オレの居た世界政府と言う場所では
最も尊重されるのは“個人”ではなく、“組織”だった。
そこでのし上がる為に必要なのは任務を遂行する実力と、黙って上層部に
それさえ出来ていれば世界政府という場所ではそこそこの地位が手に入り、名も売れる。
数いる野心家の世界政府の人間の中でもオレはあの天才と称されるロブ・ルッチにも引けをとらねぇ程の有望株だと言われていた。
世界政府で地位を手に入れ、ちょっとした著名人として世間にオレの顔は知れていた。
“ who's who ”
地位を手に入れたと、自分は著名人になったのだと慢心する憐れな
あの頃、オレもその一人だった。
そりゃもう典型的な世界政府の人間だ。
あの場所で一定以上の地位のある人間は、そんな奴らの集まりだっつっても過言じゃねぇだろう。
だが、そんな所でもそこがオレの生きられる場所だった。
……たった一度のミスを犯すまでは。
あの護送任務を失敗してから、オレは不要品となり世界政府の追手から逃げるはめになった。
今までの地位も仲間も、全てを失った。
昼も夜も追手から隠れ逃げ惑う日々。
どこまで行こうとも世界政府の人間は必ず現れた。
そして、結局オレは逃げ切ることは出来なかった。
捕まった後に待っていたのは終わりの見えない地獄だ。
毎日、何十時間と繰り返される拷問。
オレの精神は少しずつすり減り、壊れていった。
ただひたすら地獄が終わることを祈り、必死に生に縋った。
神でも悪魔でも何でもいい。
どんな事でもする、助けてくれ…!!
その時だった。
心の叫びに応える様に、レオヴァさんが現れたのは。
あの拷問室でレオヴァさんはオレに取引を持ち掛けてきた。
オレに断るという選択肢はなかった。
なんだっていい、この絶望から逃げ出せるなら!
その一心でオレはレオヴァさんの差し出してきた手を取った。
拘束具が全て外され傷だらけの汚い体を起こし、オレは後ろに立っていたレオヴァさんを振り返った。
そこには綺麗に笑う、角をはやした人間がいた。
優しげな表情に上品な所作でふらつくオレを受け止めたレオヴァさんは、まるで本で見たことがあるような慈悲深い“
そのままレオヴァさんはオレを地獄から連れ出してくれた。
そして、信じられねぇくらい平和で安全なワノ国で仕事もくれた。
だが、レオヴァさんはただ慈悲深いだけのお優しい“カミサマ”じゃなかった。
目的の為なら手段は選ばない。
そんな合理的な“人”だった。
あらゆる方面から逃げ道を塞いでいき確実に目的を達成していく、そんなレオヴァさんは敵になれば間違いなく“悪魔”のような人だろう。
オレはレオヴァさんが敵になることが恐ろしかった。
実力も戦略も、なにに置いても勝てる気がしなかったからだ。
だからどんな状態でも取り引きを続け、その後もレオヴァさんからの提案を飲み、百獣海賊団に雇われた。
だが、雇われてからまたレオヴァさんへの印象は変わった。
レオヴァさんはどこまでも抜け目のない完璧な人だと思っていたが、それはどうやら違うらしかった。
仕事と関係のない所では斜め上な発言もするし、人の部屋に勝手に鯉を泳がせるような意味が分からない行動を取ることも少なくなかった。
最初こそ何を考えているのかと勘繰り精神をすり減らしたが、レオヴァさんのその行動にはあまり深い意味はないようだった。
……それと後から分かったが、鯉に関しては完全に善意からの行動だったらしい。
そしてワノ国で仕事を任され、平和な日々を送っていたオレは少しずつレオヴァさんという“人”を知っていった。
海賊らしく残忍な姿
ワノ国の王として国を良くしようと邁進する姿
百獣の幹部として部下を思いやる姿
息子として父の為に努力する姿
研究者として探求を欠かさぬ姿
……そして、オレの前で見せてくれる少し気の抜けた姿。
非の打ち所がない完璧な存在に見えていたレオヴァさんの、イメージとは違う姿はオレに変化を与えた。
そんなレオヴァさんはオレの能力を良く評価してくれたが、同時にオレ自身のことも高く評価してくれていた。
それもオレの精神状態が良くなる理由の1つだったように思う。
レオヴァさんの側は今まで感じた事がないほどの安心感と充実感をオレに与えた。
レオヴァさんとの何気ない会話は楽しかった。
利害とか遠慮とか面倒な事を考えずに思った事をまんま口に出せるのは楽だったし、今までにない感覚だった。
それにレオヴァさんには一番酷い状態のオレを見られてたんだ、変に取り
そんな気の抜けた姿を見ても、レオヴァさんは1度もオレを否定しなかった。
それどころかオレをいつだって肯定し、意見が食い違っても
『フーズ・フーのその考え方は面白い!
