番外・俺がカイドウの息子?   作:もちお(もす)

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ー前書きー
新世界編前の2年間の間にあったお話。

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百獣と道化の…

 

 

 

本日の天気は快晴。

ガヤガヤと騒がしくも活気溢れるド派手な船の上で、道化師のような見た目の男はご機嫌に木製のジョッキを掲げた。

 

 

「野郎共ォ~~!飲んでるかァ!?」

 

「「「飲んでるぜ!バギー座長!!」」」

 

「ぎゃはははは!!そうか、そうか!

今日もハデに宴を盛り上げやがれェ!!」

 

「「「「うおぉ~~!!!」」」」

 

バギー座長と呼ばれた男は部下達の様子に満足そうに口角を上げると、後ろにあったソファーへと腰を下ろした。

 

すると、すぐ側の椅子に腰かけてい髪型が特徴的な男。

Mr.3が呆れたように口を開く。

 

 

「宴、宴と……毎日よく飽きずに騒げるもんだガネ…」

 

ふぅと息を吐き、優雅に紅茶を飲むMr.3にバギーはぐっと身を前に乗り出すとジョッキの酒を飲み干し、大袈裟にやれやれと首を振って見せる。

 

 

「海賊に宴は付きモンだがァ…?

宴で騒がない海賊なんざ、宝の入ってない宝箱みたいなもんで意味ねェだろ!?

男なら、何事もド派手にいかねェとなァ!!」

 

「そんなんだからウチの貯蓄が増えないんだガネ…」

 

そんな呑気に笑うバギーを恨めしそうに睨むMr.3の肩に、後ろからポンッと労るように手が置かれた。

 

 

「バギーの宴についての考えは好きだが……苦労してるんだな。

組織を維持するにあたって資金は必要不可欠、収入と支出のバランス調整は重要だ。」

 

「全くだガネ!

貴様もそう思ってくれるなら、この馬鹿にガツンと言ってく、れ…たま…え…?」

 

やっと話の分かる相手だと振り返ったMr.3は、予想していなかった人物がいた事で口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。

 

ここら辺では滅多に見る事がない和装に身を包んでいる男は驚愕に固まるMr.3に笑いかけながら、同じく驚きで顎が外れたかの様な姿のバギーの隣に腰かける。

 

そして、自然な流れで空いているジョッキに手を伸ばすとバギーの後ろに居た酒樽を抱えている部下に差し出して微笑んだ。

 

 

「一杯、貰えるか?」

 

「えっ!…あ、はい!」

 

固まっていた部下はその男の声で我に帰ったように動き出し、空のジョッキに酒を注ぐ。

 

 

「ありがとう。」

 

「い、いえいえ!これが今日の仕事なんで…ヘヘヘッ。」

 

礼を言われて驚いた顔をしつつも、返事をしたバギーの部下に男は愛想よくジョッキを僅かに掲げ、また正面に向き直った。

 

そうして、そのままジョッキに口を付け酒を味わう。

 

 

「ふむ、久々にウチで作ったヤツ以外の酒を飲んだが…悪くないな。

バギーはこう言う酒が好みなのか?」

 

「え、まぁな。やっぱり度数高いだけの安酒より味も……って違ェだろォがよ!?

おまっ…なんで此処にいるんだ、レオヴァ!?」

 

当然のように隣に腰かけた男から逃げるように飛び退いたバギーの大声で、やっと周りの人間もハッとしたようにザワつき出した。

 

だが、騒ぎの張本人であるレオヴァは相変わらず愛想の良い笑顔のままソファーに腰かけている。

 

 

「取引の件で話があってな。」

 

「なるほど……って、それなら事前に連絡しろよォ!?

