番外・俺がカイドウの息子?   作:もちお(もす)

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鳳皇の懐刀は苦労人

 

 

その男はバレットの前に突然現れた。

 

黒い髪に白い角、そして金茶色の瞳。

高価そうな衣服に身を包み、優雅な立ち姿で監獄の中に突然現れたのだ。

 

 

初めて会った時、その男はドフラミンゴを檻から出すと、此方へ歩み寄って来た。

何だ、と睨むバレットの眼光などお構い無しにある事を提案し、男は去った。

 

 

そうして、長い時間が経った後。

男はまた約束通りにバレットの前に現れた。

 

檻から出て一騎討ちを申し込んだバレットに、驚く事なく相変わらず涼しい表情で男は申し出を飲んだ。

 

そんな態度が初めは気に食わなかった。

 

弱者でない事は薄々分かっていたが

それでも苦労など知らなそうな、裕福そうな見目と吐き気がするほど上品な所作が鼻についたのだ。

 

 

だが、その印象はすぐに上書きされてしまう。

 

一騎討ちが始まった瞬間、楽しそうに笑うその男の顔はバレットを驚かせるのに十分だった。

 

どこぞのお貴族様のような雰囲気は消え去り、闘いを喜ぶ獰猛な獣がそこに居た。

 

 

久々に感じる闘いでの高揚感。

一歩も間違えられない攻撃のタイミング。

 

全神経を。今まで積み重ねた日々を。

持てる全てをバレットは出し切った。

 

そして、敗れたのだ。

 

ひとりで生きると、それこそが強さだと。

そう信じて鍛え続けたバレットは

ひとりで生きてる奴はいないと言う男に、また(・・)負けた。

 

 

悔しかった。

今までの全てをぶつけても勝てなかったことが。

けれど、嬉しくもあった。

これほどまで強い奴に再び逢えたことが。

 

正面から敗けを受け入れたバレットは、その男と契約を交わすことを選んだ。

 

更なる“最強”への道を歩む為に。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

閉じられていた瞼が開く。

 

辺り一面ボロボロの大地の上で仰向けに倒れていたバレットは痛む体を起き上がらせた。

軽く頭をふると、ゴキッと首が鳴る。

 

そのまま隣に顔を向けると、地面に胡座をかきながら此方を見て笑う男が居た。

 

 

「起きたか、バレット。」

 

「……どれくらいだ。」

 

「10分も経ってねェ、数分だな。」

 

主語のないバレットの言葉に、迷う素振りもなく答えた男は益々笑みを深めていく。

 

 

「今回もおれの勝ちだからな、契約は続行だ。

これからもよろしく頼む、バレット。」

 

そう声を掛けながら立ち上がると、普段のお綺麗な笑みとは違い漢らしい笑顔を浮かべながら手を差し出してくる。

 

バレットはムッとした顔で数秒手を睨んだが、相手に引っ込める様子はない。

仕方がないと、血と泥で汚れた手で掴むとグイッと体が引っ張られ、その勢いのまま立ち上がる。

 

 

「……契約は契約だ。

だが、次こそはおれが勝つぞ…レオヴァ。」

 

「いつでも来い、バレット。」

 

自信に溢れた強い返事を返してくる男、レオヴァから顔を背ける。

僅かに上がっていた自分の口角を無理矢理元に戻しつつ、バレットは誤魔化すように背中越しに声をかけた。

 

 

「さっさと戻るぞ、レオヴァ!」

 

「そうだな…帰ろうか。バレット。

正直、今のコンディションじゃあ飛ぶのも大変だが…」

 

「……おい、途中で墜ちたりしねェだろうな!?」

 

思わず振り返ったバレットにレオヴァは軽く肩を上げておどけたように返すと、大きな鳥へと姿を変える。

 

そして、嘴でバレットを自分の背中に放り投げると普段よりもキレのない動きで空へと舞い上がった。

 

 

「墜ちる時は一緒だなァ、バレット!」

 

「おい、ふざけるんじゃねェ!!

