番外・俺がカイドウの息子?   作:もちお(もす)

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ー前書きー
・原作ではヒートとワイヤーは確かお頭呼びでしたが、この世界線ではまだ船長ではないのでキッドさん呼びになっています。





キッド、憧れの記憶

 

 

これはキッドやキラー、ヒートやワイヤーがまだ少し幼く、百獣海賊団見習いだった頃の話。

 

 

 

「休暇遠征にレオヴァも連れて行く!!」

 

そう叫んだキッドをキラーとヒート、ワイヤーはまたかと苦笑いを浮かべながら振り返った。

 

そんな幼馴染み達の反応に不満なのかムッとした顔でキッドは口を開く。

 

 

「ンだよ、お前らはレオヴァと遊びに行きたくねェのかよ?」

 

ムスッとした顔で言うキッドに小さく笑いながらキラーは言葉を返した。

 

 

「そりゃ、おれ達だってレオヴァさんと出掛けたいが…あの人は忙しいだろ。

休みだから一緒に出掛けてくれなんて無理を言うのもな…」

 

「でも、トラファルガーの野郎はレオヴァと休暇遠征行ってたじゃねェか!」

 

叫ぶように反論するキッドにまた始まったとヒートとワイヤーが互いにアイコンタクトを取っていると、キラーはまた苦笑いを溢す。

 

 

「キッド、あれはトラファルガーの休暇にレオヴァさんが付き合った訳じゃないだろう?

レオヴァさんの休暇遠征に“護衛”として行ったって話で……」

 

「何が護衛だよ、あの野郎ォ……

レオヴァと釣りしたとか、遺跡回ったとか仕事っつーか遊びじゃねェか!!

そもそも、レオヴァのが強いんだから護衛なんていらねェじゃねェか!!」

 

「まぁ、それはそうかもしれないが…」

 

困ったように仮面の下で眉を下げるキラーの前ではキッドが納得いかないと愚痴を溢す。

 

 

「強さで言ったらトラファルガーよりおれのが上だろ!?

なら、おれらがレオヴァの護衛任務に付けねェのは可笑しいじゃねェかよ。」

 

「いや、レオヴァさんの護衛につけるのは真打ちからだぞ。

見習いのおれ達にはその仕事は回ってこない。」

 

見習いというキラーの言葉にキッドは反応するとカッと目を見開いた。

 

 

「それだよ、キラー!!

ンでおれらはずっと見習いやってんだ!?

実力はそこらの真打ちにも負けねェのに…!」

 

「「いやいや、それはキッドさんのせいでは!?」」

 

思わず声がハモったヒートとワイヤーはしまったという顔をするが、キッドは二人をギロりと睨む。

 

 

「……おれが悪いってのかよ。」

 

「ま、まぁそりゃ…?」

 

「キッドさんが誰彼構わず喧嘩するから…」

 

「レオヴァさんも規則を守れない内は見習いのままだと怒っていたしな。」

 

幼馴染み達からの総攻撃にウッと気まずそうな顔をしたキッドだったが、キラーを指差す。

 

 

「待てよ!確かにおれもアレだったかもしれねェけど、キラーもこの前新入り殴ってドレークに怒られてたじゃねェか!!」

 

「あれはアイツらがキッド達を笑ったから…!」

 

「……なら、仕方がねェか。」

 

「確かに。」

 

納得したように声を漏らすキッドとワイヤーの隣でヒートもウンウンと頷いている。

 

何よりも大切な仲間達。

その仲間が笑われたとあれば黙っている事など出来る筈もない。

 

キラーの行動は間違ってなかった、と頷く彼らは気付いていなかった。

何故、彼ら4人が実力があるのに見習いのままなのかを。 

 

それは絆が強すぎる為にお互いの事になると“キレやすい”のが原因だということに。

 

 

見習い4人はその事実に気付かずに、今日もわいわいと賑やかな時間を過ごすのだった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

キラー、ワイヤー、ヒートの3人はぱちくりと瞬きを繰り返すとお互いの顔を見やった。

 

そして、ワイヤーとヒートの気持ちを的確に感じ取ったキラーが代表として口を開く。

 

 

「…すまない、キッド。

おれ達の聞き間違いか?

レオヴァさんと組手……と聞こえたんだが…」

 

「あ"?

だからそう言ってンだろ?」

 

頼む、どうか聞き間違いであってくれ!

