番外・俺がカイドウの息子?   作:もちお(もす)

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キングさんの“名前”でているので注意!
(一応、ネタバレ注意)






慈悲はない、あるのは打算。

 

 

大勢の人間がわらわらと一ヶ所に集まり、外聞など気にも留めず涙を流している。

 

その涙は安堵と感謝、そして喜びから形成されているようだった。

 

キングはその光景に目を細める。

 

数時間前までただ消耗品のように使われて死んでいくだけだった運命(さだめ)のモノ達が崇めるようにレオヴァに膝をつく(さま)は何十回、何百回と見てきたが本当に良く出来た絵画のようだとキングは思うのだ。

 

昔レオヴァと燃やし尽くした、あの国の教会にあった絵画と目の前の光景は似通っている。

 

救世主を神と崇める人々と、レオヴァを慈悲深き御仁と崇める人々……その御伽噺(おとぎばなし)のワンシーンの如き光景は神々しく思えるだろうが、キングにとっては(わら)いが溢れる光景だった。

 

どんなにレオヴァを崇めようとも

どんなにレオヴァを想おうとも

……奴らに降り注ぐ恩愛は全て打算なのだ。

 

レオヴァの本当の恩愛や優しさはカイドウと百獣にのみ向けられるとも知らず、必死に乞う姿は滑稽だとキングは嗤う。

 

 

「(レオヴァ坊っちゃんを理解も出来ねぇ愚図共がこうも纏わり付いてる光景は……光に集まる虫も同然だな。)」

 

レオヴァを崇めるモノ共を見下ろしながらキングは思ったが、口には出さない。

 

他の誰でもないあのレオヴァが救い上げたということは、この光に集まる虫達にも使い道があると判断したということなのだから。

 

 

 

「今後は全ておれ達に任せてくれ。

…今日から、この島を百獣海賊団のナワバリとする!!」

 

レオヴァの宣言に崇めていた人々の口から一斉に喜びの叫びが上がった。

 

これで終わりだとこちらを振り向いたレオヴァはいつも通りの笑顔を浮かべキングに耳打ちをする。

 

 

「この島の鉱石は使える。

重要ナワバリのリストに追加しておいてくれ。」

 

「…了解、レオヴァ坊っちゃん。」

 

船へと戻るべく飛び立って行ったキングを背にまたレオヴァは大衆へ今後の演説を始めたのだった。

 

 

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キングという男は冷徹であり残忍。

その認識におおよそ間違いはないだろう。

 

彼は敵に容赦しないことは勿論。

味方であろうとも百獣海賊団の名を汚せば躊躇なく切り捨てる、そんな男だ。

 

背に炎を纏いながらも、性格は氷のように冷たい男だと彼は周りから認識されている。

 

中には素顔が見たことがないからと、人間ではなく何か凄い化け物なのではないかと言う噂まである始末だ。

 

だが、周りから思われているキングと実際のキングには大きな差異がある。

 

しかし、キング本人がそれを周りに悟らせる気がない為に大多数の人間が彼を誤解しているのだが、それで良いと思っているようだった。

 

それに誤解と言っても冷徹さも残忍さも彼の一端であるのは事実。

彼にとっては、自分を知る人間は自分が認めた相手だけで良いのだ。

 

 

そんなキングを“知る”人間はごく少数であり、その中でも一番の存在と呼べる男がいる。

 

その名はカイドウ。

百獣海賊団総督を務め、キングが心から忠義を捧げる人物だ。

 

キングがもし彼を一言で表すのならば、“世界”だろう。

カイドウはキングにとって全てであり、生きる意味そのものであった。

だからこそ、“世界”なのだ。

 

絶対の存在、それがキングの中での揺るぎないカイドウのイメージ像だ。

 

 

カイドウの望みの為なら全てが壊れても構わなかった。

なにせ、“アルベル”のいた世界はとっくに壊れたのだ。

無力だったアルベルは消え、今存在しているのはカイドウに命を貰ったキングだけだ。

 

カイドウに救われ、“キング”という名を与えられたあの日から生まれ変わった。

キングの世界がカイドウになった瞬間といっても良いだろう。

 

それほどまでにキングはカイドウへの強い想いを抱えていた。

極端に言えばカイドウ以外はどうでも良かったのだ。

 

 

しかし、そんなキングの世界に足を踏み入れた者がいる。

 

その者の名はレオヴァ。

キングが敬愛するカイドウの息子だった。

 

 

あの日、赤ん坊を抱えて帰って来たカイドウを見てキングは今までの人生で一番驚いた。

いまだに、その光景をしっかりと思い出せるほどに。

 

