プリズム☆シャイニングプリキュア!   作:砂糖ざらめ

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「……そうして、シャイニングストーン――すなわちハートストーンが壊されたキュアメモリーは、消滅した。」
自分のシャイニングストーンを両手で抱え、しのは苦しそうにその言葉を絞り出した。
自分があの時油断していなければ、こんなことにはならなかったはずなのに。突然思い出した記憶が、しのを強く後悔させた。
「そんな事があったなんて……」
なのかも言葉を失った。初めて変身した日、チェリーが探してほしいと言っていた4人のうちの1人のプリキュアは、もう存在すらして居なかったのだ。
(キュアメモリー……)
なのかの目にも涙が浮かんでいた。

「なのか、これで大体は分かったジェリ?今までプリキュア達に何があったのか。しの、全部思い出したジェリ?無意識のうちに変身していた時の記憶を。」
ジェリィがそう問うと、なのかとしのはこくりと頷いた。
それを確認したジェリィは、どこか安心したような表情で目を伏せた。
「元の世界に戻るジェリ」
なのか達は、いつもの街に戻ってきた。




第12話 ハートストーンの代償

 

その日の夜。なのかは自室のベッドに仰向けに寝転びながら、ぼーっと天井を見詰めていた。

「まさか、ゆりねちゃんがキュアマーガレットだったなんて……」

幼稚園の頃からの唯一の友達だったゆりねが自分を助けてくれたキュアマーガレットだったなんて。そして、いきなり姿を消した幼馴染みと同一人物だったなんて。

「幼馴染み――ゆりのちゃんと入れ替わるようにこの街に引っ越してきたと思ったら、ゆりのちゃんだったんだね。」

苦笑いしながら、なのかはぎゅっとハート型のクッションを抱き締めた。

(……あんなに重たいものを背負ってたなんて。)

でも、当のゆりねはそれを知らない。自身がプリキュアだったことすら覚えていないのだ。

『いいジェリ?普段のゆりねにはプリキュアの記憶がないジェリ。間違ってでもプリキュアに関する話はするなジェリ!』

なのかの脳内に、元の世界に戻ってきてからジェリィに言われた言葉が再生される。

「ジェリィはそう言ってたっけ。」

(これからどうゆりねちゃんに接すればいいのかな……)

今まで通り友達としてか、憧れだったキュアマーガレットとしてか。なのかは脳内で葛藤した。

「うう〜っ、ゆりねちゃんに記憶が戻ればいいのに……!」

「ジェリィはゆりねがキュアマーガレットに変身している時以外は1人で身を隠してるみたいチェリ。……可哀想チェリ……」

チェリーも悲しそうな声でそう呟く。

「そっか。うちにおいでよって言えたらいいけど、私好かれてないみたいだしね……」

なのかはそう呟きながらむくりと体を起こした。

「キュアマーガレットにあの時のお礼を言うのは、もう少し先になりそうだね」

窓の外から、夜空に浮かんでいる三日月がなのかを見下ろしていた。

 

 

同じ頃、しのはベランダで夜空を眺めていた。

星もほとんど見えない都会の夜はとても暗い。しのは何度も溜め息を吐いていた。

「……しの。さっきの話、まだ続きがあるチプね?」

そんなしのを、部屋の中から遠巻きに見詰めるチップ。しのは振り返らずに表情を暗くした。

「……話す必要はないと思ったの。だってラピスラズリはあなた達の仲間だったんでしょ?」

「やっぱり……!」

「あの後、ラピスラズリが襲ってきたから、怒りに身を任せてあの子を攻撃したってだけよ。聞きたくないでしょ、そんな話。」

(ラピスラズリのハートストーンが壊されたのだって、元はと言えば私のせいかもしれないじゃない)

しのはそれを口に出さなかった。有り得ないとは思うが、チップにもし責められたらと思うと怖かったのだ。

「……ラピスラズリは、どうしてグラッジの手下になったチプ……?」

チップは部屋の中からベランダへ飛んできて、しのの肩に乗った。

「ラピスラズリがグラッジなんかに着いていかなければ、キュアマーガレットとジェリィだってあんな事にはならなかったはずチプ。キュアメモリーだって、もしかしたら……。何よりラピスラズリ自身が消されてしまうこともなかったはずチプ!」

