プリズム☆シャイニングプリキュア!   作:砂糖ざらめ

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――遠い過去の記憶。
あの時、私を助けてくれた黄色い女の子。
あの子にもう一度会いたい。あの時のお礼を言いたい。


『きっと届くよ。あなたのそのキレイな“ハートストーン”があれば...』


第1話 受け継がれし力

 

灰色一色に染まった町が破壊されようとしていた。

「さっさと全部壊せ!人間を一人残さず始末しろ!」

「______......」

禍々しい鼠色の怪物が、雄叫びを上げながらのたうち回り、木々や建物を次々と薙ぎ倒して行く。

 

「きゃぁあああああああああ!」

「逃げるのよ、早くっ!」

「どきなさいよ、邪魔よ!」

「うわぁっ、何なんだよ!」

対抗する術もない弱々しい人間達は、必死に隣町へと逃げる。逃げ遅れた人間は、怪物に押し潰されるか、倒れてきた木々や建物の下敷きとなり、その大半は命を落としていった。

 

「どうして、ゆき!」

「お母さん、お母さん!」

「なにこれ、何で石に……!」

 

禍々しい怪物の攻撃を食らったり瓦礫の下敷きとなった人間達は、次々と真っ黒な宝石に姿を変えていき、その量は夥しい数になっていた。

「街を壊せ!」

「人間は全員排除するのよ!」

「世界をあの方の物にーー!」

その宝石は、複数人の少女の言葉に合わせて、ザアっと一気に天に昇っていく。

「無力な人間には相応しい末路だよねぇ、あっはははははは」

その中の一人、高層ビルの屋上の縁に立つその小柄な少女は、その見た目に似ても似つかない程に恐ろしく笑った。緑色のツインテールが風邪に靡いている。

ツインテールの少女は、自分の元に飛んでいた一つの宝石を眺めてにやりとほくそ笑む。

「ふふっ、人間の姿なんかよりずーっと綺麗じゃん。

ふふ………さぁて、獲物はもう無いかなーっと」

真っ赤な瞳で地上を見下ろした。

 

その時、彼女の真っ赤な瞳に、瓦礫に足を取られながら必死に逃げるお下げの少女の姿が映った。口角がにたりと不気味に吊り上がる。

 

「獲物見ーっけ、あの小娘を踏み潰しちゃえ!」

けらけらとお腹を抱えて笑いながら、ツインテールの少女は怪物に命ずる。怪物は泣き叫ぶ人々を踏み潰しながら、お下げの少女に突進して行く。

「うわぁああん、お母さん、お父さんっ!」

 

お下げの少女は悲痛な声を上げながら泣きじゃくっていた。大きなコンクリートの塊の上に座りながら、何かを大事そうに抱えている。少女が抱えているのは、あの真っ黒な宝石だった。たくさんの宝石が転がったコンクリートの塊に膝を付いて、必死に呼び掛けるも、宝石になってしまった両親に届くことはなかった。

「ひっ……うっ、っうぅ……」

焦点の合わない虚ろな目で、お下げの少女は項垂れた。

 

周りで次々と上がる断末魔と、一瞬の閃光。一瞬で捻り潰される儚い命。

ついさっきまで普通に生きていた命が、こんなにも簡単に壊れてしまうなんて。ついさっきまで隣で笑っていた人が、一瞬でただの石になってしまうなんて。

お下げの少女や残された人間は、いずれ自分も宝石になってしまう恐怖に動けなくなっていた。

 

「お父さん、お母さん!」

お下げの少女は、高層ビルの何倍もの大きさがある怪物に向かって叫んだ。

「お父さんとお母さんを返して!お父さんとお母さんを、ーー返して!」

ツインテールの少女が赤い瞳を向ける。

「うるさい、人間ごときが、私に命令するなんて……」

 

「返して!お父さんとお母さんを返して!返してよっ!

こんな事して何が楽しいの?何がしたいの!?」

 

お下げの少女は白い顔の両端で括った髪の束を振り乱しながら、息も絶え絶えに叫び続けた。

「楽しいに決まってんだろ、ばっかじゃないの?

