プリズム☆シャイニングプリキュア!   作:砂糖ざらめ

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薄暗い町に轟く、重たい音。そこを彷徨う灰色の怪物を、3人の少女が次々と倒していく。
「くっ、キリがないわね……全く、やってくれるわ!」
「ヘイトリッドグリーフだけじゃなくて、あれらを生み出している敵の数も尋常じゃないわ。既に何人かは倒したけど……」
肩で息をしながら会話する2人の少女の背中を、もう1人の少女がぽんと叩く。
「ここは私に任せて。あなた達は、向こうの街に行った敵を追って!」
「だめよ!あなたを1人には出来ないわ!」
「そうよ、私達は、いつでも一緒よ。だから――」
優しい目で頷く少女に、灰色の腕が伸びる。
「危ないっ、キュア■■■――」
少女を庇うように手を広げた少女が、灰色の腕に半身を飲み込まれる。
「キュア■■■■!!」

「大丈夫よ、私は、あなた達を、独りぼっちになんか――させないから」



「はっ…………」
まだ日が昇るには早すぎる、午前3時頃。
しのは水色の雫模様の掛け布団を跳ね除けて、ベッドの上に座っていた。




第5話 プリキュアの記憶

 

「おはよ〜」

「おはよ〜、ねえねえ、昨日の8チャンネル見た〜?」

楽しそうな会話が、そこら中から聞こえてくる。その中でなのかは、1人で下駄箱に立っていた。

サンダルを脱いで上履きに履き替えながら、なのかは小さく短い溜め息を吐いた。

(今日も、こうして独りぼっちのまま終わるのかな)

誰もなのかに話し掛けようとしない。分かりきっていても、やっぱりなのかは悲しかった。

 

教室に入っても、なのかに話し掛ける人は誰も居なかった。

時折「おはよう」と挨拶をするクラスメイトは居るものの、すぐに他の生徒の所へ行ってしまう。なのかが何かを話し出す間も与えてくれなかった。

(ああ、やっぱり私は独りぼっちなんだ)

なのかの胃が、キリキリと痛んだ。

 

「あ、海風さん!」

教室の前の方から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。なのかはその言葉に、びくっと肩を震わせた。

「海風さん、昨日は大丈夫だった?」

「もう学校来ても大丈夫なの?」

「みんな心配してたんだよ」

「あ、うん、ありがとう……」

数人のクラスメイトに囲まれたしのの姿が、なのかの瞳に映る。

(海風さん、あの後早退したみたいだけど……。私も早退すれば、あんな風に心配してもらえたのかな)

なのかはふと浮かんできた邪な考えを、首をぶんぶんと振って否定した。

(そんな事考えちゃだめ!海風さんは、プリキュアになって疲れてるんだから……)

 

 

授業中も、なのかの頭の中はプリキュアの事でいっぱいだった。

(あの時、私が敵に負けそうになった時助けてくれたあの女の子って、きっとキュアマーガレットだよね。私の事ヒヨッコだって言ってたけど……。

とりあえず生きてるなら良かった。でも、前は優しかったのに、何でこの前はきつい事言ったんだろう?もう分からないよ)

なのかは鉛筆を机の上で転がしながら、窓の外を見た。

(キュアマーガレットに、認められたいな……なーんて。ふふっ)

自分の到底叶わなそうな願望に、なのかは自嘲気味に笑った。

 

 

 

 

「野苺さん」

「わっ!?」

いつものように、一人で居る事を知られたくなかったなのかは、机に突っ伏して寝てるふりをしていた。そこへ誰かが声を掛ける。

「う、海風さん」

目の前に居るしのを、なのかは何度も瞬きをして見上げる。

(ひえええ、やっぱりちょっと怖い)

なのかは怯えるのを必死に隠して、笑顔を作った。

「ど、どうかした?」

「昨日の事……あなたとはただのクラスメイトって訳にもいかなさそうだから、ちゃんと話しておこうと思って」

「え……」

こうして、なのかはしのと、屋上に続く踊り場まで来た。

 

