

 

「いやいや、ここは譲れないね。楠雄は夢原さんの好意に応える義務がある!」

 

 おいおいおい。一体どの口にそんなことを()かす権利があると思っているんだ。

 人の恋路に口出ししたいのなら、お前の恋路をゴールまで導いた後にしろ。具体的には照橋さんの好意に応えた後だ!

 

「おい、話を逸らすな! この話に照橋さんは関係ないだろ!」

 

 いいや、大ありだ。

 確かに、お前が僕と夢原さんの行動を気にしていることは知っていた。それに、僕がお前と照橋さんにしているような事を企てていたこともな。

 どういった理由で僕と夢原さんをくっつけたいのかは知らないが、全くもって余計なお世話だ。

 それに、お前が僕らを注視していたばっかりに照橋さんは放置状態。敢えて言いはしなかったが、彼女は今ご乱心なんだぞ! 好感度に影響があったらどうしてくれるんだ!

 

「だから照橋さんは関係ないだろ! お前と夢原さんの話をしているんだ!」

 

 おい待て、これ以上意地を張るな。人の話を聞かない鬱陶しい主人公なりヒロインみたいになっているぞ。こういった(たぐい)のキャラは嫌われる傾向が強いんだ。いいから落ち着け!

 

「いいや! こればっかりは譲れないね!!」

 

 ……くっ、相変わらず変なところで強情なやつだな。

 とはいえ、このままダラダラと続けて読者諸君にオリキャラが嫌われる展開は避けたい。ここは一旦、僕が折れるしかない……か。まあ非常に不本意だがな。

 

「いいか! 俺はな、お前のおふくろさんと約束したんだよ! 〝()()()()()()()()()()()()()()〟ってな!!」

 

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………は?

 

「……やば。言っちゃった」

 

 ……おい、今なんて言ったんだ。

 

「くっ……せっかくテレパシーで読まれないように頑張っていたのに、まさか自分の口から白状してしまうとは。語るに落ちるとはこのこと……か。まあ、流石は楠雄といったところだな……」

 

 いやいや……僕は1ミリたりとも誘導してないんだが。

 というか、たった1話でお前のイメージがぶれぶれになってるぞ。こっちにもイメージ戦略というものがあるんだ。もう分かったから大人しくしていろ。

 

「まあいいか。とはいえ、こうなった以上包み隠す必要もないな。あれはそう、中間テスト期間真っ只中の帰り道──」

 

 おい待て、勝手に回想に入ろうとするな。

 ひとまず話を整理させてくれ。お前のキャラが崩壊したことも含めて「──俺は学校の帰り道で偶然楠雄のおふくろさんに会って──」おい、聞いてるのか!

 

 

 

回想開始  おい!

 

 

 

 あれは中間テストの影響で正午あたりの解散となった学校帰りの出来事──俺は自宅に帰る途中で楠雄のおふくろさんにバッタリ出会ったんだ。

 楠雄のおふくろさん──久留美さんは買い物バックを持っていたから、おそらくは買い物帰りだったのだろう。

 そんな久留美さんに、俺は「荷物持ちますよ」と言った。

 すると彼女は「大して重くないから別にいいのよ。ありがとね、しょーちゃん」と、そう返事をした。

 そして自然な流れで一緒に帰ることとなった。

 まあ家が隣同士だからな、帰り道ももちろん同じだ。別に他意はない……つまりは人妻好きという訳ではないということだ。勘違いしないでくれよ?(一応、念のために言っておく)

 

 話を戻そう。

 隣家に住まう楠雄のおふくろさんと帰宅する最中、当然雑談をするわけで……そしてこれまた当然ではあるのだが、話題は楠雄のことになった。

 まあ、ちょくちょく久留美さんとも話すからな。楠雄の学校での友好関係などはすでに何度も話している。

 しかし、今思えばそれが仇になったのだろう。

 俺は燃堂や海藤のことを話し終えた瞬間……「これ、前も話したな」と思ったんだ。

 そして、それと同時に思い出した。およそ恋愛経験のない俺のために楠雄が薦めた恋愛ゲーム──その中に出てきたとあるセリフを。

 

 〝同じ話ばかりする男はモテない〟

 〝話すにしても、少し内容を変えて冗談として昇華させろ〟

 

 俺は考えた……「なんとかしなければ」と。

 そして脳細胞をフル稼働させる。

 すると、いつの間にやらこんなことを口走っていたんだ──

 

「高校に進学して、楠雄に新しい友達ができるか俺も心配していたんですけど、もう大丈夫です! なんなら、彼女だってできますよ! もし楠雄にとって良さそうな女の子がいたら、俺が何とかしてみせます!」

 

 ──ってね!

