シャアと模擬戦をしてみて分かったが、オレはまだまだ力不足だということを実感した。
どうすればシャアとの差を埋めることが出来るのか?
どうすればシャアに勝つことが出来るのか?
トト家での日々の業務に励みながらも、最近は自分が強くなることばかり考えている。
どうやらオレは、自分で思っていたよりも熱しやすい人間であったようだ。
あの先日の模擬戦の後も、週に数度はシャアがトト家までオレを迎えに来て軍の駐留基地まで連れて行かれるようになった。
まあ元々そのようにシャアとトト家の当主の間で話が付いていたらしいし、俺自身その状況はシャアに弱点が無いか観察するのにうってつけだったので、意外にも順応は早かった。
最近では、シャアに付いてちょこちょこと日々の業務を見学した後に最後に模擬戦をするというのがルーティンになりつつある。
以前はあんなにシャアとの関わりを避けていたのに、最近では嬉々として彼について行ってしまうとは...。
我ながら笑ってしまうな。
それとも彼のカリスマ性の成せる技なのだろうか?
ただ、最近ちょっと困ったことが起きてしまっている。
初めてシャアと模擬戦を行った日以来、度々オレがMSの実機に乗って模擬戦を行っていることを知ったグレミーが、自分も連れて行けと、弟のお前だけMSに乗れるなんてズルいとだだをこね始めたのだ。
「いや、そもそもグレミー様を守る為に自分はトト家に雇われたんですから、強くなる為にこういった実戦形式の訓練するのは当然の義務なんですよ。(正論)
仕方ないでしょう。」
「は?でも兄より弟の方が先とかあり得ないだろ?
というか二人だけしかいない時はお兄ちゃんと呼べ!」
一度なんとか諭そうと正論をぶつけてみたのだが、頭をグーパンで殴られかけて敢えなく撤退することとなってしまった。
意外と暴力的なんだな、あのマザコングレミー少年。
そんなこんなな出来事がありながらも、なんとか平穏に暮らしていたある日。
シャアがまたオレを誘いにトト家へとやってきた。
最近ではシャアのエレカはトト家ではもう見慣れたものになってきていて、態々使用人一同で出迎えに行くことも無い。
シャアのエレカが来ると、オレだけ仕事を早引けして彼を迎えに行くのだ。
しかし今日に限っては...。
「グレっ、お兄ちゃん。
なんでそこにいるんですか?」
「僕もMSに乗りたいからだ。」
「それでここに来たと?
かといって、そもそもシャア大佐がMSに乗せてくれるとは限らないでしょう...。」
なんと、シャアのエレカの隣にはグレミーがいたのだ。
グレミーの行動力というか無謀さというかに呆れてため息をつくと、諦めてシャアがエレカから降りてくるのを待つことにする。
シャアなら口八丁でグレミーを丸め込んで、断ってくれるはずだ。
そう思いながら若干期待を孕んだ目でエレカを見ていると、ドアが開いて颯爽とシャアが登場してくる。
カツカツと軍靴を鳴らしてオレとグレミーのところへ来ると、オレを一瞥してニヤリと笑ってからグレミーの方を向き直った。
あれ、なんか嫌な予感が。
「グレミー君。
お父上から話は聞いている。
今日はよろしく頼む。」
そう言ったかと思うと、シャアとグレミーが固く握手を交わしたではないか!
オレはまさかの展開に口をあんぐりと開けるしかなかった。
「フッ...、さあ乗りたまえ。」
シャアに促されてエレカにグレミーと二人で乗りはしたが、釈然としない。
後部座席に乗っているグレミーが急速に移り変わる外の景色に気を取られているのを確認して、隣で運転ハンドルを握るシャアに問いかける。
「大佐、なんでグレミー様が...。
最初から話が付いていたみたいですけど?」
「ああ、トト家からな。
私も乗り気ではなかったのだが、大人の世界は複雑なのさ。」
乗り気ではなかった?
本当に言ってるのかこの人?
「そう言う割には、さっきオレが驚いた顔した時に嬉しそうでしたけどね。」
「そうかい?」
「そうですよ。」
この人、もしかしてこの前の模擬戦でオレに信号弾の光でゲルググのモニター壊されたことをまだ根に持ってるのか?