誰も居ない踊り場で、しのはゆっくりと話し出した。

「昨日はみっともない姿を見せちゃってごめんなさい。」

「あ、ううん、大丈夫」

「……よかった。

ねえ、あなたはいつプリキュアになったの?」

しのの問に、なのかは「ついこの間だよ」と答える。

「……そう。だからあなたは私がプリキュアだって事を知らなかったのね。」

「海風さんは、昔からプリキュアだったの?」

「……ええ。昨日までは、私は普通の女の子だった。そう思ってた。でも、再び変身して思い出したの。私、前にも一度、プリキュアになった事があったの」

しのの言葉に、なのかは息を飲む。

(もしかしたら、キュアマーガレットの事、何か知ってるんじゃ……)

 

「……だから、今から話すわ。私が昔、変身した時の事。わたしが今思い出している限りの事を。」

しのはそう言って、なのかに背を向けた。

 

 

 

「私が初めて変身したのは、3年前だったわ。その時私は、自分の部屋で寝ていたの。だから私は、その間に自分が変身して戦っていたなんて思ってなかった。

寝ている間に、まるで夢遊病みたいに起き上がって、窓から飛び降りながらプリキュアに変身したの。

そこからは、よく分からないんだけど――まるで私は私じゃないみたいになったの。私のはずなのに、全然私じゃなくて……。

大量に現れた敵――ヘイトリッドグリーフだったかしら。それを倒しながら、他のプリキュアと合流して、一緒に戦ったの。

……それからは、あんまり覚えてない」

 

しのの話を無言で聞いていたなのかは、うんうんと何度も頷いた。

「私もだよ。私も、昨日、海風さんの事偉そうに叱ったけど……あんな事、普段の弱虫な私じゃ出来ないもん。私も、プリキュアになったら私じゃなくなってたりして」

たははと笑いながら、なのかは頬を掻いた。

「野苺さんって、案外しっかりしてるんだって思った。いつもは1人で居るから、その……私と似てるなあって思ってたの」

「えええ、海風さんの方がしっかりしてない?学級委員もしてるし」

「そんな事ないよ。私なんて本当にだめだめだから。友達が一人もいないのが、その証拠。嫌われるのが怖いから、人と関わらないようにしてるの。当たり障りのないただのクラスメイトなら、嫌われることも無いでしょ。」

(海風さん……)

なのかは、今までしのを誤解していた事に気が付いた。ずっと怖がっていたクラスメイトが、実は自分と同じ事で悩んでいたのだ。

 

「ねえ、海風さん」

なのかは壁際に転がるホコリの塊を眺めながら、目をゆっくりと伏せた。

 

「私達、友達に……なれないかな」

 

「え?」

しのは驚いて目を真ん丸にする。

「はは、私、ちょっと調子乗り過ぎかな。

私、海風さんと一緒にプリキュアやっていきたいし、友達にもなりたいんだ。海風さんが昔一緒に戦ったプリキュア達みたいにはなれないかもしれないけど、私……」

何故か溢れてくる涙を必死に飲み込んでらなのかは震える声を絞り出した。

 

「友達になろう。海風さん」

 

なのかの言葉に、しのはゆっくりと頷いた。

「……うん。」

 

 

 

 

授業が終わり、なのか達はそれぞれの家路につく。

今日は、なのかは独りぼっちではなかった。隣には、笑顔のしのが居るのだ。

「まさか野苺さんと家が近いなんて思わなかった。朝何度か見掛けた事はあったけど」

「私達、昨日までは何の接点もなかったもんね。私、海風さんの事誤解してたし」

「誤解?」

しのが首を傾げる。

「うん。海風さんって、ちょっと怖い人だなって思ってたんだ。」

「そうなの?ごめんね」

「いいのいいの。私の方こそ、第一印象だけで誤解してごめんね。」

なのかははにかみながら、手をぶんぶんと振った。

 