おれにはない価値観だ、もっと聞かせて欲しい。
おれとフーズ・フー2人で納得出来る答えを出そう!』
と、いつも正面からオレに向き合ってきた。
レオヴァさんは間違いなく
今までの人生で出会ったことがないタイプの、本当に変わった人だった。
……だが、そんなレオヴァさんはオレの中で無視できぬほど大きな存在になっていた。
今までレオヴァさんが敵になるのが怖かったのは、絶対に敵わないと思わせる“
けれど、この頃のオレはレオヴァさんにおれ自身を見てもらえなくなるのが……
だが、その思いとは裏腹に冷静な部分のオレはいつか用ナシになる日が来ることを覚悟していた。
その考えにたどり着く理由は明白だった。
体が不自由なオレが百獣海賊団に居続けるなんて、夢のまた夢。
満足に戦闘が出来ない体の役立たずを誰が側に置き続ける?
例えば、その不自由さを補うほど戦闘意外に高い能力がある。
または利用価値の高い能力があれば、百獣海賊団に居ることも出来るだろうが…
生憎、オレの一番の武器は戦闘能力と諜報力だった。
その“武器”を100%の力で使うには壊れかけの体じゃ話にならねぇ。
結局、オレはいつかレオヴァさんに見限られる日までの寿命だと割り切ることで……いや、そう割り切れると自分に言い聞かせることで耐えていた。
…が、そう考えてたのはオレだけだったらしい。
レオヴァさんはオレを捨てるつもりも、飼い殺す気もなかったようだった。
『フーズ・フー……おれと来るか、逃げ続けるか選べ。』
と真面目な顔でオレに選択肢を与えてきたんだ。
答えなんざ、決まってた。
レオヴァさんと新しい道を進めて体も治るなら、これ以上はねぇ。
百獣に入ると迷いなく告げたオレにレオヴァさんは目を細めて笑った。
そして、その後すぐ世界政府ですら及ばないレベルの医学力でレオヴァさんはオレの体を昔のような不自由ない状態に戻してくれた。
義足が貰えるんだろうか?程度に考えてたオレはあっという間に戻された手足に驚き、言葉を失った。
その横でレオヴァさんが驚愕しているオレの顔を見て楽しげに笑ってたのもよく覚えてる。
『討伐遠征……楽しみにしてるぞ。』
レオヴァさんはそう言って今度は優しく笑った。
そうしてオレは討伐遠征に全力を注いだ。
本当に生まれて初めて仕事をするガキみてぇに張り切ってたし、やる気に満ち溢れてた。
それは、レオヴァさんにオレを治した事を後悔させたくなかったのと
オレはそこらの有象無象の奴らより何百倍も役に立つってのを示したかったからだ。
ただあの人に……レオヴァさんにオレの最大級の“武器”を、オレを褒めて貰いたかった。
言うまでもなく、初任務は成功で終わった。
まぁ、もう二度とヘマする気はねぇし当たり前の結果だ。
オレはそれからも結果を出し続けた。
笑っちまうぐらい百獣海賊団は生きやすく、退屈しねぇ場所だ。
カイドウさんの桁外れな暴れ具合とレオヴァさんの並外れた統治力は良くバランスが取れてるし
カイドウさんとレオヴァさんは良くも悪くも互いに強く依存しているように見える。
あの様子なら百獣海賊団が二分することは万が一にもねぇだろう。
一枚岩じゃねぇ世界政府とかいう場所とは大違いだぜ。
カイドウさんとレオヴァさんになら、命を捧げる価値がある。
生まれてからずっと自分の為だけに生きてきた…そんなオレが本気でそう思えるようになったのは、きっと他とは違うレオヴァさんの変わってる部分に影響されたのかもしれねぇな。