おれも色々忙しくてだなァ…!」

 

ビシッとレオヴァに指を指しながら叫ぶバギーの姿にMr.3はガタガタと震え、その光景に止まらぬ冷や汗を流していた。

 

しかし、そんな幹部二人と変わってバギーの部下達は憧れを見るようにキラキラとした瞳で壇上を見上げている。

 

 

「す、すげェよ!バギー座長ォ!!」

 

「噂の百雷相手にあの態度っ…!」

 

「四皇No.2なんて座長の敵じゃねェって事かよ!」

 

「百雷のレオヴァと面識あるとか座長は顔も広いのか!?」

 

勝手に盛り上がっている部下の気配を察知したバギーは不味い、とレオヴァの顔色を窺う。

 

けれど相変わらずニコニコと無害な笑みを浮かべている姿に怒っていないと安堵しつつも、気味悪さを感じ船の中で話を聞くと誘導していく。

 

レオヴァはバギーの提案を快諾すると、立ち上がり船内へと消えて行った。

 

そして二人で中へ消えていく後ろ姿に、バギーの部下達は良く分からないがなんか知的な雰囲気だと更に勝手に盛り上がるのであった。

 

 

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こうして、場所を移したレオヴァはバギーに引きずられる形で共に来たMr.3に改めてにこやかに挨拶をしていた。

 

 

「初めましてだな、おれはレオヴァ。

百獣海賊団では総督補佐官、ワノ国では王を務めている。

よろしく頼む、Mr.3……いや、ギャルディーノと呼んだ方が良いか?」

 

「よよよよ宜しくお願いしますガネ!

呼び方はもう!好きに、好きに呼んで欲しいガネ!!」

 

完全に恐縮してしまっているMr.3にレオヴァは困ったように眉を下げつつも、バギーに向き直る。

 

 

「それで先ほどの話の続きだが…」

 

「し、支払いの件は分かってるぜ…?」

 

「なら良かった。

では、もう一つの件について。」

 

「他にもあるのかよ!?

ま、まさか巨額の手数料なんて事ァ…」

 

顔を真っ青にするバギーにレオヴァは違うと首を横に降った。

 

 

「そんな真似はしない。

バギーは良い取引相手だ、おれはこれからも良い関係でいられたらと思っている。

……そこでウチの目玉商品の1つであるSMILEを取引に加えないか、という提案をしたいと思ってな。」

 

「SMILE!?

あの有名な1日悪魔の実の事か?」

 

「それを知っているなら話が早い!

あれは信用出来ると認めた相手にだけ販売している品物なんだが……さっきも言ったように、おれはバギーとは良い関係を築いて行きたいと思っていてなァ。

…どうだろうか?戦力増強としても資金源としても悪くない話だろう?」

 

思ってもみなかったレオヴァからの金になる提案にバギーが目を輝かせ、口を開こうとした瞬間だった。

 

 

「ちょ、ちょっと待つガネ!!」

 

返事を即答しようとしていたバギーの口を慌てて塞ぎながらMr.3は立ち上がる。

 

 

「なんだ、ギャルディーノ?

商品や取引について、質問があるならいくらでも答えるぞ?」

 

「あ、いや~~…私が話があるのはこっちの馬鹿…じゃなくてバギーですガネ……

す、少しお待ちを~~…」

 

顔を真っ青にしながらバギーを引っ張り、一旦部屋から退室したMr.3は小声で思いをぶつけた。

 

 

「なにをヤバそうな取引に即答しようとしてるのカネ!?」

 

「いやいや!どう考えてもウマイ取引じゃねェか!

あのSMILEだぞ!?

部下に食わせりゃ即戦力増強、他の野郎に高値で売っ払えば金がたんまりだ!!」

 

ゲスい笑みを浮かべるバギーにMr.3は目を血走らせながら、小声とは思えぬ気迫を声に込める。

 

 

「貴様は馬鹿なのカネッ!?

そんな上手い話、100%裏があるに決まってるだろう!?

