雄英高校ヒーロー科。
そこはプロヒーローに必須な資格を取得することを目的とした養成校である。
全国各地にある同科の中でも最も人気であり、同時に最も難しく、その倍率は例年300を超えている。
国民栄誉賞に打診されるも、これを固辞したNo.1ヒーロー『オールマイト』。
事件解決数史上最多の燃焼系ヒーロー『エンデヴァー』。
ベストジーニスト8年連続受賞の『ベストジーニスト』。
偉大なヒーローになるには、雄英卒業が絶対条件なのである。
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根津から雄英高校への勧誘を受けてから月日は流れ、雄英高校受験日当日。
アルヴィオンは緊張────していることもなく、いつも通りなまま準備をする。
筆記用具に受験票、実技試験用の運動着などなど必要なものを全て準備する。
勉強の方は問題はないはずだ。こんな自分にどういうわけか関わってくる変わり者の少女が勉強を丁寧に教えてくれた(なんでもその少女は現在雄英高校の二年生らしい。自分が入ったら先輩だ)。
実技の方は全くと言っていいほど心配することはない。毎日オールマイト相手に組み手したり、“個性”の特訓をしたりしたのだ。今のコンディションは最高と言ってもいい。
だからといって慢心することはない。内容が何であろうと全力でやるだけである。
準備を終えたアルヴィオンは姿見の前に立つ。
今のアルヴィオンの服装はブレザー式の制服だ。『せっかくだから』とオールマイトが張り切って買ってきたのである。
いつもの半裸と言ってもいいほど露出の激しい服装ではないために落ち着かないし、両腕と両脚は拘束具を付けたままなので違和感が凄まじいが、自分のために制服を買ってきてくれて、さらには尻尾を通せるようにスカートまで加工してくれたのだから、アルヴィオンの中に着ないという選択肢は存在していなかった。
「アルちゃん、準備はできたかい?」
姿見と無表情にらめっこをしていると、スーツ姿のオールマイトが声をかけてくる。今回オールマイトは試験官として雄英高校に行くらしい。そのついでにアルヴィオンの送り迎えをしてくれるのだ。
「大丈夫」
「そっか。じゃあそろそろ行こうか。今日は受験日だから道が混むからね」
そう言いながらオールマイトはアルヴィオンの首にマフラーを巻いてくれる。これもオールマイトが慣れない手でアルヴィオンのために編んでくれたものだ。
そのことを嬉しく感じ、僅かに表情を綻ばせるアルヴィオン。そんなアルヴィオンを微笑ましく思いながら、オールマイトはアルヴィオンと共に部屋を出て車に乗り込み、雄英高校へと向かっていった。
………
……
…
時間は経過し現在、アルヴィオンは運動着に着替えて実技試験会場にいた。
実技試験の概要はこうだ。
今からこの『模擬市街地』で10分間演習を行う。
この演習場には“仮想
(でも、仮想敵の種類は四種類………それも0P)
試験内容の説明の際、試験官の一人であるボイスヒーローの『プレゼント・マイク』曰く『0Pの仮想敵は会場のギミック』とのことらしい。
つまるところ他の仮想敵と同じく破壊するも良し、相手にせず逃げるも良し、各自の判断に任せるという。
(どうしようかな)
アルヴィオンが0Pについてどうしようか考えていると────
『ハイ、スタートー!!』
突然頭上から試験開始の合図が降ってくる。それを聞いたアルヴィオンは弾かれたように走り出した。
アルヴィオンが市街地を駆け抜けていくと、物陰から早速仮想敵が数体現れる。
『標的捕捉! ブッ殺ス!』
現れた仮想敵は1Pが二体と2Pが一体だ。それぞれ機械音声で敵らしいことを言いながらアルヴィオンに襲いかかってくる。
「………遅い」
アルヴィオンは1Pの仮想敵二体を鉤爪で引き裂き、2Pを尻尾で叩き潰す。この程度などそこらのチンピラ並に相手にならない。
アルヴィオンは物言わぬ残骸となった仮想敵に目も暮れずに再び走り出す。そこへ物音を聞きつけたであろう仮想敵がさらに集まってくるが、その尽くを引き裂き、蹴り飛ばし、叩き潰す。
たった一瞬でアルヴィオンは三桁に迫るポイントを獲得していた。
『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! 今動いてんのは嬢ちゃんたった一人だけだぞ!! 走れ走れぇ!! 賽は投げられてんぞ!!?』
上空から降ってくるプレゼント・マイクの言葉に受験生達が慌てたように動き出す。その内の一つの会場では、すでにアルヴィオンがそのほとんどの仮想敵を破壊し回っており、他の受験生はおこぼれを狙うハゲタカの如く血眼になって探し回っていた。
………
……
…
試験開始から幾ばくかが経った頃、試験会場にいるほとんどの仮想敵を破壊し回ったアルヴィオンはビルの屋上に腰掛けて眼下を眺めていた。
(仮想敵はほとんど壊した。でも0Pはいなかった………)
三種類の仮想敵を破壊し回っていたが、四種類目の仮想敵である0Pだけは見つけることが出来なかった。
こんな狭い場所を走り回っても見つけられないなど、普通ならありえない。
(………そういえば、0Pは『ギミック』って言ってたっけ。もしかして何かの条件で現れる?)