と、必死に願うヒートとワイヤーの思いをキッドは無情にも一言で打ち砕いた。

 

頭を抱える3人とは違い、キッドはイキイキと準備運動を始めている。

 

訳も分からず突然降ってきた地獄の知らせに理由くらい話してくれ、とキラーがキッドに声をかけると知らせを持ってきた本人は得意気に話し出した。

 

 

「この組手をクリアしたら、おれらの休暇遠征の為にレオヴァが時間作るって約束してくれたんだよ!」

 

「あの仕事人間のレオヴァさんが…?」

 

驚いた顔をするキラー達にキッドは自慢げに笑う。

 

どうやらあの後キッドはレオヴァへ直談判しに行き、小一時間ほどごね続けたらしい。

その結果、組手をクリア出来たら休暇遠征に一緒に来てくれるという条件を取り付けたのだとか。

 

ふふん!と自慢げに胸を張るキッドにまたレオヴァさんに迷惑をかけて…と少し呆れつつもキラーはキッドの我が儘を言えるその性格に感謝した。

 

キラーとて、叶うならばレオヴァと共に休暇遠征へ行きたいという気持ちはある。

 

それを叶えられるチャンスが巡って来たのだと、深呼吸をして覚悟を決めた。

 

やる気を漲らせる2人の後ろ姿にヒートとワイヤーは互いに顔を見合わせて頷く。

2人がこんなにもやる気に溢れているなら自分たちも全力を尽くすのみだ、と。

 

 

「あ~…死なないように気合い入れねェとだな、ヒート。」

 

「…そうだな、ワイヤー。」

 

互いに肩を軽く叩き合う。

その2人の前ではキッドがキラーと笑っている。

 

 

「っし!!死んでも絶対ェクリアすんぞ!!!」

 

「「「いや、死んだら意味ないだろ!?」」」

 

3人からの突っ込みを意に介することなく、キッドは楽しみだと笑みを浮かべたまま組手の舞台へと足を運ぶのだった。

 

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体の至る所がズキズキと痛む。

額から流れる血液が視界を塞ぎそうになるのを腕で拭って防ぐと、キッドは正面を見据える。

 

しっかりとレオヴァを視野に納めながら、キッドは気配を探りヒートとワイヤーが気絶しているのを感じ口を開いた。

 

 

「キラー…!アイツら下がらせとけ!!

あとはおれでやる!!」

 

「ッ…分かっ……た!」

 

息も絶え絶えになりながらも相棒の声に答えたキラーは倒れている二人をなんとか抱えながら後ろへ下がった。

 

離れても尚、ビリビリと皮膚を刺すような緊張感が伝わってくる。

 

地面を思いっきり蹴り、走り出したキッドは自分の拳にはめているナックルを強く握りしめる。

 

レオヴァの瞳はただひたすらキッドだけを捉えていた。

 

そう、この瞬間は。

組手で全力を出している間はレオヴァは自分だけに全てを注いでくれるのだ。

 

キッドは高まる感情に任せて突き進む。

無意識に顔には獰猛な笑みを浮かべていた。

 

骨は折れ血を流し、限界が近付いているこの時。

いつもキッドは自分を越えられるような、言葉にし難い感覚を覚える。

 

限界を破らせてくれる相手は、いつだってレオヴァなのだ。

 

全身が痛もうとも関係ない。

この闘いの高揚感さえあれば、どこまでも進める。

 

自分には限界なんかないとさえ思えるのだ。

 

 

能力者ではない(・・・・・・・)キッドは我武者羅(がむしゃら)に拳を振るう。

だが、やはりレオヴァには当たらない。

 

それどころかレオヴァの蹴りが脇腹を直撃し、キッドは血を吐いた。

 

体が悲鳴をあげる。

もう限界だ。これ以上は死んでしまう!!

魂は叫ぶ。

まだまだ()れる。限界なんざ、言い訳だ!!

 

 

「ゴホッ…ハハハ!!

絶対ェ…はぁ…ぶっ飛ばす!!!」

 

「……本当にお前は…楽しませてくれるなァキッド!!」

 

レオヴァが笑う。

いつもの優しい笑みでもなく、慈愛に満ちた笑みでもない。

闘いを楽しむ獣の表情で。

 

キッドはその顔が一番レオヴァらしいと昔から思っていた。

 

そうだ、レオヴァはそうでなくては(・・・・・・・)

闘いに飢え、無慈悲で……最高に強い男!!