絶対に鬼ヶ島までは墜ちるなよ!?」

 

バレットの怒声に大きな鳥の姿でレオヴァは笑い声を上げるのだった。

 

 

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定期的に行われるレオヴァとバレットの一騎討ちの帰りを鬼ヶ島で待っていたローは、空に輝く鳥を見付けて屋上へと急いだ。

 

 

門を開けて屋上へ踏みいれば、案の定レオヴァとバレットがいる。

 

 

「レオヴァ、最後のあの急降下はなんだ!?」

 

「ふはははは!危なかったなァ、バレット!!」

 

「笑い事じゃねェ!危うく海に突っ込む所だったじゃねェか!!

貴様もおれも能力者なんだぞ!!!」

 

「そう怒るな、おれだって体力が尽きることもある。

バレットと()ったばかりで回復しきれてねェのは仕方ないだろ?」

 

「なら、初めから空船を呼べ!!」

 

「おれや父さんならあの島まで10分もかからねェが、空船だと40分はかかるだろ?

呼ぶとなれば往復で1時間以上……この後父さんとの晩飯の約束があるんだ、風呂にも入りてェ!」

 

「知るか!!それくらい待て!!!」

 

声を荒げながらバレットが強めに肩を小突くが、レオヴァは怒る処か声を上げて笑っている。

 

そんな二人のやり取りは元気そのものであったが、傷だらけの姿にローはカツカツと早足で詰めよって行った。

 

近付いて来た気配にレオヴァはローを見て、微笑む。

 

 

「ただいま、ロー。

屋上にいるなんて珍しいじゃねェか。」

 

「…お帰り、レオヴァさん。

で、その傷は?

軽い手合わせだって言ってたよなァ?」

 

「………少し熱が入ってしまってな…」

 

「……へぇ、少し…ね。

二人してこんなにボロボロになるのが“少し”なのか、レオヴァさん。

おれはこの前、軽い怪我で散々説教された気がするけどなァ…?」

 

物言いたげな目線で睨んでくるローに、レオヴァは不味いと口を閉じる。

 

これは下手な事を言えば更に怒らせると察したレオヴァは眉を下げながら、謝罪の言葉を口にした。

 

 

「…すまない、ロー。」

 

「………はぁ。

盛り上がるのは良いが、カイドウさんといいレオヴァさんといい大怪我してくるのは勘弁してくれ。

そりゃ、おれも居るし回復薬もあるから治せねェ怪我なんかねェ……でも、心配はする。」

 

説教モードに入っているローに大人しくレオヴァが頷いていると、隣にいたバレットがめんどくさそうに声を上げた。

 

 

「レオヴァは頑丈だ、いちいち心配の必要なんざねェだろ。」

 

その言葉にギロリと睨みを利かせるローを見て、レオヴァは諦めたように小さく笑う。

 

すると、レオヴァの予想通りローによる小言攻撃が開始され、バレットも次第に返せる言葉がなくなっていく。

 

 

「っ…別におれは手当てを頼んじゃいねェ!!」

 

「頼まれてなかろうが、ウチに居る限り治すのが船医であるおれの役目だ!!

おれの前で病気も怪我も放置出来ると思うなよ!?

…“ROOM”、“シャンブルズ”!!」

 

一瞬で医務室に移動させられたバレットが不満げな顔になるが、ローはテキパキと薬や包帯の準備を始めている。

 

そしていつものように“スキャン”を使うと、的確な処置を施していく姿にレオヴァは感心しながら黙って治療を受けていた。

 

 

「……回復薬飲めば手当ての必要なんざねェだろ。」

 

包帯を巻かれながら未だに不満を漏らすバレットにローは手を止めずに淡々と返す。

 

 

「回復薬は製造数に限りがあるんだ。

組手やらなんやらで使ってたらいざって時に数が足りなくなるかもしれねェだろ。

任務以外での怪我に使えると思うな。

そもそも手当てされんのが嫌なら怪我なんかするんじゃねェよ。」

 

「…………」

 

正論で返されたことで押し黙ってしまったバレットを見て思わずレオヴァが笑っているとローが背中越しに言葉を投げてくる。

 

 

「笑ってるが、レオヴァさんもだからな!

