────鬼ヶ島にある会議室にて。
高い天井を明かりが照らしている。
いつも綺麗に整えられている会議室には百獣海賊団を支える柱と言ってなんら過言ではない者達が集まっていた。
その円の中心にはレオヴァが腰掛けており、両端ではキングとクイーンが各々書類を手に
レオヴァの右手側に位置するキングの隣にはジャック、ロー、ドレーク、ホーキンス、スレイマンの順で座っており。
レオヴァの左手側に位置するクイーンの隣にはフーズ・フー、ササキ、ページワン、うるティ、ブラックマリアの順で座っている。
総勢13名の百獣海賊団幹部が集まり緊張感が漂う中、その集まりの中心にいたレオヴァは報告書に目を通し終わると周りを見渡した。
「…今年も皆のおかげで滞りなく準備は完了した。
あとは明日……全力で宴を楽しみ大いに盛り上げてくれ…!!
これは父さんの誕生祭だ、必ず満足してもらえる出来にするぞ…!!!」
ドドンッと効果音が付きそうなほど力強く言い放ったレオヴァに、そこにいる全員がしっかりと頷く様はまさに圧巻である。
そして各々がカイドウの誕生祭に向けて磐石の体制を取っている事を理解したレオヴァは、この壮大な会議の幕を閉じたのだった。
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レオヴァはカイドウの誕生祭に向けて半年も前から準備を続けていた。
それはカイドウに渡すプレゼントの準備や、その日に確実に幹部が集まれるような遠征のスケジュール調整であったり、はたまたワノ国全体で
それだけでなく準備期間中も普段の国の運営や海賊業、貿易の仕事も同時に
寧ろ、その日が待ち遠しいと言わんばかりに笑う姿は多くの百獣海賊団の船員やワノ国の人々をほっこりさせるほどであった。
そして、遂に明日に控えた誕生祭を前にレオヴァは幹部達を召集し、最終確認を終えたのだ。
だが、これで終わりではない。
レオヴァにはワノ国全体で開かれる祭り…“
鬼ヶ島島から飛び立ったレオヴァは
狂死郎、ヒョウ五郎、カヅチを中心に全ての町や村の代表が鳳皇城の客間にてレオヴァの到着を待っていた。
「いやはや…鬼ヶ島でのお勤めの後すぐに此方にいらっしゃると仰るとは……相変わらずレオヴァ様の働きぶりには頭が上がりませんなぁ!」
白舞の町の代表がそう声を上げると、他の代表達も次々に口を開いていく。
「まったく、その通り…!
昨晩もレオヴァ様はわざわざ変わりはないかと兎丼の採掘所にいらっしゃって、更には採掘所で働く者達へ差し入れまでくださったんだ。」
「なに…!?
昨晩は鈴後の村にも来て下さっていたぞ!?
レオヴァ様はしっかり休みを取っておられるのか…?」
鈴後の代表の言葉に周りの男達の表情が心配げに歪む。
「レオヴァ様は働き詰めじゃあねェか……心配でしょうがねェ…」
「本当にそうだ…
レオヴァ様はまだまだお若いが、お体を大切にしていただきたい。」
「お休みになられるように言ってはいるんですが…
如何せん、レオヴァ様にワノ国の為なら身を粉にするのも厭わない!とあの真っ直ぐな瞳で訴えられると……」
「確かに……あの目には敵わん…」
「そうだなぁ…レオヴァ様のお言葉に
「分かるぞ…!!
レオヴァ様にそう言われては打つ手がない!」
「「「「……たまには休んで頂きたいだけなんだがなァ…」」」」
声を揃えて肩を落とすワノ国の町や村の代表達を見るとヒョウ五郎は大口を開けて笑った。
「はっはっはっ!それがレオ坊なんだ…!
何年経ってもいつでも民に寄り添い、真摯に国を思ってくれる!!」
誇らしげな顔で言うヒョウ五郎にカヅチが興奮気味に頷いた時だった。
「……レオヴァ様がご到着致しました…!!」
城にて仕える侍の声と共にサッと襖が開かれ、いつものように堂々たる佇まいのレオヴァが客間へと足を踏み入れた。
「すまない、皆。
呼び出しておきながら待たせてしまったな…」
入ってくるなり時間通りに到着したにも関わらず、眉を下げながら申し訳なさそうに言うレオヴァに侍達は笑顔で顔を横に振った。
そして、皆の言葉を代表するようにヒョウ五郎が口を開く。
「気にしねェでくれ、レオ坊…!