それがキッドが憧れるレオヴァと言う男なのだ。

 

動けないと叫ぶ体を無視してキッドは軋む体でまた距離を詰める。

 

勝ちたい!!

レオヴァに勝って、認められたい!!

このどうしようもなく狂った男と同じ高みへ…!

 

 

そんな強い思いがキッドの中で暴れていた。

命のある限り、キッドに諦めるという選択肢はない。

それが例え組手だろうが彼には関係ないのだ。

 

狂気染みたその思いはキッドに限界を超えさせた。

レオヴァの想定を超える爆発力を与えたのだ。

 

 

「うおぉぉおおおお!!ぶっ飛べェ!!!」

 

「…っ!?」

 

しかし、全てを乗せた武装色の拳は後一歩の所で届かず。

レオヴァの頬を掠め、背後にあった木々を吹き飛ばした。

 

 

「~~っ!?ち…くしょう!!」

 

悔しげに顔を歪めたキッドだったが、目の端に移ったレオヴァの脚に反応して受け身を取る。

 

骨が折れたような鈍い音が腕から鳴ったのを最後にキッドは意識を飛ばした。

 

どさりと倒れ込んだその姿をレオヴァはじっと見つめる。

 

 

「…キッド、お前……ふふ…ふはははは!!

まさかおれの見た“未来”を超えて来るとはなァ!

 

遠くからキッドの闘いを見守っていたキラーは心底楽しげに笑うレオヴァを夢現のような感覚で見ていた。

 

レオヴァの目は期待に満ちたように輝きを放ち、キッドを見下ろしている。

まるで、欲しいものが手に入ったかのように無邪気なその笑みは普段の彼とはかけ離れていた。

 

しかし、おそらくキッド(相棒)がそれを見れば喜ぶだろう。

何故なら彼もまた、昔は良くレオヴァを同じような顔で見上げていたのだから。

 

 

そんなキラーの目線に気付かずにレオヴァは久々に感じる高揚感を必死に抑えていた。

 

頬を掠めた一撃はしっかりとレオヴァの肌を裂き血を流させている。

 

多くの敵と戦って来た。

だがこれほどまでに若く、こんなにも早く成長する相手などいただろうか?

 

今まで楽しいと感じたのは

それこそ自分にとって永遠の目標である父や、頼りになるキングやクイーンなど。一握りの猛者だけだ。

 

キッドはレオヴァが、いつか…と期待を寄せるジャックに負けぬほどの“輝き”を見せ付けたのだ。

 

 

レオヴァの中に高揚感と期待が渦巻く。

この素晴らしい才能をもっと開花させれば確実にレオヴァの望むような強さを持つ男になるだろう、と。

 

それこそ、自分だけでなく愛する父すら楽しませられる男(・・・・・・・・・・・・・・)に…!

 

レオヴァの脳内にあらゆる案が浮かぶ。

 

キッドの攻撃性を更に鍛えてやれば…

もっと視野を広げさせるのも良いかもしれない。

いや、戦略性を持たせてやるのも……

 

能力者でない状態、この若さでこれ程のポテンシャル。

ならば…キッドにも“新しい力”を。

 

 

だが、そんな高ぶるレオヴァの思考に“前世”からある冷静な自分が水をさす。

 

本当にキッドを育てていいのか?覇王色を扱う男が部下で収まると?

そもそもキッドは野心家だ、独立する可能性だって0じゃない。

もし、敵対した場合……このまま育てれば“麦わら”以上の危険分子になるかもしれないだろう。

父さんを脅かす可能性のある才能は詰むべきでじゃないのか?

 

冷静な自分の思考に“カイドウの息子”としての自分が反論する。

 

 

何故、身内になるキッドを信じてやらねェ?

そもそも、父さんが護られることを望むとでも?

強者との闘いこそが、父さんの望みじゃねェか!!