私は百獣海賊団の傘下になるなんて恐ろしくて御免だガネ!!」

 

「じゃあなんだ、おいそれとウマイ取引を見逃せってのかァ!?」

 

小声でぎゃいぎゃいと口喧嘩するという高等テクニックを駆使していた二人だったが、突然Mr.3が大きな溜め息と共にある疑問をバギーにぶつけた。

 

 

「はぁ……そもそも何故百獣と取引なんかする事になったんだガネ!?」

 

Mr.3の呆れと絶望を含んだ疑問の声に、バギーはレオヴァと関係を結ぶ切っ掛けになったあの日を思い出しながら口を開いた。

 

 

「いや~あの時は酒屋で酒を飲んでたんだがァ……持ち金尽きちまってどうするかって悩んでたら気前のいい野郎が奢ってくれてよォ。」

 

語りだしたバギーの話によると。

奢ってくれた男と共にワイワイと楽しく酒を酌み交わしていたら、あれよあれよと言う間に泥酔していたらしい。

 

そして酒が進んだ所でその男に、新しい事業を始めるにあたって人員は足りているが武器や物資がないと愚痴を溢した。

すると、男は当てがあると笑顔で提案してくれたと言う。

 

 

『実はウチは貿易や商売にも力をいれてるんだ。

今から他の海賊や海軍を襲って武器やらを調達していては時間がかかるだろう?

支払いは分割で構わない……どうだろうか、おれから物資を輸入するというのは。』

 

『そりゃあ、渡りに船だぜ兄弟!!

酒も奢って貰えるし、商談も成立!くぅ~!最高の日だ!!もう一杯っ!!』

 

『ふふ、そうだなァ…兄弟。

もう一杯飲むとしよう。』

 

『おうよ!!』

 

そうして、その勢いのまま契約書にサインをし後日物資がしっかりと届いたのである。

…百獣製のマークが刻まれた箱に入れられた物資が。

 

 

そんな物語を語るかのように話し終えたバギーの脇腹をMr.3は思いっきりどついた。

 

 

「ふぐっ!…な、なにしやが…」

 

「完全に乗せられてるじゃないカネ!?

どう考えてもその男は怪しすぎるだろう!」

 

わざわざ語ってやったと言うのに、しばかれたバギーは不満げに叫び返す。

 

 

「うるせぇ!!お前だって質のいい武器だの紅茶だのとはしゃいでただろうがァ!!

そもそもあの時おれ様が契約してたから、物資が潤った状態でバタついてる海軍を出し抜いて商売を広げられたんだぞ!?

七武海になれたのだってなァ…!」

 

「うっ……それはそうかもしれないが…

だとしてもあの百獣相手に取引は、恐ろしすぎるガネ…」

 

暗い顔をする相棒にバギーは内心焦りつつも開き直ったように声を上げた。

 

 

「いつまでもグダグダ言うんじゃねェ!

もう契約しちまってるモンはしょうがねェだろ!!

契約書もあの百獣の息子の前で書いちまってるしよォ…」

 

「……は?」

 

Mr.3はバギーの言葉に思わず顔を上げた。

 

 

「ま、まさかとは思うが…

貴様、その奢って貰った相手というのが、百獣の息子なんてことないだろうなっ!?」

 

「…………」

 

あからさまに顔を背けたバギーを、あり得ないものを見るような目で凝視する。

 

 

「馬鹿だとは知っていたが…気付かないなんてあり得るのカネ!?マリンフォードでも見てる…あの百獣の息子を!?か、考えられんガネ……」

 

「っだぁ~!!おれ様は悪くねェ!

あんときゃ酒も入ってたし、レオヴァの野郎の髪型も違う。挙げ句服も目立たねェ普通の服着てやがったんだぞ!?

てか、どこの世界に億超えの懸賞金額で営業やってる海賊がいるんだよォ!?

気さくに声かけられて楽しく飲んでる相手がバケモンだなんて察せるかっ!!」

 

「バッ…貴様、声がでかいぞ!!