赤になった信号を待ちながら、なのかは道端に生えていた猫じゃらしを一つ摘んだ。

「ねえ、海風さん」

ねこじゃらしを指で挟んでくるくると回しながら、なのかは目を伏せた。

「私、海風さんと……プリキュアやっていけるかな」

「え?」

しのは驚いて聞き返す。どうしてそんな事を言うのか、分からなかったのだ。

(私、海風さんみたいに昔プリキュアに変身した事がある訳じゃないし、こんな性格だし、迷惑掛けちゃいそうだもん)

なのかは心の中でそう思いながらも、笑顔を作って首を振った。

「ううん、何でもない」

ちょうど、信号が青になった。

なのかは横断歩道を渡りながら、猫じゃらしを道路の脇に放り投げた。

 

 

 

 

「ああ、イライラする!」

人混みを掻き分け早足で歩きながら、ラピスラズリは歯を食いしばった。

「やっとプリキュアのハートストーンを手に入れられると思ったのに……!」

道行く人が、独り言を言うラピスラズリを振り返って見るが、そんなのも気にならないくらい、ラピスラズリはイラついていた。

「私達の目的は、プリキュアのハートストーンじゃないけど…………プリキュアの秘密が、少しでも分かれば…………私はプリキュアに勝てるはずだったんだ!!」

ラピスラズリの叫びに、二人組の女子高生が振り返る。

「今の聞いた?」

「うん、何だったんだろうね」

くすくすと笑う女子高生を、今度はラピスラズリが振り返る。

「私の事、馬鹿にしたな……?」

ラピスラズリの怒りが、最大値まで達してしまった。

「くそ!人間如きが、私の事を馬鹿にしやがって……!」

ラピスラズリは怒りのままに、女子高生に両手を広げた。

 

「人を好く心をなくし、憎しみに苦しんで暴れろ!」

「え!?」

女子高生二人が振り返るより、二人が倒れる方が早かった。

周りの通行人達は、立ち止まって二人に駆け寄る。それを見下ろしながら、ラピスラズリは冷たく言い放つ。

 

「出でよ、ヘイトリッドグリーフ」

 

二人の女子高生の体は、あっという間に自身から溢れ出た灰色の液体で包まれていく。それは近くに建つアパートと同じくらいの高さまで膨れ上がっていく。

それを見た通行人達は、血相を変えて逃げ出した。

 

「なにただの人間に怯えちゃってるの、バッカみたい!お前らだって、ヘイトリッドグリーフになりかねないのに、そんなのも知らないで逃げるなんて……くくくっ。

ヘイトリッドグリーフはね、憎しみを持つ人間じゃないと自分からは動けないんだよ!なのに必死に逃げちゃって……あははは、滑稽過ぎる!」

ラピスラズリは二体のヘイトリッドグリーフの前に立って、顔中が口になるくらい笑っていた。

 

「――……」

「ん?」

ヘイトリッドグリーフが、唸り声を上げた。

「――、――……」

「え?」

「――――……――――……!」

ヘイトリッドグリーフの唸り声は、徐々に大きくなっていく。

「……おい、待て、嘘だろ?」

ラピスラズリの顔色が、みるみるうちに青くなっていく。

 

「ちょ、待って――!」

胸の十字架を握りながら、ラピスラズリはその場にしゃがみ込んだ。ヘイトリッドグリーフは、頭上で何度も唸り声を上げている。

 

ラピスラズリの十字架は、彼女の手の中で、淡く点滅を繰り返していた。

 

 

 

 

「きゃあああああああ!」

並んで歩くなのかとしのの元に、叫び声と共に十数人の人達が駆けてくる。

「どうしたんだろう」

なのかが呟くと、四十代くらいのサラリーマンが、

「向こうから変な奴が来るから、逃げなさい!」

と言われた。

なのかは目を真ん丸にして、サラリーマンが指差す方向を見る。

かなり離れているここからでも分かるくらい、それは大きかった。

「あれって――」

「また、ラピスラズリ……?」

なのかとしのは、顔を見合わせて頷き合った。

 

『プリキュア・ステップアップ!!