最初こそキングは息子の存在を信じられなかった。

 

あの破壊の化身であり我が道を突き進む男の姿と、1人の子どもの親という像はどこまでもかけ離れている。

 

それに仮に子どもが生まれたとして、あのカイドウが引き取ってくるとは考えられないとキングは思っていた。

……のだが、目の前には確かに赤ん坊を抱えたカイドウがいる。

 

その日のキングは混乱する頭を無理やり働かせることで精一杯だった。

 

 

だが、その後グングン成長していくレオヴァは間違いなくカイドウの子どもだと思えるほどの“力”を持っていた。

 

見た目もそうだ。

黒い髪の間からは人とは思えぬ立派な白い角が二本生えている。

そして、何より一番キングが目を惹かれたのはカイドウと瓜二つの黄橡色(きつるばみいろ)の瞳だった。

 

自信の溢れる佇まいと、強者のみが持つ鋭い眼光をレオヴァはしっかりとカイドウから受け継いでいたのだ。

 

 

そんなレオヴァは成長すると共に、少しずつキングの世界に入って来た。

 

最初はカイドウの息子だからと気に掛け、ある程度レオヴァの立場を立たせていたキングだったが年月が経つにつれ変わっていったのだ。

 

カイドウの息子だからではなく、百獣海賊団の総督補佐官レオヴァの立場を立たせようと思うようになり、

気に掛けるのではなく、共にカイドウの為あらゆる仕事をこなす同志へと変わっていった。

 

 

キングには、何よりもカイドウを優先するレオヴァの姿勢と自分が重なってみえた。

 

 

カイドウさんの役に立ちたい。

カイドウさんを海賊王にしたい。

キングの純粋で強いその想いは狂気じみていたが、レオヴァも同じであった。

 

全ては父さんを喜ばせる為に。

それがレオヴァの根本だとキングは理解していた。

 

 

 

『類は友を呼ぶと言う言葉はあながち間違いでもねェな、キング。』

そう言って笑う、少年と青年の間だったレオヴァの顔を良く覚えている。

 

あの瞬間、キングの世界にレオヴァという存在が綺麗にはまったのだ。

 

“カイドウさん”だけが中心だった世界に入って来た“レオヴァ坊っちゃん”と言う存在は悪くなかった。

 

 

キングは知ったのだ。

志を共にする同志という存在も、悪くないものだと。

 

それはキングに訪れた大きな変化だったのだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

レオヴァに指示された通り、この終わりかけていた島を重要ナワバリのリストに追加し終えたキングは部下に指示を出して甲板から飛び立った。

 

そして、先ほどレオヴァと別れた場所へ降り立つ。

 

しかし、そこにレオヴァの姿はない。

ぐるりと辺りを見渡して、小さく溜め息を吐くとキングは歩きだした。

 

廃れた街の建物とほぼ同じ高さのキングが進むと、蜘蛛の子を散らすように人々は端へ寄って道を譲ってくる。

 

どの人間もキングを見る目に畏怖があるが、同時に尊敬や感謝の念も感じる。

 

普段ならば絶対に向けられない感情にキングはマスクの下で嗤う。

 

 

「(面白いくらい、レオヴァ坊っちゃんの筋書き通りじゃねェか。)」

 

やはり弱者は御しやすいと内心で嘲笑いながら、足を進めていると。

目の前の人混みの中で頭一つ抜けて目立っているレオヴァを見つけた。

 

 

「レオヴァ様、私の娘の怪我を…」

 

「どうか、レオヴァ様……我らに住む場所を…」

 

「家は取り壊されてしまってお金もないのです、レオヴァ様…」

 

「レオヴァさま、おとうさん帰ってこないの…

会わせてくれるって、やくそくしたよね……?」

 

わらわらとレオヴァに群がり、要望を押し付ける弱者の集まりにキングは目を細める。

 

本来なら、全員炭に変えてしまいたいような光景だが。

レオヴァの策を潰すわけにはいかない。

そう思い、殺意を仕舞い込む。

 

目の前ではレオヴァがいかにも慈悲深い男を演じ、群がる人間に優しく声を返している。

 

 

「勿論、その娘の傷はおれが治療しよう。

住む場所がないのなら、おれ達が家を建てよう。

資金は必要ない、皆の生活が少しでも豊かになって…少しでも笑顔で暮らせるなら。それで良い。

民の事を考えないあの王族から、おれはキングと王冠を奪って来た。

これからはおれ達百獣海賊団が、この島を。街を。民を守ろう!!