……っとに治りが早いからってカイドウさんもレオヴァさんも毎回無茶苦茶やるから…」

 

ぶつくさと文句を言いながらも処置は丁寧なローを見てまた、レオヴァは優しい笑みを溢した。

 

 

「悪いな、ロー。

いつも助かる、ありがとう。」

 

「…っ……別に。

おれは百獣の船医なんだ、礼なんかいい。」

 

相変わらず背中を向けたままバレットの治療を続けているローを見て、レオヴァはそっと目を柔らかく細める。

 

そうして、そのまま自分の手当ての番が来るのを大人しく待つのだった。

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

レオヴァとバレットの一騎討ちからちょうど2日が経過した鬼ヶ島の港にて。

 

大きい割に、小回りが利く移動に特化した空船が出港準備を終えていた。

 

部下達がいつでも離陸出来るようにと持ち場についていると、待ちわびた人物が空から舞い降りてくる。

 

黄金の翼を腕に戻すと、音もなく甲板に降り立ったレオヴァの姿に部下達は元気良く声をあげる。

 

 

「「「「おはようございます!!」」」」

 

「おはよう、朝早くから準備ご苦労だったな。」

 

労るような言葉に部下達は嬉しげな顔で軽く頭を下げ、今日の担当者が口を開く。

 

 

「いえ、もったいねェお言葉ですぜ。レオヴァ様!

それと出港はいつでも出来ますんで!」

 

「そうか、ありがとう。

9時集合だからな、そろそろ来る筈なんだが…」

 

懐中時計をレオヴァが開くと同時に、最後の1人であるバレットが甲板へ顔を出した。

 

 

「…おれが最後か?」

 

軽く周りを見渡してからそう問うバレットにレオヴァがにこやかに返す。

 

 

「あぁ…時間ちょうどだ、バレット。

それじゃあ行くか、皆よろしく頼む。」

 

「「「「はい!お任せを!!」」」」

 

素早く動き出した部下達だが、バレットにすれ違うとしっかりと頭を下げて挨拶をする。

 

そんな彼らに言葉は返さないが目線だけは少し返すようになったバレットの変化にレオヴァは嬉しげに笑っていた。

 

 

 

 

あれから空船で暫く航海を続けたレオヴァ達は不思議な島に到着していた。

 

その島は中心に火山があり、島の至る所にマグマが流れている。

青々とした背の高い草木はなく、サボテンを中心に背が低い植物が辛うじて根を張っているようだった。

 

更には火山のせいで気温が高いのか、湿度は低いのにとてつもない熱気で離れた場所から見ると島が揺れているようにすら見えている。

 

 

そんな人の気配どころか、生き物がいるのかさえ怪しい危険そうな島を前に部下達は熱さからではなく、精神的な不安から額に汗が伝う。

 

普通の人間ならば上陸すら難しい島を前に部下達は涙目になりながらレオヴァの方を伺った。

 

危険だから今回の上陸は見送ろうと、我らが優しい総督補佐官様のお言葉が出るのではないかと万が一…いや、億が一の可能性にすがって。

 

しかし、そんな部下達の希望を打ち砕くかのようにレオヴァの目はキラキラと輝いている。

 

 

「見ろ、バレット!!

凄いな…!想像以上の熱気だ。

カザンオオトカゲを捕らえるのが目的だったが、こんな環境で根を張れる植物も興味深い……食べられる物があれば旱魃が進んでいる地域にも使えるな。

それに植物があると言う事は草食の生き物がいる可能性も高い!繁殖が容易であればそれも食料としての需要が…」

 

興奮気味に声を上げたかと思うと、突然試行錯誤を始めたレオヴァの姿に数人の部下が膝から崩れ落ちた。

 

 

「「「「(これやっぱり上陸する流れだぁ…!!)」」」」

 

絶望に打ちひしがれる部下達だったが、楽しそうなレオヴァの声を聞き再び立ち上がる。

そして互いにアイコンタクトを送りあった。

 

 

「「「「「(もうこうなったら腹ァくくれ!気合い入れろ!!)」」」」」

 

レオヴァ様が行くのであれば我々が行かないという選択肢はない、と自分達を互いに奮い立たせる部下達だったが突然目の前の火山が轟音を鳴らし始める。

 

驚いて全員がそちらを凝視した瞬間、爆発したかのように噴煙が巻き上がり無数の巨石が船へと向かって飛んで来ていた。

 