あんたうるさいから、ハートストーンごと潰してやるっ!」

お下げの少女の瞳から光が消える。視界がぐにゃりと歪曲する。醜い怪物や少女がより一層醜く見えた。

「どうしてそんな酷い事が……」

 

ツインテールの少女の笑い顔は、悪魔そのものだった。

弱者を蹴落とすのを心の底から楽しんでいる。人間をただの物としか見ていない。自分の望み為なら手段は選ばない。どんな事をしても構わない。そんな目をしていた。

 

「さあ、やってしまえ!」

少女が叫んだその時だった。

 

 

「プリキュア、スターライトフラワー!」

甲高い声と共に、黄色い閃光に包まれた花吹雪が巻き起こり、怪物を横なぶりにして薙ぎ倒す。

「ぐ、う……貴様っ!」

ツインテールの少女も吹き飛ばされたらしく、電信柱にぶら下がっている。

「あなた、こんな事をして許されると思っているの?」

黄色い花吹雪を繰り出した張本人が、つかつかとツインテールの少女に向かって歩いていく。彼女はまだ幼い子供の様だった。

 

「知るかよっ。お前は弱肉強食って言葉を知らないの?人間は弱いしうじゃうじゃ居て邪魔だから、消されて当然なの!」

「何……ふざけた事言ってんの?

人の命は一つしかないし、壊れたらもう元には戻らないのよ。おもちゃみたいに買い換えたり直したりなんて出来ないんだから!」

黄色い少女は怒りに手を震わせ、それを嘲笑うツインテールの少女へ向ける。

「プリキュア、スターライトフラワー!」

ついさっき繰り出された吹雪の何倍もの威力で、黄色い光が少女に向かって行く。

「まだあんなに小さい女の子にこんなに怖い思いさせるなんて……!

どんなに怖いか、どんなに悲しいか。目の前で両親があんな姿にされて、それを見ている事しか出来ない。自分も死ぬかも知れない。

想像しただけでもこんなに苦しいのに、それなのに――」

黄色い少女は涙を流しながら両手を突き出した。

 

「怖いし、辛いと思うわ。

だけど大丈夫……戦いが終われば、町も人も元通りになるわ。

だから早く逃げてっ!」

「でもっ」

お下げの少女は呆然としながら呟く。

「いいから早くっ!」

黄色い少女は強く促した。

 

「邪魔するなっ!」

ツインテールの少女が眼を見開いたその時だった。

咄嗟に逃げ出したお下げの少女の背後で、形容し難い程の大きな爆発音がしたのだ。

「っ――――」

振り返る事が出来ないまま、必死に必死に逃げた。

 

 

「――――――はぁっ!」

夜明けの光が差し込む。

「……まだ夜か。

また、まただよ……」

遠い過去の記憶。生きている限り、忘れる事はないであろうあの日。たまにこうして夢に見てしまう。

「あの子は、生きているのかな」

ぽつりと呟いた少女の髪は、当時と変わらないお下げだった。

 

 

 

 

 

あの日から、7年。

お下げの少女ーー野苺(のいちご)なのかは、小学5年生になった。

重度の人見知りの彼女は、始業式から1週間経った今でも、誰とも話せずにいた。

 

(はぁ、最後のクラス替えだったから、友達作るチャンスだったのにな。

明日こそ、絶対に話し掛けるんだから!)

心に誓い、家路をゆっくりと進んでいく。

(明日こそ、明日こそは……)

呪文のように呟きながら。

 

 

翌日。なのかは案の定教室の隅で項垂れている。

話せそうな友達も見つからず、どう話し掛けたらいいのかも分からないままで居た。

(どうしたらいいの……?)

 

「ちょっと。野苺さん、聞いてる?」

「えっ?あ、はいっ」

滅多に話し掛けられることなんてないせいか、思わず飛び退きそうになってしまう。

(確かこの人は、学級委員の海風(うみかぜ)しのさん。真面目でしっかり者で、勉強もスポーツも得意で美少女で……。

ただ、私と同じで友達が居ないみたいなんだよね。誰かと話している姿なんて見たことないし、男子も女子もなかなか近付けないみたい。確かに優等生オーラ全開だし、私も自分から近付こうとは思えないかな。)

なのかはしのをじっと見詰めた。

 

「あなた、新学期早々忘れ物が多すぎるのよ。しっかりしなさいよ、低学年のお手本っていう自覚はないの?」

(な、ないよそんなの。私なんかがお手本になれる立場じゃないし……)

なのかは口には出さないものの、慌てて首を横に振った。

「とにかくっ!気を引き締めてよね。」

しのの大声に、教室中のクラスメイトの視線はなのかに釘付けになった。

思わず身を固くする。

(恥ずかしい、確かに忘れ物が多いのは事実だけど……。

こんな大声でいう必要ないのに。

ひどいよ、海風さん……。)

 

 

「はあ………」

今朝のことが今でも堪えているらしく、なのかは肩を落としながらとぼとぼと歩いていた。

(う〜っ、あの突き刺さるような冷ややかな視線、思い出すだけで背筋が凍りそうだよ。

それにしても海風さん、あんな大声出すことないじゃない。わざと嫌な思いをさせて事の重要さを知らしめるためだったのかな。

もう、どっちにしろ最悪!)