おれ達が勝手に早く集まってるってだけなんだからよ!」
「ありがとう。
いつも皆は先に集まっていてくれるから本当に助かる。」
にこりと穏やかに微笑むとレオヴァは部屋の一番奥の座椅子へと進み、上品な所作で腰掛けた。
そして侍達は皆がレオヴァの方へ顔を向けると一斉に頭を下げ、家臣の礼を取る。
レオヴァの隣に
「ワノ国にて鳳凰様より領地を任されし者
そして鳳凰様より治安維持を任されし者、計八名…!
御身の前に!」
口上と共に深々とカヅチが頭を下げるのを見計らうとレオヴァもいつもの台詞を口にする。
「……皆、
凛とした声に一斉に侍達が姿勢を正す。
するとレオヴァの顔にいつもの微笑みが浮かび、先ほどの厳格な声色から親しみのあるものに変わった。
「では、形式的な堅苦しいやり取りはこれで終わりとしよう。
まずは皆。
忙しい中時間を作り集まってくれたこと、感謝する……ありがとう。」
礼を述べながら軽く頭を下げるレオヴァに村や町の代表者である侍達は恐れ多いとばかりに口を開く。
「「「「そんな…!レオヴァ様がお呼びとあれば、集うのは当然にございまする!!」」」」
「そうだせ、レオ坊!」
「レオヴァ殿の為ならば何処へでも…」
ヒョウ五郎達の言葉にレオヴァはまたありがとうと笑い、カヅチに目線で指示を出す。
レオヴァの
そうして全員に書類が手渡された事を確認するとレオヴァがカヅチに笑顔を向ける。
「ありがとう、カヅチ。」
「いえ…!」
レオヴァの言葉と表情に歓喜に包まれるカヅチをヒョウ五郎はまたかと笑いつつ、レオヴァへ話を振った。
「で、レオ坊…この書類はなんなんだ?」
「明日の
既に準備は終わり段取りも十分だとは思うが、一応最終確認をしておこうと思ってな。
それから、万が一何か起きた場合の対処法なども
明日はぜひ、全ての民に祭りを楽しんでもらいたい…!
その為に万全を期す……皆、付き合ってくれるか?」
「「「「「勿論にございます…!」」」」」
「おぉ…流石はレオヴァ殿!抜かりない!」
「もちろんだぜ、レオ坊!
今年も最高の祭りにしてェからな…!!
何てったって明王様の日だ!!」
ヒョウ五郎の言葉に何度も頷く侍達にレオヴァは嬉しげな表情になると、言葉を紡ぐ。
「皆、いつもおれに付いてきてくれてありがとう。
では、さっそく説明を始めたいと思う…!
まずは3ページ目を開いてくれ」
こうしてレオヴァは明日にひかえた明王祭の最終確認も始めるのであった。
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カイドウにとって誕生日とは良いものでも悪いものでもなかった。
何せ、一年が経てば勝手に歳はとっていく。
わざわざ365日のうち、“決まった1日”を意識する理由などなかった。
もっと言うのであれば良いも悪いもそもそも誕生日など、カイドウの頭の端にすらない程度の存在だった。
しかし、レオヴァという一人息子が出来てからその考え方に変化が起きる。
まず、最初の変化はクイーンの一言が切っ掛けであった。
『そうだ、カイドウさん!
来週ってレオヴァの誕生日じゃないスか?
そん時に誕生プレゼントってことにして今回の褒美を受け取らせりゃイイんじゃないスかね!?』
ここ最近、手柄を上げている息子が褒美を受け取らないと愚痴っていた夜の出来事だった。
そんなクイーンの提案をカイドウは受け入れた。
そして軽い気持ちでレオヴァの誕生祝いという名目を掲げ食事の場を設け、誕生日プレゼントとして褒美を与えたのだ。
カイドウからすればただ褒美を受け取らない息子に受け取らせる良い口実だ、程度の質素な食事の場であり別段普段の料理と変わらぬクオリティの夕御飯だったのだがレオヴァの反応は想像以上であった。
『ッ…!