 

1 up!!』

 

なのかとしのは、それぞれ赤と青の光に包まれて、プリキュアに変身していく。

 

「真っ赤に輝く希望の光!キュアフランボワーズ!」

 

「青く煌めく正義の光!キュアオーシャン!」

 

二人は決めポーズを決め、すぐさまヘイトリッドグリーフが居る方向へ飛んでいった。

 

「グリ────フ……」

ヘイトリッドグリーフは、団地を壊している最中だった。コンクリートの塊の上には、幾数もの黒い宝石が転がっている。

「これって――」

キュアフランボワーズの脳裏に、遠い過去の記憶が蘇る。瓦礫の下敷きになり血塗れになった後、この宝石になってしまった大切な人。

(ううん、今はそんなの考えちゃだめ!)

キュアフランボワーズは首を振って、二体のヘイトリッドグリーフに立ち向かった。

 

「はあああああっ!」

ぐねぐねと体をしならせながら暴れるヘイトリッドグリーフに、キュアフランボワーズのブーツがめり込む。更にぐねぐねと動きながら、ヘイトリッドグリーフはキュアフランボワーズの体を捕まえようとする。

「何か、今日は動きが鈍い気がする……」

戦いが苦手だと自覚しているキュアフランボワーズでも、簡単に攻撃を避ける事が出来た。

 

もう一体のヘイトリッドグリーフを相手に、キュアオーシャンは何度も拳を振り落とす。

(体が思い出してる、三年前の、戦っていた時を……!)

キュアオーシャンの攻撃に、ヘイトリッドグリーフはどんどん小さくなっていく。攻撃される度に、そこら辺に灰色の液体をばら蒔いてるせいだろうか。

(ちょっとだけ、楽しいかも……!)

キュアオーシャンは笑みを浮かべて、攻撃を繰り返した。

 

キュアフランボワーズも、少しずつコツを掴んでいって、相手にしていたヘイトリッドグリーフも、彼女と同じくらいの身長にまで縮んでいた。

「一気に決めちゃお!」

二人は頷き合って、両手を構えた。

 

「プリキュア!フランボワーズレボリューション!」

真っ赤に輝く無数の花びらが、ヘイトリッドグリーフを包み込む。そして、ぱあんっと音を立てながら、ヘイトリッドグリーフは消滅した。

 

「プリキュア!オーシャンジャスティス!」

真っ青に煌めく無数の花びらが、ヘイトリッドグリーフに突き刺さっていく。そして、ヘイトリッドグリーフは、辺りに分散していった。

 

地面に散らばったヘイトリッドグリーフの欠片も、徐々に消えていった。

 

「ふうっ……終わったぁ」

キュアフランボワーズは肩を回しながら、キュアオーシャンの元へ駆け寄る。

「やったね、海風さん」

にっこりと笑うキュアフランボワーズに、キュアオーシャンもつられて笑顔になる。

「うん……あれ?」

キュアオーシャンの視線が、キュアフランボワーズの背後に注がれる。少女がしゃがみ込んで震えていた。

「あの、大丈夫ですか?」

キュアオーシャンが声を掛けると、しゃがみ込んでいた少女は、肩をびくっとはねらせた。

 

「おわりだ…………おわりだ…………おわりだ…………おわりだ……おわった…………」

何かをぶつぶつと呟きながら、少女はゆらゆらと立ち上がる。

「え!?」

その少女の顔を見て、キュアフランボワーズとキュアオーシャンは目を見開く。

「私はもう、おわりだ……」

二人の前で泣きながらそう言ったのは、ラピスラズリだった。

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