 

「「「「ぅお!?!」」」」 

 

ヤバいと焦ったような声を漏らした部下達が迫り来る巨石に息を飲んだ時、一つの人影が前へと飛び出して行った。

 

その人影は自分の何十倍もあるような岩を拳で粉砕すると、甲板へとドスンと音を経てながら着地する。

 

細かく砕かれた岩の破片が船に降り注ぎそうになっていたが、それはバチバチッという聞き慣れた音と共に全てが船の外側へと弾き出されていく。

 

直撃死を免れた部下達は気付けば歓声を上げていた。

 

 

「「「「スゲェ!レオヴァ様、バレット様!!」」」」

 

うおお~!と盛り上がる部下達にレオヴァは小さく笑って見せるが、バレットは特に反応を返さない。

 

塩対応のバレットにも気にした様子もなく礼を述べ、助かったと胸を撫で下ろすと部下達はすっかり和やかな雰囲気を漂わせている。

 

 

「よし、では早速着陸するか。」

 

先ほどまでの和やかさは一変。

レオヴァから笑顔でそう告げられ部下達はまた瞳を潤ませる。

 

ほんの数十秒前に死にかけたと言うのに、もう死地に出向かなければならないのか…と遠い目をし出した部下達に珍しくレオヴァは気付かない。

 

恐らく彼は目の前の初めての島や環境に内心おおはしゃぎしているのだろう。

その証拠に先ほどから目線が島の方ばかり捉えている。

 

グツグツと煮えたぎるマグマが当然のように流れるひび割れた大地を見下ろし、部下達が顔を引きつらせているとバレットがレオヴァの方へと歩き出した。

 

 

「おれ達で降りて、コイツらは近くの島で待機させた方が良いだろ。」

 

突然のバレットからの提案にレオヴァはきょとんと目を丸くした。

 

 

「何故だ?

この温度なら船の耐久にはなんら問題はねェが…」

 

「…オオトカゲってのを()る間は船から離れるだろうが。」  

 

「そりゃあ、船で移動しながら探すのは非効率的だからなァ。

いつも通り船は待機させて捕獲し次第、積み込む方針だ。」

 

島への強い感心からか、いつもの察しの良さが発揮されないレオヴァにバレットは苛立ちながらも口を開く。

 

 

「~~っ…違ェ!

おれが言ってんのは待機させてる間にコイツらが船を護れるか怪しいって話だ!!

さっきの噴火でさえ、おれと貴様がいなけりゃ終わってたような奴らだぞ!!」

 

「そうか…!

確かに此処は皆には少し厳しい環境だったな。

すまない、おれとした事が失念していた。

と、なると……捕獲に必要な道具だけ降ろしたら船はバレットの言う通り近くの無人島付近で待機だな。

道具もおれとバレットなら持って降りられるからこれ以上の島への接近も控えるか。

……皆、水分補給をしてくれ。

この熱気だ、脱水状態の危険性が高い。」

 

気が付かずにすまなかったと謝ってくるレオヴァに部下達は慌てて首を振ると、指示通りに水分を取る為に行動し始めた。

 

そして、暫く部下達に申し訳なさそうに眉を下げていたレオヴァは、バレットに向き直ると今度は礼を述べる。

 

 

「ありがとう、バレット。

お前の助言がなければ皆に無理をさせる所だった。」

 

「助言じゃねェ!

足手まといになる奴らが邪魔だっただけだ。」

 

「ふふ、そうか。」

 

「…笑ってんじゃねェ、レオヴァ!」

 

自分を見て微笑ましげな顔をするレオヴァにバレットは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、睨み付けた。

だが、それに怯む様子はない。

 

にこにことご機嫌なレオヴァに結局バレットはコイツ相手にムキになるだけ無駄だと踵をかえした。

 

そのまま捕獲に使う道具を取りに行こうと倉庫へ向かって行ったバレットをレオヴァは見送った。

 

怒っている癖に仕事だからと、必要な道具を取りに行く真面目な男の姿にレオヴァはやはりあの時彼を連れ出して正解だったと満足げに笑う。

 

 

「……おれも準備をするか。」

 

そう呟いて麻酔弾と睡眠薬を取りに自室へと向かった。

 

レオヴァの足取りは軽い。

それはまだ見ぬ生き物達や島への期待を表しているのだろう。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「バレット、この植物毒があるぞ!!

