プリズム☆シャイニングプリキュア!   作:砂糖ざらめ

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「ど、どうして変身が解けてるの……!?」
黒い石から元の姿に戻るはずが、何故かそこに立っているのは変身前のなのかだった。




第9話 ハートフル王国の秘密

 

「なのか!?私達が分かるチェリ!?」

チェリーが飛び寄るが、なのかは無反応だった。それどころか、

「え、え、え、何でうさぎが飛んで話してるの……?」

なんて言い出したのだ。

何かを察したキュアオーシャンはなのかの肩を掴む。

「野苺さん、私のことは分かる?」

真っ直ぐになのかを見詰める。

「だ、誰ですか……?」

なのかはおどおどしながら目を逸らす。

「ま、まさか……」

チェリーとチップの脳裏に、最悪の事態が浮かんだ。

「そんなはずないチェリよね?」

「まさか……でもきっと気のせいチプ!」

ぶんぶんと首を振る二匹。

「?」

キュアオーシャンはそんな二匹を見て首を傾げる。

 

チェリーの提案で、もう一度プリキュアに変身させることになった。

「え、え、何なんですか?」

「いいからこれをこれにセットしてさっき教えた言葉を叫ぶチェリ!」

「そしたら解放してくれるんですか?私を食べないんですか??」

「食べる気なんてさらさらないチェリ!とにかくやるチェリ!」

「わ、わかりましたぁ」

なのかは涙目で、シャイニングストーンにプリズムスタージュエルをセットする。

「プリキュア、すてっぷあっぷ……」

なのかの体が光に包まれた。

 

「真っ赤に輝く希望の光!キュアフランボワーズ!!」

変身しキュアフランボワーズになったなのかは、自然とそんな台詞を口にしていた。

「どう?思い出した?」

3人の視線はキュアフランボワーズに集中している。不安そうな3人に、キュアフランボワーズは笑顔を見せた。

「思い出したって何が?」

ずこっ!3人は同時にひっくり返った。

 

 

「……で、私は石になっちゃって、ダークグラッジ王国のグラッジが元に戻してくれたけど、一瞬だけ記憶をなくしていた、と……」

キュアフランボワーズはうーんうーんと考え込む。

「ごめん、全っ然覚えてないや……」

たははと笑うキュアフランボワーズ。キュアオーシャンは呆れながらも安堵の溜息を零した。

「取り敢えず良かった、あなたが元に戻ってくれて」

「海風さん……」

「1人で戦って分かった、あなたが居るとどれだけ心強いか」

少し恥ずかしそうに笑うキュアオーシャン。キュアフランボワーズも嬉しくなり、にっこりと笑った。

「私も!海風さんが一緒に居てくれると嬉しいの!」

余りにもストレートな言葉に、キュアオーシャンは頬を赤らめた。

「ありがとう」

二人は笑い合った。

「良い雰囲気のところ悪いんだけど……」

チェリーが二人の間に入り込む。

「今回の件で、2人にはハートフル王国のことをきちんと説明しておくべきだと思ったチェリ」

チップもその発言に頷く。そしてキュアオーシャンも真剣な面持ちに変わる。

「そうね、はっきり説明してほしいわ。」

「じゃあ早速なのかの家に行くチェリ!

あと、2人はラピスラズリを運んでっ」

「え、ラピスラズリを私の家に入れるの?」

ラピスラズリがハートフル王国の住民だということを知らないキュアフランボワーズは不安になる。もし家族にまで危害が及んだらと考えると恐ろしくてならない。

「野苺さん、大丈夫よ。彼女にはもう攻撃するほどの力は残ってないし、どうやらあの子達の『元』仲間みたいだから」

冷や汗をかきながら俯くキュアフランボワーズに、キュアオーシャンはそっと耳打ちした。

「え……」

(私が石になってる間に一体何があったの〜〜〜〜!?)

