ディバルがエヴァンジェリンと出会い、五百年近くほどたった頃。現在ディバルたちは世界を巡り歩いている。
事の起こりは一ヶ月ほど前である。最近賞金稼ぎや、正義を掲げる魔法使いたちがレーベンスシュルト城へやってくることが多くなっていた。どうやらこの拠点の位置を完全に把握されたらしく毎日のように招かれざる客人がやってきてしまったのだ。これに対してディバルは、そろそろ本格的な旅でもするべきかと考え、ディバルがひそかに購入した、ダイオラマ球にレーベンスシュルト城を内蔵し旅立つことにした。正直、世界一周旅行みたいな感じもしないこともない。そして一行は今1900年頃の日本へとやってきていた。
明治年代、異国の文化を多く取り入れ、日本という国が江戸時代の風景から大分さま変わりしてきた時代。一行はある人物と会うため人里はなれた山の奥へと進んでいた。
「・・・むう、本当に侍という者がいないのか?」
「いないはずだ。いたとしてもかなりの危険思考な奴だろうから近づくな」
ディバル様々なところから多くの書物を集めたりしていた。異国の書物なども多く、エヴァンジェリンはその中でも日本、それも侍などに大変興味を示していた。しかし、開国し時代が変わり、侍や独特な建物を見て回りたいと思っていたエヴァンジェリンには不満らしい。
「・・・京都にも行かず、こんな山奥なんかに・・・」
「まあいいじゃねえか。この国に入ってから追っ手が来なくなったんだしよ」
「・・・わかってはいるんだが・・・・」
ふてくされるエヴァンジェリンにランサーがそう言って落ち着かせる。事実ランサーが言ったとおり日本にきてからあれほど追い掛け回していた賞金稼ぎなどが現れなくなったのだ。これはこの時代の関西呪術協会の影響力であり、西洋魔術師などが日本に入国しづらいためである。たとえ入国できたとしても、一度問題を起こせば呪術協会が黙っていない。戦闘行為をするなどもってのほかである。罰則やら罰金やらで問題を起こした人物を徹底的に取り締まるだろう。逆に言えば、表の人間に被害を出すなどの問題を起こさなければ、裏の世界で賞金がかかっていても手を出しはしない。そのため一行は安全に日本を歩き回っているのだ。
「しかし親父、この日本に知り合いがいたのか?」
エヴァンジェリンの疑問ももっともだ。一時期ディバルが別行動をとっていたとはいえ、ほとんど自分たちと暮していたのにいつそんな知り合いが出来たのだろうか。
「そうだな、別にもうすぐ会うんだし話してもいいか。・・・・俺がランサーと行動していた時期があっただろう?」
「む、やはりあの時期か。」
「実はランサーを召喚して一年ほどしたときにまた別のやつも召喚していたんだ」
「・・・おい、またか」
「まあまあエヴァ様、一度話を聞いてください」
「落ち着いてくれエヴァ。一応理由があるんだから」
怒りそうになったエヴァンジェリンをフェレスが何とかいさめ、ディバルも理由があるというため話を聞くことにした。
「そいつは風情を愛する奴でな、一人旅でゆっくりしたいというかなりマイペースな奴で・・・」
「あ?ただの言い訳ではないか」
エヴァンジェリンの視線が鋭くなり呪文を唱え始めた。
「待って!お願い許して!そいつがどうしてもっ「アイスタイム」ぬおぉぉぉぉ!!?」
「ディバル様!?」
「離れとけって。学習しないあいつが悪い」
ディバルの昔話から聞いたものの技を再現した術でエヴァンジェリンはディバルを凍らせた。フェレスは助けようと飛び出そうとするが、あっさりと見捨てたランサーがそれを抑えた。
そんなこんで、何とか許してもらったディバルたちは再び歩き出す。そうして一時間ほど歩いていき、彼らの目の前には、古ぼけた廃寺があった。といってもそこまで荒れている感じはなく、人が住んでいても不思議ではないほどのものであるが。
「・・・ここに誰かいるのか?」
「ああ、さっきまで話していた奴だよ。あいつは雨などをしのげられる、屋根があればたいていの場所で住めるらしいからな。・・・もともと余裕のある人間ではなかったと言っていたからな」
エヴァンジェリンの問いにディバルは答える。
「しっかし久しぶりだな、あいつと会うのも。・・・二百年ぶりか?」
ランサーが少し懐かしそうにそう語る。少々年月の単位がおかしいのに久しぶりとか言ってるが・・・まあ、人外にとっては百年単位もそこまでなのだろうが。
「ふむ、久方ぶりに人の気配がすると思えば、随分と懐かしい顔ぶれよな」
ふと廃寺の門の上から声がした。エヴァンジェリンは自分たちが門の近くにいるのにここまで近づかれて、声をはっするまで気づかなかった事実に驚く。どれほどの使い手かと見上げる。そしてそこにいたのは・・・