オレは優雅に泳ぐ鯉に餌をやりながら、もうすぐ来るであろうレオヴァさんを想った。
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部屋の前で待ち人の気配が止まると、控えめなノックが鳴らされた。
フーズ・フーはカイドウから貰った酒を片手に扉を開けると、ニッと笑って待ち人を出迎えた。
「よぉ、レオヴァさん。」
「待たせて悪かったな、フーズ・フー。
約束通り今晩の予定は空けてくれてるか?」
レオヴァの問いにフーズ・フーは当たり前だと口を開く。
「当然、しっかり予定は空けてあるさ。」
「それは良かった!
じゃあ、行こうか。」
そう言って歩き出すレオヴァに慌てたようにフーズ・フーは声をかける。
「レオヴァさん、おれの部屋で飲むんじゃねぇのか?」
「いや、今日はおれの自室で飲む。」
「それなら言ってくれりゃあ、おれが部屋に行ったってのに…
レオヴァさんに無駄足踏ませちまったな。」
最初に場所を聞くべきだったとバツが悪そうな顔をするフーズ・フーにレオヴァが振り返る。
「おれが言わなかったんだ、フーズ・フーが気にする必要はねぇよ。
それにお前を迎えに行くことが無駄足なワケないだろう?」
「っとに…レオヴァさんはおれを
フッと笑うレオヴァにつられるようにフーズ・フーも笑う。
2人はそのままレオヴァの部屋へと歩き始めた。
そして他愛ない話をしている間に気付けば部屋の前へ着いていた。
扉を開けて中に入るレオヴァに続くようにフーズ・フーも足を踏み入れ、驚いたように仮面の下の目を見開いた。
レオヴァの部屋には普段はない机が設置され、その上にはカニのパエリアやサルスエラなどの料理が綺麗に並べられている。
予想外の事に一瞬フーズ・フーが固まっていると、部屋の奥へ向かって行ったレオヴァが踵を返し戻ってきた。
「誕生日おめでとう、フーズ・フー。
これは、おれからのプレゼントだ。
気に入ってくれたら嬉しいんだが……」
そう言って丁寧に包装された袋を手渡される。
フーズ・フーはそれを開け中に入っている皮手袋を手にとって暫くじっと見つめていたと思うと、大きく息を吐くと同時に頭を抱えるような仕草をし呟いた。
「……そういや、今日は誕生日だったな…」
フーズ・フーは小さな呟きを溢すと仮面の下の目を少し泳がせたが、レオヴァに向き直る。
「あー…なんだ、あれだ……その…」
口ごもっていたフーズ・フーだったが、腹が決まったのか仮面の下から真っ直ぐレオヴァの目を見ると口を開いた。
「レオヴァさん、ありがとな。
気に入った……最高に良い手袋だ。」
「良かった。
フーズ・フーが気に入ってくれたなら、これ以上に嬉しいことはない!」
安堵したように笑うレオヴァをフーズ・フーはむず痒いような気持ちで見ていた。
「っ…こういう事なら言ってくれりゃあ……
去年といい不意打ちは困るぜ、レオヴァさん。」
「ふふふ、今年も成功してなによりだ!
それに先に祝うと言うと嫌がって来ないじゃねぇか。」
「それは…確かに否定できねぇが…」
言葉を濁すフーズ・フーをレオヴァが席へと促す。
「まぁ、不意打ちの件はおれの手料理に免じて水に流してくれ。
それよりプレゼントも渡し終えたんだ、さっそく誕生日会を始めよう!」
「いや、だから!