き、き、聞こえたらどうするつもりカネ!?」

 

慌ててバギーの口を抑えたMr.3は部屋の扉を振り返る。

その顔は真っ青であり、絶望が滲んでいるがどこか覚悟を決めた顔であった。

 

 

「……今さら逃げ場なんかないと言う事カネ…」

 

「Mr.3……お前、どんどん諦めが早くなっていくな…」

 

「誰のせいだと思っているのカネっ…!?」

 

恨みのこもった瞳で、他人事なバギーを睨み付けるMr.3だったが、またすぐに溜め息を吐くとガックリと肩を落とした。

 

そして、部屋に待たせているレオヴァの元にバギーを返すべく、重い足を動かすのだった。

 

 

 

この日、百獣海賊団とバーギーズデリバリーにて新たな契約が交わされた事を知るものは少ない。

 

 

 

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野暮用があると飛び立って行ったレオヴァが戻って来た次の日。

 

ナワバリになったばかりの島の巡回をしていたクザンは港から大きな機械が運ばれて来ている光景を発見して、何事かと首を傾げる。

 

運んでいるのは間違いなく百獣海賊団の船員だ。

しかし、クザンには何も話が回って来ていない。

 

やけに忠誠心が高い百獣海賊団の船員が勝手に島に物を運び込んでいるとは思えない為、恐らく今ナワバリにいるレオヴァかジャックの指示だろう。

 

この見慣れぬ機械を一体何に使おうと言うのだろうかと、クザンは僅かに目を細める。

 

そして、自然な動作で運んでいる彼らの後を追う。

 

 

すると彼らは広場にその機械を置いて、せっせと細かい部品を付け足しているではないか。

 

いよいよ本当に何をするのか怪しく思ったクザンが声をかけようとした時だった。

 

はためく音と共に見慣れた目映い翼を揺らし、半獣の男が広場に降り立った。

 

猛禽類の様な脚で掴んでいた荷物を下ろし、風で乱れた長い黒い髪を手で軽く直すと男は穏やかな笑みを浮かべ、船員達に声をかける。

 

 

「もう設置してくれてるのか?

ありがとう、おれ一人では手が回らなくてな。」

 

助かると微笑みかけてくる見目の良い男に船員達は一斉に破顔する。

きっと礼を言われた事が嬉しいのだろう。

 

皆照れたような顔をしながらも、黒髪の男に言葉を返す。

 

 

「いえ、そんな!」

 

「レオヴァ様の手伝いとありゃいくらでも!!」

 

「これくらい、お安いご用ですよ。」

 

「力仕事は得意なんで…へへ。」

 

レオヴァと呼ばれた男は船員達の言葉にまた笑みを浮かべると、先ほど半獣の姿で運んで来た荷物から四角い箱の様な鞄を取り出した。

 

船員達がなんだろうと興味深げに彼を見る。

 

すると彼は皆の視線に気付いているようで、そっと目を細め手早く鞄を開いて船員達に歩み寄った。

 

 

「皆、この猛暑だ。

水分補給は欠かさずにな?」

 

そう言って四角い鞄から瓶を取り出してレオヴァは一人一人に手渡していった。

 

この炎天下の中を移動してきたとは思えぬほどキンキンに冷えているドリンクに船員達は瞳を輝かせる。

 

重いものを運び、大量の汗をかいていた船員達にとってこれは有難い差し入れであった。

皆、礼を述べると一斉に瓶を開け、飲み始める。

 

一気にゴクゴクとそれを喉に流し込む。

 

さっぱりした甘さのあるドリンクだ。

僅かにレモンを感じるが酸っぱすぎはしない。

 

水分を失った体に染み渡るような感覚に、思わず酒を飲んだ時のような男臭い感嘆の声がもれる。

 

 

「「「かぁ!うめぇ~~!!」」」

 

はしゃぐ船員達の姿にドリンクを手渡したレオヴァがすくすくと小さく笑う。

 

 

「ふふ、気に入って貰えたなら何よりだ。」

 

上司の前で今のは流石に、はしたなかったかと顔を赤くする船員達に気にするなと軽く手振りで返したレオヴァが荷物を広げようと振り返った時、近くにいたクザンと目があった。

 

しまった、と思うクザンとは逆にレオヴァは嬉しそうに手を振ってくる。

 

 

「クザン、此処にいたのか!