ほら、周りが匂いに釣られて集まった動物の死骸だらけだろ?

恐らくこの死体が肥料になり、更に大きく育つんだろうな。

……ふむ、この匂い罠に使えそうだな?少し摘んで行くか!」

 

「毒があるなら触るな!!…おい、もう摘んでるじゃねェか!?

本当に人の話を聞かねェ野郎だなレオヴァ!!!」

 

忠告も虚しく既に気持ちの悪い見た目の花を満面の笑みで摘み取っている姿に、バレットはピクピクと血管を浮き上がらせる。

 

この島に上陸してからずっと、生き生きとした表情で毒々しい見た目の植物を観察するだけでなく、素手で触ったり収集するレオヴァの少し後ろでバレットは死んだような目をしていた。

 

そう、この男は全く人の話を聞かないのだ。

 

毒があるやら、危険やらとバレットには気を付けろと声をかけてくる癖に当の本人はそれを全て無視して採集を楽しむ破天荒振りだ。

この馬鹿を賢王などと誉め称えているワノ国の奴らは盲目なのかと疑いたい気分である。

 

 

「ン、よし。

じゃあ、そろそろ火山を登るか。」

 

「よし……じゃねェ!!

そのベタベタになってる手は放置か!?

自分でさっきそれが毒だと言ってたよなァ!?」

 

「…あぁ、まぁ確かに手が荒れるか?」

 

そう言うと普段はあまり着ない作業服の腰に巻かれていたベルトに挟んであるタオルで軽く手を拭くとレオヴァは笑顔でバレットを見た。

 

言葉にこそしていないが、その顔には『これで完璧だろう?』と書いてある。

全くもってどこが完璧なのかと問いただしたい気持ちに駆られるが、バレットはぐっと言葉を飲み込んだ。

 

この約2年の付き合いでレオヴァに口で勝てないことは理解している。

もし、ここで何かを言ってもなんやかんやと上手くはぐらかされるに決まっているのだ。

 

苛立ちのまま叫びたい気持ちを抑え、バレットは溜め息混じりに言葉を吐いた。

 

 

「……はぁ…拭いたなら行くぞ。」

 

「火山にはどんな生き物がいるか楽しみだな!」

 

今にも鼻歌を歌い出しそうなほどに上機嫌なレオヴァの背中をバレットはついて行く。

 

外で見せる貴族のように気取っている所作よりはマシだと思いながらも、このテンションの高いレオヴァとのやり取りは疲れると頭を抱えたい衝動を堪え、バレットは虫が詰められた箱を背負い直すのだった。

 

 

────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

「グルォオオオオ!!!」

 

地響きのような鳴き声と共に口から灼熱の塊を吐き出してくる生物を前に、バレットは僅かに目を見開いた。

 

体を覆う皮膚がまるで岩のような生き物は、背中からもくもくと煙か蒸気か分からぬ気体を発している。

 

バレットの短くはない人生の中で得た知識をかき集めてみても前例が無いその生物は、全長約18mはあるのではないかと言う巨体を揺らしながら突進して来ていた。

 

 

「間違いない、カザンオオトカゲだ!」

 

「トカゲってサイズじゃねェだろ、これは!!」

 

やっと見つけたと目を輝かせるレオヴァの首根っこを掴んでバレットは地面を蹴った。

そして、後方にあった背の高い岩の上へと待避する。

 

するとバレットの危惧した通り、自分達が元居た場所にそのオオトカゲが吐き出した何かが降り注ぎ地面の上でグツグツと熱を発していた。

 

こんな溶岩のような吐瀉物を飛ばしてくる生き物がいるのかとバレットが少し驚いている横では、未だに首根っこを掴まれているレオヴァが瞳を爛々とさせている。

 

 

「あの吐き出された液体はやはり何かしらの金属だ!

捕獲するぞ、バレット!!