結局模擬戦が終わってもゲルググのモニターは治らずに原因を調査したところ、信号弾の強力な光を当てられたせいで光を感知する回線が飛んで修復を余儀なくされたらしい。
意外と子供っぽいところがあるんだな。
それだけゲルググに思い入れがあるということかもしれないが。
そう思いながらシャアから視線を外すと、いつものジオン軍基地が見えてきた。
アクシズという小惑星自体がそこまで大きくはないので、トト家とジオン軍の基地は意外にもそこまで遠くはない。
エレカならものの十分程度で着いてしまう距離だ。
いつものようにシャアはエレカを停めると、全員でMS格納庫の方へと向かう。
今日はグレミーがいるからか、シャアは仕事を後に回して先に模擬戦などをするつもりらしい。
MS格納庫に到着すると、リカルド中尉にその同僚のアンディ中尉、更にはこの前オレがシャアにボコボコにされた時に看病してくれたというハマーンさんまでいた。
「よう坊主!」
リカルド中尉以外にも、二回目以降の模擬戦のたびに会うようになって少し親しくなったアンディ中尉も手を上げて歓迎してくれている。
そして一回目の模擬戦以降会えてなかったハマーンさんも、ニコニコしながらこちらに近づいてきた。
「シャア大佐!ムサシ君も!
それと...?」
「ああ、彼はグレミー・トト君だ。
今日は彼も君と一緒に模擬戦を見学する。」
「よ、よ、よよよよよろしくおねがいしますううう!!!」
シャアから紹介されたグレミーだったが、過去一にテンパってオロオロしていた。
確かにグレミーって女性免疫なさそうだし、緊張してても当然か。
普段お兄ちゃん風を吹かせて格好をつけてるグレミーが、こんなにテンパってるのを見るとなんだか面白いな。
「よろしく、グレミー君。
私はハマーン・カーン。
気軽に名前で呼んでくれていいわよ?」
そう言うと、ハマーンさんがグレミーに手を差し出す。
グレミーは、「は、ハマーンさん...。」と、どこか呆けたようにつぶやくと、一瞬何故か躊躇した後に彼女の手を取る。
ボンッ!!!
その瞬間、グレミーの顔はみるみる赤みを増していき、最終的に爆発でも起こったような音が出た気がした。
いや、実際に音が出たわけでは無いのだが、確かに感じたんだ。
数秒グレミーはハマーンさんと握手をすると、ゆっくりと後ろに倒れ込んだ。
「危ない!」
オレは倒れ込むグレミーをなんとか支えると、床にゆっくりと下ろす。
グレミーは気絶をしているようだが、なんとも幸せそうな顔をしていた。
突然倒れ込んだグレミーに驚いて大人達が集まってきた。
ハマーンさんも、口に手を当てて非常に驚いたご様子。
気絶をしたグレミーの顔を見ていると、ハマーンさんの美しさに当てられて気を失ったんだと気付くのにそう時間は掛からなかった。
主人が情けない理由で気を失った事実を隠すために、オレは、「ちょっと体調が悪かったみたいですね~。」なんて言いながら近くの医務室までグレミーを連れて行って寝かせる。
それでも勘の良い人間なら気付いているだろうが。
ほんと何しに来たんだグレミー少年よ。
しばらくグレミーを看病してから気を取り直して一人でMS格納庫まで戻ると、さっきは無かった白いリック・ドム?のような機体が鎮座していた。
いや、ドムにしてはやけにランドセルが異様な形をしているし、なんだこの機体?
オレがその謎の機体を見回していると、シャアとハマーンさんが近づいてくるのが目に入った。
「この機体はシュネー・ヴァイス。
リック・ドムをベースにして改修した、ニュータイプ専用機だ。
エルメス等に搭載されていた1年戦争時のサイコミュシステムに手を加えてなんとかこのサイズまで落とし込んだ。
それでもまだ大きすぎるくらいだが...。
主兵装はエルメスと同じくビットを使う。
ところでグレミー君は大丈夫そうか?」
「はい、グレミー様はなんとか。
へー、これがニュータイプ専用機ですか。
それでこんなにランドセルが大きいんですね。
ちなみにパイロットは誰が?僕と同じフラナガン機関とやらの出身者ですか?」
シュネー・ヴァイスっていうのかこの機体。
シャアの説明を聞きながら、ふと疑問に思ったことを口にする。
トト家の資料室のデータベースで見たデータによると1年戦争時のジオンニュータイプ部隊はほぼ壊滅しているというし、そうすると自ずとパイロットの出身は絞られてくるが、オレがフラナガン機関にいた頃の仲間で、実際にニュータイプ専用機なんかを動かせるレベルの奴いたっけか?
「ふむ、君はやはり中々に鋭いな。
そうだ。この機体のテストパイロットはハマーンが務めることになっている。」
「へー、ハマーンさんが...。
え!ハマーンさん!?」
驚きのあまり、次はオレが倒れ込みそうになるのであった。
正直なこと申しますと、自分にとってのシャア像って、何故か逆シャアの時のイメージが凄く強いんです。
その関係で、もしかすると「ここはCDAのシャアじゃなくない?」と読者の皆様が思われるような表現があるかもしれません。
申し訳ありません。