「・・・・・・なんという失態だ」
ある宿屋の一室、厳格な中年の男が苦言する。
衛兵達の隊長だ。まだ若い衛兵達を育て上げ、魔女審判を行うために行く司教の護衛や警備などの万全を期してこの町に到着し、裁判がおこなわれるまではよかったが・・・・・・
「偽の情報におどらされ、逃がしてしまうとは・・・」
あの混乱をなんとか鎮めた後、報告した衛兵を探した。事の真偽を確かめるためにだ。
じつは、異形の怪物など存在していなかったのだ。
一部の衛兵が民衆の避難がな終わるまで、時間稼ぎをしようと町中を走り回ったのだが、怪物の影も形も無かったのだ。
裁判がおこなわれると町の住人が刑の執行をみるために集まってきたため、一部の者に町中を見回るように命令を出していた。報告にきた者は、見回りのうちの一人と思われたが、巡回していた衛兵達に聴いても知らぬという返事しか返ってこなかった。
周りは魔術を使ったディバルの登場に緊迫した雰囲気が漂っていた。その中での偽の報告、それが引き金となりあの混乱が生まれたのだ。
報告にきた衛兵はすぐに片膝をついて話していたため顔もしっかり確認できなかった。
「・・・・・・協力者がいたのか?しかし、部下の訓練をみてきたのに、自分の教え子かどうか判断つかなかったとは、情けないな……」
隊長はそう弱味をはく。今は、部屋で閉じこもっている司教と共に、教会から処分が下るであろう事を考えると弱音をはいても仕方がないだろう。
町からだいぶ離れた森。そこに、あの町から脱出してきたディバル、そしてエヴァンジェリンがいた。
「・・・一応、あの町からだいぶ離れた所に転移してきたんだが。怖くないか?」
ディバルはそうたずねる。今はまだ若いはずであろうエヴァンジェリンに気をつかいたずねたのだ。
「・・・・・・だ、大丈夫だ。心配しなくてもいい。ここまで、危なかったのは初めてだが、これまでも、色々とあったからな。・・・多少は慣れたよ」
「・・・・・・そう言うなら何もいわんよ」
気丈に振る舞っているが、恐怖の余韻かいまだ少し震えていたが、・・・ディバルの経験上、これ以上突っ込んだことを言うと話がこじれてしまうため、一度この話題をきった。
「・・・・・・質問がある、良いか?」
「・・・・・・質問内容にもよるが、別に良いよ」
「・・・・・・・・・何故、私を助けた?あと、どうやってあそこから脱出したのかも教えろ」
「・・・口調が少し変わったな。・・・落ち着いたか」
「いいから、答えられるのか?」
「ん。まず助けた理由だが・・・・・・・・・完全に自己満足だな。ほっといてもよかったんだが、後味が悪いしな」
「あ、後味が悪い?そ、そんな理由で・・・」
「んで、脱出方法だが、これを使ってまず注意を逸らしたんだ」
そう言うとディバルは、どこからか、人形を取り出しエヴァンジェリンに見せた。
「・・・・・・これは?」
「あの時、大声で報告にきたやつがいたろ?それがコイツだ」
「何?」
「そいつには特殊な術式が施してあってな。魔力をこめると思い浮かんだ人の形をとるんだ。・・・向かう途中、衛兵の姿もみたときに思いついたんだ。簡単な命令は聞いてくれるしな」
「・・・・・・随分と面倒なことをするな」
「そう言うなよ。出来るだけ被害を抑えた方法を考えた結果なんだ。多少の混乱は起きたが死傷者などがでるほどの被害がでたわけじゃないしな。・・・そして,最後に俺の能力を使って転移したのさ」
エヴァンジェリンは沈黙した。・・・・・・仕方がないことだろう。自分を勝手な理由で殺そうとした連中にそこまで考える必要があるのかと思ってしまうのは・・・・・・。
「ハハハ・・・、まあ悪目立ちすると、後々面倒なことになるからな。そういった理由もあるよ」
エヴァンジェリンの心情を察したのだろう、ディバルはそう付け加える。