キュアフランボワーズは心の中で嘆いた。

 

 

 

 

 

キュアフランボワーズ達はラピスラズリを野苺家の屋根まで運んで、窓からなのかの部屋へ入れた。

自分達も部屋に入り、しっかり窓とカーテンを閉め、ラピスラズリを囲むように座る。

 

そしてなのかに石になっていた間に起こった出来事を簡単に纏めて話したところで、チェリーがコホンと咳払いした。

 

「さて。どこから話せばいいか分からないチェリけど……」

チェリーがゆっくりと話し出した。

 

「ハートフル王国は、人々の心に眠る宝石『ハートストーン』を生み出すことが出来る『唯一の存在』が君臨する国チェリ。その唯一の存在は『女王様』と呼ばれているチェリ。

そしてハートフル王国の住民は、みなハートストーンが人間や妖精の姿になったもの。つまり私やチップは、ハートストーンそのものなの。ラピスラズリも、ね。」

 

「人間の世界にも度々ダークグラッジ王国の者が襲ってくるチプ。なのか達も見たでしょう、殺された人間がどんどん黒い石になっていってしまうのを。もしその石になってしまったのが普通の人間なら問題ないチプ。人間にとってハートストーンはあくまでも『気持ち』や『心』であって、肉体や臓器ではないからチプ。だからプリキュアが敵を倒せば、壊れた建物が修復するのと同じように元に戻るんだチプ。

でもハートフル王国の住民は違うんだ。ハートフル王国の住民にとってハートストーンは心でもあり肉体でもある。だからそれが傷付けば、そして壊れたりしたら、もう元に戻ることはないんだチプ。」

 

「だからもし本当にラピスラズリがハートフル王国の仲間だったとしたら、もう目を覚ますことはないんだチェリ……。」

チェリーが涙を流す。チップもラピスラズリから目を背けて唇を噛み締めていた。

「気付いてあげられなかったチェリーの責任チェリ。

でもどうして?どうしてグラッジなんかの手下になってしまったチェリ……」

その問いに、ラピスラズリが答えることはなかった。

 

静寂が訪れる。その場に居る誰もが、その場から逃げ出したいと思っていた。ずっと憎き敵だと思い消したい一心で戦ってきた相手が、仲間だったなんて……。

(でもまだ確定はしてない。チェリーやチップは、確実にガーネットの言葉で動揺してる。敵の話を鵜呑みにするのは危険過ぎるわ。)

冷静に考えるしの。そんなしのをなのかは不安そうに見詰める。

(海風さん、何か言いたそう……)

なのかが「あのっ」と切り出そうとしたその時だった。

 

「邪魔するジェリッ!」

桃色のカーテンがぶわっと広がった。

「えっ、窓、いつの間に……!?」

確かに窓は閉めたはずだった。

「そ、その声は!」

チェリーが窓の方へ飛んでいく。

「君達と話がしたいジェリ」

「え……えぇ〜〜!?!?」

なのかの部屋に飛び込んできたのは、チェリーやチップとよく似ている『妖精』だった。

 

 

 

 

「どういうこと、どうしてキュアマーガレットの近くに居た妖精がここに……!」

なのかは高鳴る心臓を抑えるように胸元で手を握る。

「……あんたがキュアフランボワーズ、あんたがキュアオーシャンジェリ?」

真っ直ぐに釣り上がった目で2人をじーっと見詰める妖精。

「私はジェリィ。キュアマーガレットのパートナージェリ。」

ジェリィは軽くお辞儀をして、ラピスラズリの上にちょこんと座る。

「ふーん、こいつがハートフル王国の住民だったなんて意外ジェリ。散々暴れてくれて、キュアマーガレットをあんな目に遭わせたこいつが、ねぇ……」

ラピスラズリの頬をげしっと蹴る。

「ねえ、キュアマーガレットをあんな目にって、キュアマーガレットに何かあったんですか?」

なのかが訊ねると、ジェリィはキッと彼女を睨み付けた。

「な────んにも知らないんジェリね!!それでキュアマーガレットの意志を継ぐなんてほざいてたんジェリか!呑気なものジェリ!」

その鋭い瞳に、なのかは「ひっ」と声を上げて涙目になる。

 

「まあいいジェリ。今日は別の用事があって来たんだから、ジェリ」

ジェリィはどこからかハート型の宝石のようなものを取り出した。

「これを返すから、ラピスラズリのハートストーンを渡してほしいジェリ!」

「え、えぇ!?」

差し出されたそれはどう見てもシャイニングストーンに見える。なのかとしのは目を真ん丸にしてそれを見詰めた。

チェリーとチップは、物凄い形相でジェリィを睨み付け捲し立てる。

「ラピスラズリのハートストーンを渡すなんて論外チェリ!キミはラピスラズリを相当恨んでるみたいだから壊すつもりチェリね!?」

「それはキュアマーガレットのシャイニングストーン……すなわちハートストーンなんじゃないチプ!?何がしたいチプ!?」

「……ああ、言い方が相応しくなかったジェリね。

私が言いたいのは……。

 

キュアマーガレットのハートストーンを返してほしいジェリ。」

 

ジェリィの言葉に、なのかはぐらりと揺れる。

(何?どういうこと?)

