ようやくパフェのフレークのところを食べ終わりました。これはこれで美味しいんですが、いかんせんアイスとかに比べると見劣りしませんか?
アイスの方が胃にもたれるんですか。本当におじさんっぽいですね。
私がそっくりさんを尾行したところから、ですね。
あいつは待ち合わせていた人と会えなかったらしく、諦めた様子で電車に乗りました。人混みの中の私に気付かないほど落ち込んでいましたね。
何駅か後にあいつは電車を降りて、そのまま改札から出て行きました。当然私もついていきました。
駅近くの踏切に差し掛かったあたりだったと思います。あいつは財布を線路に落としました。電車が来るまであと数十秒というところです。普通に急いで拾って走れば十分に抜け出せる時間だったと思います。
ただ、普通じゃないことが起きたんです。
奇妙な時間が始まる兆候です。そこそこ大きな駅で人通りも多いのに、不自然に人がいなくなりました。同じ容姿の人間が同じ場所にいるというありえないことが、例の時間を呼び起こしたのでしょう。
木を隠すなら森の中。凡庸な私を隠すなら人混みの中。逆に言えば、周囲に人がいない時に、距離が近いのなら、私に気づくのは難しくない。
振り返ったあいつは、瓜二つの私に気づいて硬直してしまいました。よりにもよって最悪のタイミングです。踏切から出るための貴重な時間を、自分の鏡写しに出会ってしまったことに対する情報処理に当ててしまったんですから。
電車に轢かれて、驚愕の表情のあいつがぐちゃぐちゃの肉塊になっていくのを、私は最前列で見ていました。
イチゴ、最初に食べとけばよかったですね。こうやってあいつが死んだ話をしていると、赤色がどうにもダブって見えます。食べる気が失せちゃいました。作家さん、これ食べますか?
それからの話です。目の前で人が轢かれて死ぬっていうのは、赤の他人でもなかなかクるものがあります。それが自分と同じ顔なら言わずもがな。半狂乱になった私は、その場を離れて家に帰っていました。どうやって帰ったのかは覚えていません。
地方紙の片隅に載ったりしているかもしれないですが知る気にもなれませんでした。
ねえ作家さん。
あの時あいつが自分の分身を見ていなければ、あいつはきっと生きていたのでしょう。なら、この場合のドッペルゲンガーというのは、あいつじゃなくて、きっと私だったということです。
作家さんは先程、ドッペルゲンガーのことを影法師なんて言ったりしましたね。本体を喪った影は果たしてどうなるんでしょうか。最近はそんなことも考えたりします。
パフェ、ご馳走様でした。
最後に一つ、蛇足ですが。
ここ、駅構内のファミレスでお昼時だというのに、私たちともう一人以外に誰もお客さんがいないんですよ。
奇妙、ですよね。
奇妙な時間、ですよね。
もう一人のひと、後ろ姿しか見えないですけど、それが作家さんにそっくりに見えるのは気のせいでしょうか。
本物の蛇足。
「ドッペルゲンガーの話」の「の」は主格でもあった、というだけ。