その“誕生日会”って言い方を止めてくれって、おれは毎年言ってるんだが!?」
ガキじゃねぇんだぞ!と叫んだフーズ・フーを気にせず、流れるように椅子に座らせレオヴァも席に着く。
相変わらずこういう所は強引でマイペースな人だ、とフーズ・フーは諦めてジョッキに手を伸ばした。
目の前ではレオヴァが楽しげにフーズ・フーに向かってジョッキを掲げている。
「じゃあ、改めて。
フーズ・フー誕生日おめでとう。」
「…あぁ。」
ジョッキがぶつかり小気味の良い音を立てた。
2人だけの、宴というには静か過ぎる穏やかな時間が始まる。
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次の遠征の為に船への荷積みを指示するフーズ・フーの両脇には大きな木箱いっぱいに包装された綺麗な箱たちが入っている。
部下に弾薬の追加を命じていると、近付いてきた人物が両脇にある木箱のひとつに高級そうな包みの袋を入れた。
フーズ・フーはまたかと言うような顔で振り返る。
「はははは!よぉ、フーズ・フー!
お前プレゼント用の木箱パンパンじゃねぇか!」
「……まぁな、いちいち運ぶのも面倒なんだ。
追加で荷物増やしてんじゃねぇよ、ササキ。」
嫌そうな顔で言うフーズ・フーをササキは笑う。
「テメェならそう言うと思ったぜ!
こりゃあ、おれからの
ありがたく受け取っとけ、レオヴァさん監修の酒屋の逸品だ。」
「……あの酒屋か!
まぁ、酒なら受け取ってやるよ。」
酒と聞いて少し声のトーンが上がったフーズ・フーにササキは満足げに笑う。
「来年、おれの誕生日も良い酒の奢り期待してるぜ!
じゃあな、遠征でヘマすんなよ~!」
「ヘマなんざするわけねぇだろ。
……って、おい!ササキ!
テメェなんでまた酒を奢ってもらえる前提なんだ!!」
口をへの字に曲げるフーズ・フーの言葉に笑い声だけ返しながら、ササキは自分の船の方へと歩き去って行った。
フーズ・フーは小さく舌打ちをしたが、その雰囲気から怒りは感じられない。
懐からタバコを取り出し、ジッポーライターで火をつけて咥えると自分の船へと足を進めた。
「おい、テメェらそろそろ出港するぞ!!」
「「「「はい、フーズ・フー様…!」」」」
部下達の返事を聞きながら、フーズ・フーは黒い皮手袋に手を通した。
「……ほんと、良い手袋だぜ。」
そうひとり溢すフーズ・フーの口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。
ー後書き&補足ー
今日はフーズ・フーの誕生日だと聞きつけ、急遽追加!おめでとう!
レオヴァ:毎年誕生日会をやると言うとフーズ・フーがゴネるので近年は手法を変えて不意打ちしている。
去年はジッポーライターをプレゼントしたので、今年は皮手袋。
カイドウ:ちゃっかり休暇日のフーズ・フーを呼び出してお気に入りの酒をプレゼントしていた。
誕生日おめでとうとか言葉は言わないが、態度で示してくれる。
フーズ・フー:毎年レオヴァに丸め込まれ“誕生日会”を開かれているが、満更でもない。
今年は誕生日当日が休暇日だったので、次の日に部下達から大量にプレゼントを押し付けられた。(木箱2箱分)
カイドウから貰った酒は一気に全て飲まずに、ちょこちょこ分けて飲んでいる。
ササキ:2月の誕生日に酒を奢られたので、そのお返しに良い酒をプレゼント。
どっちから始めたのかは覚えていないが、なんやかんや毎年酒を奢り奢られの関係。
ササキはフーズ・フーを互いに昇進を目指すライバルだが、同時に同志だと思っている。