すみません。このパフェお願いします。はい、それです。ありがとうございます。
なかなかファミレスでパフェを頼む機会ってないですよね。ご飯の後には入らないですし、いざ頼むにしても値段が嵩張ってしまいます。だからといってこれをメインにファミレスに行くなんてのもめんどくさい。パフェだけを頼むのも、少し周囲の目が気になりますからね。自意識過剰かもしれませんが。
結局、今みたいに他人に奢ってもらう時が一番頼みやすいです。幸い朝食を食べに来た人も少ないですしね。本当に最高のタイミングです。
えっと。自動改札のあたりでも聞きましたが。面白い話はないか、でしたね。作家さん。さっきも言った通り、ありますよ。話。私が直に体験したものです。
急に身を乗り出さないで。
いえ、そこまで謝らなくても。〆切間近だがどうにもネタが思いつかない。鮮度の高い、確実なネタが欲しかったと。なるほど、作家さんも大変なんですねえ。隈酷いですし。
私の話で作家さんが助かるなら話します。それにパフェまで奢ってもらったんです。どんどん話しちゃいますよ。
作家さんはドッペルゲンガーって知ってますか?
はい。もう一人の自分ってやつです。会うと死ぬとか言われてるやつ。作家さんは何かご存知ですか?
へえ、これってドイツ語なんですか。日本だと陰の病とか影法師。なるほど、芥川龍之介とか梶井基次郎もドッペルゲンガーを見たことがある...。さすが作家さん、詳しいですね。
私、そんなもう一人の自分と会ったことあるんですよ。
どこで会ったんでしたか。まあそこまで重要じゃないんです。忘れちゃっても問題はありません。でも駅のあたりだったことは確実ですよ。この駅に似ている造りだったような気もしますね。
いえいえ、もちろんこれだけじゃないです。私は面白い話をするって言ったんです。これじゃあただの不思議な話。パフェ一杯分には程遠いでしょう?
さて。私はもう一人の自分を見つけてしまったわけですが。ただあちらは私に気づいてなかったんですよ。
というのも、見つけた時に私は駅近くのビルの上の方で、お茶を飲みながら下の方の人達を見ていたんです。これは私の唯一の趣味でした。どこかの駅に行った時に時間に余裕があるとついやってしまうんです。そうやって下を見ている時にたまたま見つけました。
話は変わりますが、趣味とはいえしょっちゅう駅を見てると共通のパターンみたいなものが見えてくるんです。大体の人の流れというかなんというか。この時間ならこっちから人がどのくらい出てくるか、みたいなやつですね。私は詳しくないので知りませんけど電車の時間とか人間心理とか店の時間とかが絡んでいるんでしょう。因果関係なんて当然わかるはずもなく、見つかったのは相関関係くらいです。
それでも一つ気づいたんです。ラッシュの時間帯のほんの数分、ある場所の人通りが少なくなる時間があるんですよ。不思議ですが、ぽっかりと空くというかなんというか。そういう時にその場所にいる人は目につきます。人が少ないっていうのもありますが、どこか奇妙なんですよね。
自分が出す些細な音を異様に気にしたり、眼鏡のズレを頻繁に直したり。過剰に痩せ過ぎて絞った雑巾みたいな人とか。足や目が一つ多い人もいましたね。周りに気づかれることもなく。
いわゆるバケモノとか怪異とかではないです。妖怪変化とは格が違います。向こうのほうが上ってことですけど。説明が難しいですが、多分あの時間の人たちは元は我々の知る普通の人だったんじゃないかと思います。私たちみたいに日々を過ごしていたんでしょう。ただ、何かが起こってしまっただけです。だからあの人たちは奇妙なところを除けばごく常識的なんです。
少し普通とはズレてしまった人たちだからこそ、少し普通とはズレている時間に引き寄せられているのかもしれません。
それが面白いと言ってはなんですが、まあ興味深くてこの趣味を続けていたっていうのはあります。
へ。いやあ、私は作家には向いてませんよ。別に人間観察が趣味ってわけでもないですし、学もないです。作家さん、いやに強く推してきますね。
ダメですよ。私にゴーストライターは務まりません。残念でした。
話を戻しましょうか。
私がそっくりさんを見つけたのは、そんなおかしな時間でした。