そして、皆が幸せを取り戻せた時……百獣海賊団の為に資源を少し分けてくれれば良い。

お互い助け合って、この広い海で生きて行こう。」

 

痩せ細った醜い手を優しく包み、力強く言葉を発したレオヴァに民衆はまた涙を流した。

 

レオヴァはその光景に心が痛いと言わんばかりに一度顔を伏せてみせると、小さな子どもが足下へ寄ってくる。

 

それに気付くとレオヴァは地面に膝を付き、子どもの頭を優しく撫でた。

 

 

「…レオヴァさま、わたし…もうおとうさんに会えない?

わるい王さまやっつけに行くとき、レオヴァさまっ…おとうさんにまた会わせてくれるって…ぐすっ……やくそく…」

 

子どもは涙をポロポロと流しながら、レオヴァへ問うた。

 

彼女の父親は以前、この国を支配していた王に働き手として無理やり連れていかれたのだ。

…そこにいる人々は知っていた。

連れていかれた人間は戻って来ないと。

 

彼らはただの使い捨ての動力として、死ぬまで使われていた。

けれど、それを我らがレオヴァ様が止めたのである。

 

多くの人々が解放され、この街へ戻って来ていた。

だが今、ここに彼女の父親はいない。

……解放されたのに居ないと言うことの答えは、1つだろう。

 

小さな彼女が会いたいと、寂しいと泣く姿に人々は唇を噛んだ。

まだ幼い彼女にこんなに残酷な現実を突き付けられない、と。

 

しかし、問われたレオヴァ様は答えなければならないだろう。

 

人々が息を飲む中、レオヴァは小さな子どもを抱き上げた。

 

 

「レオヴァさま…?」

 

「泣く必要はない。

……大丈夫だ、約束しただろう?

大好きなお父さんに、必ず会わせると。」

 

「ほん…とう?」

 

希望を宿した子どもにレオヴァは慈愛の笑みを浮かべる。

 

 

「おれは百獣の名に誓ったことは必ず守る。

……ババヌキ、彼をここへ!」

 

「はい!レオヴァ様!」

 

予想とは違う展開に民衆がざわめいていると、百獣海賊団のテントからわらわらと人が出てきた。

 

そして、その中の一人を見てレオヴァに抱き上げられている少女が声をあげる。

 

 

「…おとうさん!!」

 

「っ……ヒルデ!」

 

包帯だらけの体で駆け寄って来た男に、レオヴァはそっと少女を渡した。

 

父親と娘は泣きながら互いを強く抱き締めている。

ずっと求めていた、心配し続けたお互いの存在を確めるように。

 

だが、再会の喜びに声を上げて泣いていたのは、その親子だけではなかった。

 

テントから出てきた、治療された跡のある人々は会えないと思っていた家族を見つけ、走り出していたのだ。

 

広間には嬉しさや安堵の混じった嗚咽が響いた。

 

もう、死んでしまっていると思っていた家族や恋人、友人との再会に人々は涙を流して喜んだ。

 

 

娘を抱き抱え、父親はレオヴァに向き直った。

 

 

「っ…レオヴァ様、死にかけていた所を救ってくださり……何より、娘を守ってくださりありがとうございます!!」

 

涙でぐしゃぐしゃな顔のまま頭を下げた男の肩に、レオヴァは優しく手を置いた。

 

 

「気にするな、ジーク。

そんな事より今はその傷を癒せ。

……もう娘を一人にしなくて良い街に、おれ達がしよう。

だから、安心してくれ。」

 

治療の為に、体を水拭きされているとはいえ。

ずっと風呂もはいらずな体のジークに嫌な顔ひとつせず、膝を突き目線を合わせる姿に民衆はまた息を飲んだ。

 

慈悲深い方だと知っていた、とても優しい方だとも。

だが、その理解の上をいく慈悲を見せられた人々は完全にレオヴァへ心を奪われた。

 

このお方がいれば、何も怖くはない。

今までの不安も嘘のように消えて行く。

そんな気持ちになっていった。

 

救世主を仰ぐような顔でこちらを見る民衆に、レオヴァは柔らかい表情を向ける。

 

 

「奴隷のように扱われていた彼らは体に大きな傷を負っていた。

だが、その傷はおれ達百獣海賊団が治した!!

百獣には武力だけではなく、医療も物資もある!

だから全て任せてくれ、百獣海賊団が皆を導こう。

……あの時、皆がくれた信頼におれ達は“行動”で応えると約束したが、その約束は果たした!!