 

 

『__お前、憎い奴が居るようだな』

 

突然なのか目の前に現れた少女は、確かにそう言った。

「だっ、誰!?」

まるで心の中を見透かされたみたいでいい気分がしなかった。それよりも、どうしてそんな事が分かったのか――気持ち悪い、となのかは後ずさる。

 

「私はラピスラズリ。」

「らぴすらずり?」

(なんかスゴイ名前。外国の人かな?)

「お前、誰かを憎んでるんだろ?」

少女は首をかしげるなのかを無視して言った。

「そ、そんな人、居ないよ……」

「居ないって言い切れるの?本当は居るくせに」

「そんなことない!海風さんは――」

つい海風さんの名前が出てきてしまう。

(やっぱり心のどこかでは、海風さんを恨んでいたんだ……。)

 

「やっぱり心当たりがあるんじゃん。素直になっちゃいなよ、自分の心押し殺してたら息苦しいだろ?」

(そ、そんな。まるで私の心を全て読み取ってるみたいに、巧みに私の心を操ってる。)

どんどんその言葉に頭を支配されて、一瞬だけふっと意識が飛びかける。

 

(だけど、こんなのダメだよ。また人のせいにして逃げるのはもう嫌だよ。

私は負けない。こんな人なんかの言葉で、私の中の海風さんを悪者になんかしたくない。)

「確かに海風さんには嫌な思いさせられたけど……少しは恨んだけど、でも」

(――何言ってるんだろう、私。

ちっぽけで臆病虫で、誰かに見つけてもらうのを待っているだけの私が――。

でも!)

 

「あなたなんかに私の心は渡さない!」

なのかは強い意志を双眸に宿し、思いっ切り叫んだ。

ラピスラズリは一瞬たじろいて顔を顰める。

「うるさい……綺麗事ばっか言いやがって……」

「え?」

「さっさとハートストーンを寄越せ!」

ラピスラズリは物凄い形相で叫んだ。

そして両の瞳が真っ赤に燃え上がる。

 

――遠いあの日の記憶。

お母さんとお父さんを殺した、あの女の子の――

 

なのかは得体の知れない恐怖心に体を震わせた。

(似てる――いやそっくりだ。あの時私を嘲笑ってたあの女の子に!

まさか、まさかこの子が――)

 

 

「人を好く心を無くし、憎しみに苦しんで暴れろ!」

 

両手を前に突き出したラピスラズリは、なのかにそう呼び掛けた。

すると、なのかの心臓辺りから輝くハート型の石がゆっくりと飛び出してくる。

途端になのかの両脚はバランスを崩し、まるで蝋燭が溶け落ちるように地面に崩れ落ちた。

……指先にも力が入らない。

ただ朦朧とする意識の中、必死に目を開く。

 

ラピスラズリは石に手を翳す。途端に輝きを失った石は、真っ黒な塊に変貌していった。

 

 

「……出でよ、ヘイトリッドグリーフ」

 

ラピスラズリが塊を天高く振り上げた途端、なのかの体からは灰色のどろどろとした液体が流れ出してきた。

その液体は膨れ上がっていき、抜け殻状態のなのかはその真ん中にぷかぷか浮き上がっていた。

 

「……なに、これ……」

意識がどんどん遠のいていくのを脳の隅で感じ取る。

 

「――……!」

耳の近くで雄叫びが聞こえてきた。

 

 

(また、あの時と同じ――)

 

 

 

 

怪物の姿へと変貌したなのかが、全身をしならせながら町を破壊していく。

「グリ──────フ!」

建物を薙ぎ倒しながら暴れる怪物を見て、町の人々が叫びながら逃げ回る。

「きゃあああああああ!」

「うわあああっ」

「ふふふ……もっと暴れろ。そして全人類を消し、宇宙は我らダークグラッジ王国の物となるのだ!」

「グリ──フ!」

 