 

ぐるぐると思考を続けていたレオヴァだったが、背後に気配を感じて反射的に振り返と、そこにはボロボロになっているキラーが立っていた。

 

 

「レオヴァ、さん……もう、終わりで…いいか?」

 

「……あぁ、そうだな。

いい動きだったぞ、キラー。

キッドとワイヤー、ヒートはおれが運ぶが…動けるか?」

 

「な、んとか…」

 

ふらふらと足元のおぼつかないキラーを気に掛けながらレオヴァは鳥の姿に変わるとキッドを掴む。

 

 

「乗れるか、キラー?」

 

「す、すまない…レオヴァさん……無理、そうだ…」

 

割れた仮面の内側から、飛び乗れないと申し訳なさそうに口を歪めるキラーにレオヴァは気にするなと笑いかける。

 

そして、優しく咥えて背に乗せると軽く浮遊し、ヒートとワイヤーも脚で優しく掴み上げた。

 

 

「帰ろうか、キラー。」

 

「は、い…ゴホッ…ゴホッ」

 

気を失いそうなキラーが落ちないように、レオヴァはゆったりと帰路を進むのだった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

あの組手から1週間後、キラーはキッド達と共に船へ向かっていた。

 

休暇遠征用に貸し出されている船の予約日が今日なのだ。

久々の長期休暇に浮かれていないと言えば嘘になるだろう。

 

僅かに浮き足立っているキラー達は受付に行き、予約表を渡して船へ向かった。

 

相変わらず綺麗に清掃されている船へ上がると甲板に見慣れた後ろ姿がある。

その事に気付いたキッドの顔に笑顔が浮かんだ。

 

 

「レオヴァ!!」

 

「遅かったな、既に積み荷は担当の者達がやってくれたみてェだぞ?」

 

振り返ったレオヴァは普段の着物ではなく、パイレーツシャツに黒ズボンと言う軽装だった。

 

珍しいと目を見開くワイヤーとヒートとは違い、昔の良く見慣れた格好にキッドとキラーは笑う。

 

 

「レオヴァさんのその服装は久々に見たな。」

 

「いつも動きずらそうなモン着てるもんなァ。」

 

「そうか?

着物も慣れれば案外、動きやすいぞ。

キッド達にも贈っただろう、着てみろ。」

 

嫌そうな顔をするキッドの頭を、叱るようにワシャワシャと少し乱暴に撫でてレオヴァは笑う。

 

 

「一回も着ないで決めつけるな、キッド。

何事も経験だと教えただろ。」

 

「ズボンねェとかあり得ねェって!」

 

「袴があるだろ。」

 

「なんか違ェんだよ、ズボンと。」

 

文句ばかりだな、とまたワシャっと髪を荒らせばキッドは止めろと不満げにレオヴァを見上げる。

 

そんないつもの2人のやり取りをキラー達は笑いながら眺める。

 

 

「フフ、勘弁してやってくれレオヴァさん。

それより、まずは出港しないか?」

 

「それもそうだな。

キッドの食わず嫌いならぬ、着ず嫌いは今度直せばいいか。」

 

「あぁ、そうしてくれ。」

 

「おい、キラー!!」

 

相棒の裏切りに抗議の声を上げるが、それは笑い声にかき消された。

 

騒がしくも穏やかな雰囲気のまま、船は大海原へと風に乗って進むのであった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

あれから、港を出たキッド達は軽食を済ませレオヴァの前に座らされていた。

 

 

「…と、いう訳でキッド達にプレゼントでもと思ってな。」

 

「プレゼントだァ…?

もう、ガキじゃねェのによォ。」

 

照れ隠しに刺々しく返したキッドの両隣からは、正反対の素直な声が上がる。

 

 

「キッドが要らないならおれが貰うとしよう!」

 

「え、レオヴァさんからなんて嬉しいです!」

 

「…楽しみだな。」

 

ワクワクとレオヴァを見つめる3人の様子にキッドは慌てて返す。

 

 

「別にいらねェとは言ってねェだろ!!」

 

「素直じゃないからな、キッドは。」

 

「うるせェぞ、キラー!」

 

いつもの様に口をへの字に曲げる相棒にキラー達が笑うと、レオヴァが穏やかに話を進める。

 

 

「じゃあ、早速渡していくぞ。

まず、ワイヤーには槍だ。」

 

そう言って手渡された武器にワイヤーは目を輝かせる。

今まで使っていた物よりも良い一本だと分かるそれを受け取りレオヴァに礼を述べ、ぐっと握りしめる。

 

 

「……スゲェ、馴染む!」

 

「今までのワイヤーの戦い方や好みに合わせて作らせた特注品だからな。」

 

微笑むレオヴァに気に入ったと笑い返すと、ワイヤーはやったぜ!と嬉しげに幼馴染み達の方を振り返った。

 

喜ぶワイヤーに良かったな、とキラー達が笑い返すのを見届けるとレオヴァは次のプレゼントと手に取った。

 

 