そう考えれば見つからないのも説明がつく。では、その現れる条件とは………
──────ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!──────
すると突然轟音と共に地響きがする。
アルヴィオンがそちらを向くと、三種類の仮想敵とは比べものにならないほど巨大なロボットがビルを薙ぎ倒しながら現れた。
「いきなりすぎない?」
思わずそうつぶやいてしまうアルヴィオン。現れる条件を見つける前に向こうから現れた。まあ見つける手間が省けたと考えればいいだろう。
その0Pはというと、狭い試験会場にも関わらず暴れ回っている。それはまさに『災害』であり、『圧倒的脅威』だ。現に他の受験生達は蜘蛛の子を散らすように逃げ回っている。
しかし本当の『災害』は、『圧倒的脅威』はあんなものとは比にならない。
だからこそ、その象徴たる『黒き神』が目を覚ます。
立ち上がったアルヴィオンの全身が青白い炎のようなものに包まれる。その青白い炎は次第にビルを包み込むほど大きくなっていき、そして────
『■■■■■■ーーーーーッ!!』
────大気を震わせるほどの咆哮と共に、王冠のような背鰭を生やした巨大な漆黒の竜のようなものが姿を現した。
この漆黒の竜のようなものこそアルヴィオンの“個性”である、かつて人々に『神』と崇められ、畏れられた巨大生物『ゴジラ』である。その大きさは0Pをさらに上回るほどであり、他の受験生達も逃げ回ることすら忘れて、呆然とした表情で見上げていた。
『■■■■■■ーーーーーッ!!』
ゴジラとなったアルヴィオンは雄叫びを上げると、0Pに向かって走り出す。一歩一歩踏み出す度に地震の如く試験会場が揺れる。
0Pもこちらを認識したのか、ビルを薙ぎ倒しながら迫ってくる。
そしてぶつかり合った瞬間、凄まじい衝撃波が発生し受験生達を吹き飛ばした。
しかし0Pとアルヴィオンの力の差は歴然であり、アルヴィオンの力にあっさりと負けた0Pは大きく吹き飛ばされ倒れ込む。
そこへアルヴィオンは右足で0Pを踏みつけて起き上がれないようにする。するとタービンが回るような音と共に頭部から尻尾にかけて生え並んでいる背鰭が尻尾の先の方から青白く輝いていく。
そして頭部の先まで青白く輝き、アルヴィオンが大きく息を吸い込むような動作をした次の瞬間、口から青白い炎を吐き出す。
その青白い炎を受けた0Pのボディはみるみるうちに融解していき、やがて物言わぬガラクタとなった。
『終~~了~~!!!!』
それと同時にプレゼント・マイクによる実技試験の終了の合図が全ての会場に響く。
『■■■■■■ーーーーーッ!!!』
それに応えるかのように、アルヴィオンは天に向かって大きく咆哮した。
………
……
…
「実技総合成績出ました」
モニターの実技試験の上位の名前と成績が表示され、それを見た雄英高校の教師達が思ったことを口に出していく。
「救助P0で2位とはなぁ!!」
「後半も派手な”個性”を使い続けていた。タフネスの賜物だな」
「対照的ニ敵P0デ8位」
「まさかアレをぶっ飛ばすとは、久々に見たね」
「本当に驚いて血の気が引いたよ。来年の予算会議の気が重いね」
「思わずYEAH!って言っちゃったからなー」
教師達は主に目立っていた金髪のツンツン頭の男子生徒と黒髪のモジャモジャ頭の男子生徒に注目していた。どちらも特徴的ではあったが、それでも彼女の前では霞んでしまう。
「オールマイトの娘さん、やはり実力が別次元ですね」
モニターに映し出されたのは的確に、そして無慈悲に仮想敵を破壊していくアルヴィオンの姿だった。
アルヴィオンもまた『
「あれでもまだマシな方です。本気で暴れ回ってたら試験会場どころか雄英高校自体が無くなってます」
オールマイトの言葉に誰もが何も返せない。
何せ見てしまったのだから。超常の力たる“個性”を持ってしてなお倒すことのできない、絶対的な存在を。
「確かにあの子は強い。しかしまだ無垢だ。その気になれば平気で
根津の言葉に誰もが反論しない。誰もがそのことを理解しているからだ。現にアルヴィオンは周囲の被害を気にも留めずに仮想敵を破壊し回っていた。しかも彼女はそれを全くと言っていいほど気にしていない。
「だから私達で彼女を導くんだ。かつて怪獣王が偽りの王を討ち倒して調和をもたらしたように、彼女がその力で世界に平和をもたらせるようにね」
根津の言葉に教師全員が真剣な表情で頷く。誰もが根津に反論しない。
どんな“個性”や力を持っていようと、アルヴィオンはもう雄英高校の生徒だ。そして生徒を正しい道に導くのが教師の役目である。
(今度こそ守ってみせる。だから見守っていてくれ)
そんな中、オールマイトは人知れず今は亡きアルヴィオンの母親へと誓う。
二度とあのような悲劇を起こさないために、大事な娘を守るために、絶対に