もし、あのカザンオオトカゲが聞いていた通りの生き物なら体内に金属を蓄積させている可能性が高いからな。」

 

「……あれを捕獲するだと…本気で言ってやがるのか?」

 

「そうだ。

事前にカザンオオトカゲを捕まえると言ってあっただろう?」

 

「こんなデカいなんざ、聞いてねェぞ。」

 

「おれも7、8mと聞いてたが……まぁデカいに越したことはねェだろう!

なぁ、バレット。コイツは雄だと思うか?繁殖を視野に入れて雌も欲しいんだが……先に単体で飼育して生態への認識を深めるべきだろうか?

いや、生態を知るならサンプルは多い方が良いな。

10匹ほど連れ帰るか!」

 

そう言って互いに5匹づつ捕まえようと、良い笑顔を向けてくるレオヴァに再びバレットは遠い目をした。

 

駄目だ。レオヴァ(この馬鹿)を放って置けば本当にこんなデカイ狂暴な生き物を10匹船に押し込みかねない。

そもそも、いくら巨大な空船とは言え10m越えの生き物を大量に乗せるなど無謀である。

 

そんな至極真っ当な思考に至ったバレットはレオヴァの首根っこを掴んでいる手の力をいっそう強めた。

 

 

「テンション上がって馬鹿を言ってンじゃねェ、レオヴァ!!

こんな巨体をポンポン船に詰め込めるか!!!」

 

「……ふむ、なら幼体を捕獲するか!」

 

「そう言う問題じゃねェ!!!

飼育場も新しい場所を作らない限り、他の生物が襲われるだろうが。

一度に大量に持ち帰っても場所がねェなら無駄に死なせるだけだ。」

 

「ふふ、おれもこのオオトカゲの凶暴性を予測していてな……場所なら既に確保してあるぞ!」

 

ドドンッ!と言う効果音が聞こえて来そうなドヤ顔を向けてくるレオヴァにバレットのこめかみには青筋が浮かぶ。

 

 

「無駄な所ばかり用意周到に整えやがって…!!

とにかく連れ帰るのは2、3匹にしとけ、輸送中に暴れられたら面倒だろうが!

それに捕獲用の檻にも入りきらねェ。」

 

「……だが、飼育や繁殖に失敗した時の事を視野に入れたら最低でも8匹は…」

 

「また捕りに来ればいいだろ。」

 

「そんな頻繁に休暇は取れねェ。

他にも見て回りたい島は山ほどあるしなァ…」

 

言い返して来たレオヴァにバレットは溜め息混じりに言葉を返した。

 

 

「別にお前が自分で行かずとも、捕って来いと命令すりゃいいじゃねェか。」

 

「…おれの趣味の為に皆に面倒を押し付ける訳にはいかないだろ。」

 

ムッとした顔になったレオヴァを見て、バレットは何を言ってるのかと軽く首を傾げた。

 

 

「おれがいるだろ。

どうせ百獣関連の任務にはほぼ出張らねェんだ、空いてる時に行って捕って戻りゃ良い話じゃねェのか?」

 

「…いいのか?」

 

ぱぁ…!と表情に光がさしたレオヴァにバレットが構わないと頷き返す。

 

 

「ありがとう、バレット!

本当にお前が居てくれて助かる。」

 

「…大袈裟な野郎だ。

いいから、分かったならさっさと捕まえるぞ!

どうせ、まだ島を見て回るんだろ。」

 

「勿論だ、まだ見れてない場所ばかりだからなァ。」

 

バレットの言葉に上機嫌に返すとレオヴァは腰に付けているポーチから四角い何かを取り出して、興奮気味にこちらを見上げている巨大な生き物の後方へと軽く投げ上げた。

 

 

「行くぞ、バレット。

おれのペットになる生き物だ、丁重にな?」

 

「ふん、貴様が加減を間違えない限り問題はねェ!」

 

いつの間にか首根っこを掴んでいた手を離し、バレットは背負っていた籠を岩の上に下ろして飛び出して行く。

 

その様子にレオヴァもバレットへ合わせるように反対側へと進むべく飛躍した。

 

突如、動き出した二人に反応するようにオオトカゲがまた地響きのような鳴き声を上げながら口を大きく開く。

 

そして、先ほどの様に高温の金属の塊を吐き出してくるがバレットは軽く避けてオオトカゲの巨大な顎に拳を叩き込んだ。

 