と、父さんが……おれの為に開いてくれた…?
それに料理も好きなものばかりだ…!!』
そう言って珍しく興奮気味にカイドウを見上げたレオヴァは本当に嬉しげに、年相応の笑顔を浮かべ口を開いた。
『父さんがおれの為にメニューを考えてくれるなんて……最高のプレゼントだ!!
ありがとう、父さん…!』
『いや…レオヴァ、祝いの物は別にあるが……』
『…!?』
カイドウの言葉に大きな瞳がこぼれ落ちるのではないかと言うほど目を見開いたレオヴァにプレゼントを手渡す。
レオヴァはそれを受け取ると中身を見てまたカイドウの顔を見てと何度も目を行き来させていたが、少年らしさ溢れる満面の笑みを浮かべると両腕で大切そうにプレゼントを抱き抱えた。
『ありがとう父さん……一生の宝物だ!
おれ、父さんの息子に生まれて来て良かった…!!』
『…っ……ウオロロロロ…大袈裟な奴だ。』
このレオヴァを初めて祝った日以降、カイドウの中で確実に何かが変化した。
そして、カイドウはどうでも良かった筈の誕生日というイベントをレオヴァが喜ぶ日として頭の中に入れるようになったのだ。
だが、それだけではなかった。
レオヴァもカイドウの誕生日を祝うようになったのだ。
『父さんはこういうイベント事は好きじゃないのかと思ってたんだ…』
そう言って眉を下げながらレオヴァはカイドウのために酒や美味いツマミを調達し、遠慮がちに祝いたいと申し出て来た。
その申し出を断る理由もないと、カイドウが受け入れるとレオヴァは飛び上がりそうな勢いで喜ぶ。
『ずっと父さんの誕生日を祝いたかったんだ…!』
すると小さかったレオヴァは必死に手を伸ばし、カイドウの指を掴むと食事の場へと歩きだした。
そうして3時間ほどカイドウを祝い、就寝の時間になると名残惜しそうな顔をしたままキングに部屋へと連行されてゆく。
この祝われた日、カイドウは最高に気分がよかった。
山の様な黄金を手に入れた時よりも海軍の基地を潰してやった時よりも、小さいレオヴァが必死にもてなす姿の方が何倍もカイドウの気分を上げた。
自分の誕生日でもないのに、まるで自分の祝い事のように嬉しそうに周りを行ったり来たりするレオヴァの姿はカイドウには理解しがたいものだった。
しかし、嫌な気分にはならず。
それどころか、レオヴァのその姿はただただカイドウの機嫌を良くしたのだ。
結果、カイドウの中で“誕生日”というものは“良い”という認識に切り替わった。
生まれたという事が、何故祝いの日になるのか。
それをずっとカイドウは知らなかった。
知る必要もなかった。
だが、レオヴァが生まれ。
この赤ん坊は自分の息子なのだと認識し、そして見返りも何も求めずに必死に“父さん”と呼び後ろを追いかけてくる姿を見て……カイドウは少しずつ理解していった。
その理解の内容は一般常識からは外れているかもしれない。
けれども確かに“生まれたことが祝いになる”という意味を自分なりに理解したのだ。
懐かしい記憶を夢で見ていたカイドウは閉じていた瞼を上げた。
いまだボヤける視界には見慣れた天井が映っている。
のそりと起き上がり軽く首を回すと、襖の反対側から控え目に声がかかった。
「……父さん、入っても良いだろうか?」
聞き馴染んだ息子の声にカイドウの口は自然に弧を描く。
「あぁ、構わねェ…入れ!」
カイドウの言葉が終わるとそっと襖が開き、レオヴァが嬉しそうに部屋の中へと入ってくる。
「おはよう、父さん。
それから……誕生日おめでとう。」
普段の笑みよりも少し幼く見える微笑みを浮かべるレオヴァにカイドウも笑みを返した。
「ウォロロロ……それを一番に言う為にわざわざ来たのか?」
「勿論だ。
これだけはキングにもクイーンにも譲れねェ!」
「っとに、お前は昔っから変わらねェなァ…」
カイドウは気付かれぬ様に嬉しげに目を細めると立ち上がった。
「よし、レオヴァ。
今日はおれの誕生日……1日付き合ってもらうぞ!!」
「あぁ…!