背は180はいかないがそこそこあり、髪をひとまとめにして顔は男なのに美しくある。ここまでなら何も可笑しくはないだろう。だが彼の服装は、群青色の着物と袴、そして並みの日本刀とは比べ物にならぬほど長い刀をしょっている。その姿はまさに侍というべき姿だった
「久しぶりだな小次郎」
「うむ、久しぶりであるな主殿」
ディバルが侍・・・小次郎に向かって片手を挙げ話しかける。小次郎もディバルに軽く笑みを浮かべ返事を返し、屋根から下りる。
「おいおい、その主殿って呼び方はできればやめてほしいといってるんだがな・・・」
「だが、私は主殿の眷族であるし、この呼び方が正しかろうに」
ディバルの抗議に対し、小次郎はそう笑いながら返す。少しからかっているようだ。
「ランサーみたいに名前で良いといってるだろうが・・・」
「ふむ、では次から気をつけるとしようか」
これ以上からかっても面白い反応がないと判断したのか小次郎はあっさりと折れる。
「ランサーにフェレス殿も久しぶりだな」
「おう・・・しかし相変わらずマイペースな奴だな」
「お久しぶりです、小次郎様」
ランサーは少し苦笑し、フェレスはいつもの笑みで返事をした。そして小次郎はエヴァンジェリンへと視線を移す。
「ふむ、そなたがエヴァンジェリンか。・・・お初にお目にかかる。私は佐々木小次郎と申すものだ。昔、ディバルにそなたの事を聞いたことがあったが、いやはやまるで人形のような愛らしい少女だな」
「あ、ああ。・・・エヴァンジェリンだ。よ、よろしく頼む」
小次郎はエヴァンジェリンに笑いかけながら自己紹介をする。エヴァンジェリンも返事をするが何か驚いているようだ。
「あ~やっぱ混乱しているみたいだな」
「・・・いや、そりゃ混乱もするだろ。・・・俺の真名を聞いたときよりはましみたいだが」
ディバルの言葉にランサーがかえす。エヴァンジェリンが日本の書物を多く読んでいるのだから、当然小次郎のことも知っており、それと同じ名前と、一度みてみたかった侍を見れて混乱したらしい。・・・まあ、本人が言ったとうり、ランサーの真名を聞いたときはこの比でないほど驚いてはいたが。
「お、親父・・・これは・・・」
「一応は本人ではあるぞエヴァ」
エヴァンジェリンはディバルに何かを問いかけようとするが、何を聞きたいかさっしたディバルはそう、あっけからんと答えた。
「ほ、本物だと・・・!」
「まあ、実際には色々と複雑ではあるのだがな」
小次郎は自身のことであるのに、まるで他人事のようにあっさりと言いのけた。
「本物とは・・・あれ?ちょっとまて。親父が小次郎を呼び出したといっていたのは確かランサーと同じぐらいの時期だったよな?確かそのときまだ佐々木小次郎という存在は・・・」
エヴァンジェリンは何かに気づいたのか深く考え込んでいる。そして・・・
「まて!確か資料によれば佐々木小次郎がまだ生きて活躍していた時代ではなかったか!?つまり親父は日本の小次郎を召喚したのか!?」
そう驚きディバルに叫ぶかのように問いかける。
「詳しく話すと長くなるし、面倒なんだがな・・・」
「いいから話せ親父!」
エヴァンジェリンがそう叫び、ディバルの胸倉をつかむ。
「・・・まあ、長話するのであれば、いったん寺の中でするほうがよいだろう」
小次郎が騒がしい二人を見、少々ため息を吐き中へと案内する。長くなりそうなのでエヴァンジェリンもその案を聞き入れた。
「・・・・・つまり、小次郎はこことは違うよく似た世界から来た。・・・というのか?」
「まあ、そうだよ」
廃寺の中で小次郎について少し話したディバル。ここにいる佐々木小次郎とこの世界で語られている佐々木小次郎は全くの別存在であるとなんとか説明した。
「しかし、頭がこんがらがってくるな。平行世界やらなんやらと・・・」
「気持ちは分からんでもないがな。俺でも混乱することもあるし」
エヴァンジェリンの意見にディバルは苦笑しながら同意する。
・・・・・そして、これを書いている作者もちょ~っと混乱しました。 by火野陽仁
「・・・・・なんか、腹立たしい感じがしたな」
「エヴァもか?俺もなんだかイラっとしたな」
「お前等もか?なんか俺もそんな気配が、なぁ」
エヴァンジェリンの言葉にディバルとランサーが同意する。・・・モノローグにそこまで反応しないでいただきたい。
「まあ、何にせよ、今日はここへ泊まるといい。このような廃寺ゆえにあまりたいしたもてなしは出来んがゆっくりしていくといい」
小次郎が笑いながら、フェレスと共に山菜で作った炒め物をもってきた。それを夕飯とし、ディバルが用意した酒などが出され軽い宴会となった。