チップは叫んだ。それと同時に、夜の冷たい風が吹き抜け、水色のカーテンを揺らした。

「……きっと私達には分からない何かがあったのかもね。……心って、難しい。自分の心すら、私は全部理解し切れる自信が無いわ……」

三日月を見上げながら、しのはそんな言葉を零した。

 

 

 

 

翌日。なのかとしのは、暗い表情で学校への道を歩いていた。

「はぁ……。何だか最近、色んな事があってちょっと疲れちゃったね」

はははと笑いながら、なのかは愚痴を零した。

「そうね。立て続けに色々なことが起こったものね……」

しのの言葉に、なのかは無言で頷いた。

2人の横を、楽しそうに笑い声を上げながら下級生が通り過ぎて行く。そんな下級生達を見て、なのかはぽつりと呟いた。

「……ねえ、海風さん。ゆりねちゃんのハートストーンを元に戻す方法ってないのかな」

なのかのその言葉に、しのはぴたりと足を止めた。数歩歩いて、それに気付いたなのかは振り返った。

「ごめん、変な事言っちゃった。」

(私、なんて事言っちゃったの。海風さんは私なんかよりずっと辛い思いしてたのに。そんなの無理って分かり切ってるのに!)

顔を真っ赤にして、なのかは俯いた。

「ごめん、今の忘れてっ」

なのかがそう言うと、しのははっと顔を上げて、

「……いえ、出来るかもしれないわ。ジェリィが自分のハートストーンの力をキュアマーガレットに分け与えてたって言ってたけど、それが私達にも出来るなら……!」

目を輝かせてしのはそう言う。そんなしのの目を見て、なのかも目をキラリと輝かせた。

「そうだよ、みんなのハートストーンの力を少しずつ出し合えば、出来るかも!」

2人は顔を見合わせて大きく頷き合う。

「さっそく、放課後になったらチップ達に相談しましょ。」

なのかとしのは、学校への道を走った。

早く放課後になればいいのに。2人の気持ちは同じだった。

 

 

その頃、ダークグラッジ王国では。ガーネットが、壁に寄り掛かりながら自分の爪先を凝視していた。ただ無言で、体制を崩さずに。

「ガーネット。」

ガーネットの目の前にはグラッジが立っていた。滅多に自分達に姿を見せないグラッジが、目の前に居るのだ。本当なら泣いて喜ぶところだが、今のガーネットは違った。何故グラッジが自分の前に姿を現したのかを解っているからだ。ここ最近、グラッジが姿を見せるのは、決まって怒っている時なのだ。

「ガーネット。またプリキュアを消せなかったんだね。」

優しい声色でグラッジはそう言う。ガーネットは顔を上げずに、目を固く瞑った。

「申し訳ございません、グラッジ様……」

やっとの思いでその言葉を絞り出した。恐怖で足がすくむ。が、尻もちをつくことすら許されない。

「今日こそは、……分かってるね?」

「……はい、グラッジ様」

「いい子だ。ちゃんとプリキュアを全員始末出来れば、僕はいくらでも君を可愛がってあげられる。だから今すぐにでもプリキュア達を消せ。ハートフル王国の者もだ。」

「でもっ、私1人でアイツらの相手をするのはっ……。赤と青のプリキュアだけならまだしも、キュアマーガレットが居る限り、っ……私1人では限界があります」

ガーネットの白く尖った顎先を、透明の脂汗が伝って滴り落ちる。それがグラッジの黒い靴に垂れると、グラッジはふっと微笑んだ。

「そうだね。それじゃああの子にも手伝ってもらおうか。」

グラッジがそう言うと、すぐにガーネットの横に小さな少女が現れる。

「この子が君の手助けをしてくれるよ。」

「は、はい、ありがとうございます……」

(チッ、コイツかよ。名前すら知らないし、何か不気味で嫌いなのよね……)

ガーネットは心の中でそうぼやきながら、頭を動かさずに少女を横目で見る。

「……そうだね。そう言えば、まだこの子には名前がなかった。」

(うっ)