そのままどすりと床に手を付く。

(じゃああの私達を助けてくれたキュアマーガレットは……)

 

なのかの虚ろな視線に気付いたジェリィは、はぁっと溜め息を吐いた。そしてなのかの目の前に飛んでいく。

「キュアフランボワーズ。あんたはキュアマーガレットに命を助けてもらったジェリね。その恩は忘れてないようだから、あんたは協力してくれるジェリ?」

「ちょっと、野苺さんを言いくるめて味方にしようって訳じゃないでしょうね?」

すかさずしのが割って入る。

「キュアオーシャン。あんたはキュアマーガレットと共に戦ったのを忘れたジェリか?」

そんなしのを良く思わないジェリィは彼女を睨む。しのは負けじと表情を険しくする。

「ええ、一時は忘れてたわ。今もまだ完璧には思い出してないけど、キュアマーガレットは大切な仲間よ。でもラピスラズリのハートストーンを手にする為にキュアマーガレットのハートストーンを代償にするなんて余りにも……」

言葉を詰まらせるしのに、ジェリィは激怒した。

「聞いてなかったの!?『キュアマーガレットのハートストーンを返して』と言ったんジェリ!」

「それはどういうことチプ?」

口論するしのとジェリィの間に、血相を変えたチップが割り込む。

「それじゃあ、キュアマーガレットは……」

「……そうジェリ。キュアマーガレットは」

なのかの心臓がどきりと跳ねる。

 

「キュアマーガレットのハートストーンは、ずっとラピスラズリが持っていたんだジェリ。」

 

(どういうこと……?じゃあ私達の戦いを助けてくれたキュアマーガレットは、あの時私を救ってくれたキュアマーガレットじゃなかったってことなの!?)

あの日の光景が鮮明に脳裏に映る。

なのかはぎゅっと目を瞑った。

「教えて。あの日、キュアマーガレットに何があったの……?」

 

 

なのかのさくらんぼ色の瞳がじっとジェリィを捕らえている。ジェリィはそんななのかを睨み返して短い溜め息を吐く。そして持っていたハート型の石を乱暴に投げ捨てた。

「ヒヨッコなあんた達には話す意味もないジェリ!キュアマーガレットに助けられた恩も忘れて、コイツの事を庇うなんて有り得ないジェリ!

これは返してやるジェリ!そいつが目を覚ましたら、今度こそ返してもらうジェリからね!」

ジェリィはそのまま窓から外へ飛んで行ってしまった。

 

静寂が訪れる。

床にころがったハートの石を、チェリーが無言で拾う。

「……これ、シャイニングストーンじゃないチプね?」

チップが側まで飛んで行きそれを覗き込むと、チェリーは頷いた。

「これは、正真正銘のハートストーンチェリ……。でも誰の?」

「ジェリィは『返す』って言ってたチプ。と言うことは、僕達の中の誰かのハートストーンってことチプ?」

四人は全員で全員を見回した。誰も何も変わった様子はない。そして4人の視線は次第に傍らに横たわるラピスラズリへ集まっていった。

「……まさか」

ハートストーンが静かに点滅している。次第に光が強くなっていき、ラピスラズリの表情も穏やかになっていく。

「…………ここは?」

ゆっくりと開かれた赤い瞳に、自分を覗き込む4人の敵が映り込む。

「うわっ!」

飛び起きたラピスラズリは、部屋の角まで後退った。

「何だよお前ら!」

ラピスラズリは敵意を剥き出しにして叫ぶが、なのか達は黙ってその姿を見ているだけだった。

その表情には、困惑の色が張り付いている。

ラピスラズリは自分を攻撃してこない敵と、意識を失う前までの出来事を徐々に思い出していき、なのか達と同じ表情になった。

(一体何がどうなってるの?)

