おれの生まれた場所はよくある貧しい島だった。
と言っても、治安はそれほど悪くはなかった様に思う。
……他の島を見てきた今だからこそ、そう言えるんだが。
兎に角、ある時期まではおれの故郷と呼べる島は良くも悪くも“あるある”な島だった。
そんな誇れる場所がない島に生まれたが、おれは何よりも誇れる存在に出会った。
「キラー…!
これ見ろよ!!」
そう言って変わったブリキを掲げるゴーグルを付けた少年の名はユースタス・キッド。
おれの人生においての“誇り”だ。
おれより年下で少し危なっかしい奴だが、キッドといる時間は本当に楽しい。
だが、そんなキッドとの毎日は事件も多かった。
キッドは自分が納得出来ないとチンピラ相手だろうと、海軍相手だろうと立ち向かって行く。
幾度となく痛め付けられても、キッドはへこたれなかった。
ただ、悔しそうに唇を噛んで
『次はおれ。負けねぇ!!』
と強い瞳で言うのだ。
けれど、そんな。
どこまでも真っ直ぐなキッドがおれは好きだ。
おれには無い強さを持ってると、子どもながらに感じていた。
キッドは大人相手だろうと、決して怯まない。
無鉄砲と言えばそうなんだろうが、おれには眩しく見えたんだ。
そういう鋭いナイフみたいなキッドから、相棒と呼ばれ。
認められたのは嬉しかった。
おれもキッドだけを信頼していたし、キッドもそうだったと思う。
……あの時までは。
あの運命の日。
横暴な海軍がおれ達の住む島に上陸した。
だが、それはあまり珍しいことではない。
海軍が横暴なんて良くあることだったし、奴らは良くこの島に来てた。
じゃあ何が違ったのか。
それはキッドが海軍の少佐に噛み付いてしまった事と。
その日は機嫌が悪かったのか、いつもなら半殺しで捨て置かれると言うのに、その少佐はキッドを撃ち殺そうとして来た事だ。
おれは焦った。
キッドはこんな所で終わる男じゃないんだ。
おれは、キッドと海へ……
必死に踠いたが、海兵の力にまだガキだったおれは敵わなかった。
「キッド…!!」
おれの叫び声も虚しく、銃口はキッドの頭に向けられる。
そして、おれの耳を乾いた発砲音が貫いた。
その時、この場にいた誰もが言葉を失っていた。
キッドを3m以上ある男が抱えていたのだ。
しかも、放たれた銃弾を素手で受け止めながら。
ただ、呆然とおれはそれを見ていた。
その男はおれを押さえ付けていた海兵を軽々と蹴り飛ばし、キッドを隣に座らせると海軍に向き直ったんだ。
あっという間だった。
まるで紙で出来たオモチャの兵隊を吹き飛ばすみたいに、男は一瞬で海軍を蹴散らした。
「なんだよ、これ……スゲェ…!!」
歓喜したような声におれが隣を見ると、キッドはロボットを作る時よりもキラキラした目で男を見ていた。
……あぁ、きっと。
この時からキッドは……そして、おれも……
助けられた日から数日後。
あの男はおれの故郷の島をナワバリにすると宣言した。
島の住民に嫌な顔をする者が殆ど居なかったのは、男の物腰が柔らかく、島の為に何日も働き続けてくれたからだろう。
そして、男が宣言する言葉を聞いた時。
おれとキッドは彼の名前を知った。
「おれの名はレオヴァ。
これからここが百獣海賊団のナワバリである限り、おれ達が守ると約束しよう!」
「「「「「うおお~~~~!!」」」」」
彼、レオヴァさんの宣言に島の人間は大歓声で答えていた。
そんな様子を、おれ達は少し離れた所から見ていたんだが。
この後キッドが取る行動を、おれは予想出来なかったんだ。
────────────────────────────────────────────────────────────────────────
レオヴァさんは、あの宣言をしてから暫くは滞在していたが、あっという間にワノ国とやらに帰ってしまった。
だが、防衛基地を立てる為になど色んな理由で度々訪れるようになったんだ。
そして、レオヴァさんが来る度にキッドによって恒例の“あれ”が始まる。
「なぁ、レオヴァ!!今回こそは船に乗せろよ!」
「ん?キッドじゃねェか。また遊びに来たのか?
にしても、まずは“こんにちは”だろう?」
「遊びに来てんじゃねェ!交渉しにきてんだ、おれは!
世界を見たいんだよ。んで馬鹿な奴らを王じゃなくすんだ!」
「ふふふ、相変わらず口は達者だなァ?」
「口だけじゃねェよ!!」
そんな何回見たか分からないやり取りを、おれはいつも側で見ていた。
レオヴァさんはおれ達をガキ扱いしてくるが、不思議と嫌じゃない。
この人は今まであったどんな大人とも違う。
そう、おれは感じていた。
おそらく、キッドもそうだったんだろう。
だから、何度断られても諦めないんだ。
「なんで駄目なんだよ!!