「ヒートには特殊加工の戦闘服だ。

火に強く、この仕掛けを使えば燃焼率高いの液体を相手に噴射出来るようになってる。

上手く使えば戦闘の幅が広がると思うぞ。」

 

「上手く使えるように、練習します。」

 

早く試したいという様に受け取った服を眺めるヒートをキラー達も嬉しげに見た後、またレオヴァに目線を戻す。

 

 

「次はキッドだ。

これは受け取っても受け取らなくても、どっちでもいい。

お前が好きに決めろ。」

 

そう言って手渡された箱を開いてキッドは目を見開いた。

側にいたキラー達もその箱の中身を見て驚きに声を上げる。

 

「「悪魔の実!?」」

 

ヒートとワイヤーの声が被る中、キッドはじっとそれを見つめていた。

そして、数秒経ってから顔を上げてレオヴァを見る。

 

 

「……まだ見習いのおれにこんなモン渡しちまって良いのかよ。

幹部でも食ってないヤツいるんだろ?」

 

「そうだな。

普通ならあり得ねェが……それはおれが“個人的”に手に入れた実だ。

父さんからも好きにしていいと言われてる。」

 

「個人的に…?」

 

「あぁ、お前に食わせたくて手に入れて来た。

キッドなら必ず使いこなせると、おれは確信してる。」

 

真っ直ぐにこちらを見てくるその目に映る感情はキッドには計り知れなかったが、レオヴァからそう言われたからには腹は決まった。

 

 

「…そうかよ、なら食う。

これを食って、もっと鍛えてレオヴァにも勝ってやるぜ!!」

 

「………」

 

無言で笑みだけをキッドに返すと、悪魔の実にかぶり付く姿をレオヴァは眺める。

 

 

「っ~~!?不味ィ!!ンだこれェ!?

 

「ふははははは!!」

 

「笑ってンなよ、レオヴァ!!

てか、こんなに不味いなら言えよ!?」

 

「ふふふふ…すまねェ。

どんな反応するのか、少し楽しみにしててなァ。」

 

可笑しくてしょうがないと言うように笑うレオヴァをキッドは口角を下げて睨み付ける。

 

 

「何が聖人レオヴァサマだよ、本当に性格悪ィ。」

 

「なんだ、今さら?

おれが性格悪いなんて10年以上前から知ってるだろう?」

 

悪びれる様子もなく言って見せるレオヴァをキッドは更に睨み付けるが、彼はそれを笑って受け流した。

 

 

「…で、最後にキラー。

お前にも“悪魔の実”を用意したんだが…どうする?」

 

キッドからこちらへ目線を移したレオヴァにキラーは悩む素振りもなく、答えた。

 

 

「いや、おれは悪魔の実は食べない。」

 

「え!?」

 

「なんでだよ、キラーさん!」

 

勿体ないと声を漏らしたヒートとワイヤーは、レオヴァの表情を伺う。

 

悪魔の実とはとても貴重で入手困難な物だ。

それをキッドとキラー為に2つも入手したレオヴァの苦労は計り知れない。

 

それを断られたとあっては流石のレオヴァも気分を害するのではないか、とハラハラするヒートとワイヤーの思いとは裏腹にレオヴァは穏やかな表情のままだった。

 

 

「そうか、そう言うかもしれないとは思っていたが…

嫌じゃないなら、理由を聞いてもいいか?」

 

「勿論だ。

レオヴァさんがおれの為にそれを手に入れてくれたのは嬉しいが、キッドが能力者になったんだ。

もし、海に落ちたら誰かが助けないとだろ?

その役目はおれが担いたいんだ……おれはキッドの相棒だから。」

 

「ふふ、そうだな。

キッドは忙しねェから溺れた時の為には確かにキラーがいねェとなァ。」

 

「べ、別にもう海に落ちたりしねェよ!!」

 

「「この前も落ちてただろ」」

 

キラーとレオヴァの声が被ると、う"っ…とばつが悪そうに目を反らしたキッドに2人は笑った。

 

 

「そういう訳でレオヴァさん、すまない。

せっかく手間をかけてくれたのに。」

 

「気にするなキラー。

お前ならそう言うかもしれないと、実は別に用意してあるんだ。」

 

「え…」

 

驚いた声を出すキラーにレオヴァは笑顔のまま2つで1セットの武器を差し出した。

 

 

「これは……凄いな!