怪物は暴れまわり、建物を次々と破壊していく。

「ヘイトリッドグリーフ、もっとやれ!」

ラピスラズリが叫んだ時、なのかの意識がうっすらと戻ってきた。

 

力が入らないが、目だけは辛うじて開けられた。

目の前には暗い灰色の闇が広がっており、目の前だけはぼんやりと光っている。

そこには窓ガラスが粉々になったビルや逃げ惑う人々が映っている。

「う、ここは――」

なのかが呟くと、怪物の動きが止まる。

 

それにイラついたラピスラズリが声を張り上げる。

「何をしている、早く町を壊せ!」

その声に完全に意識を取り戻したなのかは、支配され掛けた身体を必死に動かそうと試みる。

「嫌だ、町を壊したくなんかないよ!」

「はぁ?こんなちっぽけな町のために体張るなんてバカのする事だよ。ヘイトリッドグリーフに身も心も支配され、暴れれば楽になれるんだよ?」

それを鼻で嘲笑うラピスラズリ。

 

しかしなのかはそれに動じず、しっかりと両目を見開いて、

「私は海風さんを恨んだりしないし、この町の事も壊したりしない!

あなたのしている事がどれだけの人を苦しませたか――思い知れ!」

 

ピカッ!

その時、怪物が桃色に輝き、その直後にぱあんっと音を立てて破裂した。

「な、何!?」

キラキラと輝く桃色の水滴を浴びながら、ラピスラズリは呆然と立ち尽くした。

そして、なのかが光の真ん中から現れる。

 

「な、何、どうなってるの?」

「あ────!

あなたは伝説の戦士、プリキュアチェリね!?」

ピンク色の小さな生物が、戸惑うなのかの元へ飛んできた。

「え……?

伝説の戦士、プリ、キュア……?」

(戦士って事は、まさか……あの時の黄色い女の子の事じゃ――!)

「プリキュアについて何か知ってるチェリ!?」

「うん、昔、黄色い女の子が助けてくれたの」

「それはきっとキュアマーガレットチェリ!

キミになら、キュアマーガレットの力と意思を受け継ぐ事が出来るかもしれないチェリ!」

ピンク色の生物がなのかの心臓付近に触れると、そこから眩い真っ赤な光が溢れ出した。

ラピスラズリから、なのかから取り出された石が戻ってくる。

その石には輝きが戻っていった。

 

「何でっ!?」

ラピスラズリは頭を抱えて叫んだ。

「これはハートストーンと言って、心の中にある宝石チェリ。とっても大切なものなんだチェリ。持ち主の気持ちによって姿を変えてしまうチェリ。」

「これが私の……心……?」

なのかはそっとハートストーンに触れた。

 

「これに『町や人々を守りたい』気持ちを込めると、変身アイテム――シャイニングストーンに変わるチェリ!」

なのかはハートストーンを握り、大きく頷いた。

「分かった、やってみる!」

 

なのかはハートストーンに強い意思と気持ちを込める。

(もう誰にも――あんな辛い思いはさせない!)

 

「なのかの強い心が、プリズムスタージュエルを呼び起こしたチェリ!」

ピンク色の生物の胸のリボンから、煌めく宝石が飛び出す。

「これを、そのハートストーン――シャイニングストーンにセットして、『プリキュア・ステップアップ、1(ワン) up(アップ)』って叫ぶチェリ!」

「分かった!」

 

 

なのかは大きく深呼吸をして、両手にそれぞれシャイニングストーンとプリズムスタージュエルを持ち、

 

「プリキュア・ステップアップ!」

 

なのかはシャイニングストーンにプリズムスタージュエルをセットする。

 

「1 up!」

 

すると、なのかの着ていたワンピースがスーッと溶けていき、体が光り、みるみるうちに変身していく。

身長と手足はしなやかに伸び、顔もどこか大人びていく。茶色のお下げは木苺色の美しいツインテールに変化し、赤とピンクを基調としたワンピース姿になった。

 

「真っ赤に輝く希望の光!

キュアフランボワーズ!」

なのか――キュアフランボワーズはポーズを決め、ラピスラズリの前に立ちはだかった。

 

「何、プリキュアだと……」

「やったチェリ!やっぱりキミはキュアマーガレットの意思を継ぐことが出来るんだチェリ!」

「人の感情をもてあそぶなんて――今すぐそんな愚かなことはやめなさい!」

キュアフランボワーズは、ラピスラズリを指差して叫んだ。

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