今年も父さんの満足いく1日にしてみせる!任せてくれ!!
まずはこの着物を…」
そう言ってカイドウに着物を手渡しレオヴァは張り切っている。
「今年は随分と派手な柄じゃねェか。」
「うるティの発案なんだ。
確かにいつもよりは少し派手な柄だが、父さんならなんでも似合う。」
当たり前だというように言いきったレオヴァにカイドウは笑いながら着物へと着替えるのだった。
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朝、自室まで出向いて来たレオヴァと共に準備されていた催しを周り終わる頃にはすっかり日がくれていた。
「父さん、夜はいつも通り宴をと思っているんだが…」
「いいじゃねェか…!!
レオヴァの造った酒はあるんだろうなァ?」
「勿論だ…!
一番いい出来のものを大量に用意してある。」
「ウオロロロロ!楽しみだ…!!!」
2人が談笑しているとすぐに宴会場へと辿り着く。
カイドウとレオヴァの姿を視界に捉えた部下の手によって大きな襖が開かれると、中には予め待っていたと思われる幹部達が勢揃いしていた。
そして、2人が現れたことに気付くとそれぞれが嬉しそうに声を上げ始める。
「ムハハハハ~!待ってたぜカイドウさん!レオヴァ!!」
「お…!カイドウさん!!
今日はめでたい日だな!」
「キャー!!カイドウ様~!おめでとうナリ~!!
あ、そう言えばカイドウ様って何歳になったナリか?」
「ちょ、姉貴…!ホントにやめろ!!
あ~…カイドウ様、おめでとうございます!」
「カイドウ様が誕生された日ッ…!
まさにこの日こそ世界一祝うべき日だ!!
カイドウ様、レオヴァ様、席はこちらです!」
「…ふむ、今日のカイドウさんの運気の上昇は凄まじいな……」
「いや、占っている場合かホーキンス!まったく…
カイドウさん!おめでとうございます!!」
「カイドウさん、おれからは酒だ。
レオヴァさんの造ったモンには負けるが……」
「うふふふ…カイドウさま、お酌させてくださいまし♡」
「てめェら、いつまで騒いでやがる!
カイドウさんとレオヴァさんを立たせたままにする気か…!!」
「ジャックの言う通りだな……“ROOM”シャンブルズ」
カイドウとレオヴァに駆け寄っていたうるティやササキ達をローが強制的にそれぞれの席へと飛ばす。
「いい働きだ、ロー」
「お前の為じゃねェよ…キング!」
睨んでくるローを無視してカイドウとレオヴァの前に行くとキングは広間の真ん中の席へと2人を誘導する。
そして、キングが指を鳴らすと設置されていた導火線に火が付き、祝いの紙吹雪が降り注いだ。
「ムハハハハ~!!よぉ~し!
主役も登場したことだしィ?始めるか!!
んじゃ、カイドウさん一言頼むぜ!!」
クイーンに言われたカイドウは笑みを絶やさぬまま口を開いた。
「今日は無礼講…!好きなだけ食って飲みやがれェ!!!」
「「「うおおおおぉ~!!!」」」
ササキ達だけでなく広間の下の階にいた部下達の歓声が響き渡った。
どんちゃん騒ぎが始まった鬼ヶ島でカイドウは楽しげに笑う。
そしてブラックマリアが注いだ酒を煽ると、横に来たキングを見やった。
キングはマスク越しに目を細めると、座っているカイドウに合わせるように身を少し屈めて耳打ちをした。
「……おめでとう、カイドウさん。
これからもアンタだけに付いていく。」
宴の騒ぎに書き消されそうなほど小さい声でそれだけ言うとキングは何事もなかったかのように、元の姿勢に戻った。
「ウオロロロ…!
キング、世界が変わるところを……いや、変えるところを見せてやる。
この世界を変えられるのはおれとレオヴァだけだからなァ!!」
自信に満ち溢れた顔で言うカイドウを見て、眩しそうにキングは目を細めた。
「……あぁ、変えられるのはカイドウさんとレオヴァ坊っちゃんだけだ。」
キングとは思えぬほど感情の込められた声は楽しげに騒ぐ声達にかき消された。
ー後書きー
カイドウさんおめでとう!
それだけの為に書いた話です!!