 

 

 

回想終了

 

 

 

 ふーん。なるほどな。

 まあ、あらましは理解した。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………で?

 

「…………ん?」

 

 おいおい、そんなに小首をかしげてあざとい返事をしないでくれ。そういったことは照橋さんにするんだ。

 いいか? 僕が聞きたいのはその後、だ。

 お前は一体、どうやって最後のセリフを冗談に昇華させたんだ?

 

「まあ待て、聞いてくれ。俺は思ったよ。〝その瞬間に出任せだったことも、後々に実行してしまえば嘘にはならない〟──ってね!」

 

 さっきから挟み込んでくる、その「ってね!」っていうのをやめろ。照橋さんと若干キャラが被ってるぞ。

 しかしまあ確かに、念花美のやつも照橋さんと同じで変に動揺する瞬間があるというか、ポンコツになる場合があるというか……はぁ。やれやれ、今の今まで隠し通すことができていただけでも上出来か。

 というのも、こいつもこいつで友達が少ないのだ。別に嫌われているというわけではない。ただ単に、隣にいると劣等感を煽られる──そんな感じの理由だ。それ故に親しい友達は僕くらいなもの。だからこそ念花美は、僕の前では多少気が緩むのだろう。

 とはいえ、こちらが素顔というわけでもない。

 言うなれば──〝どちらも念花美翔そのもの〟だな。

 

 本当に、こいつは昔から変わらないな……って、なに感慨に浸っているんだ僕は。夢原さんとの恋愛フラグをへし折り損ねた話がまだ終わっていないぞ。

 

「いいや、俺は終わった。楠雄にはきっちりと夢原さんの想いに答えてもらうからな」

 

 いいや、僕は終わっていない。

 話を聞けば、勝手に私情を挟んでややこしくしたのはお前だ、念花美。つまりお前は、僕の思惑に付き合う義務がある。

 

「そんな義務はないし、俺は手伝わない。……いいか、楠雄。俺は別に夢原さんと付き合えと言っているわけじゃない。〝NO〟なら〝NO〟で構わないんだ。ただな……お前が避けてばかりいるせいで、夢原さんは多少なりとも傷付いている。俺はそのことが……なんかモヤモヤするんだよ」

 

 …………。

 

「俺は楠雄が目立つことを嫌っているのも知ってる。だからこそ、楠雄があまり苦にならない状況を用意するつもりだ。……そういう訳で、夢原さんの想いに〝YES〟でも〝NO〟でもどっちでもいいから、ちゃんと答えるんだぞ」

 

 そう言い残すと、念花美は僕の部屋を去っていく。

 結局僕は、念花美のその問いに──〝YES〟とも〝NO〟とも答えなかった。

 

 しかし、僕はこの時のことを翌日になって後悔することになる。

 一体、意地を張っていたのはどちらだったのか。目先の利益ばかりを優先した者がどういった末路を辿るのか……少なくとも、この瞬間の僕には分からなかった。

 

 

 

ΨΨΨΨΨ

 

 

 

 念花美と口喧嘩のようなものを繰り広げた翌日の放課後。

 それは中間テストを終えて気が抜け、夏休みがすぐそこまで迫っているという事実にさらに気が抜けていた学生たちが駄弁っているホームルーム直後のことだった──

 

 2年3組の教室に、国を丸々滅ぼしうる威力を誇る爆弾()が投下された。

 それまで喧騒に包まれていたクラスは、今となっては嘘のように静まり返っている。

 

「ねえ夢原さん。この後用事ある? もしよかったらさ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」

 

 それは、紛れもなく念花美翔の声だった。PK学園において最も女子の注目を集める美少年が、今までほとんど接点を持たなかった女子を突然誘う──そんな声だった。

 これはホームルームの直後のこと。

 もちろん急いで部活へと走っていった生徒もいたが、大半の生徒はまだ教室にいた。

 そう。()()()()もまだ、この教室にいたのだ。中間テストから1週間弱、放置され続けた()()()()も……

 

 そして、先程と同等の破壊力を誇る爆弾()が再び2年3組を襲う。

 

「ねえ斉木くん。この後用事ある? もしよかったら、ちょっと付き合って欲しいな」

 

 それは、紛れもなく照橋心美の声だった。PK学園において最も男子の注目を集める美少女が、今までほとんど接点を持たなかった男子を突然誘う──そんな声だった。

 

 

 

 〝おっひゅ〟

 

 

 

 こうして、2つの声が圧倒的な静寂を創り出した。その結果として、「おっふ」とも「あひゅ」ともつかない謎の奇声が、1人の男子生徒の心内で産まれたのであった──

 

 

 

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