「・・・・・・・・・最後に、もう一つだけいいか?」
「ん?」
「・・・・・・お前は、吸血鬼なのか?」
恐る恐るといった感じでそうたずねる。もしかしたら、自分と同じ存在・・・・・・仲間ではないかと思ったのかもしれない。
「・・・・・・いや、違うよ」
「・・・・・・・・・そうか」
落胆したかのような声。しかし・・・・・・
「・・・だが、人間でもない」
「・・・え?」
「俺は全く別の存在だよ」
「・・・別の・・・・・・存在?」
エヴァンジェリンの困惑の声。
「俺は魔神だよ。さきほど言ったとおりな。ついでにに言うと、みた目通りの年齢じゃないのは勿論だが、年は忘れちまった。・・・・・・千年は数えていたんだがな。・・・・・・あと、・・・・・・ただの不老長寿がいつの間にか不老不死になってやがったな」
エヴァンジェリンはまた沈黙したが、一気に色々な情報がでてきて、頭がついていけなかったためだろう。
「・・・・・・・・・」
「お〜い。大丈夫か〜?」
「・・・・・・・・・ふっ」
「おや?」
「ふざけてるのかぁぁぁっ!」
「おおう!?い、いきなり大声をださんでくれよ。耳がおかしなるかと思ったじゃねえか。」
「魔神!?千年以上!?そんな存在聞いたことないわぁぁぁ!!」
「まあまあ。落ち着けって、本題が終わった後に、話してあげるからさあ」
「・・・本題?」
すると、エヴァンジェリンはやっとおとなしくなった。
「そうそう。ぶっちゃけこれからどうするかだ」
エヴァンジェリンはそれを聞くと難しい顔をした。町から逃げつきたのだ。どうするか未だ決まっていない。
「そこで、俺からの提案だ」
「・・・提案?」
眉間にしわを寄せる。怪しんでいるのだろう。
「うん。俺と一緒にこないか?」
「・・・・・・・・・は?」
何言ってんだコイツ?そんな表情をする。
「まあ、そんな顔するのは仕方ないかもだけどな。まだ君は若いんだろう?力もまだ弱いのにそんな状態で他の所に行っても、今日おきたことのくりかえしだよ?」
確かにその通りだとエヴァンジェリンも思った。
吸血鬼となって十年以上たつが、自分はまだ若い方であり、力もまだ弱いという自覚もあった。
「俺もこのままほっといてもいいんだがね、助けたのにそんな事をするのもアレだしな。それに、魔法は・・・少し怪しいが、いろんな技術や戦いを教えとあげられるよ?どうかな?」
魅力的だが、何か算段があるのでは、と疑うが・・・・・・
(・・・・・・悩んでも仕方がないか。・・・ほかの方法が思いつくわけではないしな)
「・・・わかった。今はお前についていこう」
エヴァンジェリンは了承した。
「うん。俺はディバル・クリムゾン。よろしくね、お嬢さん」
「・・・・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。・・・・・・後、子供扱いするな」
そうして、二人は握手をしたが・・・・・・
「よし!じゃあ、俺のことは、パパ又はパピーと呼んでね」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
いま、何ほざいたんだ?コイツ?・・・・・・・・・と、エヴァンジェリンはおもってしまう。
「いや〜。昔から可愛い娘がほしかったんだけどね、縁もなにもなかったからうれしいよ」
「・・・・・・おい」
「いや〜。本当にうれしいよお。あ、そうだ。服屋に行こうか。今着ている服・・・・・・あや、ローブ?ボロボロだし買い直さなくっちゃな」
「・・・・・・人の話を」
「どんな服がいいかなあ。・・・俺の服も買わなきゃいけないだろう「少し黙れぇぇぇぇ!!」しぇぇっ!?」
跳び蹴りをくらい、強制的に黙らされたディバルであった。