ここが動くのか!…いや、ここも!?」

 

受け取り、興奮気味に武器を観察しているキラーにレオヴァも嬉しそうな顔をする。

 

 

「キラーはトンファーを使っていただろう?

だから少し似た作りにしつつも、刃物を採用することで殺傷力を上げたんだ。

腕に着けて、その握り部分で刃物の出し入れや回転をコントロールするんだが……キラーならすぐにコツを掴めるさ。」

 

「ありがとう、レオヴァさん!

おれの求めてた武器だ!」

 

「満足してもらえたなら何よりだ。」

 

優しい表情のレオヴァにキラーは礼を述べる。

 

4人それぞれがプレゼントとして新たな“武器”を手に入れた。

 

必ず使いこなすと、意気込む姿にレオヴァは微笑ましげに目を細めると僅かに顔を俯かせるのだった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

遠征先の無人島に着いたレオヴァ達はキャンプの準備を進めていた。

 

何故、休暇にこの無人島を選んだのか。

それはこの島に大量にいる怪物のような動物達と戦いたいとキッドが望んだからである。

 

昔、ここの動物達に負けた事をキッドは覚えており、いつか必ず倒すと心に決めていたのだ。

 

リベンジを誓ったキッドは島に着くなり一直線に飛び出して行ってしまった為、こうしてレオヴァを中心にキラー達がキャンプの準備を進めている。

 

ただの見習いの休暇遠征という事もあり、居るのはレオヴァとキッド達を含めた5名とレオヴァの付き人として来た古参船員4名の計9名のみである。

 

その為、付き人4名は船番に残る他なく。

百獣海賊団の幹部であるレオヴァが火起こしをし、枯れ木を集めるという雑務をこなしていた。

…と言ってもレオヴァ自身は乗り気なのかルンルンとキャンプの準備に励んでおり、寧ろヒートとワイヤーが古参船員からの視線が痛いと胃を痛めそうになっている。

 

そんな中、キラーは船からキャンプ用の椅子やテーブルを下ろして来ていた。

 

レオヴァが簡単に整地した場所にそれぞれを並べる。

火起こしはレオヴァが能力で既に終えていたので、その火を焚き火台へと移し料理が出来るようにセットする。

 

そして、また船に行きレオヴァ専用サイズの調理器具達をテーブルの上に並べ、そこに野菜も箱に入れたまま置いておいた。

 

一段落だとキラーが汗を拭うと、ヒートとワイヤーがその上に被さるようにヘキサタープを組み立てた。

 

テントとは違い、屋根だけのヘキサタープは簡単に設置出来たのかあっという間に出来上がった空間に離れた場所に居たレオヴァが枯れ木を抱えながら歩みよってくる。

 

 

「キラー、ヒート、ワイヤー、ありがとう。

相変わらず手際が良いな。」

 

レオヴァからの言葉に3人は少し照れつつも嬉しげに笑みを返した。

 

 

「そろそろ、昼飯を作るか?」

 

そうレオヴァが話始めた時だった。

ずるずると何かを引きずる音と共に森からキッドが顔を出したのだ。

 

やっと帰って来たのか、とキラー達はそちらを振り返り思わず目を見開いた。

キッドは巨大なイノシンのようなサイのような変わった生き物を引きずって来ているではないか。

 

 

「……なんだ、あの生き物は…」

 

唖然とするキラー達の表情に気付いていないのか、キッドは自慢顔でその巨大な生き物を引きずりながらキャンプへと歩いて来ていた。

 

 

「見ろよ!デケェし珍しいだろ!!

突進してきやがったからぶっ飛ばしたけど、これ食えるか?」

 

レオヴァに食べられるか?と訪ねるキッドにキラー達はヤバい!と後ろを振り返る。

出来ることならあんな毛の生えたサイの様でもあり、角のある猪のようでもある得たいの知れない生き物は食べたくはない。

 

 

「凄いじゃねえか、キッド!!

それはエラースモテリームだ。

確かにこの島に生息しているという話はあったが、おれも実際に見るのは初めてだ!

いや、それにしてもデカい個体だな……角だけで2…いや3メートルか!?

サイなどに近い生き物だと言われているらしいが、角の位置が鼻ではなく額にある……興味深い違いだ!