 

ラピスラズリはゆっくりと部屋の真ん中へ歩いていき、落ちていた自らのハートストーンを拾った。

「……やっと返ってきた、私のハートストーン……。」

そう呟いて、そっと抱き締める。

が、その様子を見ているなのか達に気付き、恥ずかしそうにハートストーンをしまった。

「何見てんだよ。言っとくけど助けてくれてありがとうなんて絶対言わないからな。そもそも頼んでねーし。」

ぶっきらぼうにそう言うと、ラピスラズリは窓枠に足を掛ける。

「ま、待って!」

なのかは咄嗟にそれを止める。ラピスラズリは振り返るが、すぐにもう片方の足を外に投げ出していた。

「ダークグラッジ王国に帰るチェリ!?」

「……もうあそこに私の居場所はない。きっとグラッジ様もお怒りのはずだ。

……。」

ラピスラズリの緑色のツインテールが風に揺れる。

「……あいつの、キュアマーガレットのハートストーンを、返しに行く」

(え!?)

「待って!キュアマーガレットとあなたに何があったのか――」

なのかとしのが立ち上がった時には、もうラピスラズリの姿はなかった。

 

 

 

 

電柱を軽やかに飛び越えていくラピスラズリは、晴れやかな表情だった。

(不思議だ、心も体も軽い。きっとハートストーンの本体が私に返ってきたからだけじゃない。)

握り締めた2つのハートストーンが共鳴するように光り輝いている。

そして片方――ラピスラズリが持っていた十字架の石は、ゆっくりと形を変えていき、本来のハート型へ戻っていく。

(せめてこれをあいつに返せば、私は――)

一瞬躊躇したが、すぐに顔を上げて、ゆっくりと頷く。

(もう、私にグラッジ様は必要ないんだ。)

真っ直ぐ見据えた先は、小さな小さな一軒家だった。

 

が、ラピスラズリの体はそこに届かなかった。

「っ!?」

ガクン、と衝撃が走った刹那、体が地面に急降下する。

「うぐっ!」

硬いコンクリートの地面に叩き付けられ、ラピスラズリの口の中に暖かい血が溢れ出す。

「はぁ、はぁっ……」

それを吐き出すと、声に出てしまうほど呼吸が荒くなる。目の前がブレる。耳鳴りがする。

「僕が必要ないだと?」

目の前に見慣れた黒い靴が現れる。

「ラピスラズリの分際で、よくもそんな事が言えたなぁ……」

ラピスラズリはゆっくりと視線を上に移動させる。笑顔のグラッジがそこに居た。

が、ラピスラズリには分かる。これは決して喜んでいる時の笑顔ではない。その口元は怒りにわなわなと震えている。

「奇遇だね、僕ももう君は必要ないと思ってたんだ。そう、君は必要ない。誰に取ってもね。」

そう言うと、グラッジはラピスラズリの手に握られている2つのハートストーンに手を伸ばした。

(ッ!)

咄嗟にラピスラズリはその手を払おうとする。が、グラッジが空いている方の手を踏み付ける。

(こっち、だけは……)

ラピスラズリの瞳が赤く燃え上がる。そして、力一杯2つのハートストーンを投げた。

すると、ハートストーンの1つは浮かび上がり、勢い良くどこかへ飛んで行った。もう1つは、近くの道路脇に転がって行った。

「ふーん。やっぱ本来のハートストーンの力は圧倒的だね。僕の手の届かない場所に逃がしたんだね。……でも」

グラッジは道路脇のハートストーンへ近付いていき、くるりと振り返り虫の息のラピスラズリを笑顔で見下ろす。

「自分のハートストーンが壊れちゃうんじゃ、何の意味もないよね!」

 

バキィ!

グラッジの黒い靴が、ハートストーンを踏み潰し砕いた。

 

「……バカだなぁ。自分のハートストーンが戻ってきたなら、また僕に仕えれば良かったのに。

ハートフル王国の仲間に戻れると思った?ざーんねん、僕に見捨てられたんじゃ、もう君を愛する者は誰も居ない。

自分で全て壊したんだよ、ラピスラズリ。」

グラッジは路地裏へと姿を消していく。

 

そこにはもう、ラピスラズリの生きていた痕跡は何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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