心の中を読まれ、ガーネットは体を硬直させた。が、グラッジは穏やかな表情で少女を見る。

「君の名前は『ルビー』だ。君も、赤……だっただろ?」

不敵に笑うグラッジに、ルビーと名付けられた少女は頭を下げる。

「グラッジ様に名前を授けていただけるなんて光栄です。」

「それじゃ、赤い宝石同士仲良くするんだよ。」

そう言い、グラッジはガーネットの頭を撫でた。そして、闇の中に姿を消した。

「…………」

ガーネットの頭頂部には、まだ感覚が残っていた。

慕っているグラッジが自分に触れてくれた。それなのに、何故か気持ちが高揚しなかった。

(……なんでだろう。)

今は、恐怖心の方が強かった。

 

 

 

 

放課後。なのかとしのは、ホームルームの終わりと同時に教室を飛び出した。帰り道を走りながら、チェリーとチップと合流する。

「チェリー、さっき言ったこと、不可能じゃないんだよね!?」

「うん、きっと出来るチェリ!」

「チップ、巻き込んじゃってごめんなさい。けど、やっぱりキュアマーガレットとジェリィを助けたいの!」

「僕も同じチプ!僕はジェリィに比べたらまだまだだけど、僕にも出来るはずチプ!」

4人の気持ちは1つだった。まずは、ジェリィを探そう!

 

「……とは言っても、ジェリィは普段どこに身を隠してるんだチェリ?」

「この辺に居るとは思うけど、全然検討つかないよね……」

「妖精同士でコンタクトは取れないの?」

「ジェリィは自分の存在を消してるっぽいチプ。敵どころか、僕達にも居場所がバレないようにしてるみたいチプ……」

「そんな……」

(それじゃあいつまで経っても会えないよ!)

なのか達は肩を落とした。

(せっかく、キュアマーガレット ──ゆりねちゃんを元に戻せると思ったのに!)

なのかは自分の無力さに絶望した。それと同時に、自分の中に芽生えている違和感の正体を探った。

(……そうだ。もしゆりねちゃんのハートストーンが修復したとして、そしたらゆりねちゃんはゆりのちゃんに戻っちゃうの?もしそうなら、ゆりねちゃんの意識は?ゆりねちゃんの今の生活は?どうなるの?)

ジェリィが必死に築き上げてきた今のゆりねの平穏を、壊すことになるかもしれないしれない。下手に手出しをしたら、ゆりねに辛い記憶を取り戻させてしまうことになる。それが、本当にゆりねとジェリィの幸せなのだろうか。

(……このまま、自分がプリキュアだってことを知らないまま生きていった方が、幸せなんじゃないかな。)

実際、隣に立っているしのは、プリキュアの記憶を取り戻した時、酷く錯乱してしまっていた。昨日だって、過去の記憶を話すしのは苦しそうだった。無意識のままプリキュアになれるのなら、そっちの方が幸せだ。

(……やっぱ、辞めようって言おうかな。言い出しっぺは私だけど……)

なのかはちらちらと3人の顔色を伺い、言い出すタイミングを見計らう。が、なかなか言い出せない。

「ゆりねの家に行ったら分かるかもチプ!」

「待って、それはだめ。ゆりねさんにプリキュアに関する事で接したりしたら、ジェリィきっと怒るわ。」

「でもそうでもしないと分からないチェリよ!?いつ姿を現してくれるかも分からないチェリ!」

「なら、ジェリィの方から現れてくれるのを待つしかないわね。別に今すぐ実行しないといけないってわけじゃないんだし……」

「でも!ラピスラズリの意思は!?こうしてる間にも、またダークグラッジ王国の奴らは襲ってくるチプ!その度にジェリィに負担を掛けさせるつもりチプ?」

「……じゃあ!」

しのが一際大きな声でそう叫んだ。

「私達が、ジェリィやキュアマーガレットの助けが要らないくらい強くなるのよ。」

ドクン、と、なのかの鼓動が大きく脈打つ。

(……そうだ。キュアマーガレットが現れるのは、いつだって私達がピンチの時だ。じゃあ、私達が敵に追い込まれたりしないくらい強くなれば、キュアマーガレットは変身しなくても良くなる……)