 

「グルルォオ!!」

 

予想していなかった衝撃にオオトカゲの体が傾く。

すると、そのタイミングが分かっていたのかレオヴァが紐状の何かを取り出し、上顎と下顎が開かぬように巻き付けていった。

 

 

「よし、これでいい……バレット!」

 

「……分かってる!」

 

口を縛られたオオトカゲが暴れる(すんで)の所でレオヴァが電流を流すと同時に、その巨体を放り上げる。

 

巨大なトカゲが宙へと浮かぶと、ちょうどレオヴァが投げた四角い何かが地面の上に落ちて、瞬く間に形を変えていく。

それは投げる前の何百倍もの大きさに変化して檻へと変形した。

 

バレットはそれがしっかり起動した事を視界の端で確認すると、地面へ落下し始めたオオトカゲに再び拳を叩き込んだ。

 

その衝撃でオオトカゲはふっ飛び檻へと向かっていく。

 

そして、いつの間にか檻の方へ移動していたレオヴァが凄い勢いで飛んできたオオトカゲの衝撃で後退しそうになる檻を軽く手で止めてみせた。

 

檻の中でぐったりしているオオトカゲに息がある事を確認すると、レオヴァは檻を閉めてバレットへ顔を向ける。

 

 

「完璧だ、バレット。

それにしても、おれ達も随分と呼吸が合ってきたなァ?」

 

「フン…貴様は誰相手でも合わせられるだろ。」

 

「それはそうだが。

おれが言ってンのは意識せずとも、って意味だ。

まだ数年だってのに、お前とは驚くほど合わせやすい。」

 

「……知るか、いいから運んで来い!

こんなデカい檻を持ち運ぶのは面倒だろ。」

 

「ふふふ、つれねェなァ…バレット。」 

 

くすくすと笑うとレオヴァはいつもの様に巨大な鳥の姿へ変化すると、その脚で檻を掴んだ。

 

 

「どうせならバレットの背負ってた籠も持っていくか。

そうすればまた散策中に新しく採取出来るだろ?」

 

「あぁ、待ってろ。」

 

一言返し、バレットは岩の方へ置いてきた籠を取るとレオヴァの掴んでいる檻に結び付ける。

 

何度か手で確認して、取れないと確信するとレオヴァを見上げて合図を送る。

 

 

「すぐ戻る。」

 

バレットがその言葉に軽く頷いたのを見ると、そのままレオヴァは空へと飛び立って行った。

 

 

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レオヴァの休日に行われたカザンオオトカゲ捕獲作戦から1ヶ月が経った頃。

 

バレットは呼び出しを受けて鬼ヶ島の屋上へと来ていた。

 

一年前にレオヴァから押し付けられた懐中時計を見れば、まだ約束の時間ではない。

早かったかとバレットが手持ち無沙汰を感じ始めた時、後ろにある扉が開いた。

 

振り返れば、そこには予想通りの人物がいる。

 

 

「早いな、バレット。待たせたか?」

 

「いや、丁度だ。」

 

「なら良かった。」

 

相変わらず警戒心のない顔を向けてくる姿を見る事に、気付けば慣れ始めていた自分に言い表せない感情を感じつつも、用件は何だと聞こうとした時。

レオヴァは突然、巨大な鳥へと変化した。

 

今までの経験から瞬時にこの後に起こる事態を察したバレットだったが、行動はレオヴァの方が早かった。

 

嘴でバレットをつまみ上げると、自分の背に放る。

そして、背中に重みを感じるとそのまま数歩地面を蹴り、翼を力強く動かして空へと舞い上がった。

 

何の言葉もなく背中に乗せられたバレットは風と重力を全身に受けながら、レオヴァに向かって口を開いた。

 

 

「っ~~!!