しかし、これで終わりではない。

これからはナワバリとしてこの島を守り、体の傷だけでなく!

…皆が心に負った傷も癒せるよう努力すると誓おう!!」

 

「レオヴァっ…様…!!」

 

感極まり更に涙を溢す民衆にレオヴァはまるで絵本の英雄のように優しく強く振る舞った。

 

 

 

そんな様子を後ろで見ていたキングは思わず笑いそうになる口元を引き締める。

 

あのレオヴァがこうも大袈裟な身振り手振りで演じている姿は少し面白い。

 

決して、レオヴァは嘘を語っている訳ではない。

だが全てが“本心”かといえば、答えは否だ。

それをキングは知っている。

 

きっとレオヴァは宣言通りこの島を、街を守り豊かにするだろう。

 

そして、真摯に約束を守る姿に更に民衆はレオヴァや百獣海賊団を崇めるようになる。

もはや、信仰といっても良いほどに。

 

奴らは知らないのだ。

レオヴァという男がどれほど“自分本位”なのかを。

 

自分が敬愛し、何よりも愛する存在。

カイドウの為ならば全てを差し出せる男だと知らないから、英雄を見るような目でレオヴァを仰ぐのだろう。

 

 

キングは踵を返して、人々から距離を取る。

 

今、自分に出来ることはない。

 

レオヴァのように虫けら同然のアレに手を差し伸べることはできないし、レオヴァはそれを望まない。

 

ある程度の距離まで離れるとキングは腕を組み、その光景を見下ろした。

 

 

「……フッ、レオヴァ坊っちゃんは役者の才能もあるのか。」

 

そんな軽口を呟いたキングの声は、民衆の歓声にかき消された。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

いつも通り、新しいナワバリ作りを終えたレオヴァは船へと戻って来ていた。

 

これからあの島を百獣海賊団のナワバリとして相応しくなるように、建物を建てたり作物を植えたりなど仕事はあるのだが。

それらはある程度マニュアル化されており、レオヴァの指示がなくとも優秀な部下達がサクサクと進めてくれている。

 

その為、レオヴァは船に戻って来て休暇遠征の続きを始めたのである。

 

 

船内を進み、船長室の扉を開けながらレオヴァは口を開いた。

 

 

「おれを待ってはくれねェのか、キング?」

 

部屋に入ってくるなり、投げられた言葉にキングは小さく笑うと、意地悪くジョッキを掲げた。

 

 

「随分と演技に力が入ってるようだったからなァ。

おれは一足先に戻って始めておいた。」

 

「ふふふ、演技だなんて酷い言い種じゃねぇか。」

 

既に酒を口にしているキングにレオヴァも身内に向ける笑みを浮かべる。

 

先ほどまでの慈悲深げな雰囲気は消え去っている姿にキングはまた愉しげに笑うと、レオヴァが押してきていたワゴンを指差した。

 

 

「なんだ、わざわざ持ってきてくれたのかレオヴァ坊っちゃん?」

 

「せっかく二人で飲むんだ、つまみにトビウオはかかせないだろ?」

 

「そりゃあ、そうだが…どうやって?」

 

トビウオなど何処にでもいるもんじゃないと、不思議そうな顔をするキングにレオヴァはきょとんとする。

 

 

「まさか、キングに言ってなかったか?

生け簀をトビウオも入れられるように改良したんだが…」

 

「……トビウオを養殖出来るようになったって話までしか聞いてねェよ、レオヴァ坊っちゃん。」

 

「そうだったか…

てっきり話したと思ってたが、作ったことで満足して言わず仕舞いだったみてェだ。」

 

うっかりしていたと眉を下げるレオヴァを笑いつつも、キングは手前のソファーへ座るように促す。

 

レオヴァはその催促で素直にソファーに腰かけると、押していたワゴンの上にある色々な魚や貝の刺身をテーブルへ移した。

 

すると、キングがレオヴァの目の前にある空のジョッキに並々と酒を注ぐ。

 

 

「じゃあレオヴァ坊っちゃん、ツマミも並んだことだ。

…休暇遠征にも関わらずナワバリを増やす仕事をした感想を飲みながら教えてもらおうか?」

 

「う……まだ怒ってるのか、キング…」

 

ばつが悪そうにジョッキに口を付けたレオヴァを、からかうようにキングは笑うのだった。

 

 

 

 




ー後書きー
原作突入前の休暇遠征。
全ては打算でやっていることだけれど、宣言通り豊かにして守ってくれるレオヴァと。
それを眺めているキングの話。

知らぬが仏!

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