ちょうど手伝って欲しい事があって探そうと思っていたんだ。」

 

手伝って欲しい事とは?と内心で訝しみながらもレオヴァの方へ歩いて行く。

 

 

「手伝いって、おれに?」

 

「あぁ!

クザンじゃなきゃ頼めねェ事でな。」

 

おれじゃなきゃ頼めない事…?

頭の上にクエスチョンマークを浮かべるクザンに、レオヴァはニヤリと笑みを向ける。

 

そのいつもとは違う笑みにクザンが少し目を丸くしていると、レオヴァは背を屈めて小さな声で話を続ける。

 

 

「前々から試作を重ね完成させた道具があったんだが実用化するのに少し問題があってなァ……だが、クザン。

お前がウチに来てくれた事でようやく形になりそうなんだ。」

 

「……その道具の完成におれが必要だと?」

 

釣られるように小声になっているクザンにレオヴァは笑顔で頷き返す。

 

 

「そうだ、クザンが居てくれれば確実にその問題は解消出来る。

……実はまだ一部の幹部達には極秘にしているんだ。

だからこの島で試運転し、問題ないかの確認がしたい。」

 

「…なるほどね。

じゃあ、今回のナワバリ視察におれだけでなく大看板までいるのも…それ関係?」

 

「まぁ……そう、なるか?

最初はおれが道具の操作をする予定だったんだが、休暇でヒマだからやらせてくれ…とジャックがな。」

 

レオヴァの返答にクザンは思考を回転させる。

 

わざわざ百獣海賊団のNo.2と大幹部が出向いてまで試したい道具とは何だ。

それに一部の幹部には極秘にしている事を、まだ入って半年と数週間程度の自分に教えてまで協力させたい内容とは…

 

いくら考えても答えはでない。

だが、新参である立場のクザンに断るという選択肢は取り難かった。

 

今は百獣海賊団での立場を固めたいのだ。

カイドウやレオヴァはクザンの“元海軍大将”という肩書を全く気にしていないが、周りは違う。

 

気さくに接してくれる者が居ない訳ではないが、やはり厳しく見られているのは事実だ。

 

大看板の三人に至っては入団後も暫くレオヴァにクザンの脱退を進言していたと聞く。

 

恐らくカイドウが彼らに

『強けりゃ過去の立場なんざ関係ねェ。裏切ったらその時に分からせてやりゃ良い話だ。』

と言わなければ、未だに脱退を促されていただろう。

 

 

クザンとしてもまだ百獣海賊団から世界を見たいと言う気持ちがある。

実際この半年ちょっとの間だけでも、今までは見れなかった世界を何度も目の当たりにした。

 

もっと知りたい。もっと見てみたい。

海軍という立場からは知り得なかった世界。

様々な“正義”のあり方。人々の“幸せ”の多様性。

 

だから、クザンは馴染めるように持ち前の性格で上手くやって来ている。

更に多くを見て、聞いて、知る為に。

 

 

考え事をしていたクザンの意識を現実に戻すレオヴァの声が耳に届く。

 

 

「そう言う訳だ、クザン。手伝ってくれ。

おれのこの計画にはお前が必要なんだ。」

 

真っ直ぐな瞳に見下ろされ、クザンは頷いた。

 

レオヴァは危険性の高い男ではあると薄々察しているが、元海軍である自分に“ヤバい”事を任せはしないと考えたからだ。

 

まだ半年。

自分もそうだが、レオヴァもそこまで此方を信頼してはないだろう。

 

そうなると、情報を漏洩させる可能性が1%でもある相手に“ヤバい”事を任せるとは思えない。

 

そう高を括っていたクザンだったが、目の前でニヤリと細められた瞳を見て息を飲む。

 

まるで悪巧みが成功したかのような笑みだ。

普段のレオヴァからは想像出来ない表情にクザンが一瞬固まる。

 

 

「早速、取りかかろうかクザン。

ふふふ……おれの計算通りに行けば確実に成功するぞ。」

 