全長も6から7メートル…重さは……」

 

意気揚々とキッドが引きずって来た謎の生き物に手を伸ばして調べ始めたレオヴァを見て、キラー、ヒート、ワイヤーは全てを悟った。

間違いない。

この感じは……確実に食べることになる、と。

 

そんなキラー達の絶望を他所に、興味深いとエラースモテリームを調べ始めたレオヴァを見て、キッドは自分の獲物が喜ばれたと満足そうにニヤリと笑うのだった。

 

こうしてキッドの活躍によりレオヴァのエラースモテリームの解体ショーと調理が始まり、結局キラー達は覚悟を決めて昼食へ挑んだ。

 

 

「一応、毒味はしたが問題はなさそうだった。

キッド達も食べてくれ。」

 

ニコリと上機嫌に笑うレオヴァにヒートとワイヤーは顔を引き吊らせる。

 

基本的に毒が効かないレオヴァの“毒味”ほど意味のないものはない、と言いたいが2人は空気の読める男だった。

 

手柄だと喜ぶキッドや、創作料理だとウキウキでテーブルに並べてくれたレオヴァの出鼻を挫くことは出来ない。

そう互いに顔を見合せると、腹を決めて肉にかぶり付いた。

 

少し硬めの歯ごたえだが、味は悪くない。

そう思い咀嚼し、飲み込む。

若干の獣臭さはあるが不味くはないな?と胸を撫で下ろしている2人の眼前ではキッドとレオヴァがどんどん食べ進めていた。

 

 

「ン"!?見た目と違って結構イケるぜ!

キラー!それもくれ!!」

 

「分かった……これか?」

 

「少しまだ獣臭いな…

調味料が少なかったのが悔やまれるが…ん、悪くない。」

 

大量にある料理を簡単に平らげていくキッドとレオヴァの様子にヒートとワイヤーはまた顔を見合せる。

 

 

「…レオヴァさんって意外と食うよな。」

 

「キッドさんぐらいの大食いはいねェと思ってたけど、世界は広ェわ。」

 

小声でそう言い合うと2人は笑った。

談笑しながら進む賑やかな昼食の時間はいつものキッド達の姿だ。

 

そうやってわいわいと昼食を楽しみ、キッドが自分で仕留めた肉を口一杯に頬張っていると、レオヴァから声がかかる。

 

 

「そう言えば、リベンジは成功したのか?」

 

レオヴァからの問いにキッドは肉を飲み込むと、不敵に笑って見せた。

 

 

「当たり前だろ!

もう、レオヴァ以外には負けねェよ。」

 

「そうか。」

 

「おう。

ま、すぐにレオヴァにも勝つけどなァ!」

 

ニッと笑うキッドの髪をレオヴァはいつもの様に少し乱暴にワシャっとかき混ぜる。

 

 

「本当にお前は生意気だなァ、キッド。

なら早くおれから一本でも取ってみろ。」

 

言葉とは裏腹に優しく笑うレオヴァを盗み見て、キッドは嬉しさで緩んだ表情を無理やり押さえ付けた。

 

 

こうやって素直になれない自分にも昔からレオヴァは笑いかけ、言葉をくれる。

 

こんなやり取りがずっと続くとキッドは思っていた。

レオヴァが居てキラーが居て、ヒートとワイヤーが居る。

 

 

ずっとキッドの憧れはレオヴァだったのだ。

あの日、あの時出会った瞬間から。

 

始めて見た圧倒的な強さに。

その自信に溢れた佇まいに。

…どうしようもなく心惹かれたのだ。

 

狭い世界に居たくないと願った自分に広い世界を見せてくれたレオヴァへの憧れは強まっていく。

 

憧れを止められる者がいるとすれば、それは“自分自身”だろう。

 

 

……さぁ、憧れの記憶に蓋をしよう。

強くある為に、望みを遂げる為に。

想い出はきっと歩みを阻むだろうから。

 

この決意を胸に進むには彼との記憶は優しすぎて。

そして、同時にキッドに大きな“失望”を思い出させるから。

 

 

 

あばよ、レオヴァ。

もう二度とお前に望むような真似はしねェ。

 

欲しいものは自分で奪い取れ。

そう教えたのはお前だからな。

 

決めたんだ、おれは自分で手に入れる。

形なんかどうだっていい。

周りに何を言われようが関係ねェ。

 

おれの進む道を決めるのは……おれだ。

 

 

 

 





ー補足ー
・この世界線ではキッドの悪魔の実はレオヴァが渡した。
・キラーの武器がトンファーなのはパニッシャーの持ち手などから使用感が似ているのでは?と思った為。
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