レオヴァ、出掛けるなら最初(ハナ)からそう言え!!!」

 

怒鳴るバレットにレオヴァは鳥の姿でこっそりと笑う。

 

バレットは顔は見えずとも、背中から伝わる振動で笑っている事に気付いたが、今さら文句を言っても無駄かと諦めたように座り直した。

 

 

ここ数年でバレットがレオヴァについて知った事は多い。

 

魚介が好きな事や、オーバーワーク気味な事。

他にも外面ばかり良く、実際は結構ムカつく性格(・・・・・・)な事。

それから珍しいモノが好き過ぎて子どもの様にはしゃぐ姿や、酔っぱらうと面倒くさい事。

 

本当にどうしようもないくらい一緒にいると疲れる男が“レオヴァ”だ。

なのに何故かバレットは此処に居続けていた。

 

レオヴァはいつだって手がかかるし、バレット相手には他に見せるようや毅然とした態度は影もない。

 

珍しいモノを見つけたらこうやって、問答無用で背中に乗せられ一緒に探索に行かされるのも良くある事なのだ。

 

 

あの日、監獄から出て以降ずっと騒がしい日々だ。

バレットの遠い記憶にある“あの頃”に似ているようで違う新しい日々。

 

突き放しても、生意気を言ってもただ笑って受け入れられて。何度挑んでも勝てない。

そんな毎日が悔しくて。でも、心の奧では……本当は少し楽しくて。

 

バレットはそんな自分の変化を受け入れられずにいた。

 

『身内じゃねェ!!』

そう叫んだ言葉はレオヴァへの牽制だったのか、自分に言い聞かせていたのか。

本人ですら自覚できていないのだろう。

 

それでも、突拍子もなく背中に乗せられ大空をレオヴァと共に進むバレットの口角は微かに上がっていた。

 

 

 

 

 





ー補足ー
 
レオヴァ:珍しい生き物にテンションMAX。
普段ならもう少し理性で大人しく振る舞っているが、バレットが相手なので“素”ではしゃいでいる。
何をしてもバレットなら対応出来るし、取り繕う必要もないと言う信頼から来ている。
普段はカイドウの息子としてのレオヴァだが、バレットといる時は“ただのレオヴァ”として接する事が多い(仕事中は除く)

バレット:はちゃめちゃするレオヴァのストッパー係と化す。
文句は言うが最終的には付き合うし、手伝いもする。
レオヴァと契約してからほぼ共に行動しているので息も合うようになっているが、本人は否定している。
何だかんだレオヴァと騒いでる時は生き生きしている…?


・一騎討ちの理由
バレットとの契約更新の為。
これでレオヴァが負ければバレットは百獣を抜け、逆にレオヴァがバレットの手伝いをすることになる。
しかし、今回もレオヴァが勝ったので今まで通り。
開催時期は明確には決まってないが、バレットが声をかけたら…という流れになっている。
普段の組手とは別の真剣勝負。


・レオヴァとバレットが一騎討ちに使った場所
ワノ国の近くにある小島。
本当はカイドウとレオヴァの組手用に準備された特別製の島だったが、最近では一騎討ちでも使われている。
カイドウやレオヴァ、キングなら10分以内に飛んでいける場所にあり、空船なら片道約40分程で行ける。


・カザンオオトカゲ(別名:カヤクオオトカゲ)
全長が平均7m~10m、最大21m
鉱物の特徴もある謎多き生き物。
全身が岩のようにゴツゴツした鱗(?)に覆われており、全体に模様がある。
その模様は溶岩が投げれているかのような赤い光を放ち、線のような形で不規則。個体によって模様も違う。
このオオトカゲの脱皮殻は強力や火薬の素材になるらしいが、取り扱いを間違えると爆発するので注意。


・互いへの認識
レオヴァ→他幹部はカイドウの部下なのでそこは意識して接しているが、自分とバレットは契約関係=百獣ではなく自分のもの。
なので遠慮なく振り回しているし、バレットにカイドウへの“強い”忠誠心を求めていない。
バレットはレオヴァの中で唯一“父さん”という存在を仲介せずに信頼を置かれており、全肯定気味な身内と違って辛辣な意見などもくれるバレットを気に入っている。

バレット→百獣ではなくレオヴァと契約しているので優先順位はレオヴァが一番。
ただ、レオヴァの優先順位の一番がカイドウなのでそこはしっかりと顔を立てるようにしている。
無意識に過去の憧れとレオヴァを重ねたり、比べてしまっているが最近ではその頻度が減っている。
倒したいと言う強い思いや居心地の良さなど多くの複雑な感情が絡まっている。
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