愉しげなレオヴァの声に、クザンは手伝うと返したのは早計だったか…と冷や汗を流したのだった。

 

 

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広場に大勢の人々が集まっていた。

 

わいわいと楽しげな人々の中心では大きな機械から飛び出しているレバーを掴んで回している甚平姿の大看板、ジャックと。

肩にかけていたコートを機械の脇に置き、腕捲り姿で届けられた水をゆっくりと凍らせ続けるクザン。

長い髪を後ろで1つに束ね、たすき掛け姿で機械から出てくるふわふわな氷に色んな種類のシロップをかけ手渡すレオヴァの姿があった。

 

彼らの周りには人だかりと行列が出来ている。

 

ガリガリと気持ちの良い音を立てながら大きな道具で巨大な氷を粉砕していくジャックの姿にはしゃぐ男児達。

ピンクや青、黄色など色とりどりのシロップのかかった雪のような氷を頬張り美味しいと顔を綻ばせる者達。

 

反応の違いはあれど皆一様に明るい表情をしていた。

 

 

また大きな機械の前に子どもが立つ。

大人しく列に並んでいた小さな子は、自分の番になったのが嬉しいのか興奮気味に両親の手を引いてレオヴァの方へ駆け寄ってくる。

 

 

「レオヴァさま!かきごーり、みっつちょーだい!」

 

弾むような可愛らしい子どもの声に周りが微笑みを溢す。

レオヴァもいつものように柔らかい表情で子どもを見ると、器に雲のような氷をよそって行く。

 

 

「味は何がいい?」

 

「ん~と、いちご!

あと……ん?きなこってなに?」

 

こてん、と首を傾げる子どもにレオヴァは優しい表情のまま近くにある冷たい箱の中に準備していたスイーツを取り出す。

 

そして小さなカップに取り分けると子どもに手渡した。

 

 

「きな粉ってのはワノ国で人気のスイーツに良く使われてる材料の名前だ。

試食用に沢山持ってきているから、食べていいぞ。」

 

「すいーつ!」

 

大きな瞳をキラキラと輝かせる子どもの頭を優しく撫でると、レオヴァは両脇に立っている親にも同じようにきな粉が使われているドーナツを手渡す。

 

ひとくちサイズに切られたそれを渡され両親は自分達まで貰っていいのか、と慌てるがレオヴァは人好きのする笑顔を浮かべ口を開く。

 

 

「ぜひ食べてみてくれ。

それで、気に入ったならきな粉ソースのかき氷を頼んでみるといい。」

 

自信作なんだ、と屈託なくはにかむ青年の姿はとても爽やかで彼が海賊であるという事実を忘れさせた。

両親は緊張で無意識に肩に入っていた力を抜くと、渡されたスイーツを口に入れる。

 

子どもも親を真似するようにパクりとスイーツを頬張り、家族は揃って美味しい!と声を溢した。

 

その姿にレオヴァは満足そうな顔になると、子どもに顔を向ける。

 

 

「気に入ってくれたなら嬉しい。

それで、かき氷はどの味にする?」

 

「きなこ~!」

 

元気良く声を上げる子どもの姿にまた周りは可愛らしい、と思わず顔を綻ばせるのだった。

 

 

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日が沈みきるまで水を凍らせ続けていたクザンだったが、漸くその仕事から解放され一息ついていた。

 

数時間前は何を手伝わされるのかと僅かに体を強ばらせていたが、蓋を開ければ氷を作るだけという拍子抜けな内容だった。

 

とは言えレオヴァからは一瞬で凍らせるのではなく、ゆっくり時間をかけて凍らせてくれと細かい注文を付けられ、気を張っていた為か少し体に疲れを感じる。

 

どうやらレオヴァ(いわ)く。

かき氷に使う氷は水の質も大切だが、凍らせる時の温度や速度が大切らしい。

 

何故かき氷程度にそんな拘りを…と思っていたクザンだったが、味見と言って渡されたかき氷は確かに美味かった。

 