おれ、レオヴァの部下にも“組手”で勝ったぜ?」
「確かにそりゃ凄いことだ。
……だが、強いだけじゃ身内には出来ねェんだよキッド。
おれァ、お前とキラーの事は好きだ。
だがな部下達のことも大切なんだ。」
「それと、おれが船に乗れないことに何が関係あるんだよ!」
「キッド、お前。
昨日組手で5回も勝ったからと、おれの部下を下に見ただろ?
ウチは身内同士は尊重し合うのが決まりなんだ。」
「……船に乗ったら、気を付ける!」
「乗ったら。じゃねェんだ、キッド。
相手を尊重できねェ様じゃ乗せられねェっておれは言ってるんだ、分かるか?」
「ぐぐ………くそ!」
悔しげな顔をして走り出してしまったキッドに助け舟を出すべく、おれは口を開いた。
「レオヴァさん、キッドはちゃんと尊重できる奴だ。
ただ、少し不器用だから……分かりにくいだけなんだ。」
二人だけになった船の下でレオヴァさんは優しく笑うと、木箱の上に座っていたおれの頭の上にポンっと手を置いた。
「分かってるさ、キラー。
キッドが思いやりを持てる男だってことはな。」
「じゃあ、なんで……」
「それはな、キッドが思いやりを持てるのは“自分が認めた相手”だけだからだ。
おれは別に全員と仲良くしろなんて言いてェ訳じゃねェ。
ただ最低限相手の事を考えて行動し、発言して欲しいんだ。」
「……確かに、少しキッドには難しいかもしれない」
肩を落としたおれの前に屈むと、レオヴァさんは髪に隠れているおれの目を見て言葉を続ける。
「だが、キラーがいればキッドは変われると思うんだ。
お前達は二人で一人ってくらいに、お互いに支えあってる。
……おれと父さんみたいに…」
「…とうさん?」
「いや、最後のは忘れてくれ。
兎に角、飛び出して行ったキッドを追いかけてやれ。
またいつもの場所でいじけてるだろうからなァ…」
やれやれと言った風にレオヴァさんは眉を下げた。
おれは言われた通り、キッドを追いかける為に木箱から飛び降りて、レオヴァさんに挨拶をする。
「じゃあ、レオヴァさん。また。」
「あぁ、キラー…またな。
キッドにも、そうやって挨拶出来るように教えてやってくれ。」
「ファッファッファ!
それは無理だ、レオヴァさん。」
思わず普段は隠している笑い声が出たが、レオヴァさんに聞かれたのは初めてじゃない。
だから、気にせずに手を振っておれはキッドの下へ走り出した。
そうやって数ヶ月、長いと半年に一回顔を出しに来るレオヴァさんに。
おれとキッドはどんどん惹かれていった。
この人と外を見たい。
レオヴァさんの話していた大冒険を、一緒に感じたい。
そう思いながらも、船に乗れずに何年も経っていた。
だが、ついにその日は訪れたんだ。
おれとキッドが、ずっと望んでいた瞬間が。
「ッ……キッド、やるじゃねェか!!
父さんも驚くだろうなァ!」
本当に嬉しげに笑うレオヴァさんに、キッドは肩で息をしながらも得意気に笑って見せた。
「ハァッ……まぁな!
今日こそ、ハァッ…乗せろよレオヴァ!」
「あぁ、いいぞ。
だが、前も言ったが見習いからだからな?」
「…本当か!?
嘘じゃねェだろうなァ!!?」
「まったく……キッド、そのすぐに凄む癖は治せと言ったよなァ?
嘘なんかつくわけねェだろ。」
いつものように、やれやれと首を振るレオヴァさんの前でキッドは組手終わりのボロボロの姿のまま本気で喜んでいた。
「キラーも見習いからだ。構わねェな?」
「ファッファッファ!
見習いでもなんでも良い!キッドと一緒にアンタと海へ出れるなら!!」
おれもボロボロな格好で地面に大の字になったまま、返事を返した。
本当に、本当に嬉しかったんだ。
何年も待ちわびた瞬間だったから。
こうして、おれとキッドは百獣海賊に“見習い”として入団したんだ。
ー補足ー
キラー:初めて笑い声を聞かれた時に
『おれの父さんは“ウオロロロ”って笑うぞ?
キラーの笑い方は別に珍しくもないんじゃねェか?』
と不思議そうな顔をされてから、キッドとレオヴァの三人の時は普通に笑っていた。
キッド:この時はレオヴァの強さに憧れていた。
レオヴァ:キッドが相手なので、口調は取り繕うのをやめている。
その結果、普段よりも口が悪い。
レオヴァはキッドとキラーとの付き合いは長いが、百獣海賊団に入っていた年月は短い。
そのため、関わりのあるメンバーとそうでないメンバーがいる。