なのかはぎゅっと両の拳を握り締めた。

「そうだよね。私達がもっと強ければ、ジェリィの負担も減るはずだよね」

なのかのその言葉に、しのは大きく頷いた。

「……そうね。もっと、力を付けないと」

チェリーとチップは、無言で俯いたまま、ぐっと何かを噛み締めていた。

と、その時だった。なのかの頭に、物凄い勢いで飛んできた何かがぶつかった。

「って!」

そのまま、なのかは尻もちをつく。

「いたた……、何なの?」

なのかは頭を擦りながら、ぶつかってきた何かを拾った。

「!!」

そこに居る誰もが、それを見て愕然とした。

「ジェリィ!!」

なのかの両手の中に包まれているのは、ぐったりとしたジェリィだったのだ。

 

 

「……ひとまず、うちに連れてきたけど……」

ジェリィは、ちょうど近くにあったしのの家に運ばれた。保冷剤をハンカチにくるんで、それをジェリィの額に当てがっている。

「何があったチェリ?ジェリィ……」

チェリーは泣き出しそうな目でジェリィを見ている。チップも、なのかから受け取ったハンカチで、土埃のついたジェリィの体を拭く。

「……ハートストーンの力が、弱まってるチェリ。」

チェリーが小さな声でそう呟く。しのは立ち上がって叫ぶ。

「うそ、どうして!」

「きっと、ゆりねちゃんに力を分け与え続けてたからじゃないかな。ジェリィ自身のハートストーンの力が足りなくなっちゃったんだ」

なのかは膝を抱えてそう言った。しのは、愕然とした表情でストンとその場に座り込む。

「……遅かったのね」

はぁ、としのは溜め息を吐き頭を抱えた。

「ジェリィはきっと、とっくに限界を迎えてたチプ」

チップも、両目を覆って、震える声を絞り出した。

「……今からでも、やろうよ。まずはジェリィのハートストーンを修復させよう。ゆりねちゃんは、もうゆりねちゃんの人生を歩んでるんだから、私達が強くなればいい話だもん」

なのかのその言葉に、3人は同時に頷いた。

「やろうチェリ!」

 

なのか、しの、チェリー、チップは、円状に並び、ジェリィを囲んだ。その手には、それぞれのハートストーンやシャイニングストーンが握られている。

「いくチェリ!」

なのか達は、ジェリィにハートストーンを差し出した。なのかとチェリーのハートストーンは赤色に、しのとチップのハートストーンは青色に輝き出す。その輝きは、一筋の光の縄となり、ジェリィの小さな体を包み込んでいく。

やがてその光は1つの大きなロープとなり、混ざり合って、紫色のような色になった。その光は、溶け込むように、みるみるうちに黄色に変わっていき、そして消えていった。

光の中から現れたジェリィの表情は、穏やかだった。

 

それから、何十分経っただろうか。ジェリィは未だに目を覚まさない。なのか達は、胸の前で手を組んで祈った。

(お願い、目を覚まして、ジェリィ!)

ぎゅっとなのかは目をつぶった。

「きっと大丈夫チェリ、ジェリィのハートストーンは、ちゃんと機能してる!」

「4人で力を出し合ったから、みんなの負担も少なく済んで良かったチプ!なのか、チェリー、もう遅いから家に帰った方がいいチプ!」

「でも、やっぱり心配だなぁ……」

時計を見ると、もう5時半を過ぎていた。

「ジェリィが目を覚ましたら連絡するわ。だから野苺さんは──」

その時だった。しのの家が、大きく揺れた。凄まじい縦揺れに、なのかとしのは思わず立ち上がった。

「地震!?」

「いや、違う、空を見て!」

しのが指差した窓を見ると、空が真っ黒に染まっていた。

「──まさか!」

なのかとしのは顔を見合わせる。

「ダークグラッジ王国の奴だわ!」

しのは窓を開け、2人はシャイニングストーンにプリズムスタージュエルをセットし、叫んだ。

 

『プリキュア・ステップアップ!』

そして、窓から飛び降りながら変身していく。

 

「真っ赤に輝く希望の光!キュアフランボワーズ!」

「青く煌めく正義の光!キュアオーシャン!」

 

2人は決めポーズをし、地面に着地した。

「チェリー、チップ、ジェリィは任せたわ!」

2人は、そう叫んで、街に駆け出した。

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