シロップの美味さは勿論だが、氷の食感が違う。

あのガリガリッとした食感でも、シャリシャリした食感でもない。  

ふわふわで、もきゅもきゅとした不思議な食感だ。

 

水は凍らせ方でこんなにも変わるのかと驚けば、レオヴァはしてやったりと楽しげに笑っていた。

 

 

『ほら、全然違うだろう?』

 

『……こりゃあ、馬鹿に出来ないぐらい美味いわ。

おれの知ってるやつとは全くの別物だ。』

 

素直に驚きを口にすると、上機嫌にレオヴァはかき氷屋台の準備を進めていた。

 

 

上甲板(じょうかんぱん)に置いてあるビーチチェアに寝そべりつつ、そんな事を思い出していると百獣海賊団の船が泊めてある目の前の砂浜が騒がしくなる。

 

この賑やかな声は百獣海賊団の船員達の声だろうと検討を付け、クザンが欠伸を溢した時だった。

 

静かな足音が近付いてくるのを感じて、閉じかけていた目蓋を開ける。

 

気だるげに目線を横に動かせば、予想していた人物が此方に歩いて来ている。

 

未だに髪を束ね、たすき掛け姿のままのレオヴァはクザンがこちらに気付いた気配を察して笑みを向けて来た。

 

 

「お疲れ様、クザン。

おかげで大盛況だ、島の皆も喜んでくれた。」

 

満足そうに頷いたレオヴァに、クザンは疑問に思ってた事を問う。

 

 

「ずっと温めてた計画(・・)ってのはかき氷機の事だったのか?」

 

突然の問い掛けにきょとんと目を丸くしたレオヴァだったが、すぐに合点がいったのか口を開く。

 

 

「いや、計画は別にある。

かき氷機はそれに必要不可欠な道具なんだ。」

 

「別にある、ね。

……それって、おれが今聞いてもいいヤツ?」

 

半分冗談目かした声色のクザンにレオヴァは何故わざわざそんな事を聞くのかと首を傾げる。

 

 

「あぁ、勿論構わねェさ。

そもそもクザンがいなきゃ成功は難しかったんだ。

その計画も手伝ってもらうだろうし、質問は何でも受け付けよう。」

 

そう返して来られるとは思わず逆に面食らっていると、ビーチチェアの横に椅子を持ってきてレオヴァが腰かける。

 

 

「…まだベポやうるティ、ページワン達には情報を漏らさないと約束してくれるな?」

 

声を潜めるレオヴァに頷きを返すと、言葉が続く。

 

 

「実は……今年の龍王祭の夜にある金色神楽の祭でこの特別なかき氷の屋台を出そうと思ってるんだ!」

 

ドドン!と効果音が聞こえて来そうなほど得意気に答えたレオヴァにクザンは目を点にする。

 

 

「屋台の中でも毎年かき氷は上位に入るくらい人気でなァ。

シロップの研究は正直、やりきってしまった感が否めない……そこでだ。

氷の方を改良し、今までとは全く違うかき氷を作ろうと言う話になった。

無論、元々あったかき氷のメニューは去年と変わらず出す。

だが新メニューとして今日作った物を今年は全面に押し出して行こうという計画だ。」

 

つらつらと語るレオヴァに押され、生返事を返すクザンに更に言葉を続けていく。

 

 

「この氷の為だけに作ったシロップもある!

今まではシャリシャリした氷に合わせる為にフルーツ系のみのラインナップだったが。

今年は塩キャラメルやチョコ、抹茶、きな粉…とかなりの種類の新シロップも完成させている。

あの氷なら今まで使えなかった少し粘り気のあるシロップでも美味しく食べられるだろう?

あぁ、そうだ。クイーンの要望でお汁粉をイメージしたかき氷も試作中でな…」

 

上機嫌に語るレオヴァに面食らいながらも、クザンは相づちを返す。

 

長々と語られた話を要約すると。

年に一度の祭に出す屋台の新商品が完成して嬉しい、クザンのおかげだ。

今年の祭の準備も手伝って欲しい。

…という事だった。

 

変に勘繰っていたのが少し馬鹿馬鹿しく思えてクザンは、はぁと小さく息を吐く。

 

 

「ま、氷作りくらいなら手伝うぜ。

その祭りってのも気になるしな。」

 

「ありがとう。クザン!

祭りも参加してくれるなら嬉しい。

色んな屋台もイベントもある、きっと楽しめる筈だ。」

 

自信満々に答えたレオヴァにクザンは笑い返す。

が、1つ思い出してまたレオヴァに質問を投げ掛けた。

 

 

「祭りの為ってのは分かったが…何で一部の幹部には極秘なんだ?」

 

秘密にする必要を感じないと思った事をそのまま伝えると、レオヴァがまた悪戯を企む子どものように楽しげに目を細める。

 

 

「そりゃあ、サプライズの方が盛り上がるだろ?

ベポはかき氷が好物だし、うるティとページワンは新しい物への反応が良い。」

 

「成る程ねェ。」

 

「毎年、何かしらサプライズを仕込んでるんだ。

その方が祭りが楽しみになると思わないか?

全部分かってしまっているものより、少し分からない事がある方が惹かれるもんだろ。人間ってのは。」

 

「はは、違いねェ。」

 

 

談笑する二人の元に船の振動が伝わる。

レオヴァが振り向くとそこには甚平姿のジャックがいた。

 

 

「レオヴァさん、準備が出来た。」

 

短いジャックの言葉に分かったと返すと、レオヴァは立ち上がりクザンに向き直った。

 

 

「行くぞ、クザン。

宴の準備が出来たらしい。

今日は天気もいいから、砂浜に準備するよう頼んであるんだ。」

 

「……それ、行って大丈夫か?

おれが出てシラケさせちまうのもなァ…」

 

船の側のビーチで楽しげに騒いでいる声が聞こえるが、自分が行っては空気を壊してしまうのではないかと気を使ったクザンの一言をレオヴァは笑い飛ばす。

 

 

「ふははは!結構小せェ事を気にするんだなァ、クザン。

せっかくの宴に参加しねェ身内(・・)がいる方が心配してシラケるってもんだ。」

 

手首を掴まれビーチチェアから立ち上がらされたクザンは直ぐに離された手で軽く頭をかく。

 

 

「早く行くぞ、クザン。魚介もある!」

 

「…はいよ。」

 

海老の焼ける匂いがするなァ、と嬉しげにジャックと話し始めたレオヴァの後ろにクザンは続いた。

 

あくびが出るような、こんな平和な時間が流れる今を生きるのも悪くないと心の中で思いながら。

 

 

 

 

 





ー後書きー

バギー:やべぇ!金返さねェと…でも宴で金ない。
新しい取引!?やるやる!その話乗るぜ!

Mr.3:よりにもよって百獣だガネ~~!?
取引は断れ…頼むから断って欲しいガネ……アッ!契約成立しとる…


レオヴァ:ベポやうるティ、ページワン。可愛い部下達の喜ぶ顔の為に休日を返上してでも祭の屋台の新作完成なければ…
あれ?もしかしてクザンがいれば氷の問題クリア出来るのでは…?

ジャック:レオヴァさんにかき氷機の作業なんてさせられねェ!ここはおれが!!(頼りになる弟分)(レオヴァも思わずニッコリ)

クザン(まだ入り立ての姿):めちゃくちゃ含みのある言い方だし、おれに何させるつもりだ?
……って、かき氷かよ!?あぁ成る程ね。部下の為にね……はぁ。(気の抜ける音)

・ナワバリでかき氷パーティーを開いた理由
またナワバリにしたばかりで怖がっている者が多い街だったので、イメージ向上と試食を兼ねて実行した。



【挿絵表示】

↑バギーと酒屋で飲んだ時の
レオヴァ服装イメージイラスト
(Twitterに上げたやつ)
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